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  • 国会及び内閣に対する報告(随時報告)|
  • 会計検査院法第30条の2の規定に基づく報告書|
  • 平成23年9月

東郷ダムの工事が完了していないため事業期間が長期化している国営東郷土地改良事業及び国営ふらの土地改良事業について、事後評価を行ってその結果を事業に適切に反映させるとともに、可能な限り経済的で効果的なかんがい用水の水源確保の方法を選定して事業効果の早期発現を図るよう農林水産大臣に対して意見を表示したもの


 東郷ダムの工事が完了していないため事業期間が長期化している国営東郷土地改良事業及び国営ふらの土地改良事業について、事後評価を行ってその結果を事業に適切に反映させるとともに、可能な限り経済的で効果的なかんがい用水の水源確保の方法を選定して事業効果の早期発現を図るよう農林水産大臣に対して意見を表示したもの

会計名及び科目 一般会計 (組織)農林水産本省 (項)北海道開発事業費
平成19年度以前は、
国営土地改良事業特別会計 (項)北海道土地改良事業費
昭和60年度以前は、
一般会計(組織)農林水産本省
(項)北海道土地改良事業費
部局等 農林水産本省(昭和53年7月4日以前は農林本省)、国土交通省北海道開発局(平成13年1月5日以前は総理府北海道開発庁北海道開発局)
事業名 国営東郷土地改良事業、国営ふらの土地改良事業
事業の根拠 土地改良法(昭和24年法律第195号)
事業の概要 北海道富良野市及び空知郡中富良野町において、農業の生産性の向上等に資することを目的として、国営かんがい排水事業でダム、頭首工、揚水機、幹線用水路等の農業用用排水施設の整備を行うもの
上記に係る事業費 国営東郷土地改良事業
299億1224万円 (昭和44年度〜平成13年度)
国営ふらの土地改良事業
43億9749万円 (平成14年度〜21年度)
343億0973万円 (昭和44年度〜平成21年度)

【意見を表示したものの全文】

 国営東郷土地改良事業及び国営ふらの土地改良事業の実施について

(平成23年9月22日付け 農林水産大臣宛て)

標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり意見を表示する。

1 国営東郷土地改良事業及び国営ふらの土地改良事業等の概要

(1) 国営土地改良事業の概要

 貴省は、土地改良法(昭和24年法律第195号)に基づき、農業生産基盤の整備及び開発を図る土地改良事業の一環として、安定的な用水供給機能及び排水条件の確保により農業生産性の向上等を図ることを目的として、ダム、頭首工、揚水機、幹線用排水路等の基幹的な農業用用排水施設の整備を行うかんがい排水事業等の国営土地改良事業(以下「国営事業」という。)を実施している。
 国営事業の実施に当たっては、農林水産大臣が受益面積、総事業費、予定工期、主要工事等に関する土地改良事業計画(以下「事業計画」という。)を策定することとなっており、国営事業費の変動(労賃又は物価の変動によるものを除く。)が10%以上となる場合等には、事業計画の変更を行うこととされている。
 また、国営事業の事業計画には、当該国営事業に関連して都道府県等が実施する土地改良事業(以下「附帯事業」という。)等に係る事業の内容も記載することとなっている。附帯事業は、国営事業の受益地域(以下「受益地」という。)において、国営事業によって整備された幹線用排水路に接続する用排水路等の整備等を行うもので、国営事業と附帯事業等とが連携して施行されることにより、農地・水利が整備され、事業効果が発現するとされている。
 そして、農林水産大臣は、国営事業の工事を全て完了した場合には、遅滞なくその旨を公告して事業を完了しなければならないとされており、事業完了後は原則として整備した農業用用排水施設について速やかに土地改良区等に管理委託等を行い、管理受託者に管理費を負担させるものとされている。
 国営事業に要する費用については、土地改良法に基づき、国は都道府県にその費用の一部を負担させることができるとされている。そして、都道府県は、その負担額の全部又は一部を地元の市町村及び受益農家(以下、これらを合わせて「地元市町村等」という。)から徴収することができるとされていて、地元市町村等の負担額については各都道府県の条例等により定められている。

(2) 国営東郷土地改良事業及び国営ふらの土地改良事業の概要

 国営東郷土地改良事業(以下「東郷事業」という。)は、国土交通省北海道開発局(平成13年1月5日以前は総理府北海道開発庁北海道開発局。以下「開発局」という。)が北海道富良野市において当初の総事業費を80億円(うち国営事業費63億5000万円)として昭和47年度から実施(測量、試験等については44年度から実施)している事業で、その後3回にわたり事業計画の変更が行われている。その事業内容は、平成14年度に3回目の変更が行われた後の事業計画(以下「第3回変更計画」という。)によると、受益地内の田及び畑にかんがい用水を供給するために、貯水池(東郷ダム)1か所、頭首工1か所、揚水機1か所、幹線用水路10条(60.1km)等を新設するもので、国営事業費は300億円、工事の完了予定時期は21年度となっている。
 国営ふらの土地改良事業(以下「ふらの事業」という。)は、開発局が富良野市及び空知郡中富良野町において14年度から実施している事業である。その事業内容は、事業計画によると、東郷ダムを改修するとともに、新たに同町本幸区域(以下「本幸区域」という。)の畑(236ha)にかんがい用水を供給するために、揚水機1か所、幹線用水路2条(8.3km)等を新設するもので、国営事業費は79億円、工事の完了予定時期は20年度となっている。
 上記の東郷事業及びふらの事業(以下、これらを合わせて「両事業」という。)は、実質的に一体の事業であり、東郷事業の第3回変更計画及びふらの事業の事業計画(以下、これらを合わせて「両事業の事業計画」という。)において、互いに関連事業として位置付けられている。このため、両事業の事業計画において、関連事業及び附帯事業等を含む総事業費、受益面積等は同一とされており、その総事業費は495億円、受益面積は3,126ha(田181ha、畑2,945ha(本幸区域を含む。))等とされている。(参考図参照

(参考図) 両事業の概念図

(参考図)両事業の概念図

(3) 東郷ダムの概要

 東郷ダムは、両事業の一環として、富良野市等にかんがい用水を安定的に供給することを目的として、昭和52年度から同市西達布(にしたつぷ)つつじの奥の沢川に築造を開始したロックフィルダム(堤高47.5m、堤長422.0m、有効貯水量430万m3 )である。
 そして、ダムの工事を完了する場合には、河川管理施設等構造令(昭和51年政令第199号)で定める構造の原則に適合するように、ダムの堤体及び基礎地盤が必要な水密性を有し、及び予想される荷重に対し必要な強度を有するものであることなどを確認する必要があるとされている。東郷ダムでは、平成5年度から6年度まで及び9年度から10年度までの2回にわたり貯水して、その安全性や貯水機能を確認するための試験(以下「試験たん水」という。)を行っているが、いずれも想定を上回る漏水が確認されたため、工事を完了することができず、東郷事業の事業着手から38年を経過した現在でも安全に貯水することができない状態が続いており、両事業は完了していない。

(4) 政策評価法に基づく事後評価

 行政機関が行う政策の評価に関する法律(平成13年法律第86号。以下「政策評価法」という。)が14年4月に施行されており、行政機関は、その所掌に係る政策について、自ら評価するとともに、その評価の結果を当該政策に適切に反映させなければならないとされている。
 貴省は、政策評価法に基づき、農林水産省政策評価基本計画(以下「基本計画」という。)を策定して、政策評価の目的や実施に当たっての基本的な考え方等を定めるとともに、毎年度、農林水産省政策評価実施計画(以下「実施計画」という。)を策定して、計画期間内に事後評価を行う公共事業等を定めて、基本計画及び実施計画に基づき事後評価を行うこととしている。
 そして、政策評価法、基本計画等によると、貴省は、17年度までは、事業採択後5年を経過した時点で事業を継続する場合は5年ごとに、18年度からは、事業採択から10年を経過した時点で、また、10年を超えて事業を継続する場合は直近の事後評価から5年ごとに、事後評価を行い事業実施の妥当性について総合的かつ客観的に評価して、事業の継続、縮小その他の変更、休止又は中止の方針を決定することとされている。また、基本計画によると、事後評価においては、費用対効果分析等により政策効果を定量的に測定して把握することが原則とされている。

(5) 政策評価法に基づく事後評価

 貴省は、21年12月に自らが所管しているダム(190か所)について、個別課題の調査及び水利用の状況の点検を目的として総点検を行い、「農林水産省所管の農業用ダムの総点検結果について」(以下「総点検結果」という。)を公表している。
 これによると、東郷ダムには想定を大きく上回る浸透という技術的課題があるため、重点的に解決に取り組む必要があるとされている。そして、今後の対応の方向性として、かんがい用水確保のために、ダムの改修やそれ以外の水源確保の方法について、関係機関との調整を開始するとされている。
 また、貴省は、22年2月に「農林水産省所管ダムの総工事費について」を公表して、東郷ダムの21年度時点の支出済額と今後の所要見込額との合計は139億0300万円であるとしている。