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  • 国会及び内閣に対する報告(随時報告)|
  • 会計検査院法第30条の2の規定に基づく報告書|
  • 平成23年10月

緊急人材育成支援事業の実施状況を踏まえ、その制度を基に創設される求職者支援制度において職業訓練受講給付金が適正に支給されるよう、また、事業効果を適切に把握し十分に発現される体制となるよう厚生労働大臣に対して意見を表示したもの


 緊急人材育成支援事業の実施状況を踏まえ、その制度を基に創設される求職者支援制度において職業訓練受講給付金が適正に支給されるよう、また、事業効果を適切に把握し十分に発現される体制となるよう厚生労働大臣に対して意見を表示したもの

会計名及び科目 一般会計 (組織)厚生労働本省 (項)職業能力開発強化費
部局等 厚生労働本省
交付の根拠 予算補助
事業主体 中央職業能力開発協会
緊急人材育成支援事業の概要 雇用保険を受給できない者の職業訓練の機会を拡充するため、職業訓練、訓練・生活支援給付等を実施するもの
緊急人材育成支援事業に係る基金造成額 3870億5061万余円(平成21、22両年度)
上記のうち22年度までに基金から支出された額 1357億3833万円(背景金額)

 【意見を表示したものの全文】

   緊急人材育成支援事業の実施状況及び求職者支援制度について

(平成23年9月26日付け 厚生労働大臣宛て)

 標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり意見を表示する。

1 制度の概要

(1) 緊急人材育成・就職支援基金事業の概要

 貴省は、平成21年度第1次補正予算が平成21年5月29日に成立したことを受けて、平成21年度緊急人材育成・就職支援事業臨時特例交付金交付要綱(平成21年厚生労働省発能第0605001号)に基づき、同年6月に、中央職業能力開発協会(以下「協会」という。)に対して緊急人材育成・就職支援事業臨時特例交付金7000億円を交付している。
 協会は、この交付金を財源として緊急人材育成・就職支援基金(以下「基金」という。)を造成し、基金を活用して緊急人材育成・就職支援基金事業(以下「基金事業」という。)を実施している。基金事業は、深刻な経済危機の中で、製造業を中心とした雇用調整により離職を余儀なくされた非正規労働者等の失業期間が長期化していくことが懸念されることから、雇用保険受給資格のない者や雇用保険受給終了者等の長期失業者に対するセーフティネットを作り、公共職業安定所(以下「安定所」という。)が中心となって職業訓練、再就職及び生活への支援を総合的に推進することを目的としている。
 そして、22年度までの基金の造成額は、前記の交付金交付後、基金の一部が国庫返納されたり交付金が追加交付されたりしたことにより5581億4662万余円となっている。

(2) 緊急人材育成支援事業の概要

 基金事業のうち、緊急人材育成支援事業は、雇用保険を受給できない者の職業訓練の機会を拡充するため、図1のとおり、職業訓練(以下、緊急人材育成支援事業として行うこの職業訓練を「基金訓練」という。)、訓練・生活支援給付等を実施するものである。

 図1 緊急人材育成支援事業の概要図

図1緊急人材育成支援事業の概要図

 そして、前記の基金造成額5581億4662万余円のうち、表1のとおり、緊急人材育成支援事業に係る造成額は3870億5061万余円となっており、このうち1357億3833万余円が21、22両年度に基金から支出されている。

表1 基金の造成額の推移及び内訳
年月日(注) 平成21年5月29日 平成21年12月15日 平成22年9月24日 平成22年11月26日
  基金の造成額
(千円)
700,000,000 346,646,627 358,646,627 558,146,627
うち緊急人材育成支援事業に係る造成額
(千円)
478,439,000 288,043,056 288,043,056 387,050,619
事由 21年度第1次補正予算成立により、事業開始。 21年度第2次補正予算成立により、3533億余円を国庫返納。 閣議決定により、120億円を積み増し。 22年度補正予算成立により、1995億円を積み増し。
(注)
 本欄には予算が成立した日等を記載しており、実際に交付金の交付等がなされた年月日とは一致しない。

ア 基金訓練の概要

 基金訓練の対象者は、訓練開始予定の日において、安定所に求職の申込みを行っている求職者であること、現在有する技能、知識、職業経験等と労働市場の状況からみて受講が適切であると判断され、公共職業安定所長(以下「安定所長」という。)から受講勧奨を受けていることなどの要件を満たす者であるとされている。
 協会は、基金訓練の訓練コースについて、基金訓練を実施する機関(専修学校、教育訓練企業等。以下「訓練実施機関」という。)の名称、所在地、訓練内容、応募方法等に関する情報を、安定所と連携して受講希望者に提供することとされている。これらの情報により訓練コースを選定した受講希望者は、安定所から交付を受けた受講申込書を訓練実施機関に提出し、訓練実施機関の選考及び安定所長による受講勧奨を経て、基金訓練の受講を開始する。
 基金訓練の訓練コースは基礎力を養成するもの、実践的な能力を習得するものなど4種類があり、これらの訓練コース及び都道府県等が実施する公共職業訓練については、基金訓練の基礎的な訓練コースの受講後に基金訓練の実践的な訓練コースを受講したり、基金訓練の実践的な訓練コースの受講後に公共職業訓練を受講したりなど、一定の条件の下に連続して受講できることとされている。そして、基金訓練の受講者に対しては、安定所において訓練の修了後に積極的な就職支援を行うこととされている。
 また、訓練実施機関に対しては、その実施する訓練コースの種類及び受講者数等に応じて、基金から訓練奨励金を支給することとされている。

イ 訓練・生活支援給付の概要

 訓練・生活支援給付は、基金訓練又は公共職業訓練(以下「基金訓練等」という。)の受講中の生活保障を行い、円滑な受講に資するため、基金訓練等を受講している者に対して、訓練・生活支援給付金(以下「支援給付金」という。)を支給するものである。訓練・生活支援給付は、生活が困窮しており訓練の継続が困難であると判断される受講者の生活を保障するものであることから、支給対象者についての要件(以下「受給資格要件」という。)が定められており、その主なものは以下のとおりである。
〔1〕  安定所長の受講勧奨等により、基金訓練等を受講する者であること
〔2〕  雇用保険の求職者給付の受給ができない者であること
〔3〕  世帯の主たる生計者であること(以下「主たる生計者要件」という。)
〔4〕  年収が200万円以下であり、かつ世帯全体の年収が300万円以下の者であること
〔5〕  世帯を構成する者全員の保有する金融資産の合計が800万円以下の者であること(以下「金融資産要件」という。)
 支援給付金の支給額は月額10万円(被扶養者を有する者は月額12万円)とされており、21、22両年度に支給された支援給付金は738億4332万円となっている。
 支援給付金の支給を希望する者は、訓練・生活支援給付受給資格認定申請書(以下「認定申請書」という。)、所要の証明書類及び申請者本人の自筆署名による申告書(以下「申告書」という。)を安定所に提出し、安定所は受給資格要件を確認した上で、認定申請書等を協会に送付することとされている。協会は、送付された認定申請書等を審査して受給資格の認定(以下「受給資格認定」という。)を行うこととされている。また、受給資格認定時の審査に当たっては、証明書類によることが困難な場合又は本人から申し立てがあった場合には、受給資格要件の大半について、申告書をもって確認を行って差し支えないものとされている。
 そして、協会から受給資格認定を受けた者(以下「受給資格者」という。)は、毎月、訓練・生活支援給付支給申請書等を訓練実施機関を経由するなどして協会に提出することとされている。支援給付金の支給は、基金訓練等への出席に関する要件(以下「出席要件」という。)等を満たすことが必要とされており、協会は、提出された訓練・生活支援給付支給申請書等について、出席要件等を審査して支給を決定することとされている。
 なお、公共職業訓練の受講により受給資格認定を受ける場合は、当該訓練について安定所長の受講推薦を受ける必要がある。

ウ 支援給付金に係る事後的調査の概要

 協会は、支援給付金に係る不正防止のため、毎年度、受給者の中から調査対象者を無作為に抽出し、受給者本人及び当該者の訓練を実施した訓練実施機関に対して、電話等により申請内容の確認を行うこととなっている。
 また、不正受給の疑いがあるなど受給者に事情を確認する必要がある場合には、協会は、安定所に対して、受給者本人から事情を聴取したり書類提出等を指示したりするよう依頼することとなっている。この安定所が行う調査については、あくまでも本人の任意の協力によってのみ実現され得るものであり、本人がこれに応じない場合であっても、強制力をもって従わせることはできないものであることに留意することとされている。

エ 受講勧奨、受講推薦等の概要

 基金訓練等の受講に当たって要件となる安定所長の受講勧奨及び受講推薦(以下「受講勧奨等」という。)は、単に求職者の受講希望のみに応じて受動的に行うべきものではなく、求職者のこれまでの職業経歴と今後の職業生活の設計に係る長期的な視点での職業相談を行った上で、受講させる訓練を決定して受講勧奨等を行う必要があるとされている。
 また、安定所においては、担当者制を採っている場合を除き、求職者の来所の都度、担当する職員等が変わることなどから、職業相談に当たっては、求職者の支援のために必要な情報を共有して一貫した就職支援を行うために、職業相談等の終了後等に、必ず求職管理情報(注1) に必要な情報を記録することとされている。

 求職管理情報  国の行う職業紹介として、全国の安定所において求職者に対する一貫した支援を行うことができるよう、求職者支援に必要な情報を記録し全国の安定所の職員間で共有するためのものであり、総合的雇用情報システム(平成23年6月末にハローワークシステムに完全に移行)の一部である。

オ 就職状況の確認等の概要

 訓練実施機関は、各受講者の訓練終了3か月後(受講を途中でやめた者(以下「中退者」という。)については退校時)の就職等の状況について、各受講者からの書面(以下「就職状況報告書」という。)の提出により把握し、その結果を取りまとめて就職状況報告書とともに協会に報告することになっている。そして、貴省は、基金訓練受講者の就職率を、就職状況報告書に基づき算定している。

(3) 求職者支援制度の概要

 職業訓練の実施等による特定求職者の就職の支援に関する法律(平成23年法律第47号。以下「求職者支援法」という。)が23年5月20日に公布され、同年10月1日から同法に基づく新制度(以下「求職者支援制度」という。)が開始されることとなった。求職者支援制度は、現行の緊急人材育成支援事業の制度を基に創設されるものであり、安定所に求職の申込みをしている者(雇用保険被保険者及び雇用保険の受給資格を有する者を除く。)のうち、労働の意思及び能力を有している者であって、職業訓練その他の支援措置を行う必要があると安定所長が認めた者(以下「特定求職者」という。)に対して、職業訓練の実施、給付金の支給その他の就職に関する支援措置を実施することとされている。
 求職者支援法においては、職業訓練の実施及び給付金の支給について、以下のように規定されている。
〔1〕  厚生労働大臣は、職業訓練を行う者の申請に基づき、当該者の行う職業訓練について、就職に必要な技能等を十分に有していない者の職業能力の開発及び向上を図るために効果的なものであることなどの要件に適合する旨の認定をすることができること(以下、求職者支援制度において厚生労働大臣が認定するこの職業訓練を「認定職業訓練」という。)
〔2〕  特定求職者が安定所長の指示した認定職業訓練等を受けることを容易にするため、当該特定求職者に対して職業訓練受講給付金を支給することができること
 求職者支援法における認定職業訓練及び職業訓練受講給付金は、現行の緊急人材育成支援事業における基金訓練及び支援給付金に、それぞれ相当するものとなっている。
 そして、現行の緊急人材育成支援事業は求職者支援制度の開始に伴って同年9月30日で終了(経過措置に係るものを除く。)することとなっており、基金事業全体が終了した際、残余財産がある場合は、交付金の全部又は一部に相当する額が国庫に納付されることとなっている。また、緊急人材育成支援事業の実施主体であった協会は、求職者支援制度に係る業務は行わないこととなっている。