20年次から22年次の3か年にわたり、65都道府県市における農林水産省及び国土交通省所管の国庫補助事務費等の経理について検査した結果、65都道府県市すべてにおいて、虚偽の内容の関係書類を作成するなど不適正な経理処理により需用費を支払ったり、補助事業の目的外の用途に需用費、賃金又は旅費を支払ったりしている事態が見受けられた。
不適正な経理処理による需用費の支払の事態は、国庫補助事務費等に係る補助金の交付額が極めて少額となっていた1市を除く64都道府県市において見受けられた。
業者と架空取引を行うなどして支払金を業者に保有させていた事態(預け金)、随時納品させた物品について別の品目を納入させたこととして一括して支払った事態(一括払)、消耗品を購入することとして実際は備品等の別の物品に差し替えて納品させた事態(差替え)は、業者に虚偽の請求書を提出させ、支出命令書等の関係書類には虚偽の内容を記載するなどして、契約した物品が納入されていないのに納入されたこととして経理処理していたものである。
また、実際は翌年度又は前年度に納入された物品の購入代金を現年度に支払っていた事態(翌年度納入又は前年度納入)は、支出命令書等の関係書類に事実と異なる検収日付を記載するなどして、契約した物品が当該年度に納入されていないのに納入されたこととして経理処理していたものである。
上記の不適正な経理処理による需用費の支払の事態のうち、預け金、一括払及び差替えの事態は、架空取引を指示したり、虚偽の請求書等を提出させたりするなど業者の協力を得て、実際に納入された物品とは異なる品目名を記載した虚偽の内容の関係書類を作成することなどにより需用費を支払っていたものである。この結果、実際に納入された物品については、購入の必要性、価格の妥当性等の検討を行うなど所定の会計事務手続が行われていなかったことになる。
そして、これらの中には、千葉県のように、預け金の手法により業者に預けた需用費の一部を現金で返金させるなどして、これを別途に経理して業務の目的外の用途に使用するなど公金を不正に使用していた事態があったほか、一部の政令市では、差替えの手法により物品担当職員が業者に指示して契約した物品とは異なるパーソナルコンピュータを納入させ、これを転売してその代金を領得するなど刑事事件に発展した事態もあった。
上記のように、このような不適正な経理処理の慣行は、公金の不正使用や職員による公金横領等刑事事件につながるおそれがあり、ひいては公金の使用に対する国民の信頼を著しく失墜させる極めて遺憾な事態となっている。
不適正な経理処理が行われていた原因として、会計法令等の遵守よりも予算の年度内消化を優先させたこと、会計経理の業務に携わる者の公金の取扱いの重要性に関する認識が欠如していたことなどが挙げられる。また、預け金等の不適正な経理処理により支出された国庫補助事務費等の額が多額に上っていた県市の主な部署における会計事務手続について検証したところ、その大半において調達要求課が見積書の提出依頼、契約事務、検収事務等の一連の会計事務手続を行っており、職務の分担による相互けん制が機能しにくい状況となっていた。
賃金及び旅費について補助事業の目的外の用途に使用していた事態も多くの都道府県市において見受けられた。発生原因としては、国庫補助事務費等で支払える賃金や旅費の範囲を拡大解釈していたこと、補助事業の目的どおりに使用することについての認識が十分でなかったことなどの国庫補助事務費等の適正執行に関する担当職員の認識の問題が挙げられるが、臨時職員の配置目的・業務内容及び出張用務の内容を正確に把握していなかったことなどの事務処理上における問題点も見受けられた。
近年、多くの都道府県市では、平成19年度決算検査報告等を踏まえて、同様の着眼点により、会計検査院の検査とは別に事務費等の経理に関して内部調査を行い、その結果を公表している。自らが行った経理処理をより広い範囲で点検することにより、会計経理の適正化に関する意識を多くの職員が持つことが期待できるため、まだ内部調査を行っていない県市においても速やかに内部調査を行うことが望まれる。
また、検査の結果、不適正な経理処理の事態の指摘を受けた都道府県市は、監査機能の強化、職員の意識改革、物品調達体制の見直し、契約・検収事務の適正化、予算の計画的な執行等の再発防止策を策定して取り組んでいる。しかし、今回、20年次に検査を実施した12道府県に対して21年度の需用費の支払について検査したところ、不適正な経理処理の事態は見受けられなかったが、再発防止策の内容やその実効性の確認等については、必ずしも十分でない点が見受けられた。
内部監査や監査委員監査の状況を調査したところ、不適正な経理処理の再発を防止するために、物品の納入業者の協力を得て、聞き取りを行ったり、帳簿を取り寄せて納入物品、納入日付等の突き合わせを行ったりするなどの手法により監査を行っている県等がある一方で、このような監査を行う予定がないとしている県が一部にみられた。
地方公共団体における公金の取扱いに関する問題については、過去に、公共事業に係る国庫補助事業の食糧費を懇談会の経費等に使用していた事態、事務費の旅費等を架空の名目で支払っていた事態等が明らかとなっており、これらの地方公共団体では、その都度職員の意識改革を中心とした再発防止策を講じてきた。しかし、10年ほどで再び今回のような国庫補助事務費等において不適正な経理処理の事態が判明したことを踏まえると、これらの事態の再発防止のためには、地方公共団体において今後とも継続的かつ全庁的な取組を行っていくことが必要と思われる。
今回、会計検査院が検査の対象とした農林水産省及び国土交通省所管の国庫補助事務費等のうち公共事業に係る補助金等の事務費は21年度をもって廃止された。このため、地方公共団体では、公共事業の実施に必要な物品の調達等は、22年度から一般公共事業債等別の財源を用いて資金調達することとなった。一方、公共事業以外の国庫補助事業に係る需用費、賃金、旅費等の経費については引き続き補助金等が交付されている。
ついては、65都道府県市において、今回の国庫補助事務費等の不適正な経理処理等の再発を防止するため、職員に対する基本的な会計法令等の遵守に関する研修指導の徹底、契約及び検収事務の厳格化、予算の計画的な執行の励行、会計事務手続における職務の分担による相互けん制機能の強化等を推進するとともにその執行状況を適切に把握することが重要である。
会計監査については、物品の納入業者の協力を得て、聞き取りを行ったり、帳簿を取り寄せて納入物品、納入日付等の突き合わせを行ったりするなどの手法を採り入れた監査の実施を検討することが望まれる。また、内部監査、監査委員監査、外部監査が連携を図り、会計機関における内部統制が十分機能しているかについて継続的に監視評価を行うとともに、不適正な経理処理に係る再発防止策が有効に機能しているかなどについても検証を行うなどし、もって会計監査の強化・充実を図ることが望まれる。
補助金等を交付している関係省庁においては、不適正な事態の対象となった国庫補助金相当額について速やかに返還の措置等を執るとともに、都道府県市に対して、国庫補助事業に係る事務費等の経理の適正化について引き続き指導の徹底を図ることが必要である。
会計検査院としては、今後とも、地方公共団体における補助金等の会計経理について、引き続き注視していくこととする。