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  • 第3章 個別の検査結果|
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  • 意見を表示し又は処置を要求した事項

地域情報通信技術利活用推進交付金等による事業において、導入された情報通信端末等の設備等の利用に係る事業目標の設定、利用状況の把握、事後評価等を適切に行うとともに、先行して実施された委託事業から得られた参考情報を十分に活用することなどにより、事業の効果が十分に発現されるよう改善の処置を要求したもの


(4) 地域情報通信技術利活用推進交付金等による事業において、導入された情報通信端末等の設備等の利用に係る事業目標の設定、利用状況の把握、事後評価等を適切に行うとともに、先行して実施された委託事業から得られた参考情報を十分に活用することなどにより、事業の効果が十分に発現されるよう改善の処置を要求したもの

会計名及び科目 一般会計 (組織)総務本省 (項)情報通信技術高度利活用推進費
部局等 総務本省
交付の根拠 予算補助
交付金事業者
(事業主体)
道、県5、市町村47、一部事務組合1、連携主体5、第三セクター10、特定非営利活動法人13、計82事業主体
交付金事業 地域情報通信技術利活用推進交付金事業、情報通信技術地域人材育成・活用事業交付金事業
交付金事業の概要 地域の知恵と工夫を生かし、地域の人材を活用して、情報通信技術を導入して活用することにより、地域情報化の推進、地域雇用の創出、地域における公共サービスの向上、地場産業の活性化を図るためのもの
効果が十分発現していない交付金事業数 92事業
上記に係る事業費 48億0838万余円 (平成21年度〜23年度)
上記に対する交付金交付額 47億0968万円  

【改善の処置を要求したものの全文】

 地域情報通信技術利活用推進交付金等による事業の実施状況について

(平成24年10月19日付け 総務大臣宛て)

 標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり改善の処置を要求する。

1 事業の概要

(1) 地域情報通信技術利活用推進交付金事業等

 貴省は、地域の知恵と工夫を生かし、地域の人材を活用して、情報通信技術(以下「ICT」という。)を導入して活用することにより、地域情報化の推進、地域雇用の創出、地域における公共サービスの向上、地場産業の活性化を図るための事業を行う市町村等(以下「事業主体」という。)に対し、平成21年度から23年度までの間に地域情報通信技術利活用推進交付金及び情報通信技術地域人材育成・活用事業交付金を交付している。これらの交付金の交付額は、その事業の実施に要する経費のうち、総務大臣が認める経費について、予算の範囲内で、かつ、事業規模等に応じて5000万円、1億円等の定額を交付することとし、申請額が交付額に満たない場合は、当該差額は交付しないこととしている。そして、当該交付金の交付を受けて事業主体が実施する事業のうち、情報通信端末を導入したり、システムを構築したりなどして事業を行うものには、ユビキタスタウン構想推進事業、ICTふるさと元気事業及び地域雇用創造ICT絆プロジェクトの3事業(以下「交付金事業」という。)があり、その交付額は計404交付金事業で計200億1095万余円となっている。
 これらの交付金の交付手続等については、地域情報通信技術利活用推進交付金交付要綱(平成21年6月29日付け総情地第80号)等によると、次のとおりとなっている。

ア 事業主体は、交付申請時に、ICTの利活用分野、事業の内容、地域の課題及び課題解決に向けたICTの利活用の方法、交付金事業開始以降5年間の各年度の事業目標(数値目標)等を記載した実施計画を貴省に提出し、これを受理した貴省は、実施計画を審査の上、交付決定を行う。

イ 事業主体は、事業完了後に、貴省に実績報告書を提出し、貴省は、当該実績報告書の内容を審査の上、交付額の確定を行う。

ウ 事業主体は、事業完了後に、実施計画に記載された事業目標の達成状況についての事後評価を行い、当該評価の結果を公表するとともに、貴省に報告し、貴省は必要に応じて事業主体に助言を行う。

(2) 地域ICT利活用モデル構築事業

 貴省は、交付金事業が開始される前の19年度から21年度までの間に、地域の具体的提案に基づき設定された課題について、ICTの利活用を通じてその解決を促進するための取組のうち、多くの地域に共通する課題の解決に資するものなどについて、地域ICT利活用モデル構築事業(以下「委託事業」という。)として市町村等に委託(以下、委託事業を受託した市町村等を「受託者」という。)して実施しており、その委託額は計184委託事業で計62億8068万余円となっている。 そして、貴省は、ICTの利活用の普及促進を図るため、委託事業の内容、事業目標の達成状況、実施した事業についての課題や構築したシステムの改修の必要性等が記載された成果報告書等の情報等(以下「参考情報」という。)を自らのホームページ上で公表している。
 また、貴省は、受託者に対して、委託事業の目的を達成するため、成果報告を受けた後も、構築された地域ICTの利活用モデルの運用を行うよう求めるとともに、委託事業終了後5年間は、この運用によって得られた成果について、事後評価を行い、その評価結果を貴省に報告させることにしている。

2 本院の検査結果

 (検査の観点、着眼点、対象及び方法)

 交付金事業は、ICTを導入して活用することにより、所期の目的を達成しようとするものである。 また、交付金事業の事業内容や目的は様々であることから、その目的を達成する時期も、事業完了直後としているものばかりではなく、事業を継続することによって地域が抱える課題の解決につなげるなど一定の期間が経過した後となることが想定されているものもある。一方、ICT分野の技術の進展は他の分野に比べて非常に速く、一定期間が経過すると構築したシステム等が陳腐化してしまう可能性があるなどの特徴がある。これらのことから、交付金事業を実施するに当たっては、一定期間内で事業の効果が得られるよう、導入した情報通信端末等の設備や構築したシステムの利用状況の把握、事後評価等を適切に行うことが重要となる。
 そこで、本院は、有効性等の観点から、多額の交付金によって導入した情報通信端末等の設備や構築したシステムは有効に利用されているか、これら設備等の利用状況は的確に把握されているか、事後評価は適切に行われているかなどに着眼して、145事業主体が21年度から23年度までの間に実施した179交付金事業(交付金交付額計87億3413万余円)を対象に、実施計画、実績報告書等の書類により、会計実地検査を行った。
 また、交付金事業の実施に当たり、委託事業の実施により得られた参考情報が交付金事業の事業主体によって十分活用されているかに着眼して、40受託者が実施した102委託事業(委託額計36億6992万余円)について、事業の実施状況や成果報告書の記述内容等について検査を行った。

 (検査の結果)

 検査したところ、次のような事態が見受けられた。

(1) 導入した情報通信端末等の設備や構築したシステムの利用状況

 前記の179交付金事業により導入した情報通信端末等の設備や構築したシステムの利用状況をみると、82事業主体に係る92交付金事業(事業費計48億0838万余円、交付金交付額計47億0968万余円)において、次のとおり交付金事業の効果が十分発現していない事態が見受けられた(複数の態様に該当する事業があるため、それぞれの態様に係る事業数の合計は上記の交付金事業数と一致しない。)。

ア 導入した情報通信端末等の設備や構築したシステムの利用が低調なもの

65交付金事業(交付金交付額計33億2221万余円)

 実施計画に記載されていた事業目標についてみたところ、導入した情報通信端末等の設備や構築したシステムの利用について、利用回数等の定量的な数値目標を設定していた交付金事業と、定量的な数値目標は設定していなかった交付金事業が見受けられた。そして、定量的な数値目標を設定していた交付金事業において、設定された利用回数や利用者数等の数値目標に対する実際の利用回数や利用者数等の割合(以下「利用割合」という。)をみたところ、利用割合が30%未満と低調となっているものが52交付金事業あった。また、定量的な数値目標を設定していなかった交付金事業においては、導入した情報通信端末等の設備や構築したシステムの実際の利用回数や利用者数等をみたところ、利用実績がほとんどないなど利用が低調となっているものが13交付金事業あった。
 上記について事例を示すと以下のとおりである。

<事例1>

 北海道白老郡白老町は、平成21、22両年度に高齢者が一人でもいきいきと安心・安全に暮らすことができる地域づくりを推進することを目的として、高齢者に操作性を向上させた携帯電話(計70台)を貸与し、携帯電話の機能にある歩数計情報により安否確認を行ったり、音声とメールを活用した買い物宅配サービスを行ったりするなどの高齢者向けの見守り・生活支援システムの構築を事業費6930万余円で実施していた。そして、同町は、実施計画において、22年度の買い物宅配サービスの月間利用件数の目標を150件としていた。しかし、同町は、利用対象者に対して、上記サービスの利用についての意向確認を行っていなかったため、同サービスの月間の利用回数は14件(利用割合9.3%)と低調となっていた。

イ 導入した情報通信端末等の設備や構築したシステムの一部が利用されていないもの

29交付金事業(交付金交付額計13億9820万余円)

 導入した情報通信端末等の設備や構築したシステムを利用することになる関係機関との調整を十分行っていなかったことなどから、それらの一部が完成した当初から利用されておらず、その後においても事態の改善が図られていないものが29交付金事業あった。
 上記について事例を示すと以下のとおりである。

<事例2>

 大阪府泉南市は、平成21年度に市内の小中学校14校から情報発信を行うことなどにより、信頼される学校づくりとともに学校を核とした地域コミュニケーションの構築等を目的として、学校のホームページの作成機能と保護者向けのメール配信機能等から成るシステムの構築を事業費2730万円で実施していた。しかし、14校中5校は、保護者への連絡等は電話等で十分であるとして、保護者向けのメール配信機能を事業完了後から一度も利用していなかったのに、同市は、上記システムの学校ごとの利用状況に対する定量的な数値目標を設定していなかったため、このような事態を把握しておらず、事態の改善に向けた効果的な取組を行っていなかった。

ウ 導入した情報通信端末等の設備の一部が未設置等となっていて遊休しているもの

17交付金事業(交付金交付額計10億0333万余円)

 想定した利用者から導入した情報通信端末等の設備の設置に係る同意が得られなかったことなどから、設備の一部が倉庫等に保管されたまま遊休しているものが17交付金事業あった。
 上記について事例を示すと以下のとおりである。

<事例3>

 富山県射水市は、平成21、22両年度に24時間対応の在宅医療支援が可能となる体制を整備することを目的として、在宅患者宅に病状をリアルタイムで把握できる生体センサ装置を設置し、医療スタッフが病院にいながら在宅患者の健康状態をチェックすることなどができる生体計測システムを事業費7282万余円で構築していた。しかし、同市は、利用対象者に対して、上記の生体センサ装置の設置についての意向確認を行っておらず、生体センサ装置を設置するに当たって利用対象者の同意が得られなかったため、購入した生体センサ装置13台のうち5台が未設置となっていて、倉庫に保管されたまま遊休していた。

エ 導入した情報通信端末等の設備や構築したシステムの利用が全部又は一部休止しているもの

3交付金事業(交付金交付額計1億7635万余円)

 事業完了後に事業の継続が困難となったことなどから、導入した情報通信端末等の設備や構築したシステムの利用が全部又は一部休止しているものが3交付金事業あった。
 上記について事例を示すと以下のとおりである。

<事例4>

 特定非営利活動法人すずらんの会ネットワーク(静岡県沼津市所在)は、平成22年度に市民の健康寿命の延伸等を目的として、市民が歩いた歩数を、配布したIT歩数計700台を用いてウェブサイト上で管理できるようにし、また、歩いた歩数に応じてポイントを付与し、貯まったポイントを地域の特産品等と交換できるようにした健康マネジメントシステムの構築等を事業費5409万余円で実施していた。しかし、同法人は、貯まったポイントと地域の特産品等との交換を行う協力店舗が閉店したことなどから、事業完了日から9か月後の23年12月末に同システムの利用を休止していた。

(2) ニーズ調査の実施状況等

 上記(1)の92交付金事業について、実施計画の策定時におけるニーズ調査の実施状況等をみたところ、次のとおりとなっていた。

ア ニーズ調査の実施状況

 事業主体は、前記のとおり、実施計画に地域の課題及び課題解決に向けたICTの利活用方法を記載することになっている。そして、貴省は、その記載に当たっては、どのように地域のニーズを把握してICTの利活用に反映したのかなどを併せて記載するよう指示している。
 地域のニーズの把握状況についてみたところ、前記92交付金事業のうち73交付金事業(交付金交付額計36億7433万余円)の事業主体は、実施計画の策定に当たり、情報通信端末等の設備やシステムの利用者等に対して、利用するか否かの意向確認、費用負担の額等の具体的な要望把握等のための調査であるニーズ調査を実施していなかった。
 また、ニーズ調査は、事業期間中又は必要に応じて事業完了後においても定期的に行うことによって、システム等の改善点を見いだし、システムを改修するなどして、事業の効果的な実施等に資するために実施するものであるが、前記の92交付金事業の事業主体は、いずれも事業期間中及び事業完了後のニーズ調査をほとんど実施しておらず、ニーズ調査を基にして、事業の効果を発現させるための方策を執っていなかった。

イ 事業目標の設定状況

 事業主体は、前記のとおり、実施計画において交付金事業開始以降5年間の事業目標(数値目標)を記載することになっている。
 前記92交付金事業のうち、導入した情報通信端末等の設備や構築したシステムの利用についての定量的な数値目標を設定していない20交付金事業(交付金交付額計11億4206万余円)の事業主体は、事業の成果を評価する指標として高齢者満足度、売上貢献実績等を設定していた。
 一方、導入した情報通信端末等の設備や構築したシステムの利用についての定量的な数値目標を設定している72交付金事業の事業主体は、上記の設備やシステムを利用する機関数、利用者数等(例えば参加行政機関数、参加医療機関数)、事業全体の利用者数等を把握する数値目標を設定していた。
 しかし、前記92交付金事業の事業主体はいずれも、導入した情報通信端末等の設備や構築したシステムの利用者ごとの利用回数等(例えば一人当たりの災害情報受信回数、一人当たりの遠隔相談件数)、個々の利用状況を把握する数値目標は設定していなかった。

ウ 事後評価の状況等

 事業主体は、前記のとおり、事業完了後に実施計画に記載された事業目標の達成状況についての事後評価を行い、当該評価の結果を公表するとともに、貴省に報告し、貴省は、必要に応じて事業主体に助言を行うこととされている。
 しかし、前記92交付金事業のうち64交付金事業(交付金交付額計30億9780万余円)の事業主体は、事後評価を行っていなかった。また、残りの28交付金事業(交付金交付額計16億1187万余円)の事業主体は、事後評価を行っていたものの、事態を改善するための効果的な方策を執っていなかった。これら28交付金事業のうち、事後評価を外部に公表していたのは6交付金事業のみで、貴省への報告を行っていた事業は2交付金事業のみであった。
 また、前記92交付金事業の事業主体は、前記イのとおり、導入した情報通信端末等の設備や構築したシステムの利用者ごとの利用回数等、個々の利用状況を把握する数値目標を設定していなかったことから、いずれも個々の利用状況について把握していなかった。そして貴省は、これらの事業の実態を十分に把握しておらず、また、事態を改善するために必要な助言をほとんど行っていなかった。
 このように、前記92交付金事業は、前記(1)のように、導入した情報通信端末等の設備や構築したシステムの利用が低調となっているなどしているにもかかわらず、事業主体において、導入した情報通信端末等の設備や構築したシステムの個々の利用状況を的確に把握しておらず、交付金事業を適切に見直して改善させるための処置を執ることが困難な状況となっていると認められた。

(3) 委託事業によって得られた参考情報の活用状況

 検査を実施した前記の102委託事業の事業内容をみたところ、観光、行政、雇用等の各分野についてICTを利活用するものとなっており、これらのICT利活用分野は多岐にわたっていた。 そして、委託事業が実施された利活用分野と前記の92交付金事業が対象としているICT利活用分野とを比較したところ、どのICT利活用分野も交付金事業の実施に当たり参考とすることができる委託事業が実施されていた(表1 参照)。

表1  利活用分野の状況

(単位:事業)
ICT利活用分野 医療 介護 福祉 防犯 防災 行政 産業 農業 雇用 観光 その他
委託事業 16 3 15 10 10 22 13 1 17 24 58
交付金事業(注) 34 12 37 16 25 15 19 16 6 29 21
(注)
複数の分野に該当する事業があるため、それぞれの態様に係る事業の合計は委託事業数102事業及び前記(1)の事業数と一致しない。

 また、委託事業と交付金事業について、同一のICT利活用分野におけるICTの利活用方法について比較すると、いずれの事業においても、安否確認システム、ポータルサイト等の類似のシステムが構築されていたり、テレビ電話、デジタルサイネージ(注) 等の同様な情報通信端末等の設備が導入されていたりしていた。

(注)
デジタルサイネージ  屋外等でネットワークに接続したディスプレイ等の電子的な表示機器を使って情報を発信するシステム

 そして、委託事業の実施状況や貴省が公表している参考情報をみると、交付金事業を効果的に実施するために、システム等の利用が低調となっている原因を分析したり、利用状況を改善させるための方策を検討したりする際に有用となる情報が含まれているものが39委託事業あった。
 しかし、貴省は、交付金事業の実施に当たり、交付金事業で事業主体が実施しようとするICT利活用分野と同一の分野について委託事業を実施した事例があったにもかかわらず、参考情報を活用するよう十分指導していなかったことから、前記92交付金事業の事業主体は、委託事業から得られた参考情報を十分活用して交付金事業を効果的に実施するまでには至っていなかった。
 そして、委託事業は21年度で終了しているものの、貴省は、受託者に対して、成果報告を行った後も、当該事業の運用を行うことを求めていることから、事業主体が受託者から情報提供を受けることができる体制を整備することなどによって、委託事業で得られた成果等を交付金事業に十分に活用する必要があると認められた。
 上記について、交付金事業に活用できると考えられる参考情報の事例を示すと以下のとおりである。

<参考事例>

 島根県仁多郡奥出雲町は、平成20、21両年度に、委託事業により、高齢者宅に多機能テレビ電話を設置し、安心・安全な生活をサポートする事業を委託費7373万余円で実施していた。 そして、同町は、20年度の達成目標として、多機能テレビ電話を毎日利用する設置者の割合を60%以上と設定していたが、当該割合は達成目標を下回る約35%となっていた。そのため、同町が事業実施後に高齢者に対してアンケート調査を行ったところ、多機能テレビ電話を利用していない理由として、「操作がわかりにくい」等の意見が挙げられていたことから、事態を改善させるための効果的な取組が必要であるとして、高齢者にもわかり易い操作マニュアルを作成して高齢者全員に多機能テレビ電話の操作説明を行うなどしたことにより、21年度に多機能テレビ電話を毎日利用する設置者の割合を20ポイント増加させて約55%としていた。

 (改善を必要とする事態)

 以上のとおり、交付金事業の実施に当たり、ニーズ調査の実施、事業目標の設定及び利用状況の把握、事後評価が適切に行われていなかったり、委託事業によって得られた参考情報があるにもかかわらず、交付金事業に十分に活用していなかったりしていたため、多額の国費を投入して導入した情報通信端末等の設備や構築したシステムの利用が低調等となり、交付金事業の効果が十分発現していない事態は適切ではなく、改善の要があると認められる。

 (発生原因)

 このような事態が生じているのは、次のことなどによると認められる。

ア 事業主体において、交付金事業の効果を十分発現させるためには、ニーズ調査の実施、事業目標の設定及び利用状況の把握、事後評価並びに委託事業によって得られた参考情報の活用が重要であることについての認識が十分でなかったこと

イ 貴省において、交付金事業の実態を十分に把握しておらず、効果が十分発現していない事業に対する適切な指導・助言を行っていなかったこと

ウ 貴省において、事業主体に対して、委託事業によって得られた参考情報を十分に活用するよう指導していなかったこと

3 本院が要求する改善の処置

 ICTを導入・活用して事業を行うに当たっては、事業主体は、実施計画を策定する際に、ICTを活用してどのように課題等を解決しようとするのかを十分検討し、利用者に対するニーズ調査を的確に行うこと、また、貴省は、当該実施計画が実効性あるものとなっているかなどを十分審査し、事後評価等を基に必要な助言を行うことが重要である。
 前記のとおり、交付金事業はICT利活用分野が多岐にわたりその利活用の方法も多様なものとなっており、また、ICT分野の技術の進展は他の分野に比べて非常に速いものとなっていることから、事態を改善するための方策は、適時かつ効果的に行う必要がある。
 ついては、貴省において、速やかに交付金事業の実態を的確に把握し、導入した情報通信端末等の設備や構築したシステムの利用が低調となっているなど、効果が十分発現していない交付金事業について、その効果が十分に発現するよう、次のとおり改善の処置を要求する。

ア 事業主体に対して、事態の改善に向けて、ニーズ調査を定期的に実施させたり、導入した情報通信端末等の設備や構築したシステムの利用状況を的確に把握できるような事業目標を設定させてその状況を定期的に把握させたり、事後評価を適切に行わせたりすることが可能となるような取組計画を策定するよう指導するとともに、事業主体に策定させた取組計画を貴省が確認し、必要に応じて指導及び助言すること

イ 事業主体に対して、委託事業によって得られた参考情報を十分に活用してその利用に努めるよう指導するとともに、類似の事業を実施している事業主体間で、交付金事業を実施するに当たって有用な情報を適時かつ効果的に共有し、その交換を容易にする体制を整備すること