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  • 国会からの検査要請事項に関する報告(検査要請)|
  • 会計検査院法第30条の3の規定に基づく報告書|
  • 平成23年10月

施設及び物品の管理等の状況


4 施設及び物品の管理等の状況

(1) 施設及び物品の管理の概要

ア 国有財産等の管理の概要

(ア) 在外公館が管理する国有財産及びリース権

 22年度末現在、全在外公館のうち126公館は、国有財産法に基づき、事務所、公邸等の用に供するための土地、建物等を国有財産として管理しており、それらの国有財産台帳価格は、図表4-1 のとおり、計1670億5013万余円に上っている。また、34公館(国有財産を管理している26公館を含む。)は、土地、建物等のリース権(注4-1) を国有財産に準じて管理しており、それらの台帳価格は計127億5093万余円に上っている(以下、国有財産及びリース権を合わせて「国有財産等」という。)。

 リース権  土地所有が認められていない国等における土地、建物等の使用に係る権利


図表4-1
 在外公館が管理する国有財産等の状況(平成22年度末現在)
(単位:千円)

区分 国有財産 リース権
行政財産 普通財産
土地 28,694,068 567,614 29,261,683 8,633,369
立木竹 326,641 522 327,164 129
建物 78,775,118 1,364,880 80,139,999 3,168,165
工作物 56,336,211 985,078 57,321,290 949,267
164,132,040 2,918,097 167,050,138 12,750,931

 国有財産は、国有財産法により、国の事務、事業又はその職員の住居の用に供し、又は供するものと決定したものなど、国の行政の用に供するために所有する行政財産と、行政財産以外の普通財産とに分類され、このうち行政財産は、各省各庁の長が管理することとされている。また、外務省は、上記のとおり、土地、建物等の行政財産を管理するとともに行政の用に供するために取得したリース権を管理している。さらに、外国に所在する普通財産は、財務省の出先機関が外国に設けられていないなど財務大臣に引き継ぐことが適当ではない財産とされていることなどから、外務省が、普通財産及び用途廃止した土地、建物等に係るリース権(以下「普通財産等」という。)を処分するまでの間管理している。
 外務省は、管理する国有財産の取扱いについて、外務省所管国有財産取扱規程(昭和28年外務省訓令第1号)を定めており、これにより、国有財産に関する事務の統轄については外務省大臣官房会計課長が行うこととし、各在外公館の国有財産の管理及び処分に係る事務については館長が分掌することとしている。

(イ) 在外公館が管理する借上施設

 22年度末現在、全在外公館のうち171公館(国有財産等を管理している94公館を含む。)は、事務所、公邸等の用に供するために土地、建物等を借り上げており、これらの借上施設の借料は計117億2395万余円(22年度)に上っている。

イ 物品の管理の概要

(ア) 国における物品管理の概要

 国の物品は、その適正かつ効率的な供用その他良好な管理を図るため、物品管理法、物品管理法施行令(昭和31年政令第339号)等により、物品管理官が管理事務を行うこととされている。
 物品管理官は、物品管理簿を備えて、その管理する物品の分類、品目ごとに、物品の異動数量、現在高その他物品の異動に関する事項及び管理上必要な事項を記録することとされており、物品管理法施行令等で定める取得価格又は見積価格が50万円以上の機械及び器具(以下、これらの物品を「重要物品」という。)は、その価格も記録しなければならないこととされている。
 各省各庁の長は、重要物品について、毎会計年度末の物品管理簿の内容に基づいて、「物品増減及び現在額報告書」(以下「物品報告書」という。)を作成することとなっており、この物品報告書に基づいた物品の現在額等は内閣から国会に報告されている。
 なお、国における物品管理の一層の適正化を図るため、物品管理法施行令の一部を改正する政令(平成22年政令第224号)等により、取得価格又は見積価格が300万円以上の美術品を重要物品として取り扱うこととなり、22年度の物品報告書から記載されることとなった。ただし、物品管理法施行規則の一部を改正する省令(平成22年財務省令第54号)により、見積価格の算定が必要な美術品のうち、在外公館の美術品のように国外において所有しているなど直ちに見積価格の算定ができないやむを得ない事情があるものについては、25年度の末日までに見積価格を算定し、物品管理簿への記録を終えるものとされている。

(イ) 在外公館における物品管理の概要

 外務省が管理する物品は、外務省所管物品管理事務取扱規程(昭和33年外務省訓令第9号)により、在外公館では物品管理官である館長が物品の取得、保管、供用及び処分に関する事務を包括して取り扱うこととされている。
 外務省の物品は、図表4-2 のとおり、重要物品、備品類、消耗品類及び図書類に分類されている。

図表4-2
 外務省の物品の分類

分類 説明
重要物品 物品管理法施行令第43条第1項に規定する物品(取得価格又は見積価格が50万円以上の機械及び器具並びに取得価格又は見積価格が300万円以上の美術品)
備品類 耐久性のある物品で使用により直ちに消耗することなく、かつ、通常の状態においてその性質又は形状を失わず長期の使用に耐える物品。ただし、1個の取得価格が3万円未満のものを除く。
消耗品類 使用によって消耗し、通常の保管方法又は使用によりその性質又は形状を失い長期の使用に耐えない物品及び反復使用に耐えるが価格が3万円未満又は破損しやすい物品
図書類 備品扱図書 長期にわたり使用価値を有し保存の必要のある図書類。ただし、1冊の取得価格が3万円未満のものを除く。
消耗品扱図書 短期間に使用価値を喪失し保存の必要のない図書類及び価格が比較的少額な図書類

 そして、重要物品、備品類及び備品扱図書(以下、備品類と備品扱図書を合わせて「一般物品」という。)は、物品管理簿に品目ごとの現在高、増減数等を記録しなければならないこととされている。また、鑑賞のための掲示を主目的とする芸術性を備えた絵画、彫刻、書、陶磁器等の美術品については、個々にその写真を貼付して題名、作者名、購入年月日等を記載した美術品写真台帳を整備することとしている。
 前記のとおり、外務大臣は、外務省所管に係る重要物品について、物品報告書を作成することとなっている。そのため、在外公館は、毎会計年度末の重要物品の物品管理簿に基づいて物品報告書作成のための資料を外務本省に提出している。その資料によると、全在外公館における重要物品の数量及び価格は、22年度末現在で計7,138個、164億9824万余円となっている。

(2) フォローアップ検査

 22年次の検査の結果及び所見並びに23年次のフォローアップ検査の結果は、以下のとおりである。

ア 22年次の検査の結果

(ア) 在外公館が管理している会議室等の事務所の施設及び食堂、プール等の公邸の施設は、多額の経費を使用して建設したり借り上げたりしているものであることから可能な限り有効に活用する必要があるのに、長期にわたって利用されていなかったり、利用率が低くなっていたりしていて、利用率の向上等に向けた対応が十分に行われていなかった。また、ドイツ、イスラエル両大使館は、利用が低調であったのに高額な料金を払ってホテルの部屋を執務室として借り続けていた。

(イ) ロシア大使館は、利用していない旧事務所を2年間にわたって賃借していたが、ロシア当局との交渉が難航して時間を要したためその賃借を続けざるを得なかったものと認められる。しかし、現在賃借している土地の範囲が明確にされておらず、塀等による物理的な区分けもなされていない。また、ロシア当局が管理している旧事務所の光熱水費を大使公邸と一体のものとして支払っていた。

(ウ) 長期間利用されていない行政財産や用途廃止したが処分されないままとなっている土地、建物等の普通財産等を管理している在外公館が11公館あった。

(エ) 物品を物品管理簿に適切に記録していなかった在外公館が9公館、美術品を定量基準を上回って保有しているため保有点数の20%以上を倉庫等に保管していた在外公館が4公館あった。また、一部の贈呈品は、長期にわたり払い出されることなく保有されていたため、贈呈に適さないものになっていた。

(オ) 会食、レセプション、贈呈等に使用するワイン等の酒類については、不要不急のものを購入せず過去の払出実績を考慮した適正な本数の保有に努める必要があるのに、年間の払出本数に対して5倍以上も保有していた在外公館が3公館、ワインカーブで保管していたものの、使用できない状態になっていたとして廃棄処分するなどしていた在外公館が4公館あった。

(カ) 外務本省及び20公館に設置されている危機管理用テレビ会議システムは、多額の経費を投じて購入するなどしたものであるが、検査した51公館のうち同システムを設置している15公館では、危機管理目的での使用実績はなく、危機管理目的以外でも利用は低調であった。

(キ) 在外公館は、人道上の理由等やむを得ない場合を除き公用携帯電話を私用で使用することを禁止しているが、私用電話料金は自己負担していたものの、多くの職員が公用携帯電話を私用で使用していた。

イ 22年次の検査の結果に対する所見

(ア) 在外公館の施設で長期にわたって利用していなかったり、利用率が低くなったりしている会議室等の事務所の施設や食堂等の公邸の施設等については、より一層の有効活用を図るとともに、今後も利用の見込みがないものは、維持管理費用等を徹底して抑制し、借り上げているものは早期に借上げを取りやめることを検討する。

(イ) 長期間利用しておらず今後も利用する見込みのない行政財産について早期に用途廃止することを検討するとともに、用途廃止した土地、建物等の普通財産等についてはより積極的に不動産仲介業者等に処分を委託するなど、これらの国有財産等について早期処分に向けた措置を講ずる。

(ウ) 在外公館が管理している物品については、物品管理簿等の帳簿に適切に記録し、美術品や贈呈品が過剰となっている場合は他の在外公館へ管理換する。危機管理用テレビ会議システムについては、会計実地検査時の指摘を踏まえて執ることとした利活用のための措置を確実に実施する。また、職員等に貸し出している公用携帯電話については、私用での使用が禁止されていることを在外公館へ周知徹底する。

(エ) 在庫が過剰となっている酒類については、他の在外公館へ管理換したり、民間業者に売却したり、新規の購入を抑制したりするなど、会計実地検査時の指摘により執ることとした措置を確実に実施する。

 以上のようにして、在外公館の施設の借上げに係る費用を経済的なものとするとともに、必要のない国有財産等の処分の促進を図り、また、物品の効率的な使用、適切な管理等を行う。

ウ 23年次のフォローアップ検査の結果

 上記の所見について、外務省の改善の状況を検査した結果は、以下のとおりである。

(ア) 外務省は、長期にわたって利用していない在外公館の施設について、外交活動に活用するなどしてより一層の有効利用を図るとともに、今後も利用の見込みがない場合は、例えば、プールを非常用水槽として整備することなどの方策を講ずるよう、22年12月に通知を発した。

(イ) 外務省は、会計検査院が22年10月に会計検査院法第36条の規定により意見を表示した「在外公館が管理する国有財産等の処分について」 の趣旨に沿い、長期間利用されておらず今後も利用する見込みのない3公館が管理する3件の行政財産について、用途廃止後売却するとの方針を決定し、用途廃止の手続を行った。また、用途廃止したが処分されていない8公館が管理する13件の普通財産等については、23年3月に国有財産等の売払手続に関するマニュアルを改正することなどにより、これまで不動産仲介業者等に委託していなかった在外公館も不動産仲介業者等に処分を委託するなどして、より速やかに売却手続を進めるようにした。
 上記の意見表示において指摘した普通財産等のうち、5公館が管理する5件については、以下のとおり売却が完了した。

a ナッシュビル総領事館は、管理していた旧ニューオリンズ総領事公邸の普通財産(国有財産台帳価格9415万余円)について、22年8月に不動産仲介業者に委託して購入希望者を募集したところ、購入希望者が現れ、22年10月に5160万余円で売却した。

b マレーシア大使館は、管理していた旧職員宿舎の普通財産(同6718万余円)について、19年10月から不動産仲介業者に委託して購入希望者を募集したところ、購入希望者が現れ、23年2月に6億5820万余円で売却した。

c フィンランド大使館は、管理していた旧事務所の普通財産(同1億4287万余円)について、21年12月から不動産仲介業者に委託して購入希望者を募集したところ、購入希望者が現れ、23年5月に4億0800万円で売却した。

d タイ大使館は、管理していた旧事務所の普通財産(同6億5898万余円)について、22年9月に不動産仲介業者に委託して購入希望者を募集したところ、購入希望者が現れ、23年6月に50億2359万円で売却した。

e セネガル大使館は、管理していた旧職員宿舎の普通財産(同1660万余円)について、22年11月に公証人に委託して購入希望者を募集したところ、購入希望者が現れ、23年8月に8514万円で売却した。

(ウ) 外務省は、物品の管理について以下の処置を講じた。

a 在外公館に送付したリース物品について、外務本省の関係部局に対して22年9月に通知を発し、在外公館への管理換を行った。

b 贈呈品について、新規購入の抑制及び現有品の活用を行うよう22年11月に通知を発した。このため、22年次に検査した51公館の贈呈品の在庫数をみると、22年度末では22年報告時点の約半数に減少していた。

c 美術品について、在外公館が美術品を保有する際の目安としている定量基準の120%以上の美術品を保有している在外公館から管理換候補作品を外務本省に報告させ、外務本省が主導して新設公館などへの管理換を行う旨の通知を23年1月に発した。

d 危機管理用テレビ会議システムについて、22年7月の通知を受けて、同システムを国際機関との協議で使用するなど危機管理目的以外でも活用したため、年間の使用回数が53回(21年度)から67回(22年度)に増加した。このうち、危機管理用としては、タイ大使館で2回、パキスタン大使館で1回使用した。

e 公用携帯電話について、私用での使用が禁止されていることを出納官吏会議、会計担当者会議及び研修を通じて職員に周知徹底した。

(エ) 検査した40公館の21、22両年度における酒類の受払の状況は、図表4-3 のとおりであり、22年度では、年間の払出本数に対する年度末の保有本数の割合は約80%であった。

図表4-3
 酒類の受払の状況(平成21、22両年度)
(単位:本、%)

区分 20年度末現在 21年度 22年度

(A)

(B)
 
(A)

(B)
 
払に対する割合
(B/A)
払に対する割合
(B/A)
ワイン 4,676 4,965 5,514 4,127 74.8 4,613 4,510 4,230 93.8
その他 5,681 6,487 6,562 5,606 85.4 6,358 6,864 5,100 74.3
10,357 11,452 12,076 9,733 80.6 10,971 11,374 9,330 82.0

 また、外務省は、22年4月に、在庫が過剰になっていた在外公館のワインを今後3年程度で適正な在庫量とするため、他の在外公館へ管理換するなどの処置を行うこととした。21年度の払出本数の5倍以上の残高を当該年度末で保有していた3公館について、それぞれのワインの保有本数を21年度末と22年度末で比較すると、経済協力開発機構代表部は7,896本から5,426本に、在ジュネーブ国際機関代表部は6,003本から4,799本に、軍縮会議代表部は1,436本から920本にそれぞれ管理換等により減少していた。

(3) 23年次の検査の結果

 施設及び物品の管理等の状況については、以下の事態があった。

ア 施設の管理状況

 国有財産法等により、国有財産を管理する館長は、部局等の長として、国有財産の分類及び種類に従い、その台帳を備え、各在外公館に属する国有財産につき、取得、所管換、処分その他の理由に基づく変動があった場合においては、直ちに台帳に記載し、又は記録しなければならないとされている。
 外務大臣は、その所管に属する国有財産について、「国有財産増減及び現在額報告書」を作成することとなっており、同報告書に基づいた国有財産の現在額等は内閣から国会に報告されている。
 パキスタン大使館は、21年8月から22年3月までの間に、既存の屋根付駐車場5台分(国有財産台帳価格334万余円)のうち4台分を取り壊して、そこに同大使館事務所緊急宿泊施設1棟を建設していた。しかし、同大使館は、上記の宿泊施設を国有財産台帳に登録する際に、同駐車場を取り壊した分として267万余円(既存の駐車場の国有財産台帳価格の5分の4相当額)を国有財産台帳価格から減額する必要があったのに、これを行っていなかった。
 このため、21年度の国有財産増減及び現在額報告書の記載が正確性を欠いたものとなっていた。

イ 物品の管理状況

(ア) 物品の物品管理簿への記録について

 外務省は、外務省で一体として整備する物品で、外務本省で購入した方が在外公館で購入するより経済的であるものについては、外務本省で一括して購入し、在外公館に送付している(以下、このことを「購送」という。)。購送を行う物品は、在外公館に送付するまでの間、外務本省において物品管理簿に記録して適切に管理される必要がある。そして、購送に当たっては、外務本省の調達を依頼した部署が、外務本省の物品管理官に外務本省から在外公館への管理換の伺いを行い、これを受けた外務本省の物品管理官が管理換を在外公館の物品管理官に通知することとなっており、在外公館は、この管理換の通知を基に在外公館の物品管理簿に記録して管理することになる。

a 重要物品の物品管理簿への記録について

 検査した40公館のうち5公館(注4-2) では、重要物品である通信機器等の購送に当たって、外務本省内で当該機器に係る管理換の手続が行われていなかったため、外務本省の物品管理簿に記録されたままとなっているものが計5個、451万余円あった。

<事例4-1>

 外務本省は、平成22年3月に通信機器を99万余円で購入して、22年6月にキューバ大使館に送付した。しかし、外務本省の調達を依頼した部署が、外務本省の物品管理官に同大使館への管理換の伺いを行っていなかったため、外務本省の物品管理官は管理換について同大使館の物品管理官に通知しておらず、22年度末現在で当該機器は、外務本省の物品管理簿に記録されたままとなっていた。

 5公館  フィリピン、キューバ、ポーランド各大使館、デュッセルドルフ、ユジノサハリンスク両総領事館

b 一般物品の物品管理簿への記録について

 検査した40公館のうち5公館(注4-3) では、外務本省が物品の購入時に物品管理簿に記録しておらず、外務本省の物品管理官が在外公館の物品管理官に当該物品の管理換を通知していない一般物品が計140個、1827万余円あった。この中には、16年度に購入したLAN機器等、長期間にわたって物品管理簿に記録されていない一般物品も含まれていた。また、検査した40公館のうち12公館(注4-4) では、一般物品である通信機器等の購送に当たって、外務本省内で当該機器に係る管理換の手続が行われていなかっため、外務本省の物品管理簿に記録されたままとなっているものが計102個、2985万余円あった。

(注4-3)
 5公館  重慶、デンバー、ハガッニャ、ヒューストン、デュッセルドルフ各総領事館
(注4-4)
 12公館  パラオ、カナダ、キューバ、トリニダード・トバゴ、スイス各大使館、釜山、広州、重慶、瀋陽、ハガッニャ、マイアミ、ストラスブール各総領事館

(イ) 美術品の管理について

a 美術品として管理する必要がある絵画等について

 外務省は、美術品写真台帳に収録する美術品類についてガイドラインを定めており、「絵画、彫刻、版画、書、陶磁器、漆器類であって鑑賞のための展示を主目的とした芸術性を備えた単一の作品」は美術品として、個々にその写真を貼付して題名、作者名、購入年月日等を記載した美術品写真台帳を整備することとしている。これは、美術品については、その美術的価値に起因した盗難や亡失のおそれがあるとともに、将来価値が上昇して鑑定を依頼する可能性があり、題名、作者名、購入年月日等を個別に記録して管理しておく必要があるためである。
 また、前記のとおり、取得価格又は見積価格が300万円以上の美術品は、重要物品として取り扱うこととなり、物品報告書に記載されることとなった。現時点で取得価格又は見積価格が300万円未満の美術品についても、将来価値が著しく変動して時価額が300万円以上と見込まれる状況になった場合は見積価格を算定することとなっているため、在外公館で管理している美術品の現況は、美術品写真台帳等により常に適切に把握する必要がある。
 しかし、検査した40公館のうち5公館(注4-5) は、他の在外公館では美術品として管理している文化功労者等の作品を美術品として管理していなかった。

<事例4-2>

 マレーシア大使館は、B氏の木版画を美術品として管理しておらず、一般物品「装飾造作用具類16点」に含めて管理していた。しかし、B氏は文化功労者であり、また、他の在外公館ではB氏の木版画を美術品としていることから、美術品として個別に管理する必要がある。

 5公館  パキスタン、マレーシア、ミャンマー、コロンビア、ルクセンブルク各大使館

b 他団体に貸し出された美術品の管理について

 物品の無償貸付及び譲与等に関する法律(昭和22年法律第229号)等により、国が所有する物品を国以外の者に貸し付ける際には物品の借受人から借受けの品名及び数量等を記載した借受書を提出させ、貸付けの目的以外に使用した場合は、貸付物品を速やかに返還するなどの条件を付して貸し付けなければならないとされている。
 しかし、デュッセルドルフ総領事館の絵画、置物等の美術品14点は、独立行政法人国際交流基金が財団法人国際文化振興会からケルン日本文化会館の運営を引き継いだ昭和47年以前から同文化会館に設置されているが、同総領事館及び外務本省は、これらの美術品を平成22年11月まで物品として管理しておらず、同年12月になって、借受書を同文化会館から提出させていた。そして、同総領事館が同月に当該美術品の現状を確認したところ、彫刻1点を除き絵画等13点は倉庫に保管されており、活用されていなかった。
 外務本省等において、同様の事態がほかにもないか検査したところ、イタリア大使館の絵画、置物等の美術品47点は、同基金が同振興会からローマ日本文化会館の運営を引き継いだ昭和47年以前から同文化会館に設置されているが、同大使館及び外務本省は、借受書を同文化会館から提出させておらず、これらの美術品を平成22年9月まで物品として管理していなかった。なお、会計検査院が同基金の本部を通じて、23年6月に当該美術品の現状を確認したところ、47点のうち、13点は倉庫に保管された状況となっていた。

(ウ) 文化啓発品の利用及び広報啓発品の配布について

 在外公館は、海外における日本文化への理解の増進等のために、日本の文化や技術を紹介するための餅つきセット、ハイテクロボット等の文化啓発品(取得価格21年度計1249万余円、同22年度計1314万余円)や日本への観光を誘致するため、イベント等で配布するノート、折り紙セット等の広報啓発品(同21年度計1260万余円、同22年度計186万余円)の購送を外務本省から受けている。外務本省は、在外公館の要望個数等を調査後査定した上で各在外公館への購送個数を決めている。
 検査した40公館のうち3公館(注4-6) は、展示用又は貸出用の文化啓発品(計4個、取得価格49万余円)を購送を受けてから1年以上、全く利用していなかったり、一度しか利用していなかったりしていた。

<事例4-3>

 ペルー大使館は、平成20年1月に外務本省から購送を受けた2足走行ロボット(取得価格10万余円)を、組立てに時間を要するなどのため、23年1月の会計実地検査時点までの3年間、全く利用していなかった。

 また、検査した40公館のうち4公館(注4-7) は、会計実地検査時点で購送を受けてから1年以上経過した腕時計、折り紙セット等の広報啓発品(計2,943個、取得価格165万余円)を払い出すことなく保有していた。

(注4-6)
 3公館  ペルー、アイルランド、スウェーデン各大使館
(注4-7)
 4公館  マレーシア、カナダ、コロンビア、スイス各大使館

(エ) 広報資料の配布について

 外務省は、海外における対日理解の増進、親日感の醸成のために、委託制作した「にっぽん」等の広報資料を各在外公館に購送している。購送部数は、前年度に購送した部数を基に、各在外公館から随時寄せられる要望を反映させて算定している。そして、各在外公館は、上記の広報資料を所在国の政府関係者、イベントの参加者等に配布している。
 また、各在外公館は、独自に広報資料を編集、印刷して、所在国の政府関係者、イベントの参加者等に配布している。
 検査した40公館のうち4公館(注4-8) は、会計実地検査時点で取得から1年以上が経過した広報資料について、その購送部数又は印刷部数の20%以上を配布することなく保有していた(計6,178部、調達価格82万余円)。

<事例4-4>

 広州総領事館は、広報文化活動の目的で外務本省から購送された各種広報資料を所在国の政府関係者やイベントの参加者等に配布している。この配布状況について検査したところ、「にっぽん」等の広報資料について、購送されてから1年以上経過しているにもかかわらず、購送部数の20%以上を配布することなく同総領事館で保有していた(計4,250部、調達価格52万余円)。

 4公館  コロンビア大使館、広州、瀋陽、デュッセルドルフ各総領事館