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  • 平成23年度|
  • 第3章 個別の検査結果|
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  • 補助金

国民健康保険の療養給付費負担金が過大に交付されていたもの


(2) 国民健康保険の療養給付費負担金が過大に交付されていたもの

54件 不当と認める国庫補助金 671,423,740円

 国民健康保険は、市町村(特別区、一部事務組合及び広域連合を含む。以下同じ。)等が保険者となって、被用者保険の被保険者及びその被扶養者等を除き、当該市町村の区域内に住所を有する者等を被保険者として、その疾病、負傷、出産又は死亡に関し、療養の給付、出産育児一時金の支給、葬祭費の支給等を行う保険である。
 市町村の国民健康保険の被保険者は、一般被保険者と退職被保険者(注1) 及びその被扶養者(以下「退職被保険者等」という。)とに区分されている。そして、国民健康保険の被保険者の資格を取得している者が退職被保険者となるのは、当該被保険者が厚生年金等の受給権を取得した日(ただし、国民健康保険の資格取得年月日以前に年金受給権を取得している場合は国民健康保険の資格取得年月日。以下「退職者該当年月日」という。)とされている。退職被保険者等となったときは、年金証書等が到達した日の翌日から起算して14日以内に市町村に届出をすることなどとなっている。

 退職被保険者  被用者保険の被保険者であった者で、退職して国民健康保険の被保険者となり、かつ、厚生年金等の受給権を取得した場合に65歳に達するまでの間において適用される資格を有する者である。

 国民健康保険については各種の国庫助成が行われており、その一つとして、市町村が行う国民健康保険事業運営の安定化を図るため、療養給付費負担金(以下「国庫負担金」という。)が交付されている。国庫負担金の交付の対象となるのは、一般被保険者に係る医療費(平成19年度以前は老人保健法(昭和57年法律第80号)による医療を受けることができる者に係る医療費(被用者保険の保険者等が拠出する老人保健医療費拠出金等で負担)を除く。)であり、退職被保険者等に係る医療費については、被用者保険の保険者が拠出する療養給付費等交付金等で負担することとなっていることから、国庫負担金の交付の対象となっていない。
 毎年度の国庫負担金の交付額は、「国民健康保険の国庫負担金等の算定に関する政令」(昭和34年政令第41号。平成20年3月以前は「国民健康保険の国庫負担金及び被用者保険等拠出金等の算定等に関する政令」)等により、次により算定することとなっている。

国庫負担対象費用額
前期高齢者納付金等(注3)(平成20年4月以降)
保険基盤安定繰入金(注2)の1 / 2
一般被保険者に係る医療給付費

交付額
国の負担割合(注4)
×
国庫負担対象費用額

(注2)
 保険基盤安定繰入金  市町村が、一般被保険者の属する世帯のうち、低所得者層の負担の軽減を図るため減額した保険料又は保険税の総額について、当該市町村の一般会計から国民健康保険に関する特別会計に繰り入れた額
(注3)
 前期高齢者納付金等  「高齢者の医療の確保に関する法律」(昭和57年法律第80号)の規定により社会保険診療報酬支払基金の高齢者医療制度関係業務に要する費用として納付する前期高齢者納付金及び後期高齢者支援金並びに介護納付金(前期高齢者交付金がある場合には、これを控除した額)
(注4)
 国の負担割合  平成16年度までは40/100、17年度は36/100、18年度以降は34/100

 このうち一般被保険者に係る医療給付費は、療養の給付に要する費用の額から当該給付に係る被保険者の一部負担金に相当する額を控除した額及び入院時食事療養費、療養費、高額療養費等の支給に要する費用の額の合算額とされている。
 ただし、届出が遅れるなどしたために退職被保険者等の資格が遡って確認された場合には、一般被保険者に係る医療給付費から、退職者該当年月日以降に一般被保険者に係るものとして支払った医療給付費を控除することとなっている。
 また、都道府県又は市町村が、国の負担金等の交付を受けずに自らの負担で、年齢その他の事由により被保険者の全部又は一部について、その一部負担金に相当する額の全部又は一部を、当該被保険者に代わり保険医療機関等に支払う措置(以下「負担軽減措置」という。)を講じている場合がある。この負担軽減措置の対象者の延べ人数が一定の規模以上の場合には、負担軽減措置の対象者に係る療養の給付に要する費用の額等に、被保険者の負担の軽減の度合いに応じた所定の率を乗じて減額調整(注5) を行うこととされている。

 減額調整  被保険者が医療機関等の窓口で支払う一部負担金を軽減させると、一般的に受診が増え医療給付費の波及増が認められるとされており、これにより増加した医療給付費を国庫負担対象費用額に含めると、他の市町村との公平を欠くことから、波及増の分を減額するための調整

 国庫負担金の交付手続については、〔1〕 交付を受けようとする市町村は都道府県に交付申請書を提出して、〔2〕 これを受理した都道府県は、その内容を添付書類により、また、必要に応じて現地調査を行うことにより審査の上、厚生労働省に提出して、〔3〕 厚生労働省はこれに基づき交付決定を行い国庫負担金を交付することとなっている。そして、〔4〕 当該年度の終了後に、市町村は都道府県に事業実績報告書を提出して、〔5〕 これを受理した都道府県は、その内容を審査の上、厚生労働省に提出して、〔6〕 厚生労働省はこれに基づき交付額の確定を行うこととなっている。
 本院は、31都道府県の248市区町村及び1広域連合において、17年度から22年度までの間に交付された国庫負担金について、会計実地検査を行った。その結果、19都道府県の54市区町村において、遡及して退職被保険者等の資格を取得した者(以下「遡及退職被保険者等」という。)に係る遡及期間中の医療給付費を控除していなかったり、負担軽減措置の対象となっている医療給付費に係る減額調整を誤っていたりなどして、国庫負担金交付額計231,873,349,333円のうち計671,423,740円が過大に交付されていて、不当と認められる。
 このような事態が生じていたのは、上記の54市区町村において制度の理解が十分でなかったり、事務処理が適切でなかったりしたこと、また、上記の19都道府県において事業実績報告書の審査が十分でなかったことによると認められる。
 前記の事態について、事例を示すと次のとおりである。

<事例1>

 徳島県吉野川市は、平成20年度の国庫負担金の実績報告に当たり、一般被保険者に係る医療給付費の算定において、遡及退職被保険者等について、退職者該当年月日以降に一般被保険者に係るものとして支払った20年度以前分の医療給付費の一部を控除していなかったため、国庫負担対象費用額を過大に算定していた。
 その結果、国庫負担金が62,248,308円過大に交付されていた。

<事例2>

 千葉市は、平成18年度から20年度までの国庫負担金の実績報告に当たり、一般被保険者に係る医療給付費の算定において、千葉県が実施している負担軽減措置である子ども(乳幼児)医療費助成の対象者に係る医療給付費に対する減額調整率の適用を誤ったため、国庫負担対象費用額を過大に算定していた。
 その結果、国庫負担金が14,776,588円過大に交付されていた。

 以上を部局等別・交付先(保険者)別に示すと次のとおりである。

  部局等 交付先(保険者) 年度 国庫負担対象費用額 左に対する国庫負担金 不当と認める国庫負担対象費用額 不当と認める国庫負担金 摘要
        千円 千円 千円 千円  
(56) 北海道 深川市 17〜20 5,404,429 1,862,953 39,828 13,800 負担軽減措置の対象とした医療給付費の減額調整を誤ったものなど
(57) 栃木県 宇都宮市 21 17,268,694 5,870,266 42,287(注6) 104,381 遡及退職被保険者等の医療給付費の控除額の計算を誤ったものなど
(58) 群馬県 利根郡
川場村
20 187,297 65,168 (注7) 1,547 遡及退職被保険者等の医療給付費の控除額の計算を誤ったもの
(59) 千葉県 千葉市 18〜20 82,390,408 27,965,908 43,459 14,776 負担軽減措置の対象とした医療給付費の減額調整を誤ったもの
(60) 市川市 18、19 27,765,009 9,399,394 6,315 2,147
(61) 船橋市 18 17,376,625 5,906,940 9,520 3,245
(62) 木更津市 18、19 10,221,629 3,474,584 7,074 2,404
(63) 松戸市 18〜20 50,639,229 17,212,991 32,419 11,022
(64) 佐倉市 18〜20 15,227,013 5,174,225 6,874 2,337
(65) 旭市 18〜20 10,594,641 3,627,020 6,483 2,204
(66) 柏市 18、19 24,094,633 8,189,130 11,784 4,008
(67) 市原市 18、19 19,090,831 6,468,433 6,705 2,280
(68) 八千代市 18、20 11,091,630 3,753,562 8,623 2,932
(69) 八街市 18〜20 9,524,482 3,235,325 8,271 2,812
(70) 東京都 江東区 20 15,164,973 5,156,268 8,523 2,910 遡及退職被保険者等の遡及期間中の医療給付費を控除していなかったもの
(71) 品川区 21 12,430,563 4,223,839 40,324 13,710
(72) 練馬区 20 23,890,593 8,121,284 6,954 2,444
(73) 江戸川区 19 28,406,298 9,657,750 151,827 54,951
(74) 青梅市 20 3,697,240 1,257,158 12,030 4,261
(75) 府中市 20 7,688,276 2,614,071 6,422 2,247
(76) 昭島市 21 4,250,837 1,445,572 15,120 5,176
(77) 東大和市 21 2,642,045 898,656 4,010 1,337
(78) 神奈川県 横浜市 20 108,950,293 37,028,893 126,777 43,104
(79) 横須賀市 20 12,992,110 4,396,365 31,791 10,809
(80) 藤沢市 20 12,930,391 4,396,266 7,648 2,600
(81) 小田原市 20 7,792,410 2,649,229 87,040 29,897
(82) 足柄下郡
箱根町
20 588,979 199,984 11,972 4,109
(83) 福井県 福井市 22 9,287,476 3,157,740 6,176 2,099
(84) 鯖江市 20 2,184,422 742,690 5,656 1,923
(85) あわら市 20 926,241 314,542 11,279 3,868
(86) 長野県 安曇野市 20 2,816,886 948,182 6,300 2,142
(87) 岐阜県 山県市 21 1,511,791 514,041 6,089 2,070
(88) 愛知県 岡崎市 21 10,634,365 3,615,648 8,365 2,768
(89) 弥富市 21 1,486,976 507,714 13,599 6,747 遡及退職被保険者等の医療給付費の控除額の計算を誤ったものなど
(90) 三重県 亀山市 21 1,420,962 483,156 36,927 12,555 遡及退職被保険者等の遡及期間中の医療給付費を控除していなかったもの
(91) 鳥羽市 21 1,269,359 431,598 18,649 6,452
(92) 三重郡
菰野町
21 1,257,498 427,495 8,124 2,762
(93) 三重郡
朝日町
20 242,973 82,614 18,204 6,189
(94) 南牟婁郡
紀宝町
21 501,387 170,481 28,307 9,685
(95) 京都府 亀岡市 21 3,066,528 1,042,405 6,650 2,263
(96) 与謝郡
与謝野町
21 1,146,419 389,801 13,125 4,462 一般被保険者の医療給付費を過大に算定していたもの
(97) 大阪府 堺市 21 35,921,740 12,213,147 9,191 3,133 遡及退職被保険者等の遡及期間中の医療給付費を控除していなかったもの
(98) 吹田市 20、21 23,998,495 8,156,241 199,513 71,032 一般被保険者の医療給付費を過大に算定していたものなど
(99) 寝屋川市 21 9,198,217 3,127,393 42,743 14,532 遡及退職被保険者等の遡及期間中の医療給付費を控除していなかったもの
(100) 和泉市 19 5,582,169 1,889,852 5,706 2,112
(101) 兵庫県 川西市 21 4,905,093 1,668,977 (注7) 1,141 遡及退職被保険者等の医療給付費の控除額の計算を誤ったもの
(102) 島根県 出雲市 22 5,465,387 1,858,149 15,322 4,619 遡及退職被保険者等の遡及期間中の医療給付費を控除していなかったもの
(103) 広島県 大竹市 20 1,060,701 365,788 (注7) 6,020 遡及退職被保険者等の医療給付費の控除額の計算を誤ったもの
(104) 徳島県 吉野川市 20 1,723,974 586,175 181,709 62,248 遡及退職被保険者等の遡及期間中の医療給付費を控除していなかったもの
(105) 福岡県 春日市 20 3,435,745 1,168,179 89,414 31,366
(106) 大野城市 20 3,049,498 1,036,846 15,567 5,370
(107) 古賀市 20 1,910,177 649,546 3,545 1,074
(108) 朝倉市 20 2,862,342 972,861 8,658 2,931
(109) 大分県 中津市 20 3,207,102 1,100,828 123,369 52,387
(56)—(109)の計 682,375,511 231,873,349 1,622,290 671,423  
(注6)  宇都宮市は、医療給付費の集計を誤り、国庫負担対象費用額を過大に算定していて、更にその後の国庫負担金の算定に当たり集計を誤っていた。
(注7)  川場村、川西市及び大竹市は、集計を誤ったため、国庫負担金を過大に算定していたが、国庫負担対象費用額には誤りはなかったことから、本表の「不当と認める国庫負担対象費用額」欄には計数を掲げていない。

 上記の事態については、厚生労働省は、従来、発生防止に取り組んでいるとしているところであるが、さらに、通知等により市町村の事務処理の適正化に努めるとともに都道府県の事業実績報告書に係る審査等の強化を図る必要があると認められる。