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  • 平成23年度|
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  • 意見を表示し又は処置を要求した事項

電波資源拡大のための研究開発に関する契約について、額の確定のための検査の充実・強化を図ったり、違約金に関する契約条項を設けたりするなどして、予算の執行のより一層の適正化を図るよう意見を表示したもの


(2) 電波資源拡大のための研究開発に関する契約について、額の確定のための検査の充実・強化を図ったり、違約金に関する契約条項を設けたりするなどして、予算の執行のより一層の適正化を図るよう意見を表示したもの

会計名及び科目 一般会計 (組織)総務本省 (項)総務本省施設費
(項)情報通信技術研究開発推進費(平成19年度は、(項)総務本省)
(項)電波利用料財源電波監視等実施費(平成19年度は、(項)総務本省)
(項)統計調査費
  (組織)総合通信局 (項)ユビキタスネットワーク整備推進費
(項)電波利用料財源電波監視等実施費
部局等 総務本省、9総合通信局、1総合通信事務所
契約の概要 情報通信分野における研究、開発等について委託等するもの
契約の相手方 三菱電機株式会社
契約件数 120件(平成19年度〜23年度)
上記に係る支払額 114億8835万円(背景金額)

【意見を表示したものの全文】

 電波資源拡大のための研究開発に関する契約等における額の確定のための検査の実施状況等について

(平成24年10月25日付け 総務大臣宛て)

 標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり意見を表示する。

1 電波資源拡大のための研究開発等の概要等

(1) 電波資源拡大のための研究開発等に係る契約の概要

 貴省は、三菱電機株式会社(以下「三菱電機」という。)との間で契約を締結し、情報通信分野における研究、開発等を行っており、これらの平成19年度から23年度までの間に履行の全部又は一部が完了した契約は計120件、支払額計114億8835万余円となっている。このうち、電波法(昭和25年法律第131号)等に基づき、電波資源拡大を行うことを目的として行われる無線システムに必要な周波数を効率的に利用する技術等の研究開発(以下「電波資源拡大のための研究開発」という。)に関する契約の支払額は22億7544万余円となっている( 参照)。

 総務省と三菱電機との契約実績
(単位:件、千円)

年度
件数
金額
平成
19

24

(6)

 

2,737,283
(1,055,926)
 
20

24

(5)

 

2,386,062
(623,217)
 
21

30

(3)

 

3,020,656

(256,479)

 
22

28

(1)

 

1,604,122

(180,339)

 
23

14

(1)

 

1,740,227

(159,484)

120

(16)

 

11,488,351

(2,275,447)

注(1)  契約実績は、平成19年度から23年度までの間に履行の全部又は一部を完了した契約の実績であり、1件300万円以上のものである。
注(2)  括弧書きは、電波資源拡大のための研究開発に係る分で内数である。
注(3)  単位未満を切り捨てているため、金額の合計と計欄は一致しない。

 これらの契約については、貴省は、電波資源拡大のための研究開発の実施において、効果的かつ効率的な実施の融通性を確保するなどのため、貴省が支払うべき経費の額を契約締結時に確定しがたいことから、支払うべき経費の額を契約で定めている実施計画書に記載した経費の内訳に基づき契約金額の範囲内で確定する概算契約により締結している。そして、貴省は、契約の履行期間中又は履行後において、支払うべき経費の額の確定のための検査を実施している。

(2) 額の確定のための検査等の概要

 貴省は、概算契約において、支払うべき経費の額の確定のための検査として、契約の履行期間中に業務の実施に要する経費の処理状況の検査(以下「中間検査」という。)を実施したり、契約の履行後に業務の実施に要した経費の額が記載された実績報告書等の提出を受けた際に、その内容が契約に適合するものであるかどうかについての検査(以下「確定検査」という。)を実施したりなどすることとしている。
 そして、上記検査の結果、業務に要した経費の支出状況が適切であると認めたときは、契約金額と業務の実施に要した経費の額とのいずれか低い額を支払うべき経費の額として額の確定を行うこととしている。
 一方、貴省は、業務の実施に当たり工数付替え等が行われていた疑いがあると認めた場合は、契約相手方に対して、契約の履行に関する監査を指示し、その結果を期限を定めて監査報告書により報告させるとともに、事業所等に立ち入るなどして、その内容を確認することができることとしている。そして、確認の結果、過払金等が生じていた場合は、当該過払金等の返還を求めることとし、当該過払金等を契約相手方が受領した日から過払金等の納付日までの日数に応じ、年10.95%の割合により計算した利息を付することができることとしている。

(3) 過大請求事案の概要

 貴省は、三菱電機鎌倉製作所(以下「鎌倉製作所」という。)が、製造等に直接従事した作業時間である工数を他の契約等との間で付け替えることなどにより申告する工数を水増しして、防衛省、内閣官房内閣情報調査室内閣衛星情報センター及び独立行政法人宇宙航空研究開発機構に対して過大請求していたとする24年1月の報道を踏まえ、貴省との契約においても同様の事態がなかったかについて三菱電機に調査するよう指示していた。
 その結果、貴省は、24年3月2日に、三菱電機から、電波資源拡大のための研究開発に関する契約のうち、19、20両年度に三菱電機と締結した「偏波多重衛星通信技術の研究開発」に係る概算契約において、実態と整合しない工数計上による過大請求を行っていたとの報告を受けたため、同社に対して指名停止の措置を執った。
 なお、貴省は、その後、24年5月に三菱電機に立ち入るなどして、過大請求に係る過払額の内容を確認し、額の再確定を行った上で、同年7月に三菱電機から過払金等の返還を受けている。

2 本院の検査結果

(検査の観点、着眼点、対象及び方法)

 本院は、合規性、経済性等の観点から、三菱電機の過大請求はどのように行われていたのか、特に工数の付替え等の方法はどのようなものであったのか、額の確定のための検査は適切に実施されていたか、契約相手方が工数付替え等を行うことを防止するための措置は有効に機能しているか、三菱電機に対する過大請求の実態を把握するための調査依頼は適切に行われているかなどに着眼して検査した。
 検査に当たっては、貴省が三菱電機と締結した前記の契約計120件、支払額計114億8835万余円を対象として、貴省において、実績報告書等の関係書類を確認するなどの方法により会計実地検査を行った。さらに、三菱電機に赴いて、社内調査報告や各部門の工数管理状況等を確認するなどの方法により会計実地検査を行った。

 (検査の結果)

 検査したところ、次のような事態が見受けられた。

(1) 工数水増しの状況

 三菱電機が実施した社内調査等によれば、三菱電機は、貴省と締結した大半の契約において、その契約金額に基づき損益管理等を行う指標として目標工数を設定していた。そして、額の確定のための検査により支払うべき経費の額を確定する概算契約のうち、前記過大請求のあった研究開発に係る契約において、実際の作業時間に基づき申告する実績工数が目標工数を下回ったため、当該契約に係る研究開発を行った鎌倉製作所相模工場工作課(以下「工作課」という。)が、次のような方法で実際の工数を目標工数に達するよう水増しするなどして、これを当該契約の実績工数として貴省に申告するなどしていた。すなわち、鎌倉製作所内において、余剰人員を抱えていると評価され人員削減の対象となる可能性があることを回避するなどの目的で、工作課の工数管理担当者が、実績工数の集計の際に、間接作業に係る費用は工数に乗じる加工費率(直接労務費に間接労務費等を加えた期間加工費を期間工数で除して算定した率)の算定に含まれているにもかかわらず、同課で間接作業を行っている者について当該契約に係る直接作業を行ったこととして工数を計上するなどしていた。
 三菱電機は、上記のように実際の工数を目標工数に達するように水増しするなど、その改ざんした工数データに基づき帳票類を作成していて、他に正規の帳票類については作成していなかった(以下、このように作成された帳票類を「一重帳簿」という。)。また、実際の作業時間を記録した工作課の工数データは、作業を行った19年12月から21年2月までの間については全て三菱電機のサーバ内に保管されていたとしている。

(2) 電波資源拡大のための研究開発に関する契約に係る中間検査及び確定検査の実施状況等

ア 中間検査及び確定検査の実施状況

 貴省は、前記のとおり、契約の履行期間中又は履行後において、中間検査や確定検査を実施することとしており、三菱電機に対しては、23年度に1契約について実施している。貴省の職員は契約の履行中に行った中間検査において、三菱電機の事業所等に赴いて、個別に担当者に説明等を求めていたものの、事前に準備を依頼した帳票類についての突合等を中心に行っていた。また、契約の履行後に行った確定検査においては、事業所等で検査を実施せずに三菱電機から貴省へ送付させた帳票類についての突合等を中心に行っていた。
 帳票類の調査では発見が困難な一重帳簿等による工数付替え等を発見したり、牽(けん)制したりなどするためには、実際に工数計上を行った担当者への聴取、事前通告なしの抜き打ち検査、作業現場に赴いて作業実態、工数計上の手続等を実地に確認する調査(以下「フロアチェック」という。)を行うことが有効と認められるが、貴省は、これらについて行っておらず、三菱電機の過大請求事案に対して適切な中間検査及び確定検査を行っていなかったと認められる。

イ 検査を実施する際の要領等

 貴省は、額の確定のための検査を行うに当たっての作業手順や留意点等をまとめた実施要領である「額の確定検査作業手引き」などにより、中間検査及び確定検査を実施しているが、上記の実施要領等では抜き打ち検査やフロアチェック等を実施することとされておらず、本件過大請求事案のような一重帳簿による工数付替え等には対応できない状況となっている。また、貴省は、検査を実施した際に、検査の実施記録を必ずしも作成していなかったり、作成した記録を全ては保存していなかったりしていた。

(3) 違約金に関する契約条項

 貴省は、前記のとおり、電波資源拡大のための研究開発に関する契約において、過払金等に対して所定の利息を付することができるとする契約条項については設けているが、違約金に関する契約条項については設けていない。
 本来、違約金の条項は、工数付替え等の不正等の行為によって生じた損害の回復を容易にするとともに、工数付替え等の不正等の行為の防止のために設けるものであり、契約相手方が過払金等を受領した日から過払金等を納付するまでの間について所定の利息を付するのみでは、本来の目的である工数付替え等の不正等の行為の防止に十分な効果があるものになっているとは認められず、違約金に関する契約条項を設ける必要があると認められる。
 そこで、国の機関が導入している違約金に関する契約条項をみると、工数付替え等の不正等の行為があった場合は違約金を付さなければならないとして違約金の支払を義務付けたり、違約金の額を過払金の額の2倍の額としたりしていた。

(4) 過大請求事案の把握状況

 貴省の三菱電機による過大請求事案に対する調査依頼の方法について検査したところ、貴省担当者は、三菱電機へ電話による調査依頼をするにとどめていた。そして、三菱電機の調査結果も、過大請求の有無、過大請求額の確認方法等についての報告にとどまっており、過大請求の有無について調査対象とした契約、調査手法等については記載されておらず、これまでに判明している過大請求事案以外の工数付替え等の有無を把握するためには十分なものとはなっていなかった。
 一方、貴省と同様に過大請求事案があった防衛省等は、文書により正式に調査依頼を行っていた。これを受けて、三菱電機は、防衛省等に提出するために、調査対象とした契約、調査手法等について記載した調査報告書の作成に取りかかっている。
 したがって、これまでに判明した過大請求事案以外の過年度の概算契約に対する調査に加えて、確定契約においても工数付替え等の対象となっていなかったのかなどについて調査を徹底する必要があることから、貴省においても、改めて文書により調査依頼を行った上で調査対象とした契約、調査手法等について文書による回答を受領するなど、過大請求の実態の把握のために適切な方策を検討する必要があると認められる。

 (改善を必要とする事態)

 このように、貴省において、額の確定のための検査が適切に実施されていなかったり、工数付替え等の不正等の行為に対する違約金の規定が設けられていなかったりしていることなどから、三菱電機の一重帳簿による過大請求事案には対応できていないなどの事態は適切ではなく、改善の要があると認められる。

 (発生原因)

 このような事態が生じているのは、貴省において、次のことなどによると認められる。

ア 額の確定のための検査において、作業現場の実態の把握や工数計上等の実態の把握が十分でなく、帳票類の確認においても、形式的な確認にとどまっているなど、額の確定のための検査の充実・強化が図られていないこと

イ 工数の付替えを行うことなどを防止するための措置の検討が十分でないこと

ウ 過大請求の実態を把握するための方策の検討が十分でないこと

3 本院が表示する意見

 工数付替え等による過大請求事案の再発防止のためには、工数付替え等の発生原因、背景等を究明し、これに対する有効な対策を講ずることが肝要である。
 ついては、貴省において、電波資源拡大のための研究開発に関する予算の執行のより一層の適正化を図るよう、額の確定のための検査等に関し、次のとおり意見を表示する。

ア 電波資源拡大のための研究開発に関する契約に係る額の確定のための検査に当たっては、自らが検査の項目を選定して直接担当者に確認したり、フロアチェックを実施したり、抜き打ち検査を行ったりするなど、実際の発生工数、原価計算の実態等の把握が行えるよう、検査の手法等を見直すとともに、これを実施要領等に反映させたり、検査が効果的に実施できるような体制を整備したりするなど、額の確定のための検査の充実・強化を図ること

イ 工数付替え等の不正等の行為を防止するために、電波資源拡大のための研究開発に関する契約に違約金に関する契約条項を設けること

ウ 三菱電機に対して、これまでに判明した過大請求事案に加えて、過年度の概算契約及び確定契約における工数付替え等の有無について、文書により調査を徹底するよう求めること