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利用状況が著しく低い研究拠点等の土地及び建物の国庫納付に向けて、速やかに当該研究拠点等の集約化を図ったり、集約化に向けた具体的な計画を早急に策定したりなどするよう改善の処置を要求したもの


利用状況が著しく低い研究拠点等の土地及び建物の国庫納付に向けて、速やかに当該研究拠点等の集約化を図ったり、集約化に向けた具体的な計画を早急に策定したりなどするよう改善の処置を要求したもの

科目 固定資産
部局等 独立行政法人産業技術総合研究所
研究拠点等の概要 独立行政法人産業技術総合研究所が、各地域の基幹産業等の特性に応じて定めた研究戦略に基づき、地域資源を活用するなどして研究を実施するなどのための事務庁舎、研究棟等を備えた拠点で、これらが設置されている土地とともに国から承継したもの
保有している土地及び建物の平成22年度末現在の帳簿価額 土地 1090億3472万余円  
建物 1382億4891万余円  
2472億8364万余円  
上記のうち利用状況が著しく低い土地及び建物に係る帳簿価額 土地 31億3300万円  
建物 10億8909万円  
42億2209万円  

【改善の処置を要求したものの全文】

  土地及び建物の国庫納付に向けた研究拠点等の集約化等について

(平成23年10月28日付け 独立行政法人産業技術総合研究所理事長宛て)

 標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり改善の処置を要求する。

1 保有資産等の概要

(1) 研究拠点等における保有資産

 貴研究所は、平成13年4月に旧工業技術院の15研究所と計量教習所が統合されて設立された独立行政法人であり、東京、つくば両本部のほか、各地域の基幹産業等の特性に応じて定めた研究戦略に基づき、地域資源を活用するなどして研究を実施するための拠点として、また、地域の産業界、大学等をつなぐ中核的な連携の拠点として、国内9か所に地域センターを設置し、さらに、必要に応じて、両本部及び各地域センター管内に支所、事業所、サイト等(以下、これらを総称して「研究拠点等」という。)を設置している。
 貴研究所は、研究拠点等における実物資産として、土地(22年度末現在の帳簿価額計1090億3472万余円)及び建物(同1382億4891万余円)を保有しており、その大宗は、13年4月に貴研究所が独立行政法人として設立された際に、研究開発活動に必要な資産を国からの現物出資として承継したものである。

(2) 保有資産の見直しと国庫納付

 独立行政法人整理合理化計画(平成19年12月閣議決定。以下「合理化計画」という。)において、各独立行政法人は、保有する合理的理由が認められない土地、建物等の実物資産の売却、国庫返納等を着実に推進し、適切な形で財政貢献を行うことなどとされている。
 そして、貴研究所は、上記の合理化計画等を受けて、第3期中期計画(計画期間22年4月〜27年3月)において、地域センターに所属する事業所及びサイトについては、研究機能と連携機能の点から、設置目的終了時又は利活用状況が低下した時点において、その事業の必要性を検証し、不要と判断された場合は速やかに閉鎖することとしている。
 また、22年5月に独立行政法人通則法(平成11年法律第103号)が改正され、独立行政法人が保有する重要な財産であって主務省令で定めるものが将来にわたり業務を確実に実施する上で必要がなくなったと認められる場合には、当該財産(以下「不要財産」という。)を処分しなければならないこととされた。そして、不要財産であって政府からの出資又は支出(金銭の出資に該当するものを除く。)に係るものについては、遅滞なく、主務大臣の認可を受けて、これを国庫に納付することとなった。
 さらに、政府は、「独立行政法人の事務・事業の見直しの基本方針」(平成22年12月閣議決定)において、各独立行政法人が、幅広い資産を対象に、自主的な見直しを不断に行うことなどを掲げている。

(3) 業務運営の効率化

 貴研究所は、13年の独立行政法人化以降、特に地方に所在する研究拠点等について、各地域の特性を踏まえた研究開発に特化するなど、研究テーマの選択と集中を図るとともに、職員退職後の補充採用を抑制することなどにより業務運営の効率化に取り組んでいる。その結果、貴研究所全体の各年4月1日時点における研究ユニット(注1) 数及び正規職員数の推移についてみると、13年に54ユニットあったものが、15年の62ユニットをピークとして、23年には43ユニットと大幅に減少し、正規職員数も、13年の3,230人から23年の3,020人に減少している。

 研究ユニット  同種の分野に係る研究を実施する研究者等の集合体で、一定の継続性を持って研究を進める「研究部門」、時限的に設置され、設置年限が3〜7年の「研究センター」、設置年限が3年以内の「研究ラボ」を総称したもの

2 本院の検査結果

 (検査の観点、着眼点、対象及び方法)

 貴研究所が保有している研究拠点等について、設置時期が古い施設も見受けられることなどから、本院は、経済性、効率性、有効性等の観点から、設置当時と比べて社会経済環境等が変化している中で、研究拠点等が有効に活用されているか、研究拠点等を設置し続ける合理的な理由があるか、保有資産の見直しが適切に実施されているかなどに着眼して、つくば本部並びに7地域センター(注2) 及び各地域センター管内の研究拠点等において、その土地及び建物を対象に、利用状況等を記載した調書を基に現地の状況を確認するなどして会計実地検査を行った。

 7地域センター  北海道、つくば、臨海副都心、中部、関西、四国、九州各地域センター

 (検査の結果)

 検査したところ、次のような事態が見受けられた。
 すなわち、前記の7地域センター管内における研究拠点等のうち、土地及び建物を保有するなどして恒久的に使用することを前提に設置している10研究拠点等について、本院が現地確認等により分析した利用状況をみると、前記の業務運営の効率化等に伴い、 のとおり、全体として空室が目立つ状況となっている。

 建物の利用状況(平成23年4月1日現在) (単位:m 、室)
地域センター名 研究拠点等名 土地面積 建物延床面積  
うち専用面積(a)         専用面積に係る利用率(b)/(a)
うち利用面積(b) (利用部屋数) うち空室面積 (空室数)
北海道センター 本所 58,546 23,682 11,044 8,394 (183) 2,650 (86) 76.0%
つくばセンター 本所 1,397,909 519,808 231,913 193,688 (3,662) 38,225 (690) 83.5%
つくば北サイト 616,023 8,921 5,089 4,601 (49) 488 (13) 90.4%
臨海副都心センター 本所 16,802 35,416 14,831 11,548 (168) 3,283 (44) 77.8%
中部センター 本所 46,259 27,600 14,129 11,030 (211) 3,099 (52) 78.0%
瀬戸サイト 12,327 4,092 1,984 467 (12) 1,517 (28) 23.5%
関西センター 本所 78,685 50,323 25,802 20,620 (440) 5,182 (120) 79.9%
尼崎支所 16,936 8,053 3,634 1,781 (34) 1,853 (39) 49.0%
四国センター 本所 15,000 10,004 4,729 3,502 (67) 1,227 (26) 74.0%
九州センター 本所 71,923 16,895 9,009 6,399 (173) 2,610 (52) 71.0%
(注1)  建物延床面積から廊下、会議室、倉庫等の共用面積を除いた研究室、事務室等の面積を専用面積としている。
(注2)  同一の部屋を複数の区画に分けて利用している場合は、区画数を部屋数としている。

 表のうち、利用率が50%を下回っている研究拠点等がある中部、関西両センターについてみると、次のような状況となっている。

(1) 中部センターの状況

 中部センターは、主に、材料分野における国際産業競争力の強化に寄与することを目的とした研究に取り組むとともに、中部地域における産業界、大学等をつなぐ中核的な連携拠点としての機能を果たすこととされており、本所(愛知県名古屋市)及び瀬戸サイト(同県瀬戸市)が設置されている。
 このうち、瀬戸サイトは、昭和7年に愛知県瀬戸市が設置した瀬戸市立窯業試験場から、8年に国がその資産及び業務を引き継いで設置されたもので、その目的は、我が国の陶磁器産業の振興に資するため、陶磁器材質の物性や陶磁器の製造技術等に係る試験研究及び試作業務を実施することとされていた。その後、貴研究所が平成13年4月に独立行政法人として発足する際に、土地、建物等の資産を国からの現物出資として承継し、22年度末現在、敷地面積12,327m の土地(帳簿価額3億3300万円)及び延床面積計4,092m の建物4棟等(同8119万余円)を備えたものとなっている。
 しかし、産業構造の変化等により、上記の目的に照らした研究ニーズが減少してきたことなどから、貴研究所は、現在、陶磁器を含めた材料分野の研究については、その中心的な拠点を中部センター本所に移しており、また、陶磁器産業に対する技術的な支援等については、愛知県瀬戸市に所在する県立の研究機関が担っている状況となっている。
 こうしたことから、22年7月以降は、瀬戸サイトに常勤の研究職員を配置しておらず、23年4月1日時点では、過去の研究成果物をデータベース化するなどのために契約職員3名等が研究室等を利用しているにすぎない状況となっている。
 そして、瀬戸サイトにおける建物の利用状況をみると、建物の専用面積1,984m (40室)のうち利用しているのは467m (12室)のみで、残りの1,517m (28室)は空室となっている。このほか、共用面積部分の会議室等440m (9室)に、過去の研究により蓄積された陶磁器に関する試作品、文献等を保管している。
 一方、中部センター本所における建物の利用状況をみると、空室となっていて利用可能な専用面積が3,099m (52室)あり、瀬戸サイトにおいて利用している専用面積467m 及び試作品等の保管場所としている共用面積440m 、計907m を賄うことが可能であり、また、瀬戸サイトにおいて現在実施している業務は同センター本所の空室を利用して継続することが可能であることなどから、瀬戸サイトは、同センター本所へ直ちに集約することが可能な状況となっている。
 さらに、貴研究所が毎年度負担している瀬戸サイトに係る清掃、警備、設備修繕等の維持管理経費(22年度計422万余円)についても、集約化により節減が見込まれる。
 以上のように、瀬戸サイトに係る土地及び建物を国庫納付するために、速やかに瀬戸サイトを中部センター本所等へ集約する必要があると認められる。

(2) 関西センターの状況

 関西センターは、主に、先進的な電池技術開発を目指したエネルギー技術・材料技術研究及び健康で安心な暮らしを実現するための医療技術や健康管理技術研究に取り組むとともに、関西地域における産業界、大学等をつなぐ中核的な連携拠点としての機能を果たすこととされており、本所(大阪府池田市)及び尼崎支所(兵庫県尼崎市)が設置されている。
 このうち、尼崎支所は、大正3年に逓信省電気局電気試験所大阪出張所として大阪市に設置され、電気用品試験業務等を実施してきたが、昭和23年に現在の兵庫県尼崎市に移転したものである。その後、貴研究所が平成13年4月に独立行政法人として発足する際に、敷地内の更地に新たに建設中であった建物(E棟)を含めて、土地、建物等の資産を国からの現物出資として承継し、22年度末現在、敷地面積16,936m の土地(帳簿価額28億円)及び延床面積計8,053m の建物5棟等(同10億0789万余円)を備えたものとなっている。
 尼崎支所は、E棟(延床面積4,358m )が完成した14年2月頃から、同棟を中心とした再生医療等の研究を開始したが、16年3月に、同研究を縮小する方向での見直しがなされたことなどにより、正規職員数は16年の27名をピークとして、23年には15名に減少している状況となっている。
 そして、上記のE棟及び共用施設のB棟(同487m )を除いた3棟の利用状況についてみると、事務庁舎のA棟(同2,086m )は、老朽化等のため、一部を除きほとんどが利用されていない状況となっている。また、14年に細胞培養施設として改築したD棟(同247m )は、20年に起きた漏水事故以降、改修工事を行ったものの衛生上の問題から利用を停止したままとなっており、代わりにC棟(同704m )を新たな細胞培養施設として改築して利用している状況となっている。
 これらのことから、23年4月1日時点において、建物の専用面積3,634m (73室)のうち利用しているのは1,781m (34室)にすぎず、残りの1,853m (39室)については空室となっている。
 一方、関西センター本所における建物の利用状況をみると、空室となっていて利用していない専用面積が5,181m (120室)あり、尼崎支所において利用している1,781m (34室)を賄えることなどから、尼崎支所は、同センター本所へ集約することが可能な状況となっている。
 さらに、貴研究所が毎年度負担している尼崎支所に係る清掃、警備、設備修繕等の維持管理経費(22年度計3608万余円)についても、集約化により節減が見込まれる。
 以上のように、今後も尼崎支所を維持管理し、恒久的に保有し続けることは効率的ではないと認められるものの、貴研究所は、前記の細胞培養施設等の特殊な研究施設、設備等については、現在これらを利用して実施している研究に支障が出ないよう調整を行う必要があることなどから、直ちに関西センター本所への集約化を図ることは困難であるとしている。
 したがって、尼崎支所においては、今後、新たな施設建設等を行わないこととするとともに、現在実施している研究プロジェクトが終了する時点等の適切な時期を見極めた上で、関西センター本所等への集約化を図ることなどを検討する必要があるものと認められる。

 (改善を必要とする事態)

 貴研究所が全国に設置している地域センターは、各地域の基幹産業等の特性に応じた研究を実施するとともに、産学官連携の中核としての機能を果たすこととされており、今後も地域経済の発展のために重要な役割を担っていくと見込まれるものの、業務運営の効率化等に伴い、各研究拠点等の利用状況が全体として低下してきている状況において、貴研究所が、瀬戸サイト及び尼崎支所のように利用が著しく低い状況について的確に把握することなく、保有する資産の見直しを十分に実施していないなどの事態は適切でなく、改善の要があると認められる。

 (発生原因)

 このような事態が生じているのは、貴研究所において、次のことなどによると認められる。
ア 各研究拠点等において空室が目立つ状況となっているのに、利用状況を的確に把握しておらず、資産を保有する必要性を十分に検証していなかったこと
イ 保有する合理的理由が認められない土地、建物等の実物資産の売却、国庫納付等を着実に推進し、適切な形で財政貢献を行うなどの政府の方針に対する認識が十分でなかったこと

3 本院が要求する改善の処置

 各独立行政法人は、前記のとおり、合理化計画等に基づき、保有資産を見直して、保有する合理的理由が認められない土地、建物等の実物資産については、売却や国庫納付を着実に推進して財政貢献を行うこととされている。また、幅広い資産を対象に、自主的な見直しを不断に行うことが求められている。
 ついては、貴研究所において、各研究拠点等の利用状況を的確に把握する体制を整備するとともに、利用状況が著しく低い瀬戸サイト及び尼崎支所について、次のとおり改善の処置を要求する。
ア 瀬戸サイトについては、同サイトに係る土地及び建物の国庫納付に向けて速やかに中部センター本所等へ集約化を図ること
イ 尼崎支所については、関西センター本所等への集約化に向けた具体的な計画を早急に定めること