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  • 平成23年度|
  • 第3章 個別の検査結果|
  • 第1節 省庁別の検査結果|
  • 第4 法務省|
  • 本院の指摘に基づき当局において改善の処置を講じた事項

刑事施設の被収容者を外部医療機関で受診させる場合に、被収容者の健康に支障を及ぼすなどの特段の事情がない限り、診療点数1点10円の単価により医療費を請求する外部医療機関を受診先とするなど経済性を考慮した選定を行うよう改善させたもの


(1) 刑事施設の被収容者を外部医療機関で受診させる場合に、被収容者の健康に支障を及ぼすなどの特段の事情がない限り、診療点数1点10円の単価により医療費を請求する外部医療機関を受診先とするなど経済性を考慮した選定を行うよう改善させたもの

会計名及び科目 一般会計 (組織)矯正官署 (項)矯正収容費
部局等 法務本省、5刑事施設
刑事施設の被収容者の診療に係る外部医療機関に対する医療費の概要 刑事施設の被収容者を外部医療機関に通院又は入院させた場合に、外部医療機関に対して支払う医療費
 
5刑事施設における外部医療機関に対する医療費の支払額 3億0894万余円 (平成22、23両年度)
上記のうち診療点数の単価が1点10円以外の外部医療機関に対する支払額 1億6472万余円  
上記の支払額と診療点数の単価が1点10円の外部医療機関を選定することとして算定した場合の支払額との開差額 5658万円  

1 刑事施設の被収容者に対する診療等の概要

(1) 刑事施設の被収容者に対する診療

法務省の施設等機関である刑務所、少年刑務所及び拘置所(以下、これらを合わせて「刑事施設」という。)は、被収容者が負傷し、又は疾病にかかったときなどには、刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律(平成17年法律第50号。以下「刑事収容施設法」という。)の規定に基づき、原則として刑事施設内において当該施設の職員である医師等による診療を行い、必要に応じて、被収容者を刑事施設外の病院又は診療所(以下「外部医療機関」という。)に通院させ、やむを得ないときは被収容者を外部医療機関に入院させることができることとなっている。


(2) 被収容者に対する診療に係る医療費

 外部医療機関における被収容者に対する診療は、刑事収容施設法において、刑事施設は、被収容者の健康等を保持するため、適切な保険衛生上及び医療上の措置を講ずると規定されていることから、国の責務として、国の費用により行っている。そして、刑事施設は、被収容者を外部医療機関に通院又は入院させた場合には、当該外部医療機関から医療費の請求を受けて、これを支払っている。
 また、外部医療機関における被収容者の診療は、被収容者本人が、国民健康保険、健康保険等の公的医療保険の被保険者等であるとしても、国民健康保険法(昭和33年法律第192号)、健康保険法(大正11年法律第70号)等の規定に基づき、収容期間中は保険給付を行わないこととされていることなどから、自由診療として行われている。
 このため、外部医療機関は、被収容者に対する診療に係る医療費を自由に算定して請求できるが、実際の医療費の算定については、保険診療(公的医療保険の保険給付として行われる診療をいう。以下同じ。)の場合に倣い、診療報酬の算定方法(平成20年厚生労働省告示第59号)により算定した所定の診療点数に、1点当たりの単価を乗じた額等により行っている。また、この1点当たりの単価については、保険診療の場合は、国民健康保険法、健康保険法等の規定に基づき10円と定められているものの、自由診療の場合は特段の定めがないため、任意に定めている。

2 検査の結果

 (検査の観点、着眼点、対象及び方法)

前記のとおり、外部医療機関における被収容者の診療は自由診療として行われており、自由診療の場合は1点当たりの単価について特段の定めがないことから、被収容者に対する診療については、1点当たり10円のほか15円、20円等の単価により算定した医療費を請求する外部医療機関も見受けられる。
 そこで、本院は、経済性等の観点から、刑事施設が被収容者を外部医療機関で受診させる場合に、外部医療機関により1点当たりの単価に差があることを踏まえた上で外部医療機関を適切に選定しているかなどに着眼して、全77刑事施設のうち22刑事施設(注1) において、平成22、23両年度に支払った被収容者に対する診療に係る医療費を対象として、診療報酬請求書、診療報酬明細書等の書類を確認したり、医務部門の担当者等から外部医療機関の選定方法について聴取したりなどして会計実地検査を行った。


 22刑事施設  青森、秋田、山形、水戸、前橋、千葉、岐阜、岡崎医療、滋賀、大阪、大阪医療、加古川、松江、岡山、松山、大分、沖縄各刑務所、川越、姫路両少年刑務所、東京、大阪、神戸各拘置所

 (検査の結果)

 検査したところ、次のような事態が見受けられた。

5刑事施設(注2) は、22、23両年度における被収容者の診療について、127外部医療機関に対して1,078件、計3億0894万余円の医療費を支払っていた。そして、このうち、106外部医療機関に対しては、保険診療の場合と同様に、診療点数に1点10円の単価を乗じて算定した医療費を支払っていたが、残りの21外部医療機関に対しては、1点10円以外の単価(12円、15円又は20円)を乗じて算定した283件、計1億6472万余円の医療費を支払っていた( 参照)。


 5刑事施設  大阪、大阪医療、松江各刑務所、東京、大阪両拘置所


 5刑事施設における外部医療機関に対する医療費の支払状況

(単位:件、円)

刑事施設名 年度 医療費の支払状況 左のうち1点10円以外の単価により支払っていたもの
外部医療機関数
(注)
件数 支払額 外部医療機関数
(注)
件数 支払額
大阪刑務所 平成22 42 245 45,060,729 3 33 12,395,529
23 51 285 57,138,701 4 38 13,666,991
大阪医療刑務所 22 7 35 16,555,125 2 16 15,112,365
23 6 32 11,290,545 2 13 9,434,775
松江刑務所 22 10 72 13,952,900 1 25 11,817,540
23 11 74 23,713,520 2 31 20,816,550
東京拘置所 22 16 56 33,819,100 5 25 21,107,290
23 14 45 37,325,810 4 20 21,621,610
大阪拘置所 22 23 120 32,438,409 8 43 18,440,959
23 27 114 37,648,141 7 39 20,314,231
小計 22 89 528 141,826,263 15 142 78,873,683
23 98 550 167,116,717 15 141 85,854,157
127 1,078 308,942,980 21 283 164,727,840
 年度間の重複や1医療機関で複数の刑事施設に医療費を請求している事例があるため、各項の外部医療機関数を合計しても小計欄及び計欄の外部医療機関数とは一致しない。

 そして、5刑事施設は、外部医療機関の選定に当たり、当該施設の職員である医師等が診察の結果外部医療機関での診療が必要と判断した者について、医務部門の担当者等が、外部医療機関における当該傷病、症状等に対応する診療科の有無、過去の利用実績、当該患者の受診の可否等を勘案して、適宜選定することにしていた。
 しかし、5刑事施設は、当該傷病、症状等に関して過去に利用実績のある外部医療機関をまず受診先の候補とし、何らかの理由により当該外部医療機関での受診が困難な場合になって初めて、順次、他の外部医療機関に連絡して受診の可否を照会するという方法をとっていた。このため、1点10円以外の単価により医療費を請求する外部医療機関(以下「1点10円以外の単価の外部医療機関」という。)をまず受診先の候補とした場合は、当該外部医療機関での受診が可能であれば、そこで受診させていた。
 このように、5刑事施設は、受診先の候補の選定に当たって、1点当たりの単価を考慮するなどの経済性の検討を行っておらず、また、医務部門の担当者等が把握している外部医療機関に関する情報は、主として、過去に利用実績がある外部医療機関についてのものであり、刑事施設の所在地域での外部医療機関の診療科、1点当たりの単価等に係る情報については組織的に把握していない状況であった。
 一方、被収容者が受診した1点10円以外の単価の外部医療機関での診療内容についてみたところ、特殊な先進医療等ではなく、保険診療でも行われている一般的なものであり、必ずしも当該外部医療機関でなければ受診できない内容ではなかった。また、前記のとおり、5刑事施設が22、23両年度に医療費を支払っていた127外部医療機関のうち、1点10円の単価により医療費を請求する外部医療機関(以下「1点10円の単価の外部医療機関」という。)は106外部医療機関と全体の8割以上を占めているなど、5刑事施設の所在地域には、このほかにも1点10円の単価の外部医療機関が相当程度存在すると思料された。
 そこで、5刑事施設が、1点10円の単価の外部医療機関を選定していたとすると、22、23両年度に1点10円以外の単価により支払った医療費1億6472万余円は、1億0814万余円となり、5658万余円の開差が生ずることになる。
 このように、刑事施設が被収容者を外部医療機関で受診させる場合に、外部医療機関により1点当たりの単価に差があることを踏まえた上で外部医療機関を適切に選定していない事態は適切とは認められず、改善の必要があると認められた。

 (発生原因)

 このような事態が生じていたのは、5刑事施設において、経済性を考慮した外部医療機関の選定を行うことについての認識が十分でなかったことにもよるが、法務省において、刑事施設に対して、被収容者を外部医療機関で受診させる場合に、外部医療機関により1点当たりの単価に差があることを踏まえた上で経済性を考慮して外部医療機関を適切に選定するよう指導していなかったことなどによると認められた。

3 当局が講じた改善の処置

 上記についての本院の指摘に基づき、法務省は、24年9月に刑事施設等に通知等を発して、刑事施設の被収容者を外部医療機関で受診させる場合に、外部医療機関により1点当たりの単価に差があることを踏まえた上で外部医療機関を適切に選定するよう、当該施設の所在地域の外部医療機関の診療科、1点当たりの単価等の調査を行うなどして、外部医療機関のリストを作成し、被収容者の健康に支障を及ぼすなどの特段の事情がない限り、当該リストの中から、1点10円の単価の外部医療機関を選定するなど、経済性を考慮した外部医療機関の選定を行うこととする処置を講じた。