租税特別措置は、特定の企業等の税負担を軽減することなどにより特定の政策目的を実現するなどのための手段であり、中小企業者に適用される租税特別措置には、中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例等、大企業が対象外となっている特別措置や、試験研究を行った場合の法人税額の特別控除等、大企業にも適用があるが中小企業者に対する適用においては更に優遇されることになる特別措置がある。 これらの租税特別措置は、中小企業者が投資を行った場合に、税負担を軽減させて、地域経済の柱となり雇用の大半を担っている財務状況がぜい弱な中小企業者の資金繰りの改善を図ることなどを目的として設けられている。 しかし、大企業の平均所得金額を超えるなど多額の所得を得ていて財務状況がぜい弱とは認められない中小企業者が、中小企業者に適用される租税特別措置の適用を受けている事態が見受けられた。 一方、財務省及び経済産業省において、中小企業者に適用される租税特別措置についての中小企業者の所得の状況からみた効果の検証がなされていなかった。
したがって、財務省及び経済産業省において、中小企業者に適用される租税特別措置の適用範囲について検討するなどの措置を講ずるよう、財務大臣及び経済産業大臣に対して平成22年10月に、会計検査院法第36条の規定により意見を表示した。
本院は、財務本省及び経済産業本省において、その後の処置状況について会計実地検査を行った。
検査の結果、財務省及び経済産業省は、本院指摘の趣旨に沿い、中小企業者に適用される租税特別措置の適用範囲について検討するために、次のような処置を講じていた。
ア 財務省は、本院が表示した意見を税制調査会に示して、税制調査会はこれを検討事項としていた。 そして、税制調査会で検討が行われた結果、平成23年度税制改正大綱(平成22年12月16日閣議決定)において、経済産業省が中小企業者に適用される租税特別措置の適用実態を精査した上で、24年度税制改正において更に検討することとされた。
イ 経済産業省は、当該大綱を受けて、中小企業者に適用される租税特別措置の効果の検証を行うために、23年6月から8月にかけて、所得の状況からみた中小企業者の実態、中小企業者に適用される租税特別措置の利用状況等の調査を行い、この調査結果を踏まえて、租税特別措置の適用実態を精査するとともに、中小企業者に適用される租税特別措置の内容を検討して、その結果を同年11月に税制調査会に報告した。 また、財務省は、当該検討結果について確認等を行った。
そして、この検討結果に基づく税制調査会での議論を踏まえて、平成24年度税制改正大綱(平成23年12月10日閣議決定)において、中小企業者に適用される租税特別措置の適用範囲の見直しについては、企業の予測可能性にも留意しつつ、所得金額のみならず、各種指標による中小企業者の定義付けの可能性も含めて、その在り方について引き続き検討することとされた。