国の会計事務は、財政法(昭和22年法律第34号)、会計法(昭和22年法律第35号)、国有財産法(昭和23年法律第73号)、物品管理法(昭和31年法律第113号)、予算決算及び会計令(昭和22年勅令第165号。以下「予決令」という。)等の会計法令により、適正な執行が担保される仕組みとなっている。具体的には、上記の会計法令は、歳入徴収官、契約担当官、出納官吏、国有財産の管理を行う部局等の長、物品管理官等の会計機関を設けることを定め、これにより国の会計に係る事務・事業を遂行する際の責任の明確化が図られるなどしている。また、会計法は、政令で特例を設ける場合以外は、歳入徴収の職務と現金出納の職務、支出の職務と現金出納の職務とを相兼ねることができないなどと定めていて、職務の分担による相互牽(けん)制の機能を持たせている。さらに、会計法令は、各種の法定帳簿等の作成を義務付けて会計処理についての記録を明らかにすることとしていて、一連の会計事務の最終段階では、計算証明規則に基づき、計算証明書類を会計検査院に提出することとしている。
在外公館の会計事務は、我が国とは言語、通貨、法制度、慣習等が異なる環境の中で、会計法令に基づき適正かつ適切に行うことが求められている。そして、在外公館の会計事務には、予決令により、館長が歳入徴収の職務と現金出納の職務を特例的に兼ねることができるとされていることのほか、経費を外国で支払うことから前渡資金により支払が行われていることなどの特色がある。
外務省は、在外公館会計規程(昭和48年外務省訓令第7号)、外務省所管会計事務取扱規程(平成2年外務省訓令第4号)等により、図表1-1
のとおり、在外公館の会計機関を官職で指定している。そして、館長は、原則として、歳入徴収官、契約担当官、国有財産の管理を行う部局等の長及び物品管理官に指定されている。また、館長のうち総領事館の館長は、原則として出納官吏(収入官吏及び資金前渡官吏)にも指定されている。そして、館長の代理となる者(以下「次席職員」という。)は、原則として、館長が指定されている会計機関の代理官に指定されているほか、出納官吏(総領事館の館長が官職指定されている場合等を除く。)、契約担当官及び物品の定期検査を行う検査員にも指定されている。また、出納官吏に任命された職員の直近下位の職員(以下「出納官吏の直近下位の職員」という。)は、原則として、毎年度末に出納官吏の帳簿金庫の検査を行う検査員に指定されている。そして、会計機関に指定されている館長及び次席職員(以下、両者を合わせて「館長等」という。)は、会計検査院に計算証明書類を提出する際の証明責任者となっている。
また、これらの会計機関とは別に、館長は、報償費の取扱責任者にもなっている。
さらに、館長は、在外公館の事務を統括する責任者として、会計経理に対する指導・監督を行うこととされている。
会計機関等 | 事務の概要 | 指定官職 注(1) | |
大使館・政府代表部 | 総領事館 | ||
歳入徴収官 | 歳入徴収事務を行う責任者 | 館長 (特命全権大使、総領事等)
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契約担当官 | 収入や支払の原因となる契約を行う責任者 | ||
国有財産の管理を行う部局等の長 | 国有財産の管理を行う責任者 | ||
物品管理官 | 物品の管理を行う責任者 | ||
/ | 出納官吏 | ||
(収入官吏) | 歳入金の収納を行う責任者 | ||
(資金前渡官吏) | 支出官から前渡を受けた資金の出納保管を行う責任者 | ||
歳入徴収官の代理官 | 歳入徴収官の事務の代理を行う者 | 次席職員 (公使、参事官、一等書記官等)
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契約担当官の代理官 | 契約担当官の事務の代理を行う者 | ||
物品管理官の代理官 | 物品管理官の事務の代理を行う者 | ||
出納官吏 | / | ||
(収入官吏) | 歳入金の収納を行う責任者 | ||
(資金前渡官吏) | 支出官から前渡を受けた資金の出納保管を行う責任者 | ||
契約担当官 | 収入や支払の原因となる契約を行う責任者 | ||
歳入徴収官の代行機関 注(2) | 歳入徴収官の事務の一部について委任を受けて行う者 | ||
検査員(物品) | 物品の定期検査 | ||
検査員(帳簿金庫) 注(3) | 出納官吏の帳簿金庫の定期検査 | 出納官吏の直近下位の職員 (公使、参事官、一等書記官等)
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出納員 | 領事手数料を収入官吏に払い込むまでの出納保管の事務 | 会計担当者 (参事官、一等書記官、二等書記官等)
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出納員補助者 | 領事手数料の収納事務の補助者 | 査証・領事担当者 (領事等)
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注(1) | あらかじめ外務大臣が会計機関の官職を指定した職員のことである。なお、在外公館によっては、官職を指定された職員以外の者であっても、外務本省の承認を得て出納官吏に「特別任命」している場合がある。 |
注(2) | 総領事館の場合は、出納官吏を館長以外の職員に特別任命する場合を除き、原則として代行機関は設置されない。 |
注(3) | 「出納官吏の直近下位の職員」が定期検査時に出納官吏代理として事務を行っている場合の帳簿金庫の検査員については、館長が他の適当な職員を任命することとなっている。 |
館長は、会計機関等の事務を補助させるため、会計担当者を1人又は複数人定めている。会計担当者は、収入金、前渡資金及び報償費の出納保管、契約、国有財産管理、物品管理等の広範囲に及ぶ会計事務を行っている。また、会計担当者は、領事手数料を収入官吏に払い込むまでの出納保管の事務を行う出納員になっている。このように、会計担当者は、同時に多数の会計事務を処理している。
会計担当者が会計事務を処理する体制は、前記のとおり、在外公館の規模によって2種類あり、比較的規模の小さな在外公館の場合は、会計担当者及び通信担当者が互いに正副の担当者になってそれぞれの事務を兼務する官房班体制をとっている。また、多くの大規模公館の場合は、会計担当者だけで構成された会計班による事務の体制をとっている。
22年次の検査の結果及び所見並びに23年次のフォローアップ検査の結果は、以下のとおりである。
(ア) 在外公館の会計事務のうち、主要な事務の一つに領事手数料の収納や前渡資金の支払等を行う出納事務がある。この出納事務について、会計検査院は、平成15年度決算検査報告に「在外公館における出納事務について、内部統制等を十分機能させることなどにより、その適切及び適正な執行を図るよう是正改善の処置を要求したもの 」を掲記している。これに対し、外務省は、16年12月から19年9月にかけて是正改善の処置を講じていて、検査した51公館においては、おおむねこの講じられた処置に沿った出納事務が行われていたが、更に改善を要する点が見受けられた。
(イ) 館長は、外国政府との交渉等の外交事務を所掌するほか、在外公館の事務を統括する責任者である一方で、歳入徴収官、契約担当官、物品管理官等の会計機関等としての事務を集中して処理することとされている状況であった。
(ウ) 在外公館の会計担当者は、館長等が官職指定されている会計機関の補助者として収入金、前渡資金等の出納保管、契約、物品、国有財産管理等の会計事務を行っているほか、職員等の福利厚生・人事に関する事務、現地職員の労務管理に関する事務等の広範な事務を行っている。そして、官房班体制の33公館のうち25公館(75.8%)は、会計担当者が2人(うち1人は通信事務を正担当とする者で会計事務を兼務)となっていて、中には相互チェックが十分に機能していない在外公館が4公館あった。
(エ) 館長等に対する会計に係る正規の研修については、1時間から3時間程度しか行われておらず、その受講率についてみると、在外公館赴任前研修が館長で51.0%、次席職員で23.5%、在外公館次席研修が次席職員で17.6%にすぎなかった。また、事務処理体制の点検、在外経理の改善等に関する議論等を目的として開催している出納官吏会議に出席したことがある出納官吏(館長等)は13人(25.5%)にすぎなかった。会計担当者に対する研修である官房要員事務研修及び在外赴任前特別研修については、両研修の開始以降に赴任した会計担当者の全員が受講していた。館長等及び会計担当者について、研修の受講実績が十分かどうかを判断するためには、個人ごとの受講履歴が一元的に管理されている必要があるが、そのような管理は行われていなかった。
(オ) 在外公館の計算証明書類の提出については、在外公館と外務本省との連絡調整、書類のやり取りなどに一定の日数を要することなどから、提出期限を延長する特例が認められているが、21年度分について、提出期限経過後3か月以上遅滞したものがある在外公館が、歳入徴収額計算書で1公館、前渡資金出納計算書で10公館あった。
(カ) 外務省は、在外公館の会計事務を支援するため、特定の拠点となる在外公館に会計担当者として豊富な知識と経験を有する者を配置して、一定数の他の在外公館の会計担当者に指導、助言等を行う会計広域担当官制度を設けている。会計広域担当官等が出張して指導、助言等を行うことは、当該在外公館における会計経理の過誤や不正行為の防止等に効果があると考えられるが、会計広域担当官等の出張による指導、助言等の対象となる33公館のうち、これを受けていない在外公館が18公館(54.5%)あった。
(キ) 物品管理事務をより効率的に執行するため、21年8月に運用を開始した新しい物品管理システムについては、できる限り早期に対象となる物品のデータ入力を完了させることが望ましいが、重要物品及び美術品を除き、物品のデータ入力作業が30公館で完了していなかった。
(ア) 在外公館の事務を統括する責任者として、会計経理に対する指導・監督を行う館長に会計機関等の事務が集中していて、自ら実務を処理することとされていることから、在外公館の定員、職務内容の現状を踏まえて、次席職員等に会計機関等の実務を処理させることなどを含めた事務処理体制の改善により、内部統制が十分機能するよう図る。
(イ) 会計担当者は会計事務等の広範な事務を処理しており、会計担当者が正副2人の在外公館では、会計副担当者が会計事務に従事しておらず、相互チェックが十分に機能していない事態も見受けられたことから、定期・不定期の検査等を通じて内部牽(けん)制等が十分機能するようにする。
(ウ) 会計に係る研修の受講率の向上を図るとともに、個人ごとの受講履歴を一元的に管理して、未受講者に受講を勧めることにする。
(エ) 計算証明書類の提出の遅滞については、在外公館の事務処理の機械化、電子化等を通じて、外務本省との間の連絡調整、書類のやり取りなどに要する時間を短縮して、提出期限を遵守する。
(オ) 会計広域担当官等の出張による指導、助言等の機会を増やすとともに、指導がより効果的なものとなるようにする。
(カ) 会計事務の負担軽減等を図るため、在外経理に関するシステムを整備することは有効である。特に、新しい物品管理システムについては、早期にすべての物品のデータ入力を完了して、十分な活用を図る。
以上のようにして、在外公館における会計事務の体制を整備し、その機能が十分に発揮できるようにする。
上記の所見について、外務省の改善の状況を検査した結果は、以下のとおりである。
(ア) 外務省は、在外公館の事務処理体制について、職務内容等の現状を勘案して会計機関等の事務を次席職員に可能な範囲で移行して、内部統制が十分機能するよう検討している。
(イ) 外務省は、会計担当者に対する内部牽(けん)制等が十分機能するように、会計担当者の充実を図るなどの体制整備を引き続き検討するとしている。
(ウ) 外務省は、会計に係る研修について、主な研修の実施時期を、対象となる職員の発令時期に合わせて設定したり、人事関係部署において個人ごとの研修受講履歴を一元的に管理したりなどして、未受講者の解消を図る処置を講じた。
(エ) 22年度の計算証明書類の提出状況についてみると、在外公館から外務本省に提出後、外務本省において内容の確認等に時間を要していることなどにより、全在外公館(211公館。以下同じ。)のうち、約1割の在外公館の歳入徴収額計算書及びほとんどの在外公館の前渡資金出納計算書の会計検査院への提出が提出期限経過後3か月以上遅滞していた。
外務省は、在外公館の計算証明書類の提出が遅滞している主な原因として、上記のとおり、外務本省における内容の確認等に時間を要していることが挙げられることから、23年1月に外務本省が内容の確認等を行う際に用いている検査要領の統一、明確化や検査項目の絞込みなどを行い、計算証明書類の早期提出に向けた改善策を講じたとしている。
(オ) 外務省は、会計広域担当官の活動について、22年11月に会計広域担当官を配置している20公館に対して、制度の機動的な運用を行い積極的に活動することを指示する通知を発して、指導がより効果的なものとなるよう処置を講じた。22年度における出張による指導、助言の回数は22年4月から10月までは23回、同年11月から23年3月までは31回となっており、同通知を発した前後で、1か月当たりの平均出張回数が3.3回から6.2回に増加していた。
(カ) 外務省は、物品管理システムへの移行作業について、22年10月に全在外公館に対して、物品管理システムへのデータ入力が完了していない場合には、同システムへのデータ入力を早急に行うよう通知を発したが、紙媒体の帳簿における記載内容の不備等により確認作業に時間を要しているとして、23年6月末現在、全在外公館のうち、約3割の在外公館において物品管理システムへのデータ入力が完了していなかった。
会計事務の体制の状況については、以下の事態があった。
会計事務の体制について検査した結果、スイス大使館において、会計担当者に会計経理を適正に行う認識が欠如していたこと、出納官吏に公金の取扱いに関する認識が十分なかったこと、館長及び出納官吏のそれぞれの職責に応じた会計経理に対する指導・監督が十分でなかったことなどのため、以下のとおり、適正又は適切でない事態が見受けられた。
(ア) 歳出の会計年度所属区分
17年度から22年度までの前渡資金の支払に当たり、毎年度一部の科目について、一時的に科目残高を超えて支払を行っていた。また、前年度の予算で支払うべきものを現年度の予算から支払っていたり、翌年度の予算から支払うべきものを現年度の予算から支払っていたりしており、このような事態が計198件、2923万余円あった。
(イ) 徴収の意思決定
歳入金について、17年10月から22年9月までの間の領事手数料の徴収決定に当たり、歳入徴収官又は歳入徴収官の代行機関(収入官吏)が自ら行うべき徴収の意思決定が当該者により行われておらず、16年10月から22年9月まで会計担当者であったAが徴収決議書の歳入徴収官等の決裁欄に館長の印鑑を押印していた(徴収決定件数計1,134件)。
(ウ) 支払の決定及び振替指示書への署名
前渡資金について、支払決議書及び振替指示書の作成に当たり、資金前渡官吏が自ら行うべき支払の決定及び振替指示書への署名が当該者により行われておらず、会計担当者Aが支払決議書の資金前渡官吏決裁欄及び振替指示書に署名していた(21年1月から同年6月まで資金前渡官吏を任ぜられていた者の在任期間中の支払決定件数計310件)。また、債権者に対する支払に当たって、支払決議書の決裁日より前に債権者の口座に入金しているものが、17年度から22年度までの間で、証拠書類等に基づき会計検査院が特定できた範囲で計195件あった。
(エ) 実際の出納と帳簿への登記
17年度から22年度までの間に、前渡資金による支払の決定をしているのに報償費を取り扱う銀行口座(以下「報償費口座」という。)から支払ったり、報償費口座から支払うものを、前渡資金を取り扱う銀行口座(以下「前渡資金口座」という。)や前渡資金の手許保管現金から支払ったりなどしている事態が計130件あり、実際の出納と帳簿への登記が相違していた。
そして、口座間では、原則として資金が移動しないにもかかわらず、上記の事態を解消するなどのために口座間で資金が移動していた。
(オ) 出納官吏による確認等
前渡資金口座の取引明細書と前渡資金現金出納簿の記載が一致していないなど、出納官吏の帳簿類の確認や指定された検査員が行う帳簿金庫検査が適切に行われたとは認められない状況となっていた。また、出納官吏等が債務負担の状況を十分に把握していなかったため、(ア)に記述したとおり、科目残高を超える支払が継続していた。
上記のうち(ウ)及び(オ)の事態については、19年12月に外務本省が実施した査察において同様の指摘が行われていたが、スイス大使館は適切に改善したとする報告を外務本省に行いながら改善していなかった。
在外公館の会計経理において、歳入徴収官、資金前渡官吏等が自ら行うべき事務が当該者により行われていなかったり、会計法令等に従った会計事務の処理が行われていなかったりしていた事態については、会計検査院は、平成15年度決算検査報告に「在外公館における出納事務について、内部統制等を十分機能させることなどにより、その適切及び適正な執行を図るよう是正改善の処置を要求したもの
」を掲記している。
そして、この処置要求の結果、外務省は、是正改善の処置を講じていたが、スイス大使館では、この処置が遵守されていなかったため、不適正な会計処理により前渡資金を支払うなどの誤った会計経理が継続して行われていた。
23年次に検査した40公館のうちスイス大使館を除く39公館においては、おおむね前記の外務省が講じた処置に沿った出納事務が行われていた。