科目 | (財形勘定) 現金及び預金 | |
部局等 | 独立行政法人雇用・能力開発機構本部 | |
独立行政法人における運営費交付金の概要 | 独立行政法人が行う業務の財源に充てるために必要な金額の全部又は一部に相当する金額について、国が予算の範囲内で交付する資金 | |
第1期中期目標期間中に交付を受けた運営費交付金の総額 | 19億9129万余円 | (平成15年度〜18年度) |
上記に係る精算収益化額に相当する額の資金で国に承継すべき額 | 1億7694万円 |
独立行政法人雇用・能力開発機構(以下「機構」という。)は、勤労者財産形成促進法(昭和46年法律第92号。以下「財形法」という。)第9条第1項の規定に基づき、持家としての住宅を建設又は購入するなどのための資金を勤労者に貸し付ける事業主等に対して資金を貸し付ける業務及び財形法第10条の3の規定に基づき、勤労者等に対して勤労者本人又はその親族が教育を受けるために必要な資金を貸し付ける業務(以下、これらの業務を「財形融資業務」という。)を行っている。
そして、機構は、独立行政法人雇用・能力開発機構法(平成14年法律第170号。以下「機構法」という。)第13条の規定に基づき、財形融資業務に係る経理をその他の経理と区分して、財形勘定を設けて整理している。
機構の財形勘定には、独立行政法人通則法(平成11年法律第103号。以下「通則法」という。)第46条の規定に基づき、業務運営の財源に充てる資金として、国から運営費交付金が交付されている。しかし、財形融資業務に必要な貸付金については、財形法第11条の規定に基づき、金融機関等からの借入金及び雇用・能力開発債券の発行により賄うこととされていることから、これに運営費交付金は充てられておらず一般管理費等の経常的な経費にのみ充てられている。
機構の財形勘定が平成15年度から18年度までの第1期中期目標期間に交付を受けた運営費交付金の額は、計19億9129万余円となっている。
運営費交付金の会計処理に当たっては、独立行政法人会計基準(平成12年2月独立行政法人会計基準研究会策定)に基づき、国から運営費交付金を受領したときは、その相当額を運営費交付金債務で整理することとされている。そして、運営費交付金を業務費、一般管理費、人件費等の支出に充てるときは、運営費交付金債務を業務の進行に応じて一定の基準に基づき収益化することとされており、その際には、当該収益化に相当する額を運営費交付金債務から収益に属する運営費交付金収益に振り替えるなどとされている。さらに、運営費交付金債務は、次の中期目標期間に繰り越すことはできず、中期目標期間の最終年度の期末処理において、これを全額収益に振り替えなければならない(以下、当該処理により振り替えられた運営費交付金債務の額を「精算収益化額」という。)こととされている。
独立行政法人の利益及び損失の処理については、通則法第44条第1項において、毎年度、損益計算において利益を生じたときは、前年度から繰り越した損失を埋めて、なお残余があるときは、その残余の額は、積立金として整理しなければならないこととされている。そして、同条第2項において、毎年度、損益計算において損失を生じたときは、同条第1項の規定による積立金を減額して整理し、なお不足があるときは、その不足額は、繰越欠損金として整理しなければならないこととされている。また、この利益及び損失の処理は、勘定ごとに行われることになっている。
機構は、機構法第14条の規定に基づき、中期目標期間の最終年度において上記により積立金の整理を行った後、当該積立金の額から厚生労働大臣の承認を受けて次の中期目標期間に繰り越す額を控除してなお残余があるときは、その残余の額を国庫納付しなければならないこととされている。
また、22年の通則法の改正により、各独立行政法人は、中期目標期間の途中であっても、同法第8条の規定により、その保有する重要な財産であって主務省令で定めるものが将来にわたり業務を確実に実施する上で必要がなくなったと認められる場合には、当該財産(以下「不要財産」という。)を処分しなければならないこととされ、同法第46条の2の規定により、不要財産であって政府からの出資又は支出(金銭の出資に該当するものを除く。)に係るものについては、遅滞なく、主務大臣の認可を受けて、これを国庫納付するものとされている。そして、政府は、「独立行政法人の事務・事業の見直しの基本方針」(平成22年12月閣議決定)において、各独立行政法人が、幅広い資産を対象に、自主的な見直しを不断に行うことを掲げている。
なお、機構は、独立行政法人雇用・能力開発機構法を廃止する法律(平成23年法律第26号)に基づき、23年10月1日をもって解散することとなった。財形勘定における権利及び義務については、国が承継する資産及び債務を除き、権利及び義務の承継に関し必要な事項を定めた承継計画書において定めるところに従って、23年10月1日において独立行政法人勤労者退職金共済機構が承継することとされている。そして、独立行政法人勤労者退職金共済機構がその業務を確実に実施するために必要な資産以外の資産等は、国が承継することとされている。
本院は、経済性、効率性、有効性等の観点から、業務運営の財源に充てられずに残っていた運営費交付金債務が適切に取り扱われているか、不要財産の国庫納付が適切に行われているかなどに着眼して、機構の財形勘定に対して第1期中期目標期間中に交付された運営費交付金を対象として、機構本部において、財務諸表、運営費交付金の使途及び会計処理等の状況について提出を求めた調書等により会計実地検査を行った。
(検査の結果)
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
機構は、18年度末に第1期中期目標期間の終了を迎えたことから、財形勘定において運営費交付金として交付を受けたものの業務運営の財源に充てられずに残っていた運営費交付金債務1億7710万余円について、精算のための収益化を行っていた。そして、期末処理を行った結果、同勘定において53億3707万余円の当期総利益を計上していた。
一方、同勘定では、貸付金の調達金利と貸付金利の逆ざやなどにより発生した損失が生じていたことから、327億9037万余円の欠損金が前期から繰り越されていたため、通則法第44条第1項の規定に基づき、上記の当期総利益を繰越欠損金に充てたが、なお274億5329万余円が処理できず同額を欠損金として第2期中期目標期間へ繰り越していた。このため、当期総利益に含まれる精算収益化額に相当する額の資金1億7710万余円は、前記の機構法第14条の規定による国庫納付ができないことになっていた。
そして、機構においては、前記のとおり、財形融資業務に必要な貸付金については金融機関等から調達することとしていること、また、一般管理費等については毎年度運営費交付金により手当てされていることから、上記の精算収益化額に相当する額の資金1億7710万余円は使用されることなく、その全額が定期預金として留保されている状況になっていた。
このように、精算収益化額に相当する額の資金を機構が保有する必要性について、適切に見直しを行わないまま機構内部に留保している事態は適切とは認められず、前記の通則法改正の趣旨を踏まえて国庫納付する必要があると認められたが、前記のとおり、機構は23年10月1日をもって解散することとなったことから、その際には、当該資金を独立行政法人勤労者退職金共済機構に承継させるのではなく、国に承継させる必要があると認められた。
このような事態が生じていたのは、財形勘定における業務に充てることができない精算収益化額に相当する額の資金を機構が保有する必要性について、適切に見直しを行っていなかったことなどによると認められた。
上記についての本院の指摘に基づき、機構は、23年9月に、法人内部に留保されている精算収益化額に相当する額の資金1億7710万余円のうち、厚生労働省等との調整により独立行政法人勤労者退職金共済機構に承継する必要があるとされた15万余円を控除した1億7694万余円について、機構が解散する際に国に承継されることとなるよう厚生労働大臣に申請するなどの処置を講じた。