会計名及び科目 | 一般会計 (組織)内閣官房 (項)情報収集衛星業務費 |
部局等 | 内閣衛星情報センター |
契約の概要 | 情報収集衛星の研究、開発、運用等について委託等するもの |
契約の相手方 | 三菱電機株式会社 |
契約件数 | 8件(平成19年度〜23年度) |
上記に係る支払額 | 8億8469万円(背景金額) |
(平成24年10月25日付け 内閣総理大臣宛て)
標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり意見を表示する。
記
貴内閣官房の内閣情報調査室内閣衛星情報センター(以下「衛星センター」という。)は外交、防衛等の安全保障及び大規模災害等への対応等の危機管理のために必要な情報の収集を目的として、情報収集衛星の研究、開発、運用等を行っている。これらの業務については、衛星センターが三菱電機株式会社(以下「三菱電機」という。)等の民間企業等と委託契約等を締結するほか、独立行政法人宇宙航空研究開発機構(以下「宇宙機構」という。)及び独立行政法人情報通信研究機構と委託契約を締結し、さらに、両機構から三菱電機等の民間企業等へ業務の一部を再委託するなどして実施している 上記業務のうち、衛星センターは、情報収集衛星により得られる地球上の地点の画像の解析等に関する調査研究に係る業務等を三菱電機と委託契約等を締結して実施しており、平成19年度から23年度までの間に履行の全部又は一部が完了して当該完了部分に係る契約金額を支払った契約は計8件で、その支払額は計8億8469万余円となっている(表 参照)。
年度 | 件数 | 金額 | |
平成 | 19 | 3 | 272,647 |
20 | 1 | 9,765 | |
21 | 1 | 303,870 | |
22 | 2 | 154,350 | |
23 | 1 | 144,060 | |
計 | 8 | 884,692 |
衛星センターは、これらの契約の契約方法について、契約の条件に変更がない限り、契約を締結する時に確定した契約金額をもって契約の相手方に支払う確定契約により締結することを原則としているが、契約時に契約金額の確定が困難な場合には、概算額をもって契約を締結し、製造原価の実績に基づき契約金額の確定を行う概算契約を採用している。このうち概算契約においては、委託業務が終了し、委託事業実績報告書(以下「実績報告書」という。)が提出された後、その内容が契約の内容及びこれに付した条件に適合しているかを調査し、契約金額を確定させるための調査(以下「確定調査」という。)を実施することについて、各契約の契約条項に定めている。また、衛星センターは、委託業務の実施状況及び委託費の使用状況について必要があると認めたときは、委託業務の終了時以外にも職員等に調査させたり、契約相手方に報告を求めたりすることができることとしている(以下、これらの調査及び報告を合わせて「随時調査」という。)
これらの契約は仕様が特殊であることから、予定価格を算定する際に参考となる市場価格が形成されていないため、衛星センターは、概算契約、確定契約の契約方法を問わず、設計費、試験費、材料費等の製造原価等を積み上げる原価計算方式を採用しており、三菱電機から見積書の提出を受け、その見積書を査定することなどにより予定価格を算定している。このうち設計費及び試験費については、人件費単価に作業に要する工数(設計等に直接従事した作業時間)を乗じて算定することとしている。
衛星センターは、23年10月に、宇宙機構が三菱電機と締結した契約において、三菱電機鎌倉製作所(以下「鎌倉製作所」という。)が実施した業務で、工数を付け替えて費用を水増しして、宇宙機構に対して過大請求を行っていたなどとする情報を宇宙機構から得たことから、24年1月17日以降、鎌倉製作所に職員を派遣して、衛星センターが締結した委託契約等に係る工数管理資料等を調査するとともに、関係者からの聴取等を実施した。そして、衛星センターは、同月27日に、三菱電機が工数の付替えを行っていたことを認めて報告したことから、同日付けで三菱電機に対して、指名停止の措置を執るとともに、これに対応するための特別チームを設置し、事態の全容を解明して過払額の算定を行うなどのための調査を実施しており、この調査は現在も継続中である。
本院は、合規性、経済性等の観点から、三菱電機による工数の付替えはどのように行われていたのか、衛星センターの三菱電機に対する確定調査及び随時調査は適切に実施されていたか、見積書等の適正性を契約相手方の会計制度等の面から確認する調査は適切に実施されていたか、不正を防止する対策は適切に執られていたかなどに着眼して検査した。
検査に当たっては、衛星センターが三菱電機と直接契約を締結した前記の契約計8件、支払額計8億8469万余円を対象とし、衛星センターにおいて、実績報告書等の関係書類を確認するなどの方法により会計実地検査を行った。 また、鎌倉製作所に赴いて、三菱電機が社内調査を行って作成した報告書や宇宙システム部等の各部署の工数管理状況等を確認するなどの方法により会計実地検査を行った。
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
鎌倉製作所の宇宙システム部等の属する宇宙部門は、衛星センターと締結した契約について、その契約金額に基づき損益管理等を行うための指標として目標工数を設定していた。そして、宇宙部門は、概算契約においては、契約金額の確定時に契約金額の減額や返納を避けるなどの目的で、実際の作業時間に基づき申告する実績工数が目標工数を下回った場合には、その下回った分について、実績工数が目標工数を上回った他の契約から実績工数の一部を付け替えるなどしており、衛星センターとの契約においても、このような工数の付替えを行っていた。また、宇宙部門は、確定契約においても、三菱電機社内における損益管理の観点等から、実際の製造原価が契約上の製造原価を超えることのないように、実際の作業時間に基づき申告する実績工数が目標工数を上回った場合には、目標工数を実績工数として計上し、上回った分の工数を他の契約に付け替えるなどしていた。
三菱電機は、これらの工数の付替えについて、鎌倉製作所の宇宙部門の課長等が中心となって、遅くとも1990年代から、実績工数を集計する際に、課員が計上した実績工数を工数データを上書きして修正する専用端末を使用して目標工数に修正するなどの付替えを行っていたなどとしている。 同端末は、17年4月に撤去されたが、その後も、課長が課員に指示して、目標工数を実績工数として計上させるなどの方法で工数の付替えを行っていたなどとしている。
上記のとおり、三菱電機では、工数の付替えが行われていたが、実際の作業時間として記録されている工数データが一部しか保管されていなかったことなどから、衛星センターは、工数の付替えが行われた契約が一部しか特定できていないとしている。 そして、衛星センターは、過大請求の有無を解明するための調査を続けるとともに、過大請求が認められた場合に過払額を算定するための適正な工数の推定方法等を検討するなどしている。
衛星センターは、三菱電機と締結した概算契約について、委託業務が終了し、実績報告書が提出された後に、あらかじめ日程等を調整し、職員を派遣して確定調査を行っており、23年度に1契約について実施している。 そして、確定調査において、実績報告書の計数と帳票類との突合を行い、経理担当者等から説明を聴取するなどし、実績報告書の内容が契約内容及びこれに付した条件に適合したものであるかなどの確認は行っている。しかし、衛星センターは、確定調査の実施項目、実施方法等を定めた要領等を整備していなかったり、実際に工数の計上を行った担当者からの聴取等を実施していなかったりしていて、実績工数の確認を十分に行っていなかった。また、随時調査を行うことにより、契約けん相手方への一定の牽制効果が期待できるのに、随時調査の実施項目、実施方法等を定めた要領等を整備しておらず、今回の工数の付替えが発覚するまで、随時調査を行っていなかった。
また、衛星センターと委託契約を締結している宇宙機構は、再委託先である三菱電機等の民間企業等に対して、内部規程等に基づき、見積書その他の契約金額を確定させるための資料の適正性を契約相手方の会計制度等の面から確認する調査(以下「制度調査」という。)を実施していた。しかし、衛星センターは、衛星センターが発注元となり三菱電機が受注していた情報収集衛星に関する契約は大半が宇宙機構を通じた再委託契約であり、これらの再委託契約については、宇宙機構が制度調査を実施していることから、宇宙機構による制度調査の結果を確認していないにもかかわらず、衛星センターが直接三菱電機に委託するなどした契約については、制度調査を実施しなくても支障がないなどとして、衛星センターの内部規程や三菱電機との契約の条項に制度調査に係る規定を設けていなかった。
なお、衛星センターは、不正を防止するための対策を講じていなかったが、今回の事態を踏まえ、24年3月に、三菱電機との間で履行中の原価計算方式により予定価格を算定した契約について、関係資料の保存義務、原価計算システムの適正性を確保するための特別調査の実施及び虚偽資料に係る違約金の賦課を定めた条項(以下「特約条項」という。)を付し、また、同年4月からは、原価計算方式により予定価格を算定する新規契約について、契約の相手方を問わず、特約条項を付すこととした。
衛星センターにおいて、確定調査については実施しているものの、実績工数の確認を十分に行っていなかったり、随時調査を全く実施していなかったり、制度調査について規定を設けていなかったりしており、今回の工数付替えを防止できていないなどの事態は適切とは認められず、改善を図る要があると認められる。
このような事態が生じているのは、衛星センターにおいて、次のことなどによると認められる。
ア 確定調査及び随時調査の実施項目、実施方法等を定めた要領等を整備していないこと及び随時調査を実施する効果等についての認識が十分でなく、調査の手法等を検討していないこと
イ 制度調査を実施する必要性についての認識が十分でなく、関係規定及び実施体制を整備していないこと
衛星センターは、情報収集衛星の研究、開発等に関する委託契約等における工数付替えの再発防止のため、その発生原因、背景等を究明し、これに対する有効な対策を講ずることが肝要である。
ついては、衛星センターにおいて、情報収集衛星の研究、開発、運用等に係る予算の執行のより一層の適正化を図るよう、確定調査等に関し、次のとおり意見を表示する。
ア 確定調査及び随時調査については、これらを実効あるものとするため、実施項目、実施方法等を定めた要領等を整備するとともに、実際に工数計上を行った担当者からの聴取を行うなどして、作業現場の実態や工数集計等の実態等の把握に努めること。また、随時調査については、抜き打ち調査を含む調査の手法等を検討し、効果的に実施できるような体制を整備すること
イ 制度調査については、早急に実施できるよう、関係規定及び実施体制を整備するとともに、実施に当たっては、実績及び知見を有する他の調達機関と連携を図ることなどを検討すること