科目 | (エネルギー需給勘定) 業務経費 | |
部局等 | 独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構本部 | |
財産の概要 | 実証試験等に係る共同研究事業により取得した共有取得財産 | |
平成20、21両年度に終了した実証試験等に係る共同研究事業で取得した共有取得財産の数量及び取得価額 | 352件 67億4833万余円 | |
上記に係る資産売却収入 | 5億9606万余円 | (平成21年度〜23年度) |
共同研究事業等終了時点における共有取得財産の残存価額により有償譲渡した場合の資産売却収入 | 8億6913万余円 | (平成21年度〜23年度) |
資産売却収入の開差額 | 2億7306万円 | (平成21年度〜23年度) |
独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(以下「機構」という。)は、一定レベルまで確立された新技術等について、性能及び経済性の把握や信頼性の向上のための実証試験が不可欠であり、成果を実環境で使用して技術課題を抽出することや、新エネルギーの導入に必要な情報提供等の環境整備を進めることなどが重要であるとして、太陽光発電新技術等フィールドテスト事業、バイオマス等未活用エネルギー実証試験事業、地域バイオマス熱利用フィールドテスト事業等の実証試験等(以下「実証試験等」という。)を実施している。機構は、実証試験等を共同研究事業又は研究助成事業により実施することとしていて、このうち、共同研究事業は、民間企業、各種団体等(以下、これらを「事業者」という。)と共同で行う事業となっており、公募により選定した事業者と複数年にわたる共同研究契約を締結して、共同研究に要した費用に一定の率を乗じて算定した額を機構が負担している。
実証試験等に係る共同研究事業の実施により、試験的に太陽光発電システム、バイオマス熱利用システム等の設備が設置され、事業者は機構とともに複数年にわたる運転研究、データの収集、解析等を行うことになる。これらの設備については、共同研究契約約款(以下「約款」という。)に基づき、相互の負担割合を持分として機構と事業者とが共有する取得財産(以下「共有取得財産」という。)として管理されるものとなっており、機構は、共有取得財産について発生時に費用(注) として処理しているが、財産管理上の価額を算定するために耐用年数経過時点で取得価額の10%まで、その後も取得価額の5%に至るまで定額法で減価償却計算を行うことにしている。そして、大部分の共有取得財産は、「減価償却資産の耐用年数等に関する省令」(昭和40年大蔵省令第15号)に示された開発研究用減価償却資産のうち、「機械及び装置」の「その他のもの」に該当し、その耐用年数は4年とされている。
事業者は、約款等に基づき、共有取得財産を共同研究業務以外の目的に使用してはならないとされており、共同研究事業及びこれに係る継続研究(以下、これらを合わせたものを「共同研究事業等」という。)の終了後に、原則として機構からの有償譲渡により、共有取得財産を引き取ることとされている。そして、その際の価額は引取り時点における当該財産の残存価額によるものとされている。なお、この有償譲渡を行う際に、機構は、事業者等の当該財産の引取りなどに関する意向について調査、把握するため、事業者から有償譲渡要望書等の書類を提出させている。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
実証試験等に係る共同研究事業で取得した共有取得財産を共同研究事業等の終了後に事業者へ有償譲渡するに当たっては、合理的な基準により有償譲渡の価額を決定して適切に行うことが求められている。
そこで、本院は、経済性等の観点から、実証試験等に係る共同研究事業で取得した共有取得財産について、事業者に対する有償譲渡の価額は適切なものとなっているかなどに着眼して会計実地検査を行った。そして、平成20、21両年度に共同研究事業等を終了した前記の実証試験等に係る共同研究事業のうち、比較的小規模な30kW未満の太陽光発電システムを設置したものを除いた事業により取得した延べ138事業者との共有取得財産(352件、機構の持分に係る取得価額計67億4833万余円)、これに係る資産売却収入5億9606万余円を対象として、機構本部等において、売払契約書等の書類を確認するなどの方法により検査した。
(検査の結果)
共同研究事業等の終了後における共有取得財産の状況について検査したところ、次のような事態が見受けられた。
機構において、共有取得財産が有償譲渡に伴い事業者に引き取られた時点について検査したところ、共同研究事業等終了時点から実際に引き取られるまでに平均で約200日を要していた。この間の事業者における共有取得財産の使用等の状況について、機構を通じて、延べ106事業者に調査票を送付するなどして確認したところ、共同研究事業等の終了後において、事業者が共有取得財産を引き続き使用するためには有償譲渡が行われている必要があるが、回答があった延べ81事業者に係る共有取得財産241件のうち、延べ73事業者(90.1%)に係る共有取得財産214件は共同研究事業等の終了後も引き続き当該事業者に使用されていた。その間、前記のとおり、機構において当該共有取得財産の減価償却計算が行われ、残存価額が低減していて、有償譲渡の価額も低減するなどしていた。
上記について、事例を示すと次のとおりである。
A社は、平成19年3月に地域バイオマス熱利用フィールドテスト事業の一環として木質バイオマス焚(だ)きチップボイラー(機構の持分に係る取得価額55,650,000円。耐用年数4年)を設置し、22年3月末に共同研究事業等を終了した。しかし、A社はその後も直ちに有償譲渡の手続をとることなく当該財産を使用し、同年9月に機構に有償譲渡要望書等を提出した。その結果、23年1月を引取り時点として、当該財産の残存価額6,608,432円(機構の持分に係る取得価額の11.8%)で有償譲渡を受けていたが、これは、共同研究事業等終了時点の残存価額17,042,812円(同30.6%)を大幅に下回るものとなっていた。
以上のように、機構において、事業者への有償譲渡の価額を引取り時点における共有取得財産の残存価額としているため、共同研究事業等終了時点から共有取得財産が実際に引き取られるまでの間も減価償却計算が行われ、有償譲渡の価額が共同研究事業等終了時点の残存価額に比べて低減することとなって、共有取得財産の有償譲渡による資産売却収入が低減することになっているなどの事態は適切とは認められず、改善の必要があると認められた。
(資産売却収入の開差額)
実証試験等に係る共同研究事業で取得した共有取得財産の有償譲渡に当たり、有償譲渡の価額を引取り時点の残存価額ではなく、共同研究事業等終了時点の残存価額とした場合、前記の資産売却収入5億9606万余円は8億6913万余円となり、2億7306万余円の開差額が生じていたものと認められた。
(発生原因)
このような事態が生じていたのは、機構において、共同研究事業等の終了後における共有取得財産の有償譲渡について、引取り時点の残存価額により事業者が引き取ることとしていて、有償譲渡の価額が適切なものとなっていなかったこと、共同研究事業等の終了後における共有取得財産の使用等の状況を十分把握していなかったことなどによると認められた。
上記についての本院の指摘に基づき、機構は、23年9月に事務連絡を発し、今後、同種の共同研究事業等を実施するに当たっては、共同研究事業等の終了後における共有取得財産の有償譲渡について、共同研究事業等終了時点における共有取得財産の残存価額により事業者が引き取ることとして約款を改正するなど有償譲渡の価額を適切なものとする処置を講じた。