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独立行政法人日本スポーツ振興センターが運用型の基金として設置しているスポーツ振興基金の有効活用を図るよう意見を表示したもの


(2) 独立行政法人日本スポーツ振興センターが運用型の基金として設置しているスポーツ振興基金の有効活用を図るよう意見を表示したもの

部局等 文部科学本省
検査の対象 文部科学本省
独立行政法人日本スポーツ振興センター(平成15年9月30日以前は日本体育・学校健康センター)
設置根拠法 独立行政法人日本スポーツ振興センター法(平成14年法律第162号)、日本体育・学校健康センター法(昭和60年法律第92号。平成15年10月1日廃止)
スポーツ振興基金の概要 運用益をスポーツの振興のための継続的・安定的な財源とするため、平成2年度に独立行政法人日本スポーツ振興センターが、政府出資金の250億円に民間からの出えん金を加えて設置した運用型の基金
上記基金の資金保有額
294億6370万余円
(平成23年度末)

上記資金保有額のうち政府出資金の額
250億円
(平成23年度末)

【意見を表示したものの全文】

 スポーツ振興基金の有効活用について

(平成24年9月27日付け 文部科学大臣宛て)

 標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり意見を表示する。

1 スポーツ振興基金等の概要

(1) スポーツ振興基金の概要

 貴省は、ソウルオリンピック等の国際的な競技大会において、我が国の成績が不振であったことなどを受け、スポーツの振興のための継続的・安定的な財源とするため、平成2年度に独立行政法人日本スポーツ振興センター(15年9月30日以前は日本体育・学校健康センター。以下「センター」という。)に250億円を出資した。そして、センターは、これに民間からの出えん金を加えて運用型の基金としてスポーツ振興基金(以下「振興基金」という。)を設置し、その運用益をスポーツの振興のために活用している。
 19事業年度から23事業年度までの間の各事業年度末の振興基金の資金保有額は、表1 のとおりであり、23事業年度末では294億6370万余円となっている。

表1  振興基金の資金保有額等の推移
(単位:千円)

区分\事業年度末 平成19 20 21 22 23
政府出資金 25,000,000 25,000,000 25,000,000 25,000,000 25,000,000
民間出えん金 4,454,820 4,457,787 4,460,270 4,462,323 4,463,701
振興基金の資金保有額 29,454,820 29,457,787 29,460,270 29,462,323 29,463,701

(2) スポーツ振興基金助成の概要

 センターは、国のスポーツ振興施策の一環として、我が国のスポーツの競技水準の向上、地域におけるスポーツ環境の整備等を図るため、「独立行政法人日本スポーツ振興センター法」(平成14年法律第162号。以下「センター法」という。)等の規定に基づき、スポーツ振興基金助成(以下「基金助成」という。)、スポーツ振興くじ助成等の助成業務を行っている。
 このうち基金助成は、振興基金の運用益と民間からの寄附金等を財源として、スポーツ団体(スポーツの振興のための事業を行うことを主たる目的とする団体をいう。以下同じ。)、選手・指導者等が行う以下の四つのスポーツ活動を対象として、活動資金の支給その他の援助を行うものである。
〔1〕 スポーツ団体選手強化活動 スポーツ団体が行うスポーツに関する競技水準の向上を図るために計画的かつ継続的に行う合宿その他の活動
〔2〕 スポーツ団体大会開催 スポーツ団体が行う国際的又は全国的規模のスポーツの競技会、研究集会又は講習会の開催
〔3〕 選手・指導者スポーツ活動 優秀なスポーツの選手又は指導者が行う競技技術の向上を図るための活動等
〔4〕 国際的に卓越したスポーツ活動 国際的に卓越したスポーツの活動を行う計画を有する者が行う活動

(3) スポーツ振興くじ助成の概要

 センターは、12事業年度から、センター法の規定に基づき、「スポーツ振興投票の実施等に関する法律」(平成10年法律第63号)に規定するスポーツ振興投票に関する業務を行っている。スポーツ振興投票は、サッカーの複数の試合の結果について、あらかじめ発売されたスポーツ振興投票券(いわゆる「toto」。以下「スポーツ振興くじ」という。)による投票を行い、当該投票とこれらの試合の結果との合致の割合が文部科学省令で定める割合に該当したスポーツ振興くじを所有する者に対して、当該割合ごとに一定の金額を払戻金として交付するものである。
 そして、センターは、センター法等の規定に基づき、14事業年度から、スポーツ振興投票の収益(注) をもって、地方公共団体又はスポーツ団体による〔1〕 地域におけるスポーツの振興を目的とする事業を行うための拠点として設置する施設の整備、〔2〕 当該施設において行うスポーツの振興を目的とする事業等を対象として、スポーツ振興くじ助成を行っている。
 センターは、スポーツ振興投票に係る収益の3分の1に相当する金額を国庫に納付し、残りの3分の2に相当する金額をスポーツ振興投票事業準備金(以下「助成準備金」という。)として整理しなければならないこととされており、スポーツ振興くじ助成は、この助成準備金を財源として行われている。

 スポーツ振興投票の収益  売上金額(発売金額から返還金(開催試合数が規定の数に達しなかった場合等に発売されなかったとされたスポーツ振興くじの券面金額をスポーツ振興くじの購入者に返還する金額)を控除した金額)の50%(平成17年3月までは53%)、払戻金等の債権のうち1年間請求がなく時効となった額等の合計金額から運営費の金額を控除した金額

2 本院の検査結果

 (検査の観点、着眼点、対象及び方法)

 近年の我が国の厳しい財政状況下において、独立行政法人については、事業の見直しや効率化とともに、保有資産の規模の見直しや不要な資産の国庫返納等の検討が求められている。
 このような状況を踏まえ、本院は、有効性等の観点から、振興基金が設置の趣旨に沿って適切に運用されているか、振興基金の規模や必要性等が適時適切に検証されているかなどに着眼して、貴省及びセンターにおいて、振興基金の運用状況、基金助成の状況等について、各種助成に係る実績報告書、関係帳票等を確認するなどの方法により会計実地検査を行った。

 (検査の結果)

 検査したところ、次のような事態が見受けられた。

(1) 振興基金の運用状況

 前記のとおり、貴省は、2年度にセンターに250億円を出資した。そして、センターは、これに民間からの出えん金を加えて振興基金を設置し、その運用益を財源として基金助成を行っている。2事業年度から23事業年度までの間の振興基金の運用益等の状況は、表2 のとおりとなっていた。

表2 振興基金の運用益等の状況
(単位:千円、%)

区分\事業年度 平成2 3 4 5 6 7 8 9
運用益 523,598 1,770,101 1,364,651 1,137,329 803,234 1,029,823 959,384 779,974
事業年度末振興基金の資金保有額 25,210,000 26,990,283 28,031,330 28,708,387 29,113,184 29,311,597 29,401,169 29,411,206
運用利回り 8.31 7.02 5.06 4.06 2.80 3.54 3.27 2.65

区分\事業年度 10 11 12 13 14 15 16 17
運用益 847,843 847,287 849,526 672,142 669,770 685,876 680,343 626,468
事業年度末振興基金の資金保有額 29,440,368 29,440,378 29,440,404 29,441,546 29,444,625 29,447,206 29,448,627 29,450,366
運用利回り 2.88 2.88 2.89 2.28 2.27 2.33 2.31 2.13

区分\事業年度 18 19 20 21 22 23
運用益 557,807 593,500 579,169 592,883 644,579 644,327
事業年度末振興基金の資金保有額 29,452,629 29,454,820 29,457,787 29,460,270 29,462,323 29,463,701
運用利回り 1.89 2.02 1.97 2.0 2.19 2.19
(注)
 運用利回り(%)=当該事業年度振興基金運用益÷前事業年度末振興基金の資金保有額×100で算出(平成2事業年度は、振興基金が設置された2年12月から翌年3月末までの間の運用益を年間利回りに換算したものである。)

 振興基金の運用が開始された2事業年度当時は、いわゆるバブル経済期に当たり、8%を超える運用利回りとなっていたが、ここ数年は2%前後で推移しており、運用益は、最多であった3事業年度の17億7010万余円から23事業年度にはその約3分の1の6億4432万余円にまで減少している。

(2) 基金助成の状況

 2事業年度から23事業年度までの間の基金助成の状況は、表3 のとおりとなっており、助成総額は、162億0154万余円と多額となっていて、基金助成はこれまでスポーツの振興に大きな役割を果たしてきた。そして、この助成総額162億0154万余円のうち、貴省がセンターに出資した250億円の運用益から充当された額は、128億9222万余円となっている。
 一方、事業年度ごとの助成額をみると、前記のとおり、運用益が減少したことに伴い、最多であった3事業年度の13億5100万余円から23事業年度には7億3927万余円にまで減少しており、上記の250億円の運用益から充当された額も3事業年度の12億3243万余円から23事業年度にはその半分以下の5億4147万余円にまで減少している。なお、貴省がセンターに出資した250億円は、上記の23事業年度に250億円の運用益から充当された額5億4147万余円の約46年分に相当することになる。

表3 基金助成の状況
(単位:千円)

スポーツ活動助成
事業年度
スポーツ団体選手強化活動助成   スポーツ団体大会開催助成 選手・指導者スポーツ活動助成 国際的に卓越したスポーツ活動助成

うちコーチ強化研修等に対する助成 振興基金の運用益等を財源とするもの 助成準備金を財源とするもの
平成2 181,539 6,800   
188,339
〈186,220〉

3 463,001 14,139 510,280 327,727    50,000
1,351,008
〈1,232,434〉

4 452,167 21,303 411,832 309,150    45,000
1,218,149
〈1,065,450〉

5 271,493 32,842 342,456 342,859    33,000
989,808
〈848,244〉

6 259,753 15,869 309,337 271,215    10,000
850,305
〈598,930〉

7 272,982 22,350 292,699 289,890    20,000
875,571
〈742,497〉

8 245,258 18,984 289,216 259,717   
794,191
〈669,641〉

9 250,928 21,594 274,095 270,975    16,000
811,998
〈580,379〉

10 227,975 17,774 258,736 257,415    4,000
748,126
〈621,564〉

11 208,248 16,580 279,737 314,808    4,000
806,793
〈629,934〉

12 232,967 17,171 255,088 308,995      
797,050
〈599,651〉

13 236,088 16,731 273,012 345,124    5,000
859,224
〈502,990〉

14 255,450 スポーツ振興くじ助成に移行 234,612 63,600 311,689
553,662
〈442,570〉

15 238,849 238,778 79,860 276,732 5,000
562,487
〈450,248〉

16 156,627 97,450 287,353 助成停止
541,430
〈430,865〉

17 79,604 104,384 371,252
555,250
〈440,015〉

18 86,456 104,730 376,967
568,153
〈446,269〉

19 73,692 108,033 346,318
528,043
〈415,012〉

20 124,976 105,650 348,651
579,277
〈461,885〉

21 245,976 248,550 56,100 339,427
550,626
〈443,404〉

22 261,164 263,659 207,953 402,424
732,776
〈542,529〉

23 372,641 226,593 140,045 617,385
739,279
〈541,477〉

助成総額 5,197,834 215,337 5,228,937 5,582,776 1,947,657 192,000
16,201,547
〈12,892,220〉

注(1)  「選手・指導者スポーツ活動助成」欄のうち「助成準備金を財源とするもの」については外数である。
注(2)  「計」欄の〈 〉書きは、250億円の運用益から充当された額であり、内数である。振興基金の運用益から充当された基金助成額を250億円と民間からの出えん金の額の比率で案分して算出した。
注(3)  各事業年度の「計」欄の額と前記表2 の振興基金の運用益の額に差があるのは、基金助成の財源が振興基金の運用益と民間からの寄附金等によっていたり、振興基金の運用益等が基金助成の他に事務費にも充てられていたりすることなどによるものである。

 また、上記表3 の四つのスポーツ活動に対する助成のうち、スポーツ団体大会開催助成を除く各助成は、次のような状況となっていた。
〔1〕 スポーツ団体選手強化活動助成について事業年度から、助成の対象であったコーチ強化研修等のスポーツ活動がスポーツ振興くじ助成に移行していた。
〔2〕 選手・指導者スポーツ活動助成については、14、15、21、22、23各事業年度においては、その財源の一部がスポーツ振興投票の収益による助成準備金から充当されていた。
〔3〕 国際的に卓越したスポーツ活動助成については、16事業年度から停止されていた。

(3) スポーツ振興投票の運営状況

 本院は、19年6月に、センターが行っているスポーツ振興投票について国会からの検査要請を受け、20年9月に、「独立行政法人日本スポーツ振興センターにおけるスポーツ振興くじの実施状況について 」として、その検査結果を報告している。そして、この報告において、センターが発売するスポーツ振興くじの売上げが当初の目標を下回り、その収益を財源としたスポーツ振興くじ助成も少額にとどまっていたり、多額の繰越欠損金を抱えていたりなどしていた中で、18年9月に、最高当せん金が6億円の「BIG」の発売が開始されたことにより、売上げが急速に回復しつつあったことなどを踏まえ、繰越欠損金をできる限り早期に解消するとともに、国庫納付を着実に行いながら、スポーツの振興のために必要な資金を確保して、もってスポーツの振興に寄与するという制度本来の目的の達成に努めることが肝要であるとしたところである。
 その後のスポーツ振興投票の売上金額等の推移を見ると、表4 のとおり、19事業年度の売上金額は18事業年度の約5倍に増加し、それ以降も順調に推移しており、20事業年度には繰越欠損金の解消を果たすとともに、スポーツ振興くじ助成の助成額も大きく伸びている。

表4 スポーツ振興投票の売上金額等の推移
(単位:千円)

科目\事業年度 平成18 19 20 21 22 23

売上金額

13,470,999 63,711,847 89,741,423 78,547,151 84,811,945 82,673,843
収益 145,276 2,183,293 18,388,537 24,054,172 24,208,840 24,338,917
国庫納付額 48,425 727,764 6,129,512 8,018,057 8,069,613 8,112,972
助成準備金繰入額 96,851 1,455,529 12,259,025 16,036,114 16,139,639 16,225,945
繰越欠損金 26,417,653 9,551,299
スポーツ振興くじ助成の助成額 110,847 78,500 949,102 5,705,426 8,575,166 12,781,034
基金助成の助成額(前表3 より再掲) 568,153 528,043 579,277 550,626 732,776 739,279

(4) スポーツ振興くじ助成に係る特定目的資金の設置

 センターは、22年3月に、スポーツ振興投票の収益による助成を継続的・安定的に実施するための財源の確保を目的として、「スポーツ振興投票の収益をもって充てる助成財源に係る特定目的資金の設置に関する要綱」(平成22年3月平成21年度要綱第16号)等を定め、助成準備金に計上する金額のうち、一定額について、資金の使途を明確にした特定目的資金として確保することとして、〔1〕 国際競技大会等助成資金、〔2〕 継続事業助成資金、〔3〕 東日本大震災復興支援資金(平成23年8月に追加)の三つの特定目的資金を設置した。
 そして、これらの特定目的資金として確保された額は、23事業年度末現在額で、計141億4228万余円となっている。
 前記のとおり、振興基金の運用益は振興基金設置当初に比べて大きく減少しており、これに伴い運用益を財源とした基金助成の23事業年度の助成額は、3事業年度の6割を下回るものとなっている。また、基金助成の対象業務の一部は、スポーツ振興くじ助成等他の助成制度によって代替されるなどしている。一方、スポーツ振興投票が軌道に乗ったことにより、スポーツ振興くじ助成の助成額は、この5年間で飛躍的に増加している。このような状況の中で、センターは、助成準備金のうちの一定額を特定目的資金として確保して、スポーツ振興くじ助成を継続的・安定的に実施するための財源を充実させている。
 したがって、スポーツの振興を図るための助成業務を運用型の基金助成により実施する必然性は、乏しい状況になっている。

 (改善を必要とする事態)

 近年の低金利の状況下において、振興基金の運用益が少額になっていることなどにより、スポーツの振興を図るための助成業務を運用型の基金助成により実施する必然性が乏しい状況になっているのに、振興基金に多額の資金が保有されている事態は、貴重な財政資金が有効に活用されていないため適切ではなく、改善の要があると認められる。

 (発生原因)

 このような事態が生じているのは、貴省及びセンターにおいて、基金助成の実施状況、金利の低下とその継続等といった社会経済情勢の変化等に応じて、振興基金の在り方を適時適切に見直していないことなどによると認められる。

3 本院が表示する意見

 振興基金による基金助成は、20年以上にわたりその目的であるスポーツの振興に大きく貢献してきた。また、23年度に制定された「スポーツ基本法」(平成23年法律第78号)及び同法に基づき策定されたスポーツ基本計画では、地域のスポーツ環境の整備、国際競技力の向上、国際競技大会の招致又は開催の支援等について規定されるなど、国によるスポーツの推進への要請は高まってきている。
 一方、近年の我が国の厳しい財政状況下において、独立行政法人については、事業の見直しや効率化とともに、保有資産の規模の見直しや不要な資産の国庫返納等の検討が求められている。
 ついては、貴省において、振興基金の現状を踏まえ、そのスポーツの振興に果たす役割をより効果的なものとするため、振興基金を有効に活用するための方策を検討するとともに、有効活用が図られない振興基金については、センターから国に返還させるなどして、財政資金の有効活用を図るよう意見を表示する。