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  • 平成22年度|
  • 第3章 個別の検査結果|
  • 第2節 団体別の検査結果|
  • 第29 独立行政法人労働者健康福祉機構|
  • 本院の指摘に基づき当局において改善の処置を講じた事項

勤務時間内に報酬を伴う兼職に従事する医師の給与について、兼職に従事した時間数分について給与を減額するなどして兼職先からの報酬の支払と重複して給与の支給を受けさせない取扱いとすることにより、給与の支給が適切なものとなるよう改善させたもの


(1) 勤務時間内に報酬を伴う兼職に従事する医師の給与について、兼職に従事した時間数分について給与を減額するなどして兼職先からの報酬の支払と重複して給与の支給を受けさせない取扱いとすることにより、給与の支給が適切なものとなるよう改善させたもの

科目 給与及び賞与
部局等 独立行政法人労働者健康福祉機構
労災病院等における兼職の概要 機構の職員である医師が、地域の中でより良質で効率的な医療の提供体制を構築するため、公的機関等からの要請に基づき機構以外の業務に就くこと
勤務時間内に報酬を伴う兼職に従事した医師に対する給与の支給額の合計 116億8056万余円 (平成21、22両年度)
医師が兼職に従事した時間数分について減額するなどして支給した場合の給与の節減額 2億1695万円 (平成21、22両年度)

1 独立行政法人労働者健康福祉機構における兼職の概要

(1) 医師が従事する兼職の概要

 独立行政法人労働者健康福祉機構(以下「機構」という。)は、全国32か所に、労災病院、医療リハビリテーションセンター及び総合せき損センター(以下、これらを合わせて「労災病院等」という。)を設置して、労災疾病等に関する高度で専門的な医療を提供するとともに、労働者のみならず地域の一般の患者にも医療を提供している。
 労災病院等では、地域の中でより良質で効率的な医療の提供体制を構築するため、機構の職員である医師が、公的機関からの要請により地方労災医員(注1) 等として行政活動を行うほか、病診連携及び病病連携(注2) 推進のため他の医療機関からの要請により診療援助を行ったり、地域の企業からの要請により産業医(注3) として活動を行ったりするなど、公的機関等からの要請に基づき機構以外の業務に就くこと(以下「兼職」という。)がある。

(2) 兼職に従事する場合の手続等

 兼職については、「職員就業規則」(平成16年4月1日規程第2号)により、報酬の有無及び勤務時間の内外を問わず機構の許可を得ないで行うことは禁止されており、また、「職員の兼職について」(平成19年6月18日労健福発第849号。以下「通達」という。)において、兼職の許可の基準や手続等が定められている。これらに従い、兼職の必要がある場合、当該医師は事前に兼職許可申請書等により労災病院等の長に許可の申請を行い、その許可を得た上で兼職に従事している。
 そして、機構においては、「職員給与規程」(平成16年4月1日規程第6号。以下「規程」という。)により、無断欠勤として取り扱われた職員等に対しては、勤務1時間当たりの給与額に、勤務しない時間数を乗じた額を減額して給与を支給することとなっているが、医師が勤務時間内に報酬を伴う兼職に従事した場合における給与の取扱いについては定められていない。また、医師が兼職に従事した時間数(以下「従事時間数」という。)を各労災病院等において管理することとはなっていない。

(注1)
 地方労災医員  労働者災害補償保険法(昭和22年法律第50号)の規定による保険給付等及び労働基準法(昭和22年法律第49号)の規定による災害補償に係る事務のうち、医学に関する専門的知識を要する事務を行うために都道府県労働局に配置される医師
(注2)
 病診連携及び病病連携  地域医療において、良質で効率的な医療の提供を実施するために、核となる病院と地域内の診療所が行う連携を病診連携といい、当該病院と地域内の病院が行う連携を病病連携という。
(注3)
 産業医  事業場において労働者の健康管理等を行う医師であり、一定規模以上の事業場には産業医の選任が義務付けられている。

2 検査の結果

 (検査の観点、着眼点、対象及び方法)

 本院は、経済性等の観点から、勤務時間内に報酬を伴う兼職に従事する医師に対する給与の支給が適切なものとなっているかなどに着眼して、平成21、22両年度において勤務時間内に行われた報酬を伴う1,424件の兼職(兼職に従事した医師に対する給与の支給額116億8056万余円)を対象として、4労災病院(注4) において会計実地検査を実施するとともに、この4労災病院を含む32労災病院等(注5) から兼職許可申請書や給与台帳等の関係書類を徴したり、各労災病院等を通じて医師の兼職先等から従事時間数を聞き取ったりするなどして検査した。

(注4)
 4労災病院  関西、香川、九州、熊本各労災病院
(注5)
 32労災病院等  北海道中央、釧路、青森、東北、秋田、福島、鹿島、千葉、東京、関東、横浜、燕、新潟、富山、浜松、中部、旭、大阪、関西、神戸、和歌山、山陰、岡山、中国、山口、香川、愛媛、九州、長崎、熊本各労災病院、吉備高原医療リハビリテーションセンター、総合せき損センター

 (検査の結果)

 検査したところ、上記1,424件の兼職のうち36件の兼職においては、兼職先からの報酬の全部を労災病院等に帰属させるなどしていたが、これらを除く1,388件の兼職においては、報酬の全部を医師本人に受領させるなどするとともに労災病院等から従事時間数分の給与が支給されていて、医師が兼職先からの報酬の支払と重複して給与の支給を受けている状態となっていた。
 しかし、勤務時間内に兼職に従事し、その対価としての報酬を医師本人が受領しているのに、当該医師が、兼職先からの報酬の支払と重複して、その従事時間数分の給与を減額されることなく労災病院等から給与の支給を受けている事態は適切とは認められず、改善を図る必要があると認められた。

 (節減できた給与支給額)

 医師が兼職先からの報酬の支払と重複して給与の支給を受けていた1,388件の兼職のうち、従事時間数が判明しなかった45件の兼職を除いた1,343件の兼職について、当該兼職に従事した医師に対して、勤務1時間当たりの給与額に従事時間数を乗じた額を減額するなどして給与を支給していたとすれば、給与の支給額を2億1695万円節減できたと認められた。

 (発生原因)

 このような事態が生じていたのは、機構において、医師の兼職に係る給与の適切な支給に対する認識が十分でなく、医師が勤務時間内に報酬を伴う兼職に従事した場合における給与の取扱いを定めていなかったこと、各労災病院等において従事時間数の管理を行っていなかったことなどによると認められた。

3 当局が講じた改善の処置

 上記についての本院の指摘に基づき、機構は、23年9月に通達及び規程を改正して、勤務時間内に報酬を伴う兼職に従事する医師に対しては、従事時間数分について給与を減額するなどして兼職先からの報酬の支払と重複して給与の支給を受けさせない取扱いとするとともに、各労災病院等に事務連絡を発して、従事時間数の管理を厳格に行うよう指導するなどして、これらを同年10月から適用することとする処置を講じた。