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誤信使用財産のうち売払い等の処理が進捗していない既存事案について、期限を指定して交渉に当たることとしたり、交渉状況に応じて処理方針を適時適切に見直したりなどすることにより、処理の一層の促進を図るよう改善の処置を要求したもの


(7) 誤信使用財産のうち売払い等の処理が進捗していない既存事案について、期限を指定して交渉に当たることとしたり、交渉状況に応じて処理方針を適時適切に見直したりなどすることにより、処理の一層の促進を図るよう改善の処置を要求したもの

部局等 財務本省
国有財産の分類 一般会計所属 (分類)普通財産 (区分)土地
誤信使用財産の概要 普通財産のうち使用者が自己所有の財産その他自己が正当に使用することができる財産であると誤信したことにより使用が開始されたなどの経緯を有し、売払い等の契約を締結しないまま使用されている土地等
誤信使用財産のうち平成21年度当初の既存事案の件数及び国有財産台帳価格 15,958件
 278億8244万余円  
上記のうち検査の対象とした既存事案の件数及び国有財産台帳価格  1,745件
28億5154万余円  
上記のうち売払い等の交渉の各段階で3か月以上滞留していて処理が進捗していないと認められる既存事案の件数及び国有財産台帳価格  1,132件
20億9530万円  

【改善の処置を要求したものの全文】

 誤信使用財産のうち既存事案の売払い又は貸付けの処理促進について

 (平成24年7月11日付け 財務大臣宛て)

 標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり改善の処置を要求する。

1 誤信使用財産のうち既存事案の概要

(1) 誤信使用財産の概要

 国有財産は、国の行政目的に直接供用される行政財産とそれ以外の普通財産に分類されている。 このうち、普通財産は売払い、貸付け等の対象となる財産であり、その管理又は処分は国有財産法(昭和23年法律第73号)により原則として財務大臣が行うこととなっている。

 普通財産の中には、使用者が自己所有の財産その他自己が正当に使用することができる財産であると誤信したことにより使用が開始されたなどの経緯を有し、売払い又は貸付け(以下「売払い等」という。)の契約を締結しないまま使用されている土地等(以下「誤信使用財産」という。)がある。
 誤信使用財産には、次のようなものがあり、それぞれの歴史的経緯から貴省が管理する至ったものである。

ア 国有畦(けい)畔

 主として田畑等の耕地間に存在する「あぜ」や「法(のり)」で、公図上二本の狭長線で表されている、いわゆる二線引畦畔をいう。 二線引畦畔は、明治初年の地租改正時に課税の対象から除くなどのために民有地とされなかった傾斜地等であり、公図上いずれの者にも属さない無番地(脱落地)であることから、国有財産とされている。

イ 法定外公共物

 道路法(昭和27年法律第180号)、河川法(昭和39年法律第167号)等の適用を受けない里道、水路等の国土交通省等が所管する公共用財産が用途廃止された後に、貴省が引き受けたものをいう。

(2) 誤信使用財産の管理又は処分

 貴省は、平成13年3月に「誤信使用財産取扱要領」(平成13年財理第1267号財務省理財局長通達)を発して、誤信使用財産の取扱方針を定めて売払い等を行ってきていた。その後、誤信使用財産の管理又は処分をより適切に行うため21年2月に「誤信使用財産に係る既存事案の処理促進について」(平成21年財理第666号財務省理財局長通達。以下「促進通達」という。)を発して、誤信使用財産取扱要領と併せて誤信使用財産の売払い等の取扱いを定めている。
 そして、促進通達等によると、20年4月以降に使用者等の申請により売却等の要請を受けた誤信使用財産については速やかに処理することとされている一方、これ以外の財産(以下「既存事案」という。)については、21年度から23年度までを対象年度とする第1次の処理計画(以下「第1次計画」という。)と、24年度から26年度までを対象年度とする第2次の処理計画を作成し、原則としてこの6年間で処理を行っていくこととされている。
 また、既存事案については、売払い等の可能性が高いものなどを優先的に処理するため、登記の有無等による財産の特定状況等を勘案して、誤信使用財産を占使用していることが確認された者(以下「占使用者」という。)に対し、次のような事務処理を順次行うこととされている。

〔1〕 買受け又は借受け(以下「買受け等」という。)の意思の確認(以下「買受け等の意思確認」という。)を行うために占使用者と交渉を行う。

〔2〕 買受け等の意思確認の結果、買受け等の意思が示された場合、速やかに概算価格又は概算貸付料(以下「概算価格等」という。)を提示したうえで買受け等の勧奨(以下「買受け等の勧奨」という。)を行う。

〔3〕 買受け等の勧奨の結果、合意が得られた場合、売払い等を行う。

 そして、買受け等に応じない占使用者については、第1次計画期間中は交渉を継続することとされていて、特に悪質な占使用者については必要に応じて損害賠償の訴えを提起することとされているが、促進通達等においては交渉の期限を設定することについては明示されていない。 また、実際の売払い等に当たっては、促進通達等に定められた評価により売払い等を行うこととされ、併せて既往の使用料(以下「既往使用料」という。)を最長10年分徴することとされている。
 21年度当初の既存事案は、表1 のとおり15,958件(国有財産台帳価格278億8244万余円)となっており、財務(支)局、沖縄総合事務局、財務事務所、出張所等(以下「財務局等」という。)は、このうち5,740件について第1次計画期間中に交渉を行うとしている。

表1 平成21年度当初の既存事案の状況
(単位:件、千円)

財務局等 件数 国有財産台帳価格
北海道財務局 2,519 899,755
東北財務局 1,046 1,246,441
関東財務局 6,766 18,328,154
北陸財務局 172 111,64
東海財務局 1,458 1,465,950
近畿財務局 1,332 3,203,075
中国財務局 484 593,903
四国財務局 1,318 1,071,677
九州財務局 143 152,186
福岡財務支局 614 578,392
沖縄総合事務局 106 231,746
15,958 27,882,447
(注)
 上記の件数、国有財産台帳価格には、各財務局等管内の財務事務所等が管理している事案を含む。

2 本院の検査結果

 (検査の観点、着眼点、対象及び方法)

 本院は、誤信使用財産について、平成11年度決算検査報告において、「特に掲記を要すると認めた事項」として、「契約未済財産の管理及び処分について 」を掲記し、適切な財産管理及び処分の在り方について検討し、事態の改善が図られるよう注意を喚起した。そして、貴省は前記のとおり促進通達等を定めて、既存事案の売払い等の取扱いを定めている。そこで、本院は、効率性等の観点から、促進通達等で定められた事務処理方法は既存事案の処理促進に当たって、効率的に機能しているかなどに着眼して、55財務局等(注1) が管理している21年度当初の既存事案13,594件(国有財産台帳価格255億6432万余円)のうち、第1次計画期間中の23年9月末までに買受け等の意思確認を行うための交渉を行った1,745件(国有財産台帳価格28億5154万余円)を対象として検査を実施した。
 検査に当たっては、8財務(支)局、沖縄総合事務局、21財務事務所(注2) 及び6出張所(注3) において、既存事案の処理の進行管理状況を記した書類等により会計実地検査を行うとともに、残りの11財務事務所及び8出張所等については、既存事案の処理状況等に関する調書等の提出を受け、その内容を確認するなどの方法により検査を行った。

(注1)
55財務局等  北海道、関東、北陸、東海、近畿、中国、九州各財務局、福岡財務支局、沖縄総合事務局、函館、旭川、釧路、帯広、水戸、宇都宮、前橋、千葉、東京、横浜、新潟、甲府、長野、富山、福井、岐阜、静岡、津、大津、京都、神戸、奈良、和歌山、鳥取、松江、岡山、山口、佐賀、長崎、大分、宮崎、鹿児島各財務事務所、小樽、北見、立川、横須賀、沼津、舞鶴、倉敷、呉、下関、名瀬、小倉、佐世保各出張所、宮古、八重山両財務出張所
(注2)
21財務事務所  函館、釧路、前橋、千葉、新潟、甲府、長野、富山、福井、岐阜、静岡、大津、京都、神戸、奈良、和歌山、鳥取、松江、佐賀、長崎、鹿児島各財務事務所
(注3)
6出張所  立川、舞鶴、呉、下関、小倉、佐世保各出張所

(検査の結果)

 検査したところ、次のような事態が見受けられた。

(1) 売払い等の進捗状況

 促進通達に定める事務処理方法により、買受け等の意思確認を行うための交渉を行った既存事案1,745件について売払い等の処理状況をみると、21年4月から23年9月末までに売り払われたものが352件(国有財産台帳価格3億6182万余円)、貸し付けられたものが34件(同7124万余円)、計386件(同4億3306万余円)となっていた。
 一方、残りの1,359件(国有財産台帳価格24億1848万余円)については、23年9月末現在において売払い等が行われておらず、交渉の進捗状況は表2 のとおりとなっていた。

表2  売払い等に係る交渉の進捗状況について(平成23年9月末現在)
交渉の段階 売払い・貸付けの方針の別(当初) 件数 国有財産台帳価格 3か月以上経過している件数 左のうち売払いから貸付けへ方針変更した件数
買受け等の意思確認の結果、意思が示されず交渉継続となっている段階 売払い
351
千円
578,219

303

1
貸付け 12 30,935 1
363 609,155 314 1
買受け等の意思確認の結果、意思が示された段階 売払い 585 1,194,586 542 2
貸付け 4 5,764 4
589 1,200,350 546 2
買受け等の勧奨を行った段階 売払い 392 596,228 335 11
貸付け 15 12,747 15
407 608,975 350 11
売払い 1,328 2,369,003 1,180 14
貸付け 31 49,447 30
1,359 2,418,480 1,210 14

 これらの進捗状況を交渉の段階ごとにみると次のとおりとなっており、交渉の各段階で3か月以上にわたり滞留しているものが多数見受けられた。

ア 買受け等の意思確認の結果、買受け等の意思が示されていないものが363件あり、このうち314件は3か月以上にわたりこの交渉の段階で滞留している状況となっていた。

イ 買受け等の意思確認の結果、買受け等の意思が示されたものの買受け等の勧奨を行うに至っていないものが589件あり、このうち546件は3か月以上にわたりこの交渉の段階で滞留している状況となっていた。

ウ 買受け等の勧奨を行ったが、売払い等の契約を締結するに至っていないものが407件あり、このうち350件は3か月以上にわたりこの交渉の段階で滞留している状況となっていた。

 そして、交渉の各段階で3か月以上滞留している既存事案は、55財務局等のうち横須賀、下関、佐世保各出張所及び宮古財務出張所を除いた51財務局等(以下「51財務局等」という。)が管理している1,210件となっていて、これらの財務局等においては交渉の各段階で期限を特に設定していなかった。
 また、財務局等は、早期に歳入を確保するなどのため、原則として売払いの交渉を貸付けの交渉に優先して行っており、合意が得られない場合に、売払いから貸付けへ方針を変更することにしているが、それぞれの交渉の段階で3か月以上滞留している既存事案で、当初、売払いの方針であった1,180件について、貸付けに方針を変更しているものは14件にすぎなかった。

(2) 売払い等に至っていない理由

 前記の1,210件について、交渉の各段階で3か月以上滞留している理由をみると、表3 のとおり、占使用者が買受け等しない理由を表明していないもの(以下「理由不表明」という。)が658件と最も多く、このほかに占使用者の資力不足が193件などとなっていた。

表3  交渉の段階で3か月以上滞留している理由について
(単位:件)

交渉の段階 理由
理由不表明 占使用者の資力不足 占使用者が国有地の存在又は使用を否定 概算価格等が不満 滞留している理由がやむを得ないと認められるもの その他
買受け等の意思確認の結果、意思が示されず交渉継続となっている段階 191 46 18 0 16 43 314
買受け等の意思確認の結果、意思が示された段階 330 69 41 0 33 73 546
買受け等の勧奨を行った段階 137 78 8 30 29 68 350
658 193 67 30 78 184 1,210
(注)
 滞留している理由がやむを得ないと認められるものは、隣地を所有する第三者との間で土地境界が確定していないなど占使用者以外の第三者に起因する理由等によるものである。

 また、前記のとおり、買受け等の意思確認の結果、買受け等の意思が示された後に、買受け等の勧奨を行うに至っていないものが多数見受けられたことについては、占使用者による意思の表示の多くが文書によらず口頭で行われていたことから、一度は買受け等の意思が示されていて財務局等が買受け等の勧奨を行おうとしているのに、占使用者が理由を明確にせずに概算価格等の提示に難色を示したり、資力が不足していることを申し立てたりなどしていることによるものであった。
 さらに、当初、売払いの方針で交渉を行っている既存事案のうち、占使用者が資力の不足や概算価格等への不満を申し立てている場合には、財務局等において、売払いから貸付けに方針を変更する必要があるが、ほとんどの事案について、方針を変更していなかった。

(3) 国有財産台帳に登載されてからの経過年数等

 前記の1,210件について、国有財産台帳に登載された日から20年度末までの経過年数をみると、10年未満のものは193件、10年以上20年未満のものは264件、20年以上のものは753件となっていて、ほとんどのものが既往使用料を徴収することとされている最長の期間である10年を超えていることからこれらの債権を保全する必要があったが、財務局等は、占使用者から債務確認書の提出を求めるなどの措置を執っていなかった。
 このように、交渉の各段階で3か月以上滞留している前記の1,210件の既存事案のうち、滞留している理由が境界確定に時間を要しているなど占使用者以外の第三者に起因する理由でやむを得ないと認められる78件を除いた51財務局等の1,132件(国有財産台帳価格20億9530万余円)については、交渉の各段階で長期間滞留することがないよう、占使用者との売払い等の交渉を進捗させるための適切な措置を執る必要があると認められる。

 (改善を必要とする事態)

 以上のとおり、既存事案の売払い等の処理が交渉の各段階で長期間滞留していて進捗していない事態は適切ではなく、改善の要があると認められる。

 (発生原因)

 このような事態が生じているのは、貴省において、既存事案の売払い等のための交渉に当たり買受け等の意思確認を文書により行っていなかったり、交渉の段階ごとに期限を設定していなかったり、売払いから貸付けへの方針の変更を行っていなかったり、貸付契約に応じない占使用者に対して債務確認書の提出を求める措置を執っていなかったりなどしていたことによると認められる。

3 本院が要求する改善の処置

 貴省は、促進通達を発して既存事案について優先順位を付するなどして処理促進を図ってきたところであるが、既存事案は、国有財産が契約のないまま長期にわたり占使用されていることから、できるだけ速やかに売払い等の処理を行う必要がある。
 ついては、貴省において、既存事案の売払い等の処理が、交渉の各段階で長期間滞留することなく、一層促進されるよう次のとおり改善の処置を要求する。

ア 既存事案の売払い等のための交渉に当たり、買受け等の意思確認を文書等により行うこと、交渉の各段階についてそれぞれ期限を設定すること、売払いから貸付けへの方針の変更を適時適切に行うこと、貸付契約に応じない占使用者に対して既往使用料に係る債務確認書の提出を求める措置を執ることなどについて促進通達等を改正して財務局等に周知するとともに、必要な事務処理態勢を整備すること

イ 交渉の各段階で長期間滞留している既存事案について、アにより改正された促進通達等に基づき、処理促進を図るよう財務局等を指導するとともに、交渉の進捗状況の確認を行うこと

【当局が講じた処置】

 本院は、財務本省において、その後の処置状況について会計実地検査を行った。
 検査の結果、財務省は、本院指摘の趣旨に沿い、誤信使用財産のうち既存事案の処理の一層の促進を図るために、次のような処置を講じていた。

ア 24年7月までに交渉の各段階でそれぞれ期限を設定することなどについて促進通達等を改正して財務局等に周知するとともに、既存事案の処理を行うために必要な人員の再配置を行ったり、既存事案を専門に担当する職員を任命したりするなど必要な事務処理態勢を整備した。

イ 24年7月までに交渉の各段階で長期間滞留している既存事案について、会議を開催するなどして処理促進を図るよう財務局等を指導するとともに、財務局等から報告を受けて交渉の進捗状況の確認を行った。