会計名及び科目
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一般会計 (部)雑収入 (款)諸収入 (項)弁償及返納金
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部局等
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外務本省
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債権の概要
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事業が実施されなかったことなどにより発生した返納金債権
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債権管理を適正に行っていなかった返納金の額
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10,929,550円
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外務省は、日本のNGOの支援強化のため、平成14年度から、NGOが開発途上国・地域で実施する経済・社会開発事業等に資金協力を行う日本NGO連携無償資金協力(18年度以前は日本NGO支援無償資金協力)を実施している。同省は、14年度に、特定非営利活動法人アジア戦災孤児救済センター(以下「センター」という。)と贈与契約を締結し、センターがアフガニスタン・イスラム共和国で実施するトラウマ・PTSDに苦しむ戦災孤児支援プロジェクト(以下「孤児支援プロジェクト」という。)及び戦災孤児のトラウマ・PTSD治療のための現地人材育成プロジェクト(以下「人材育成プロジェクト」といい、これらを合わせて「両事業」という。)に対して、表のとおり、計18,553,252円を贈与している。
表 両事業の概要
事業名
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契約年月日
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贈与年月日
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事業実施期間
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贈与額(円)
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孤児支援プロジェクト
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平成14年
12月26日 |
15年
1月14日 |
14年12月
26日から15年 12月25日まで |
9,918,445
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人材育成プロジェクト
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15年
3月20日 |
15年
3月31日 |
15年3月
20日から16年 3月31日まで |
8,634,807
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計
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18,553,252
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そして、両事業の贈与契約書において、贈与した資金が事業の実施期間内に全て使用されずに残余金が生じた場合には、センターは、外務本省の請求に基づいて当該残余金を返還しなければならないこと、資金が適正に使用されなかったことが明らかとなった場合には、契約が解除されることなどが規定されている。
また、外務本省は、それぞれの贈与契約を締結する際に、センターが資金を返還する必要が生じた場合には、その債務を保証する旨の連帯保証書をセンターの当時の事務局長から徴取していた。
外務本省は、15年6月にセンターから提出された孤児支援プロジェクトの中間報告の内容に疑義があったことから、両事業について調査したところ、人材育成プロジェクトについては事業が全く実施されておらず、資金が事業の目的外に使用されるなどしていたことが判明した。
このため、外務本省は、17年6月に、人材育成プロジェクトの贈与契約を解除し、センターに対して贈与額8,634,807円の返還請求を行うこととした。
一方、外務本省は、孤児支援プロジェクトについては、センターから提出された最終報告書等に基づいて、18年5月に、贈与額9,918,445円の残余金を2,294,743円と確定して、当該残余金の返還請求を行うこととした。
このため、外務本省は、センターと返還金の支払方法等について協議し、20年4月に、センターが両事業の返還金の支払義務を認め、返還金を分割して支払うことなどについてセンターと合意したことから、センターからその旨の誓約書の提出を受けていた。
会計法(昭和22年法律第35号)第6条及び国の債権の管理等に関する法律(昭和31年法律第114号。以下「債権管理法」という。)第11条によると、返納金債権が発生したときは、歳入徴収官は、遅滞なく、債務者の住所、氏名、債権金額等を債権管理簿に記載し、歳入の調査決定をして、債務者に対して納入の告知をしなければならないとされている。
また、債権管理法によると、歳入徴収官は、債務者が無資力又はこれに近い状態にあるときなどの場合に限り、債権の履行期限を延長する特約(以下「履行延期の特約」という。)をすることができるとされており(第24条第1項)、履行延期の特約をする場合には、確実な担保が付されている場合等を除き、当該債権について債務名義を取得するため必要な措置を執らなければならないとされている(第26条第2項)。そして、履行延期の特約をする場合には、債権の保全上必要があるときは、債務者又は保証人に対し、その業務又は資産の状況に関して質問し、帳簿書類その他の物件を調査し、又は参考となるべき報告若しくは資料の提出を求めることなどの条件を付することとされている(第27条)。
さらに、歳入徴収官事務規程(昭和27年大蔵省令第141号)第4条等によると、歳入徴収官は、分割して納付させる特約をしている場合においては、納期の到来するごとに当該納期に係る金額について調査決定をしなければならないとされている。
そして、債権管理法第15条によると、歳入徴収官は、履行期限を経過した債権の全部又は一部が、督促後相当の期間を経過してもなお履行されない場合は、保証人に対して履行を請求し、それでも履行されない場合には、法務大臣に対し訴訟手続により履行の請求を求めるなどの措置を講ずることとされている。
外務本省においては、返納金債権が発生した場合、歳入徴収官である会計課長が、会計法、債権管理法等の会計法令に基づき適正な債権管理を行うこととしている。
本院は、合規性等の観点から、外務本省において、会計法令に基づく債権管理が適正に行われているかなどに着眼して、センターに対する両事業の返納金債権を対象として、債権管理簿、契約書等の関係書類を確認するなどの方法により会計実地検査を行った。
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
ア 債権管理の開始時期について
外務本省は、20年4月にセンターから前記の誓約書の提出を受けた後、同年5月1日に、両事業の返還金計10,929,550円を債権管理簿に記載して歳入の調査決定をするとともに、センターに納入告知書を送付していた。
しかし、人材育成プロジェクトについては、贈与契約を解除して贈与額の返還請求を行うこととした17年6月に、孤児支援プロジェクトについては、最終報告書等に基づいて残余金を2,294,743円と確定して残余金の返還請求を行うこととした18年5月に、それぞれ、遅滞なく返納金の額を債権管理簿に記載して歳入の調査決定をし、センターに対して納入の告知を行うべきであった。
イ 債権管理の方法等について
外務本省は、20年4月にセンターから提出を受けた誓約書に基づいて、返納金債権に係る支払を分割納付とする履行延期の特約を行っていた。
しかし、外務本省は、履行延期の特約を行うに当たり、センターの資産状況について改めて調査を行っておらず、債務者が無資力又はこれに近い状態にあるときなど、債権管理法が規定している条件に該当するかについての検討を行っていなかった。また、外務本省は、保証人に対しても資産状況等について調査を行っておらず、債務名義を取得するために必要な措置を執っていなかった。さらに、外務本省は、センターから提出された誓約書に基づいて履行延期の特約をしていたが、当該誓約書には債権管理法で規定されている履行延期の特約に付する条件を記載させていなかった。
そして、外務本省は、20年5月に調査決定を行った際に、分割納付のための納付書を12通作成し、センターに対して一括送付しており、分割納付の納期が到来するごとに調査決定を行っていなかった。
ウ 履行の請求について
センターは、20年4月に外務本省と分割納付に合意してから既に4年以上が経過しているにもかかわらず、一度も返納金の支払をしていなかった。
しかし、外務本省は、センターに対して督促状を送付しているだけで、保証人に対して支払の履行を請求するなどしておらず、センターに対する法的措置が講じられていなかった。
このように、外務本省において、返納金債権が発生しているのに遅滞なく債権管理簿に記載するなどしていなかったり、履行延期の特約を行うに当たって必要な措置を講じていなかったり、督促後相当の期間が経過して債務が全く履行されていないのに保証人に支払の履行を請求していなかったりしているなど、返納金債権10,929,550円について、会計法令に基づく債権管理を適正に行っていない事態は不当と認められる。
このような事態が生じていたのは、外務本省において返納金債権に係る債権管理を会計法令に基づき適正に行うことについての認識が十分でなかったことなどによると認められる。