厚生労働科学研究費補助金は、厚生労働科学研究の振興を促し、もって、国民の保健医療、福祉、生活衛生、労働安全衛生等に関して、行政施策の科学的な推進を確保するため、技術水準の向上を図ることを目的とする研究事業を行う研究者等に対して、厚生労働科学研究費補助金取扱規程(平成10年厚生省告示第130号)、厚生労働科学研究費補助金取扱細則(平成10年厚科第256号厚生科学課長決定)等(以下、これらを合わせて「取扱規程等」という。)に基づき、厚生労働大臣が認めた額と補助対象経費の実支出額とを比較して少ない方の額と、総事業費から寄附金その他の収入額を控除した額とを比較して、少ない方の額を国が補助するものである。
取扱規程等によると、研究事業に係る補助対象経費は、研究で使用する消耗品等(以下「研究用物品」という。)の購入費等の直接研究に必要な経費、研究事業の一部を他の機関に委託して行うための経費(以下、これらを合わせて「直接研究費等」という。)等となっている。そして、補助金の交付は単年度ごととなっていることから、各年度において、当該年度の3月31日までの期間中に実施された研究事業に係る経費が補助の対象になることとなっている。また、直接研究費等に係る事務は、研究者の事務に係る負担を軽減するなどのため、研究者の所属機関の長に必ず委任されることなどとなっている。そして、委任を受けた所属機関の長は、直接研究費等に係る事務を適正に執行することとなっている。
本院が、6研究機関に所属する94名の研究者が実施している125研究事業について会計実地検査を行ったところ、次のような事態が見受けられた。
部局等 | 所属機関名 | 国庫補助金の交付先(研究者) | 年度 | 事業数 | 国庫補助金交付額 | 不当と認める国庫補助金交付額 | 摘要 | |
千円 | 千円 | |||||||
(182) | 国立がんセンター(注) | 国立がんセンター | A | 19、20 | 2 | 143,875 | 5,518 | 補助の対象外 |
国立がんセンター(以下「センター」という。)に所属する研究者Aは、本件補助事業を平成19、20両年度に実施したとして、補助金計143,875,000円の交付を受けていた。そして、交付された補助金の管理を行ったセンターは、研究者Aから研究用物品に係る納品書、請求書等の提出を受けて、その購入代金を業者に支払っていた。
しかし、センターは、上記の研究用物品の実際の納品日を確認していなかった。このため、当該研究用物品のうち計5,568,505円分の研究用物品については、実際には、研究事業を実施した各年度の前年度に納入されていたのに、センターは、その購入代金を現年度に実施した研究事業に係る経費として現年度の補助対象経費に含めていた。
したがって、適正な補助対象経費の実支出額に基づいて補助金の額を算定すると、計138,357,000円となり、国庫補助金計5,518,000円が過大に交付されていて不当と認められる。
このような事態が生じていたのは、研究者Aにおいて補助金の原資は税金等であるにもかかわらず事実に基づく適正な会計経理を行うという基本的な認識が欠けていたこと、センターにおいて研究用物品の納品検査等が十分でなかったことなどによると認められる。