科目 | 現金及び預金 | |
部局等 | 独立行政法人海洋研究開発機構本部 | |
不要財産の概要 | 独立行政法人が保有する財産のうち、将来にわたり業務を確実に実施する上で必要がなくなったと認められる財産 | |
平成23年3月末現在の現金及び預金の額 | 87億9317万余円 | |
上記のうち不要財産として国庫納付すべき額 | 18億3827万円 |
独立行政法人海洋研究開発機構(以下「機構」という。)は、独立行政法人海洋研究開発機構法(平成15年法律第95号。以下「機構法」という。)に基づき、平成16年4月1日に解散した認可法人の海洋科学技術センター(以下「センター」という。)の権利及び義務について、国が承継する資産を除いて承継するなどして設立された。そして、機構は、深海底の地層を掘削する設備を搭載した地球深部探査船「ちきゅう」を使用して、「科学技術基本計画(第3期(平成18年度〜22年度))」(平成18年3月閣議決定)において国家基幹技術として位置付けられた「海洋地球観測探査システム」の開発等を行っている。
この「ちきゅう」は、13年4月に建造が開始され、センターの権利及び義務を機構が承継した後の17年7月に完成している。
「ちきゅう」の建造に係る経費は、センター時代においては、13年度までに国から出資された346億6019万余円並びに14、15両年度に交付された海洋科学技術センター船舶建造費補助金計203億8207万余円及び海洋科学技術センター研究費補助金計11億1099万余円の合計561億5326万余円により賄われており、これらの建造経費は貸借対照表の資産の部において建設仮勘定として計上されていた。
そして、前記のとおり、16年4月1日にセンターが解散して機構が独立行政法人として設立されたことに伴い、機構は、上記の建設仮勘定について、独立行政法人海洋研究開発機構資産評価委員会の評価を受けて上記の561億5326万余円で承継しており、これに対応する開始貸借対照表の資本及び負債の部における表示項目及び計上額は、政府出資金357億7119万余円及び建設仮勘定資産見返施設費203億8207万余円となっていた。
その後、「ちきゅう」が完成するまでの間、機構は、16、17両年度に交付された独立行政法人海洋研究開発機構船舶建造費補助金計32億2035万余円と独立行政法人海洋研究開発機構運営費交付金のうち「ちきゅう」の建造経費に充てた計1億6760万余円を上記の建設仮勘定に追加して計上していた。そして、「ちきゅう」が完成した時点では、「ちきゅう」の建造に係る経費として建設仮勘定に計上されていた額の内訳は表
のとおりとなっており、合計595億4123万余円が計上されていた。
表 | 「ちきゅう」の建造に係る経費として建設仮勘定に計上されていた額の内訳(平成17年7月「ちきゅう」完成時点) | (単位:千円) |
項目 | 金額 | |
独立行政法人移行前に交付等を受けたもの | 海洋科学技術センター出資金 | 34,660,197 |
海洋科学技術センター船舶建造費補助金 | 20,382,071 | |
海洋科学技術センター研究費補助金 | 1,110,999 | |
小計 | 56,153,267 | |
独立行政法人移行後に交付を受けたもの | 独立行政法人海洋研究開発機構船舶建造費補助金 | 3,220,357 |
独立行政法人海洋研究開発機構運営費交付金 | 167,608 | |
小計 | 3,387,966 | |
計 | 59,541,233 |
独立行政法人は、独立行政法人通則法(平成11年法律第103号。以下「通則法」という。)第44条第1項の規定に基づき、毎年度、損益計算において利益を生じたときは、前年度から繰り越した損失を埋めて、なお残余があるときは、その残余の額は、積立金として整理しなければならないこととされている。そして、同条第2項により、毎年度、損益計算において損失を生じたときは、同条第1項の規定による積立金を減額して整理し、なお不足があるときは、その不足額は、繰越欠損金として整理しなければならないこととされている。
機構は、機構法第18条第1項及び第3項の規定に基づき、中期目標期間の最終年度において上記により積立金の整理を行った後、当該積立金の額から、次の中期目標期間の業務の財源に充てるために文部科学大臣の承認を受けて繰り越す額(以下「次期中期繰越積立金」という。)を控除してなお残余があるときは、その残余の額を国庫納付しなければならないこととされている。
そして、各独立行政法人は、「独立行政法人の組織、運営及び管理に係る共通的な事項に関する政令」(平成12年政令第316号)第6条第1項の規定に基づき、上記残余の額があるときは国庫納付すべき金額(以下、当該国庫納付すべき金額を「国庫納付金」という。)の計算書に、中期目標期間の最終年度の貸借対照表、損益計算書その他の当該国庫納付金の計算の基礎を明らかにした書類を添付して、主務大臣に提出しなければならないこととされている。
各独立行政法人は、22年の通則法の改正により、中期目標期間の途中であっても、同法第8条第3項の規定により、その保有する重要な財産であって主務省令で定めるものが将来にわたり業務を確実に実施する上で必要がなくなったと認められる場合には、当該財産(以下「不要財産」という。)を処分しなければならないこととされ、同法第46条の2の規定により、不要財産であって政府からの出資又は支出(金銭の出資に該当するものを除く。)に係るもの(以下「政府出資等に係る不要財産」という。)については、遅滞なく、主務大臣の認可を受けて、これを国庫納付するものとされている。
そして、政府は、「独立行政法人の事務・事業の見直しの基本方針」(平成22年12月閣議決定)において、各独立行政法人が、幅広い資産を対象に、自主的な見直しを不断に行うことを掲げている。
本院は、経済性、効率性、有効性等の観点から、不要財産の国庫納付が適切に行われているかなどに着眼して、機構の第1期中期目標期間(16年度から20年度まで)に係る積立金等を対象として、機構本部において、財務諸表、会計処理等の状況について提出を求めた調書等により会計実地検査を行った。
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
機構は、第1期中期目標期間の最終年度(20年度)において、前記の積立金の整理を行った結果、積立金を8億2743万余円と算出していた。そして、この積立金8億2743万余円から、次期中期繰越積立金6億7695万余円を控除してなお残余が1億5047万余円あったことから、文部科学大臣に国庫納付金の計算書を提出して、同額を21年7月に国庫納付していた。
上記の計算書に添付された国庫納付金の計算の基礎を明らかにした書類をみたところ、機構は、国庫納付金の計算に当たり、第1期中期目標期間中に還付された消費税額と納付した消費税額との差額19億8730万余円等の現金の裏付けのある利益を計上する一方、同期間中のキャッシュ・フローを伴わない費用18億3827万余円を損失として計上していた。
この損失のうち16億0763万余円は、「ちきゅう」完成時の17年度に、政府出資見合いとして承継した建設仮勘定を船舶等の本勘定に振り替える際に生ずるなどした費用によるものであった。すなわち、この費用は、機構が、「ちきゅう」の完成時において建設仮勘定に計上していた額を資産と費用とに区分して振り替える処理を行うこととしていたことから、17年7月の完成を機に、地層を掘削して試料を採取するシステムの開発の委託に係る経費等16億0763万余円を、建設仮勘定から委託費等に振り替えたことにより生じたものである。
また、このほかに、政府出資見合いとして承継した前払費用等の資産を費用に振り替える処理をしたことなどにより生じたキャッシュ・フローを伴わない費用計2億3063万余円を損失として計上していた。
このように、キャッシュ・フローを伴わない費用による損失によって、現金の裏付けのある利益が含まれる積立金の額が減少し、結果として、18億3827万余円が第1期中期目標期間終了後に国庫納付されることなく、法人内部に定期預金等の形で留保されることになっていた。そして、この留保されることとなった資金は、第2期中期目標期間に係る中期計画において今後の使用に係る計画が定められていないことなどから、当該中期目標期間において実施する業務の財源として使用することは適切でないものと認められた。
したがって、当該キャッシュ・フローを伴わない費用に相当する額の資金は、将来にわたり機構の業務を確実に実施する上で必要がないものと認められるのに、法人内部に留保されている事態は適切とは認められず、通則法に基づき国庫納付する必要があると認められた。
(発生原因)
このような事態が生じていたのは、機構において、将来にわたり業務を確実に実施する上で必要がないと認められる政府出資等に係る不要財産を、遅滞なく、国庫納付することについての認識が十分でなかったことなどによると認められた。
上記についての本院の指摘に基づき、機構は、23年9月に、文部科学大臣に対して、政府出資等に係る不要財産の国庫納付に係る認可申請書を提出し、前記の法人内部に留保されることとなっている資金18億3827万余円について、国庫納付することとなるよう処置を講じた。