本院は、上記のとおり、平成16年度決算検査報告において整備資金の状況等について掲記したところであるが、その後、原子力発電施設の立地が引き続き遅延している状況となっている。
また、23年3月に発生した東日本大震災に伴う東京電力株式会社(以下「東京電力」という。)福島第一原子力発電所の事故について、その早期収束、原子力発電施設の周辺地域の安全対策等のための措置に多額の費用が必要とされている。
そこで、本院は、効率性、有効性等の観点から、整備資金に係る資金規模及び将来の積立目標額は不要不急の資金が滞留することのないよう適正なものとなっているかなどに着眼して、資源エネルギー庁等において、17年度から22年度までの間に交付された立地交付金5740億余円、22年度末の整備資金の資金残高1231億余円等を対象として、決算書等の関係書類等により会計実地検査を行うとともに、資源エネルギー庁等から、立地交付金、整備資金に係る需要額(将来運転開始が見込まれる原子力発電施設に係る需要額)、整備資金の受払及び原子力発電施設の立地に係る関係資料を徴して、当該資料を分析するなどして検査を行った。
検査したところ、立地交付金及び整備資金の状況、整備資金の積立対象となる原子力発電施設等、整備資金残高の推移等及び原子力発電施設の立地の進捗状況は、次のとおりとなっていた。
17年度から22年度までの間における、立地交付金の交付実績額及び整備資金から促進勘定に繰り入れられて立地交付金に充当された額の推移は表1のとおりとなっている。
表1 立地交付金の交付実績額及び整備資金から立地交付金に充当された額の推移
(単位:百万円)
年度 | 平成17 | 18 | 19 | 20 | 21 | 22 | 計 |
交付実績額 | 90,552 | 97,357 | 99,626 | 95,939 | 93,665 | 96,866 | 574,007 |
うち整備資金から立地交付金に充当された額 | - | 4,992 | 12,798 | 11,223 | 10,194 | 5,635 | 44,845 |
立地交付金は、前記のとおり、発電用施設等の立地の進捗に応じて交付されることとなっている。そして、貴省は、立地交付金の一部に充当される整備資金について、原子力発電施設の立地可能性調査開始の翌年から着工を経て運転開始までの期間に対応する財源として積み立てることとしている。しかし、立地交付金は、図2のとおり、主として、着工から運転開始までの期間に、集中して多額に交付されることから、整備資金は、原則として、この期間に係る財源を確保できれば十分であると認められる。
図2 原子力発電施設の立地の進捗に伴う立地交付金の交付の概要
整備資金は、前記のとおり、発電用施設等の立地の進捗に伴って必要となる立地交付金の一部に対応できるよう設置されたものであるが、その積立ての対象となる発電用施設等については法令等に明記されていない。このため、貴省は、毎年度、電気事業法に基づき一般電気事業者等がそれぞれ経済産業大臣に届け出ることとされている当該年度以降の電気の供給並びに電気工作物の設置及び運用についての計画(以下「電力供給計画」という。)において示された新増設に係る全ての原子力発電施設を一律に対象として整備資金を積み立てることとしている。
そして、22年度の整備資金の積立てに際しては、21年度の電力供給計画において示された14基(21年12月に運転開始をした北海道電力株式会社泊3号を除く。以下同じ。)の原子力発電施設全てを対象として、立地交付金等の将来の需要額を1906億余円と算定して、この整備資金に係る需要額を積立目標額としている。
整備資金は、表2のとおり、15年度から促進勘定(18年度以前は立地勘定。以下同じ。)からの繰入れが行われ、16年度から同勘定の決算剰余金からの組入れが行われている。また、18年度からは立地交付金の財源等の一部に充てるため、これを取り崩して促進勘定への繰入れが行われており、22年度末の整備資金残高は1231億余円となっている。
なお、東日本大震災と、それに伴う東京電力福島第一原子力発電所の事故等への対応のため、23年度第1次補正予算が成立しており、エネルギー特会において、整備資金から促進勘定への繰入れが500億円計上されている。
年度 | 促進勘定から整備資金への繰入額(積立て)入額 | 決算剰余金から整備資金への組(積立て) | 整備資金から促進勘定への繰入額(取崩し) | 整備資金残高 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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促進勘定から整備資金への繰入れについて、貴省は、21年度までは、前記のとおり電力供給計画において示された新増設に係る全ての原子力発電施設を一律に対象として算定した立地交付金等の将来の需要額から、当該年度末の整備資金の残高見込額を控除した額を、翌年度以降所要の年数で積み立てることにしていた。
そして、22年度については、当初、21年8月の概算要求においては上記により繰入額を算定していたものの、結果的には財政事情等により予算要求を行っていない。
国は、エネルギー政策基本法(平成14年法律第71号)に基づき、15年10月に、エネルギー需給に関する施策の長期的、総合的かつ計画的な推進を図るために、今後の原子力政策の方向性を含むエネルギー基本計画を策定している。そして、22年6月に改定されたエネルギー基本計画においては、今後の原子力政策について、2030年までに前記の電力供給計画に示された14基の原子力発電施設の新増設を行うこととされているが、現在、東日本大震災に伴う東京電力福島第一原子力発電所の事故を受け、国においてエネルギー基本計画の見直しが行われている。そして、エネルギー基本計画及び電力供給計画において示された原子力発電施設14基の立地の進捗状況は、次のとおりとなっていた。
一般電気事業者等は、電気事業法施行規則(平成7年通商産業省令第77号)に基づき、毎年度策定する電力供給計画において、発電用施設の開発計画を作成している。そして、22年度の整備資金の積立ての対象となっている21年度の電力供給計画における原子力発電施設14基に係る開発計画についてみると、表3のとおり、運転開始予定が当該年度から10年以内のものが東京電力福島第一7号等8基、同10年経過以降のものが東北電力株式会社浪江・小高等6基となっていた。
なお、東京電力福島第一7号及び同8号は、東日本大震災に伴う東京電力福島第一原子力発電所の事故を受け、23年5月に、東京電力により開発計画の中止が決定されている。
運転時期 | 事業者名 | 発電所名称 | 所在地 | 出力(万kW) | 着工年月 | 運転開始年月 |
10年以内のもの | 東京電力株式会社 | 福島第一7号(注) | 福島 | 138.0 | 平成23年4月 | 27年10月 |
福島第一8号(注) | 福島 | 138.0 | 23年4月 | 28年10月 | ||
東通1号 | 青森 | 138.5 | 22年12月 | 29年3月 | ||
中国電力株式会社 | 島根3号 | 島根 | 137.3 | 17年12月 | 23年12月 | |
上関1号 | 山口 | 137.3 | 22年度 | 27年度 | ||
電源開発株式会社 | 大間原子力 | 青森 | 138.3 | 20年5月 | 26年11月 | |
日本原子力発電株式会社 | 敦賀3号 | 福井 | 153.8 | 22年10月 | 28年3月 | |
敦賀4号 | 福井 | 153.8 | 22年10月 | 29年3月 | ||
10年経過以降のもの | 東北電力株式会社 | 浪江・小高 | 福島 | 82.5 | 27年度 | 32年度 |
東通2号 | 青森 | 138.5 | 27年度以降 | 32年度以降 | ||
東京電力株式会社 | 東通2号 | 青森 | 138.5 | 25年度以降 | 31年度以降 | |
中部電力株式会社 | 浜岡6号 | 静岡 | 140級 | 27年度 | 31年度以降 | |
中国電力株式会社 | 上関2号 | 山口 | 137.3 | 27年度 | 32年度 | |
九州電力株式会社 | 川内3号 | 鹿児島 | 159.0 | 25年度 | 31年度 | |
計 14基 1,930.8万kW |
また、14基の当初着工予定からの遅延年数についてみると、表4のとおり21年度の開発計画作成時点で最大37年の遅れが生じており、着工済みの東京電力東通1号、中国電力株式会社島根3号及び電源開発株式会社大間原子力(以下、これらを合わせて「着工済み3基」という。)を除く11基の原子力発電施設のほとんどについて、その着工及び運転開始予定が毎年度1年程度先送りされている状況となっている。
このことについて、貴省は、原子力発電施設用地の取得及び地元同意を得るための調整が長期にわたり難航していることなどによると説明している。
表4 平成19年度以降の電力供給計画における原子力発電施設の開発計画の状況
事業社名 | 発電所名称 | 遅延年数(年) | 平成19年度開発計画 | 平成20年度開発計画 | 平成21年度開発計画 | 備考 | |||
着工年 | 運転開始年 | 着工年 | 運転開始年 | 着工年 | 運転開始年 | ||||
東北電力株式会社 | 浪江・小高 | 37 | 25年 | 30年 | 26年 | 31年 | 27年 | 32年 | |
東通2号 | 16 | 25年以降 | 30年以降 | 26年以降 | 31年以降 | 27年以降 | 32年以降 | ||
東京電力株式会社 | 福島第一7号 | 11 | 21年 | 25年 | 22年 | 26年 | 23年 | 27年 | |
福島第一8号 | 11 | 21年 | 26年 | 22年 | 27年 | 23年 | 28年 | ||
東通1号 | 12 | 20年 | 26年 | 21年 | 27年 | 22年 | 29年 | 23年1月着工済み | |
東通2号 | 14 | 23年以降 | 29年以降 | 24年以降 | 30年以降 | 25年以降 | 31年以降 | ||
中部電力株式会社 | 浜岡6号 | - | - | - | - | - | 27年 | 31年以降 | |
中国電力株式会社 | 島根3号 | 3 | 17年 | 23年 | 17年 | 23年 | 17年 | 23年 | 17年12月着工済み |
上関1号 | 11 | 21年 | 26年 | 22年 | 27年 | 22年 | 27年 | ||
上関2号 | 11 | 24年 | 29年 | 25年 | 30年 | 27年 | 32年 | ||
九州電力株式会社 | 川内3号 | - | - | - | - | - | 25年 | 31年 | |
電源開発株式会社 | 大間原子力 | 9 | 19年 | 24年 | 20年 | 24年 | 20年 | 26年 | 20年5月着工済み |
日本原子力発電株式会社 | 敦賀3号 | 7 | 22年 | 28年 | 22年 | 28年 | 22年 | 28年 | |
敦賀4号 | 7 | 22年 | 29年 | 22年 | 29年 | 22年 | 29年 |
原子力発電施設の立地に当たっては、図1 のとおり、電気事業法等の法令等に基づく手続が必要となっている。このうち、原子力発電施設の着工前に実施することとなっている環境影響評価、原子炉設置許可申請及び許可の各手続について、原子力発電施設14基の進捗状況は、表5のとおり、22年度までに、環境影響評価まで完了したものが11基、原子炉設置許可申請まで完了したものがこの11基のうち7基となっている。
表5 原子力発電施設の設置に係る各手続の進捗状況と各施設に対応した整備資金に係る需要額(平成22年度時点)
事業者名 | 発電施設名称 (上記施設に対応した整備資金に係る需要額) |
環境影響評価 | 原子炉設置許可申請 | 原子炉設置許可 | 着工 |
東北電力株式会社 |
浪江・小高 (288.0億円)
|
- | - | - | - |
東通2号 (109.6億円)
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- | - | - | - | |
中部電力株式会社 | 浜岡6号 (187.4億円)
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- | - | - | - |
東京電力株式会社 |
福島第一7号 (69.9億円)
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平成13年2月 | - | - | - |
福島第一8号 (129.8億円)
|
13年2月 | - | - | - | |
東通2号 (40.4億円)
|
15年9月 | - | - | - | |
中国電力株式会社 |
上関2号 (183.9億円)
|
13年8月 | - | - | - |
上関1号 (305.6億円)
|
13年8月 | 21年12月 | 審査中 | - | |
九州電力株式会社 | 川内3号 (292.0億円)
|
22年8月 | 23年1月 | 審査中 | - |
日本原子力発電株式会社 |
敦賀3号 (13.6億円)
|
14年2月 | 16年3月 | 審査中 | - |
敦賀4号 (213.1億円)
|
14年2月 | 16年3月 | 審査中 | - | |
中国電力株式会社 | 島根3号 (0.0億円)
|
12年10月 | 12年10月 | 17年4月 | 17年12月 |
電源開発株式会社 | 大間原子力 (13.0億円)
|
11年10月 | 16年3月 | 20年4月 | 20年5月 |
東京電力株式会社 | 東通1号 (60.6億円)
|
15年9月 | 18年9月 | 22年12月 | 23年1月 |
計 | 14基 (1906.9億円) |
11基 (1321.9億円) |
7基 (897.9億円) |
3基 (73.6億円) |
3基 (73.6億円) |
立地交付金は、前記のとおり、発電用施設の着工から運転開始までの期間に集中して交付されている。着工済み3基について、原子炉設置許可申請から、設置許可を経て資金需要が増大する着工に至るまでに要した期間をみると、表5のとおり、4年から5年程度を要している状況となっている。また、原子炉設置許可申請に係る審査中の4基のうち2基(日本原子力発電株式会社敦賀3号及び同敦賀4号)については、審査に要している期間が既に4年を経過しており、18年9月の耐震設計審査指針の改定や19年7月に発生した新潟県中越沖地震の影響等による審査期間の長期化により、資金需要が増大する着工までに要する期間も長期化している傾向が見受けられる。
23年3月に発生した東日本大震災に伴う東京電力福島第一原子力発電所の事故により、一般電気事業者等においては、原子力発電施設の開発計画の見直しなどが想定されており、立地予定市町村等においても、原子力発電施設の新増設に対する地元同意を得るための調整に要する期間がより長期化することが想定される。
このような状況において、前記のとおり、東京電力は、福島第一7号及び同8号について開発計画の中止を決定しているところである。
また、国において、安全審査指針類の改定作業が始まったことから、審査中の原子力発電施設(表5参照)の審査期間が更に長期化することが想定される。さらに、前記のとおり、今後の原子力政策の方向性を含むエネルギー基本計画の見直しが行われることとなり、見直しの期間中においては原子力発電施設の立地の進捗が遅延することが想定される。
以上のことから、原子力発電施設の着工までには今後も長期間を要し、整備資金に係る需要が増大する時期についても更に遅れが見込まれる。したがって、整備資金の積立ての対象とされている14基の原子力発電施設のうち、着工済み3基を除く11基については、当面の間は整備資金に係る需要が生じないものと認められることから、整備資金の積立対象を着工済み3基のみとすれば、22年度末の整備資金の残高1231億余円については、前記の整備資金に係る需要額1906億余円のうち当該3基分の需要額に相当する73億余円(表5参照)を留保しておけば足り、前記の23年度第1次補正予算で計上された整備資金から促進勘定への繰入額500億円を考慮しても、残りの657億円は当面需要が見込まれない、縮減が可能な余裕資金であると認められる。
また、今後、原子力発電施設の新増設に係る立地交付金の需要額の算定が必要になる場合には、前記のとおり、電力供給計画に示された新増設に係る全ての原子力発電施設を一律に対象とするのではなく、着工までに要する期間が4年程度であることや審査期間が更に長期化することが想定されることを踏まえて、原子炉設置許可申請を着工の確実性の指標とするなどして算定対象を選定し積立目標額の規模を見直すこととすれば、当面需要が見込まれない資金を滞留させない方策になると認められる。
上記のように、整備資金に係る需要が増大する時期について今後も遅れが想定される状況であるにもかかわらず、当面需要が見込まれない多額の資金が滞留している事態、及び積立目標額の規模を見直すことなく、電力供給計画において開発が示されたことのみをもって全ての原子力発電施設を一律に積立ての対象としている事態は適切とは認められず、改善の要があると認められる。
このような事態が生じているのは、貴省において、原子力発電施設の開発計画が遅延していることについて、それぞれ個別の事情があるにもかかわらず、電力供給計画において開発が示されたことのみをもって一律に整備資金に係る需要額を算定して、この額を目標として整備資金を積み立てていることなどによるものと認められる。