科目 | 経常費用 |
部局等 | 独立行政法人宇宙航空研究開発機構 |
契約名 | 宇宙開発の意義・価値の理解促進に関する支援 |
契約の概要 | 宇宙開発の意義や価値についての理解促進を図る活動を世界的に著名な有識者に委託するもの |
契約 | 平成18年8月〜21年4月 4件随意契約 |
予定価格の算定及び成果の確認に係る妥当性の検証を行うことができなかった契約件数 | 4件(平成18年度〜21年度) |
上記に係る契約金額 | 3805万円(契約金額計37万米ドルに係る支払時点の邦貨換算額) |
独立行政法人宇宙航空研究開発機構(以下「機構」という。)は、独立行政法人宇宙航空研究開発機構法(平成14年法律第161号)に基づき、宇宙の開発及び利用の促進等を図ることを目的として、宇宙科学に関する学術研究、人工衛星等の開発・打上げ・運用等及びこれらに関連する業務を行っている。
機構は、これらの業務の一環として、平成16年度に、国内外の宇宙関係組織の運営の経験を有する有識者で構成される「開発基本問題に係る外部諮問委員会」を設置して、今後の宇宙開発の信頼性確保に向けた具体的方策及び体制の強化について検討を行った。そして、同委員会が17年3月に取りまとめた最終報告書において、日本の将来の宇宙開発プログラムについて広く国民に共通の理解を確立する必要性が示されたことを受けて、宇宙開発の意義・価値の理解促進に関する支援業務を、18年度から21年度までの各年度において、委託契約により実施している。
この委託業務は、宇宙関係組織の運営に関して重要な役職を歴任した世界的に著名な有識者であるAに、機構の宇宙開発に係る業務における取組を始めとした宇宙開発の意義や価値についての理解促進を図る活動(以下「理解促進活動」という。)を行うことを委託するものであり、各年度ともAが代表を務めるコンサルタント会社であるB社と随意契約を締結して実施されている。理解促進活動は、業務委託仕様書に定められたAの活動を通じて行うこととされており、21年度においては、同年10月に開催される地球温暖化問題と科学技術・経済発展の調和等のための科学技術の在り方に関する国際会議とその準備会合への出席、同会議の事前の準備や機構との打合せ及び会議の結果に関するフォローアップを通じて行うこととされている。そして、18年度から20年度までの契約内容はおおむね21年度と同様となっている。
機構は、契約事務実施要領(平成15年契約部長通達第15—1号。以下「要領」という。)に基づき、予定価格の算定に当たっては、契約の目的となる物件又は役務について、仕様書、設計書等により取引の実例価格、需給の状況、履行の難易、数量の多寡、履行期間の長短等を考慮して適正に定めなければならないこととされている。そして、予定価格は原則として市場価格を基に算定することとされ、これにより難い場合は、見積価格計算書及びその説明資料等を入札参加者から徴取し、その内訳を査定するなどして原価要素別に積上計算して算定する方式(以下「原価計算方式」という。)によることとされている。
また、機構は、検査実施要領(平成16年安全・信頼性管理部長・契約部長通達第16—1号)等に基づき、給付の完了の確認をするために必要な検査(以下「受領検査」という。)をしなければならないこととされている。そして、理解促進活動に係る業務委託契約書によると、B社は、業務委託仕様書に定められたAの国際会議等への出席が完了した後に進捗状況報告書を提出することとされており、これに対して機構は契約金額の一部を支払うこととなっている。また、B社は委託業務が完了した後に納品書とともに最終の進捗状況報告書を提出することとされており、機構はそれらの提出を受けたときは受領検査を行って最終支払を行うこととなっている(以下、各進捗状況報告書と納品書とを合わせて「報告書等」という。)。
本院は、機構東京事務所において、合規性、有効性等の観点から、予定価格の算定及び成果の確認が適切に行われているかなどに着眼して、機構がB社と18年度から21年度までの各年度に締結した理解促進活動に係る委託契約4件(契約金額計37万米ドル、これに係る支払時点の邦貨換算額3805万余円)を対象として、契約書等の関係書類により会計実地検査を行った。
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
機構は、当初、本件契約の予定価格の算定は市場価格によることができないものに当たるとして原価計算方式により行うこととし、B社から見積書を徴していた。しかし、B社は、世界的に著名な有識者であるAが理解促進活動を行うための費用を詳細に積算することは困難であるとして、当該見積書等において人件費等の具体的な積算の内訳を明示しなかったため、機構は、要領に定められた原価計算方式により予定価格の算定を行うことができなかった。
そこで、機構は、社会的な地位や知名度がAと同等と認められる世界的に著名な有識者の講演料の相場価格をインターネットにより調査して、その価格を基に本件契約でAが活動する場合に想定される実働日数等を考慮するなどして予定価格を算定した結果、上記の見積書に記載された金額は妥当であると判断し、同額で契約したとしていた。
しかし、上記の講演料の相場価格に係る資料や、見積書に記載された金額が妥当であると意思決定を行った際の文書等、予定価格を算定した事務処理の過程を確認できる記録は全く保存されていなかった。したがって、本件契約は、予定価格の算定についての妥当性を事後的に検証することができないものとなっており、透明性が確保されていない状況となっていた。
機構は、本件契約に係る成果の確認について、報告書等やAが出席した国際会議の結果について主催者から公表されている資料を確認することにより、Aによる理解促進活動の実施状況の把握を行ったとしていた。そして、Aが国際会議の分科会において議長として会議及び宣言文の取りまとめを行ったことなどにより一定の成果が認められるなどとして、受領検査を行った上、契約金額全額の支払を行ったとしていた。
しかし、報告書等には、Aが出席した国際会議や分科会の名称等が記載されているにすぎず、Aが国際会議に出席してどのような発言等を行ったのか、Aが議長を務めた分科会がどのような議論を行ったのかなど、Aの活動内容が具体的には記載されておらず、Aの理解促進活動の実施状況やその成果について評価を行う基礎として十分な内容が示されたものにはなっていなかった。また、上記の公表資料は、国際会議の概要等を一般に向けて公表しているものであって、Aの活動内容を理解促進活動として評価できるような内容にはなっていなかった。したがって、本件契約は、支払の前提となる成果の確認についての妥当性を十分に検証することができないものとなっており、透明性が確保されていない状況となっていた。
このように、予定価格の算定及び成果の確認について、妥当性を検証できず透明性が確保されていない事態は適切とは認められず、改善の必要があると認められた。
このような事態が生じていたのは、機構において、次のことなどによると認められた。
ア 本件契約が、理解促進活動を世界的に著名な有識者に委託するという従来にはなかった新しい内容の契約であることから、契約事務を行うに当たり、要領等、従来の内部規程では的確な対応ができなかったこと
イ 予定価格の算定や支払の前提となる成果の確認を行うに当たり、妥当性を確実に検証して、契約の透明性を確保することの重要性に対する認識が十分でなかったこと
上記についての本院の指摘に基づき、機構は、23年5月に理解促進活動を世界的に著名な有識者、専門家等に委託等する際の事務要領を制定するなどして、予定価格の算定については、その算定根拠及び契約締結に至るまでの事務処理の過程を記録し、保管するとともに、支払の前提となる成果の確認については、理解促進活動の具体的な実施状況やその成果等を記載した成果報告書を提出させるなどして、妥当性の検証を確実に行うことができるようにすることにより、契約の透明性を確保する処置を講じた。