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  • 平成22年度|
  • 第4章 国会及び内閣に対する報告並びに国会からの検査要請事項に関する報告等|
  • 第4節 特定検査対象に関する検査状況

義務教育費国庫負担金の検査の状況について


第4 義務教育費国庫負担金の検査の状況について

検査対象 文部科学本省、4道県
会計名及び科目 一般会計(組織)文部科学本省(項)義務教育費国庫負担金
義務教育費国庫負担金の概要 公立の義務教育諸学校に要する経費のうち都道府県が負担する教職員給与等に要する経費の一部を国が負担するもの
検査の対象とした義務教育費国庫負担金の交付対象額の合計 1兆3091億4673万円 (平成18年度〜21年度)
上記に対して交付された義務教育費国庫負担金交付額 4363億7767万円

1 検査の背景

(1) 北海道、札幌市両教育委員会による調査

 北海道の教職員が加入している職員団体の幹部が、平成21年の衆議院議員総選挙に関わり、政治資金規正法(昭和23年法律第194号)違反により、22年3月に逮捕・起訴されたことに関連し、公立の義務教育諸学校(小学校、中学校、中等教育学校の前期課程並びに特別支援学校の小学部及び中学部。以下、公立の義務教育諸学校を「公立義務教育諸学校」という。)に勤務する教職員の違法な政治活動や勤務時間中の職員団体のための活動について、様々な新聞報道等があり、国会等においてもこれらの問題が大きく取り上げられた。
 こうした状況の中、北海道、札幌市両教育委員会は、文部科学省から新聞報道等に関する事実確認の要請を受け、22年3月から8月にかけて、教職員の服務規律等の実態に関する調査を行い、その結果を同年8月に公表したところである。この調査は、北海道、札幌市両教育委員会が、管内の公立義務教育諸学校等を対象として、教職員の勤務時間中の組合活動(職員団体の会議への出席等)、政治的行為等の状況について、校長が教職員から、又は市町村教育委員会が校長から聞き取りを行うなどして確認した結果について報告させ、それを取りまとめたものである。このうち、北海道教育委員会が行った調査の結果によると、北海道の公立義務教育諸学校の一部の教職員が、勤務時間中に有給休暇等の所定の手続をとることなく職員団体のための活動を行っていたことなどが報告されている。
 教職員による職員団体のための活動は、地方公務員法(昭和25年法律第261号。以下「地公法」という。)のほか各地方公共団体の条例の定めるところにより行われるものであり、北海道教育委員会の調査で確認された上記のような勤務時間中における職員団体のための活動行為については、一義的には各地方公共団体の服務管理上の問題である。しかし、教職員が、法律や条例等に違反し、所定の手続をとることなく勤務時間中に職員団体のための活動を行った場合、当該活動を行った勤務時間については給与の支給を受けることができないことから、義務教育費国庫負担金(以下「国庫負担金」という。)の交付額に影響を及ぼす可能性がある。

(2) 国庫負担金の概要

 国庫負担金は、義務教育費国庫負担法(昭和27年法律第303号)に基づき、義務教育について、義務教育無償の原則にのっとり、国民の全てに対しその妥当な規模と内容とを保障するため、国が必要な経費を負担することにより、教育の機会均等とその水準の維持向上とを図ることを目的として、公立義務教育諸学校に要する経費のうち、都道府県が負担する教職員の給与及び報酬等に要する経費について、その実支出額を国庫負担対象額とし、その3分の1を国が負担するものである。
 ただし、教職員給与等の実支出額が、「義務教育費国庫負担法第二条ただし書の規定に基づき教職員の給与及び報酬等に要する経費の国庫負担額の最高限度を定める政令」(平成16年政令第157号)により算定した額(以下「算定総額」という。)を超える都道府県については、当該算定総額の3分の1を最高限度として負担することとなっている(図1 参照)。

図1 国庫負担金交付額の算定方法

(実支出額<算定総額の場合)実支出額×1/3=国庫負担金交付額

(実支出額>算定総額の場合)算定総額×1/3=国庫負担金交付額

(3) 教職員の職務専念義務及び職員団体のための活動

 公立義務教育諸学校に勤務する教職員は、地公法に基づき、条例等で定める場合を除き、その勤務時間及び職務上の注意力の全てをその職責遂行のために用い、教職員がなすべき責を有する職務にのみ従事しなければならないとされる職務専念義務が課されている。
 そして、職務専念義務の免除(以下「職専免」という。)が認められる場合として、〔1〕 職員団体のための活動として適法な交渉を行う場合(地公法第55条)、〔2〕 有給休暇を取得する場合(労働基準法(昭和22年法律第49号)第39条)、〔3〕 研修や厚生に関する計画の実施に参加する場合(各地方公共団体が定める職務専念義務の特例に関する条例)等がある。
 このうち、上記〔1〕 の適法な交渉については、職員の給与、勤務時間その他の勤務条件等を内容とするものに限定されていて、地方公共団体の事務の管理及び運営に関する事項は、適法な交渉の内容とすることはできないとされている。
 また、教職員による職員団体のための活動については、地公法第55条の2の規定により、条例で定める場合を除き、給与を受けながら、職員団体のためその業務を行い、又は活動してはならないとされている。そして、各地方公共団体が定めた「職員団体のための職員の行為の制限の特例に関する条例」において、有給休暇を取得している期間の場合等に限り、給与を受けながら、職員団体のためその業務を行い、又は活動することができるなどとされている。

2 検査の観点、着眼点、対象及び方法

(1) 検査の観点及び着眼点

 前記のとおり、北海道教育委員会の調査結果によれば、一部の教職員が勤務時間中に有給休暇等の所定の手続をとることなく職員団体のための活動を行うなどしており、国庫負担金の交付額に影響を及ぼす可能性がある事態が明らかになったことなどから、本院は、北海道(札幌市を含む。以下同じ。)の公立義務教育諸学校について検査を行うこととした。また、北海道に対する検査において明らかとなった事態について、他の都府県においても同様の事態がないかを検証するために、国庫負担金が教職員給与等の実支出額により算定された県等(注1 )の中から石川、鳥取、沖縄各県(以下「3県」という。)を選定して検査を行うこととした。
 そして、本院は、北海道及び3県において、合規性等の観点から、国庫負担金の交付額が適正なものとなっているかなどに着眼して検査した。

(注1)
国庫負担金が教職員給与等の実支出額により算定された県等  国庫負担金が教職員給与等の実支出額により算定された県等においては、教職員が所定の手続をとることなく職員団体のための活動を行ったことなどにより給与の減額等が行われた場合、実支出額も減額となるため国庫負担金の交付額に直接影響を及ぼすこととなる。なお、平成21年度に教職員給与等の実支出額により国庫負担金が算定された県等は21道府県となっている。

(2) 検査の対象及び方法

 本院は、北海道については、管内の公立義務教育諸学校の中から209校(小学校116校、中学校93校)を、3県については、68校(小学校36校、中学校32校)を選定し、出勤簿、休暇等処理簿、学校日誌等の関係書類を照査するなどの方法により会計実地検査を行った。
 また、検査対象年度については、それぞれの道県ごとに、国庫負担金が教職員給与等の実支出額により算定されている年度とすることとし、北海道は18年度から21年度、石川、沖縄両県は19年度から21年度、鳥取県は21年度を対象として検査した。
 北海道及び3県の上記の検査対象年度に係る国庫負担金の交付対象額及びこれに対する国庫負担金交付額は、表1 のとおりであり、合計で1兆3091億4673万余円及び4363億7767万余円となっている。

表1  北海道及び3県の検査対象年度に係る国庫負担金交付対象額及び交付額
(単位:千円)

道県名 検査対象年度 国庫負担金交付対象額 左に対する国庫負担金交付額
北海道 平成18〜21 943,712,033 314,571,330
石川県 19〜21 146,433,298 48,809,503
鳥取県 21 27,917,359 9,305,786
沖縄県 19〜21 191,084,042 63,691,051
1,309,146,733 436,377,672

3 検査の状況

 検査したところ、北海道において、教職員の勤務時間中における職務専念義務が遵守されていないのに、その時間の給与が支給され、実支出額として国庫負担金の算定対象となっているなどの事態が見受けられた。また、3県のうち石川、沖縄両県において、一部同様な事態が見受けられた。

(1) 教職員の勤務時間中における職務専念義務が遵守されていないのに、その時間の給与が支給され、実支出額として国庫負担金の算定対象となっていたもの

 教職員の職務専念義務の遵守の状況について検査したところ、北海道の公立義務教育諸学校において、教職員が、法律や条例等に違反して勤務時間中に職員団体のための活動を行ったり、長期休業の期間等において勤務時間を遵守していなかったり、校外において行ったとしていた研修を実際は行っていなかったり、外勤、出張及び職専免の取扱いが適切でなかったりなどしていたものが、表2 のとおり、18年度から21年度までの間において、計172校、647人、3,392時間(給与支給額計7,038,218円、国庫負担金相当額2,346,067円)見受けられた。

表2  北海道において教職員の職務専念義務が遵守されていなかったもの

聞き取り調査の結果 年度 学校数 人数 時間数 給与支給額 国庫負担金相当額
ア 勤務時間中に職員団体のための活動を行っていたもの
平成
18、20、21
7校 12人 14時間 32,551円 10,848円
イ 長期休業の期間等において勤務時間が遵守されていなかったもの
18〜21 52校 442人 2,045時間 4,313,102円 1,437,700円
ウ 校外において行ったとしていた研修を実際は行っていなかったなどのもの
18〜21 47校 81人 1,006時間 1,941,007円 647,001円
エ 外勤、出張及び職専免の取扱いが適切でなかったもの
18〜21 66校 112人 327時間 751,558円 250,518円
172校 647人 3,392時間 7,038,218円 2,346,067円
(注)
時間数は、職務専念義務を遵守していなかったと認められる教職員の1か月当たりの時間数の合計が1時間以上(30分以上は切り上げて1時間、30分未満は切り捨てて0時間として計算)のものを集計している。

 なお、3県については、教職員の職務専念義務が遵守されていないと認められる事態が、沖縄県において、19年度から21年度までの間に19校、208人、計1,183時間(給与支給額計2,369,866円、国庫負担金相当額789,953円)見受けられた。
 これらの事態を態様別に示すと、次のとおりである。

ア 勤務時間中に職員団体のための活動を行っていたもの

 教職員が法令や条例等に違反して勤務時間中に有給休暇等の手続をとることなく職員団体のための活動を行っていないかなどについて、市町村教育委員会が保管する職員団体との協議記録等の書類、各学校が保管する出勤簿、休暇等処理簿、学校日誌等の書類により検査した。
 検査したところ、北海道において、勤務時間中に、職員団体の代表者としての教職員と市町村教育委員会又は校長等との間で、適法な交渉の対象とはならないとされている学校の事務の管理及び運営に関する事項を対象とする協議(以下「話合い」という。)が行われたり、校内の会議室等において職員団体の会議等が行われたりしている事態が見受けられた。
 このため、更に北海道教育委員会及び市町村教育委員会を通じて、話合いや職員団体の会議に参加していたと思われる教職員等に対し、それらの話合いや会議への参加の有無等について聞き取り調査を実施するなどして事実確認を行った。その結果、次のとおり、勤務時間中に有給休暇等の手続をとることなく職員団体のための活動を行っていると認められる事態が、7校、12人、計14時間(給与支給額計32,551円、国庫負担金相当額10,848円)見受けられた。
 なお、3県については、検査した範囲において、同様な事態は見受けられなかった。

(ア) 北海道において市町村教育委員会との間で勤務時間中に話合いを行っていたもの

 市町村教育委員会と職員団体の代表者としての教職員との話合いの状況について、市町村教育委員会が保管する書類により確認したところ、A町教育委員会及びB市教育委員会の協議記録等の書類において、18年度から21年度までの間に、計32回にわたり、上記両教育委員会の担当者と職員団体の代表者としての教職員との間で、勤務時間中に話合いが行われていたことが記載されていた。
 上記のうち、A町教育委員会は、協議記録等に記載された5校の20人に係る延べ76回の話合いについて、参加者、時間等の記載がなく確認できないものが一部あるが、実際に行われていたものであり、かつ、話合いの相手方となった同教育委員会の複数の担当者が証人となり得るとしている。
 一方、B市教育委員会は、関係書類に記載された2校の2人に係る延べ12回の話合いについて、関係書類に記載された話合いの開始時間はあくまで予定時間であり、これをもって実際に話合いが行われた時間を特定できるものではないとしている。
 北海道教育委員会は、上記のうち、A町教育委員会における話合いについては、教職員及びA町教育委員会に対する聞き取り調査や関係書類の精査を行うなどした結果、参加者、日時、場所、話合い事項等が具体的に特定できた5校の20人に係る延べ65回の話合いについて、勤務時間中に行われていたものとした。そして、このうち、18、20、21各年度に行われた4校の7人に係る延べ14回(計7時間)の話合いについては、話合いに参加した時間数の合計が1か月で1時間以上(30分以上の場合は1時間、30分未満は0時間として計算。以下同じ。)となるため、当該時間に係る給与支給額計15,433円(国庫負担金相当額5,143円)について北海道の条例による給与の返納(注2 )の処置が必要であるとした。

(注2)
北海道の条例による給与の返納  市町村立学校職員給与負担法に規定する学校職員の給与に関する条例(昭和27年条例第79号)において、学校の教職員が勤務しないときは、その勤務しない時間について、1時間を単位として給与の返納(減額)が行われることとされている。なお、計算された時間数に1時間未満の端数が生じた場合には、その端数が30分以上のときは1時間とし、30分未満のときは切り捨てることとされている。

 一方、B市教育委員会における2校の2人に係る延べ12回の話合いについては、北海道教育委員会は、勤務時間中に行われたかどうかを特定できないとしている

(イ) 北海道において校長等との間で勤務時間中に話合いを行っていたもの

 校長等と職員団体の代表者としての教職員との話合いの状況について、学校日誌等により確認したところ、4校において、20、21両年度に、計14回にわたり、勤務時間中に話合いが行われていたことが記載されていた。
 北海道教育委員会は、教職員や当時の関係者等に対する聞き取り調査を行うなどした結果、話合いの参加者、日時、場所等が具体的に特定できた3校の5人に係る延べ14回の話合いについて、勤務時間中に行われていたものとした。そして、このうち、20、21両年度に行われた3校の5人に係る延べ9回(計7時間)については、話合いに参加した時間数の合計が1か月で1時間以上となるため、当該時間に係る給与支給額計17,118円(国庫負担金相当額5,705円)について返納の処置が必要であるとした。

(ウ) 北海道において勤務時間中に校内で行われた職員団体の会議等に参加していたもの

a 聞き取り調査の結果等

 校内で行われた職員団体の会議等への教職員の参加の状況について、学校日誌等の書類により検査したところ、9校において、18年度から21年度までの間に計62回にわたり、勤務時間中に、校内で職員団体の会議等が行われていたことが記載されていた。これらの会議は、図2 のとおり、授業終了後の休憩時間中に始まりその後の勤務時間に及んで行われていたものが多く見受けられた。

図2 勤務時間中に行われた職員団体の会議等の例

図2勤務時間中に行われた職員団体の会議等の例

 しかし、上記の学校日誌等の書類には具体的な参加者名等が記載されていなかったことから、北海道教育委員会及び市町村教育委員会を通じ、これらの会議等に参加していたと思われる当時の職員団体の会員のうち、当日に有給休暇を取得していなかった17校の96人に対して、延べ792回の会議への参加の有無、参加した時間等について聞き取り調査を行ったところ、13校の20人が、延べ24回の会議について、「有給休暇等の必要な手続をとることなく勤務時間中に職員団体の会議等に参加した」と回答した。
 一方、上記の13校、20人以外については、17校の57人が、延べ501回の会議について、「参加した記憶がない」、「参加したが時間の記憶がない」などと回答しており、また、4校の6人は、延べ81回の会議について、参加の有無等に関して回答できないとした。なお、10校の41人は、延べ186回の会議について、「出席していない」、「勤務時間外に出席した」などと回答した。
 北海道教育委員会は、勤務時間中に校内で行われた職員団体の会議等に参加したと回答した13校の20人に係る延べ24回の会議について、勤務時間中において職員団体のための活動が行われたものとしたが、いずれも参加した時間数の合計が1か月で1時間に満たないことから、給与の返納の対象とはならないとした。
 一方、「参加した記憶がない」などと回答した17校の57人に係る延べ501回の会議及び聞き取り調査に対して回答できないとした4校の6人に係る延べ81回の会議については、職員団体の会議等に参加した時間を特定できないなどとしている。

b 学校施設の管理状況

 校内における職員団体の会議等の実施状況については、aのとおり、学校日誌等の書類により実施の有無を確認したが、併せて校長等に対して校内における職員団体の会議等の実施を許可していないかなどについて聞き取り調査を行った。その結果、表3 のとおり、北海道において会計実地検査を行った209校のうち203校において、21年度に会議室等の学校施設を職員団体の会議等のために使用させていることが確認された。
 そこで、これらの203校について、当該会議室等の管理状況を確認したところ、学校施設利用に関する申請書、使用簿等を整備するなどの方法により施設管理を行っていたものは僅か10校にすぎなかった。そして、その他の193校のうち、一部の学校ではaのように学校日誌等に使用日時等を記載しているものも見受けられたが、ほとんどの学校では職員団体の代表者からの口頭による使用申入れに対し口頭で許可しているのみであり、使用日時等の記録は全く残されていなかった。
 また、口頭で使用を許可している上記の学校では、職員団体の会議等のための会議室等の使用を、休憩時間中又は勤務時間終了後に限り許可しているなどとしているが、具体的な日時、場所、参加者等を特定できる使用簿等を整備していないため、勤務時間中には使用されていないことについての裏付けを確認することはできなかった。

表3 北海道における学校施設の職員団体の会議等のための使用の状況

職員団体の会議等のための使用あり 職員団体の会議等のための使用なし 検査実施校 計
  使用簿等による管理
あり なし
203校(97.1%) 10校(4.7%) 193校(92.3%) 6校(2.8%) 209校
(注)
括弧書きは、いずれも検査実施校の計に対する割合である。

イ 長期休業の期間等において勤務時間が遵守されていなかったもの

 教職員は、夏季休業、冬季休業等の長期休業の期間等においても、通常の課業期間と同様に給与が支給されている。そして、職務や研修のために校外で勤務する場合等を除き、定められた始業時刻から終業時刻までの間、校内において勤務することが義務付けられている。

(ア) 北海道において始業時刻後に機械警備が解除されたり、終業時刻前に機械警備が開始されたりしていたもの

 機械警備が導入されている学校の施設では、通常、最初に出勤した教職員により機械警備が解除され、最後に退勤した教職員により機械警備が開始される。したがって、始業時刻後に機械警備が解除されたり、終業時刻前に機械警備が開始されたりしている場合には、教職員が機械警備が実施されている学校の施設内において、通常の勤務をしていなかったことになる。
 長期休業の期間等において教職員の勤務時間が遵守されているかについて、校舎の警備を行っている警備会社の機械警備記録により機械警備の解除時刻及び開始時刻を確認するなどして検査したところ、北海道において、表4 のとおり、18年度から21年度までの間に、97校において、始業時刻後に機械警備が解除されたり、終業時刻前に機械警備が開始されたりしていた。

表4  北海道において機械警備が始業時刻後に解除又は終業時刻前に開始されていたもの
(単位:億円)

検査実施校 機械警備導入校 始業時刻後に解除 終業時刻前に開始
学校数 日数 学校数 日数 学校数 日数
209校 127校 77校 1,091日 95校 1,859日 97校 2,487日
(注)
学校数及び日数の計欄は、それぞれの事態で重復しているものがあるため、学校数等を合計したものと一致しない。

 そこで、北海道教育委員会及び市町村教育委員会を通じ、始業時刻後に機械警備が解除されたり、終業時刻前に機械警備が開始されたりしていた日について、校長等の管理職に対して始業時刻後の出勤や終業時刻前の退勤を認めていたか、当日出勤していた教職員に対して始業時刻後に出勤又は終業時刻前に退勤したかなどについて聞き取り調査を行った。
 その結果、表5 のとおり、18年度から21年度までの間に、52校の442人が、延べ2,690日(計2,045時間)について、校長の指示を受けるなどして、始業時刻後に出勤又は終業時刻前に退勤したと回答した。
 一方、85校の718人は、延べ4,596日(計3,727時間)について、「何をしていたか記憶がない」などと回答した。また、71校の950人は、延べ6,199日(計4,822時間)について、「始業時刻前に出勤し校庭の清掃や雪かき等を行った後に機械警備を解除した」、「機械警備を開始した後に校内の巡視等を行い終業時刻後に退勤していた」などと回答しており、機械警備を行っていない他の場所で勤務していたとしている。ただし、これらの勤務の事実を証明できるものはないとしている。

表5  北海道における機械警備中の勤務の実態に関する聞き取り調査結果

聞き取り調査の結果 学校数 人数 延べ日数 時間数
始業時刻後に出勤又は終業時刻前に退勤していた 52校 442人 2,690日 2,045時間
何をしていたか記憶がないなど 85校 718人 4,596日 3,727時間
機械警備を行っていない他の場所で勤務していた 71校 950人 6,199日 4,822時間
97校 1,868人 13,485日 10,594時間
(注)
学校数及び人数については、同一の教職員が複数の異なる回答をしているものがあるなどのため、学校数等を合計したものと一致しない。

 北海道教育委員会は、図3 及び図4 のとおり、始業時刻後に出勤又は終業時刻前に退勤したと回答した52校の442人に係る延べ2,690日(計2,045時間)については、明らかに勤務の事実がないことから、当該時間に係る給与支給額計4,313,102円(国庫負担金相当額1,437,700円)について返納の処置が必要であるとした。

図3 始業時刻後に出勤していたもの(始業時刻後に機械警備を解除)の例

図3始業時刻後に出勤していたもの(始業時刻後に機械警備を解除)の例

図4 終業時刻前に退勤していたもの(終業時刻前に機械警備を開始)の例

図4終業時刻前に退勤していたもの(終業時刻前に機械警備を開始)の例

 一方、「何をしていたか記憶がない」などと回答した85校の718人に係る延べ4,596日(計3,727時間)及び「機械警備を行っていない他の場所で勤務していた」と回答した71校の950人に係る延べ6,199日(計4,822時間)については、勤務時間が遵守されていなかったことを特定するに至らないとした。
 前記のように北海道において勤務時間が遵守されていなかった事態は、通常の課業期間にはほとんど見受けられず、主に夏季休業日や冬季休業日のような長期休業の期間に見受けられた。このほか、週休日(土曜日又は日曜日)に実施された授業参観、学芸会等の行事日において終業時刻より早く退勤している事態が見受けられた。当時の校長等からの聞き取りによると、教職員の超過勤務が日常的に続いていたため、長期休業の期間や授業参観等の行事日において、校務に支障のない範囲で遅く出勤又は早く退勤させたなどとしている。

(イ) 3県における状況

 沖縄県において、19、20両年度に、4校の13人が、延べ13日(計37時間)について、夏季休業の期間中に行われた地域行事に参加するため終業時刻前に退勤していたが、当該時間について有給休暇を取得していなかったものが見受けられた。沖縄県は、これらの教職員に対し、上記の13日(計37時間)に係る給与支給額計68,282円(国庫負担金相当額22,760円)を返納させることとした。
 このほか沖縄県の2校において、19、20両年度に、長期休業の期間中の教職員の休憩時間が本来の45分から1時間に延長されており、これにより103人の教職員が、計835時間について本来勤務すべき時間に休憩を取っていた。沖縄県は、この835時間に係る給与支給額計1,624,616円(国庫負担金相当額541,538円)を返納させることとした。

ウ 校外において行ったとしていた研修を実際は行っていなかったなどのもの

 教職員は、教育公務員特例法(昭和24年法律第1号)等に基づき、授業に支障のない限り、校長の承認を受けて校外で研修を行うこと(以下「校外研修」という。)が認められている。そして、校外研修は、職専免の対象とされ、かつ、給与の支給対象とされている。校外研修の中には、教育研究団体が実施する講演会、研究会等への参加のほか、図書館等における資料収集や文献調査等があり、教職員は、各地方公共団体の学校職員服務規程において定められた校外研修処理簿等の書類に、あらかじめその内容(日時、場所等)を記載するなどし、校長の承認を受けるものとされている。
 また、長期休業の期間における校外研修については、校長は、研修開始前に研修計画書を、研修終了後に研修報告書を提出させるなどして、研修内容の把握やその実施状況の確認に努めることとされている。

(ア) 北海道において長期休業の期間における校外研修を実際は行っていなかったなどのもの

 教職員が図書館等の公共施設において文献調査、資料収集等を行うこととして承認を受けた校外研修について、その実施状況を図書館等の休館日を確認するなどして検査したところ、18年度から21年度までの間に、校外研修処理簿や研修報告書に記載されていた研修実施日が図書館等の休館日となっているなど校外研修を行った事実が確認できない事態が見受けられた。
 そこで、北海道教育委員会及び市町村教育委員会を通じ、図書館等の休館日に研修を行ったなどとする教職員に対し、当日における校外研修の実施の有無、実施した校外研修の内容等について聞き取り調査を行ったところ、表6 のとおり、5校の6人は、19年度から21年度までの間の8回(計60時間)の校外研修について、「当日、図書館が休館日であったため、校外研修は行わずに自宅で過ごすなどしていた」と回答した。また、43校の75人は、18年度から21年度までの間の126回(計946時間)の校外研修について、「図書館ではなく自宅等の別の場所で行った」などと回答した。ただし、それらの研修等の事実を証明することはできないとしている。
 一方、上記以外の22校の41人は、59回(計423時間)の校外研修について、「実施場所、内容等を変更し、それを事後に校長に申し出た」などと回答したことから、当時の校長に確認したところ、当時の校長は「その内容を確認していた」などと回答した。
 北海道教育委員会は、「校外研修を行っていなかった」と回答した5校の6人に係る8回(計60時間)の校外研修及び「図書館ではなく別の場所で研修したがその事実を証明できない」などと回答した43校の75人に係る126回(計946時間)の校外研修については、研修を行った事実が確認できないことから、当該時間に係る給与支給額計1,941,007円(国庫負担金相当額647,001円)について、返納の処置が必要であるとした。

表6  北海道における校外研修に関する聞き取り調査結果

聞き取り調査の結果 学校数 人数 回数 時間数
図書館が休館日であったため校外研修は行わなかった 5校 6人 8回 60時間
図書館等ではなく別の場所で研修等を行ったが証明できない 43校 75人 126回 946時間
実施場所等を変更し校長がそれを確認していた 22校 41人 59回 423時間
59校 119人 193回 1,429時間
(注)
学校数及び人数については、同一の教職員が複数の異なる回答をしているものがあるなどのため、学校数等を合計したものと一致しない。

 なお、3県については、検査した範囲において、同様な事態は見受けられなかった。

(イ) 北海道における校外研修の状況

 (ア)の事態は、校外研修を承認した校長において、教職員が実際に実施した研修内容を適切に把握していなかったことによると考えられたことから、北海道の21年度の長期休業の期間に行われた校外研修の状況について、実施場所や教職員から提出された研修報告書の記載内容等を調査した。
 研修の実施場所についてみたところ、図5 のとおり、自宅における研修が最も多く全体の78.0%となっており、次に図書館、教育機関等の公共施設が12.7%などとなっていた。

図5 研修の実施場所

図5研修の実施場所

 研修報告書の記載内容についてみたところ、図6 のとおり、数日分の校外研修を1枚の報告書でまとめているなど簡略化されたものが多くなっており、また、研修内容として、単に「教材研究」、「学習プリント作成」、「指導計画作成」等の研修項目を記載しているのみで、具体的な研修内容が明確ではないものが多く見受けられた。さらに、研修報告書以外の成果品(教材の写真等)の提出の状況についてみたところ、図7 のとおり、成果品はほとんど提出されておらず、当該研修の成果を客観的に評価することは困難な状況となっていた。

図6 研修報告書の記載内容

図6研修報告書の記載内容

図7 成果品の提出状況

図7成果品の提出状況

エ 外勤、出張及び職専免の取扱いが適切でなかったもの

(ア) 北海道において外勤、出張及び職専免により教育研究団体等の会計監査等の自校の研究・研修と関係しない業務を行うなどしていたもの

 北海道では、18年度に、一部の教員が、外勤により教育研究団体の庶務・会計業務を含めて当該団体の業務に従事していたことが明らかになったことなどから、管内の各市町村教育委員会に対して「教職員が教育研究団体の業務に従事する場合の服務上の取扱について」(平成19年教職第1429号)の通知を発している。そして、教育研究団体の業務を行うことが自校の研究・研修と密接に関係し校務と同等と考えられる場合は、校長は外勤や出張を教職員に命じることができるが、教育研究団体の庶務・会計業務については、教職員はその業務を勤務時間中に行うことはできないなどとした。
 上記のことから、北海道において、教職員が、外勤、出張及び職専免により参加した教育研究団体等の業務について、学校日誌、外勤簿、教育研究団体等からの開催通知等によりその内容を確認したところ、66校の112人が、18年度から21年度までの間に行った延べ148回の外勤等(計327時間)において、勤務時間中に行うことが認められていない教育研究団体等の会計監査等の業務を行うなどしている事態が見受けられた。
 北海道教育委員会は、上記の外勤等は、18年度に発出した前記の通知の取扱いに反するものなどであることから、当該時間に係る給与支給額計751,558円(国庫負担金相当額250,518円)について返納の処置が必要であるとした。

(イ) 3県における状況

 沖縄県は、県内の各校長に対し「教職員の年次有給休暇等の取扱いについて」(平成元年沖縄県教育委員会教育長通知)等の通知を発して、職専免により参加できる公的行事や研修会等の例を示すとともに、教育研究団体等の総会や理事会等については有給休暇を取得して参加することとしているが、検査したところ、19校の92人が、19年度から21年度までの間に、延べ128回(計311時間)にわたり、職専免等により教育研究団体等の総会に出席するなどしていた。このため、沖縄県は、当該時間に係る給与支給額計676,968円(国庫負担金相当額225,655円)を返納させることとした。

(2) 国庫負担金の算定対象となる主任手当の支給額の算定が誤っていたもの

 教育業務連絡指導手当(以下「主任手当」という。)は、主任等の職務の重要性に鑑み、これを給与上評価することとし、「学校教育の水準の維持向上のための義務教育諸学校の教育職員の人材確保に関する特別措置法」(昭和49年法律第2号)に基づく教育職員の給与についての優遇措置の一環として、昭和52年4月から設けられたものであり、主任等の業務に従事した教員に支給され、国庫負担金の算定対象となっている。
 北海道では、「北海道学校職員等の特殊勤務手当に関する条例」(昭和31年条例第79号)により、教務主任、学年主任及び生徒指導主事が、毎月、業務従事日数に1日当たり200円の単価を乗じて算定された主任手当の支給を受けている。
 北海道において、国庫負担金の算定対象となっている主任手当の算定が適切に行われているかについて検査したところ、表7 のとおり、有給休暇を取得していて主任等の業務に従事していない日等を業務従事日数に含めていたため、主任手当の額が過大に算定されていた事態が、平成18年度から21年度までの間に、202校、計5,071日、過大支給額計1,014,200円(国庫負担金相当額338,066円)見受けられた。また、長期休業の期間に主任等の業務に従事していた日等を業務従事日数に含めていなかったため、支給不足となっていた事態が、18年度から21年度までの間に、206校、計25,740日、支給不足額計5,148,000円(国庫負担金相当額1,715,999円)見受けられた。

表7  北海道において主任手当の支給額の算定が誤っていたもの

年度 過大支給 支給不足
学校数 日数 過大支給額 国庫負担金相当額 学校数 日数 支給不足額 国庫負担金相当額
平成18 172校 1,227日 245,400円 81,800円 184校 6,719日 1,343,800円 447,933円
19 174校 1,285日 257,000円 85,666円 187校 6,542日 1,308,400円 436,133円
20 166校 1,254日 250,800円 83,600円 179校 6,573日 1,314,600円 438,200円
21 175校 1,305日 261,000円 87,000円 178校 5,906日 1,181,200円 393,733円
202校 5,071日 1,014,200円 338,066円 206校 25,740日 5,148,000円 1,715,999円
(注)
学校数の計欄は、同一の学校が複数の年度に該当しているものがあるため、学校数を合計したものと一致しない。

 また、3県については、石川県において、北海道と同様な事態が、19年度から21年度までの間に、過大支給額計11,200円(国庫負担金相当額3,733円)、支給不足額計16,800円(国庫負担金相当額5,599円)見受けられた。

4 本院の所見

(1) 検査の状況の概要

 北海道の公立義務教育諸学校に勤務する教職員の違法な政治活動や勤務時間中の職員団体のための活動について様々な新聞報道等がなされたことを契機に北海道、札幌市両教育委員会が行った調査によると、一部の教職員が、勤務時間中に有給休暇等の所定の手続をとることなく職員団体のための活動を行っていたことなどが明らかとなった。勤務時間中における職員団体のための活動行為は、一義的には各地方公共団体の服務管理上の問題であるが、これらの事態は国庫負担金の交付額に影響を及ぼす可能性があるため、本院は、問題が明らかとなった北海道について検査を行うとともに、北海道と同様の事態が他の都府県においても見受けられることはないかについて検証するために、石川、鳥取、沖縄各県を選定して検査を行った。
 検査したところ、北海道において、教職員が、勤務時間中に有給休暇を取得することなく、市町村教育委員会や校長等との間で適法な交渉の対象とならない話合いを行っているのに、その時間の給与が支給され、実支出額として国庫負担金の算定対象となっていた事態が見受けられた。これらの事態は、当該教職員において職務専念義務の遵守に関する意識が希薄であったこと、管理者である校長において教職員に対する勤務時間管理が適切でなかったことなどによると認められる。
 また、学校日誌等の書類の記載において、職員団体の会議が授業終了後の休憩時間中に始まりその後の勤務時間に及んで行われていたものが多く見受けられたが、関係する教職員に対し聞き取り調査を行ったところ、「参加したが時間の記憶がない」などの回答が大部分となっていた。
 長期休業の期間等における勤務時間の遵守については、北海道において、始業時刻後に機械警備が解除されたり終業時刻前に機械警備が開始されたりなどしていて、教職員が始業時刻後に出勤又は終業時刻前に退勤するなどしていた事態が、長期休業の期間において多く見受けられた。これらの事態は、前記の事態と同様に、当該教職員において職務専念義務の遵守に関する意識が希薄であったこと、管理者である校長において教職員に対する勤務時間管理が適切でなかったことなどによると認められる。
 検査に当たっては、機械警備記録を確認するとともに、教職員に対し聞き取り調査を行うなどの方法により事実の確認を行ったが、「証明できるものはないが機械警備を開始した後も校内の他の場所で勤務をしていた」などの回答が大部分となっていた。
 なお、長期休業の期間に勤務時間が遵守されていない事態は、沖縄県においても見受けられた。
 長期休業の期間における校外研修については、北海道において、教職員が、図書館等において実施したとする校外研修を実際は行っていなかったり、校外研修を行った事実が確認できなかったりなどしている事態が見受けられた。これらの事態は、校外研修を承認する校長において教職員が実際に実施した研修内容を適切に把握していなかったこと、研修報告書に事実と異なる内容を記載して提出するなど一部の教職員において職務上の倫理感が欠如していたことなどによると認められる。
 外勤、出張及び職専免の取扱いについては、北海道において、勤務時間中に行うことが認められていない教育研究団体等の会計監査等の業務を行うなどしている事態が見受けられた。これらの事態は、外勤等を命じる校長において教職員が行う教育研究団体等の業務の内容を適切に把握していなかったこと、教職員において外勤等により参加できる教育研究団体等の業務に対する認識が十分でなかったことなどによると認められる。なお、職専免等の取扱いが適切でなかった事態は、沖縄県においても見受けられた。
 このほか主任手当については、北海道において、支給額の算定が誤っている事態が見受けられたほか、石川県においても同様な事態が見受けられた。

(2) 所見

 公立義務教育諸学校の教職員に支給される給与の一部が国庫負担金として国民の税金等により賄われていることから、文部科学省、北海道等において、国庫負担金の交付の適正化を図るため、以下のような措置を講ずる必要がある。

ア 北海道等において、管内の各市町村教育委員会に対して教職員の勤務時間管理に関する指導等を行うなどして公立義務教育諸学校における教職員の職務専念義務の遵守や教職員に対する勤務時間管理の適正化に努めること
イ 文部科学省において、北海道等で確認された不適切な給与支給額のうち国庫負担金相当額について速やかに国庫への返還等の処置を執ること

 本院としては、北海道等の公立義務教育諸学校に勤務する教職員の勤務時間管理の適正化に関する措置状況等に留意するとともに、文部科学省に対して国庫負担金の返還状況等について引き続き報告を求めていくこととする。