緊急雇用創出事業臨時特例交付金は、厚生労働省が定めた「平成20年度緊急雇用創出事業臨時特例交付金交付要綱」(平成21年厚生労働省発職第0130003号)等に基づき、各都道府県が、同交付金を原資として、緊急雇用創出事業臨時特例基金(以下「緊急雇用創出基金」という。)を造成するために国が交付するものである。
また、ふるさと雇用再生特別交付金は、同省が定めた「平成20年度ふるさと雇用再生特別交付金交付要綱」(平成21年厚生労働省発職第0130002号)に基づき、各都道府県が、同交付金を原資として、ふるさと雇用再生特別基金(以下「ふるさと基金」という。)を造成するために国が交付するものである。
そして、各都道府県及び各市町村等(以下「都道府県等」という。)は、同省が定めた「緊急雇用創出事業実施要領」(平成21年厚生労働省職発第0130008号)等に基づき、緊急雇用創出基金を財源として失業者に対する短期の雇用・就業機会を創出・提供する事業等を実施する緊急雇用創出事業を、また、同省が定めた「ふるさと雇用再生特別基金事業実施要領」(平成21年厚生労働省職発第0130005号)等に基づき、ふるさと基金を財源として地域の求職者等を雇い入れて、原則として1年以上の長期的な雇用機会の創出を図る事業を実施するふるさと雇用再生特別基金事業を、それぞれ実施している(以下、緊急雇用創出事業とふるさと雇用再生特別基金事業とを合わせて「基金事業」といい、また、緊急雇用創出事業実施要領とふるさと雇用再生特別基金事業実施要領を合わせて「実施要領」という。)。
基金事業では、都道府県等が企画した事業等を民間企業等へ委託し、受託した民間企業等が公募により失業者を雇い入れて行う事業(以下「委託事業」という。)が実施されている。また、基金事業のうち緊急雇用創出事業については、委託事業のほかに、都道府県等が直接失業者を雇い入れて行う事業(以下「直接実施事業」という。)が実施されている。都道府県は、自らが委託事業を実施する場合は委託費相当額を、直接実施事業を実施する場合は事業に要した費用相当額を、それぞれの基金から取り崩して支払を行い、管内の市町村等が委託事業や直接実施事業を実施する場合は、当該市町村等に対して基金を財源とした補助金(補助率10分の10)を交付している。
また、実施要領等において、基金事業は、失業者を新たに雇用して実施することなどが定められている。
本院が、5県(注1)
において、5県及びこれら5県から補助金の交付を受けた管内の30市町村を対象に会計実地検査を行った結果、5県及び3県(注2)
の5市(注3)
が実施した基金事業において、委託事業の受託者が失業者を新たに雇用していなかったり、直接実施事業において雇用した労働者の業務内容を確認することなく報酬等を支払っていたりなどしていたことにより、計42,122,255円(交付金相当額同額)が、5県に造成されたそれぞれの基金から過大に取り崩され、補助の目的外に使用されていて不当と認められる。
このような事態が生じていたのは、上記の5県及び5市において、市又は受託者から提出された委託事業に係る実績報告書や直接実施事業で雇用した労働者から提出された報告書等の内容の調査確認が十分でなかったこと、3県において、5市に対する指導が十分でなかったこと、厚生労働省において、5県に対する指導監督が十分でなかったことなどによると認められる。
前記の事態について、事例を示すと次のとおりである。
群馬県は、緊急雇用創出基金を財源とした委託事業として、平成21年度に、歩道等に設置されている転落防止柵の点検等を行う「道路環境美化事業(歩道)」等2事業を計17,556,000円でA会社に委託し、同会社が失業者11名を新たに雇用してこれらの事業を実施したとして同額を支払っていた。
しかし、委託契約書に係る特記仕様書では、失業者を新たに雇用することが条件とされていたにもかかわらず、同会社は、上記の点検等を当該11名に対する外注として実施しており、これらの者に係る賃金台帳や出勤簿の作成等の雇用者としての労務管理も行っておらず、雇用の実態がなかった。
したがって、委託費17,556,000円全額は基金事業の対象とは認められず、同額が緊急雇用創出基金から過大に取り崩され、補助の目的外に使用されていた。
宮崎県は、緊急雇用創出基金を財源とした直接実施事業として、平成21年度に、高校生に対する求人確保による就業の拡大等を図る「志を育む進路サポート事業」のために、新たに失業者19名を非常勤職員として雇用し、そのうち県立高校に進路対策専門員として配置したBに対して企業訪問に係る報酬等計1,217,108円を支払っていた。
しかし、Bは、進路対策専門員の活動として、報告書に複数の企業訪問を行い大企業の取締役等と同県内において面会したとしていたが、実際には面会したとする相手方が来県していないなど面会の事実を裏付けるものがなく、企業訪問の事実が確認できなかった。
したがって、企業訪問に係る報酬等654,464円は基金事業の対象とは認められず、同額が緊急雇用創出基金から過大に取り崩され、補助の目的外に使用されていた。
これを事業主体別に示すと次のとおりである。
部局等 | 補助事業者 (事業主体) |
補助事業 | 年度 | 基金造成額 | 左に対する交付金交付額 | 不当と認める基金使用額 | 不当と認める交付金相当額 | |
千円 | 千円 | 千円 | 千円 | |||||
(183) | 厚生労働本省 | 群馬県 | 緊急雇用創出基金 | 20〜23 | 18,450,000 | 18,450,000 | 18,805 | 18,805 |
ふるさと基金 | 20 | 3,400,000 | 3,400,000 | 3,554 | 3,554 | |||
小計 | 21,850,000 | 21,850,000 | 22,360 | 22,360 | ||||
(184) | 同 | 兵庫県 | 緊急雇用創出基金 | 20〜23 | 32,530,000 | 32,530,000 | 8,128 | 8,128 |
ふるさと基金 | 20 | 5,910,000 | 5,910,000 | 2,783 | 2,783 | |||
小計 | 38,440,000 | 38,440,000 | 10,912 | 10,912 | ||||
(185) | 同 | 岡山県 | ふるさと基金 | 20 | 3,450,000 | 3,450,000 | 2,362 | 2,362 |
(186) | 同 | 大分県 | 緊急雇用創出基金 | 20〜23 | 13,410,000 | 13,410,000 | 2,308 | 2,308 |
ふるさと基金 | 20 | 4,800,000 | 4,800,000 | 3,524 | 3,524 | |||
小計 | 18,210,000 | 18,210,000 | 5,832 | 5,832 | ||||
(187) | 厚生労働本省 | 宮崎県 | 緊急雇用創出基金 | 20〜23 | 13,000,000 | 13,000,000 | 654 | 654 |
(183)-(187)の計 | 94,950,000 | 94,950,000 | 42,122 | 42,122 |
(注1) | 5県 群馬、兵庫、岡山、大分、宮崎各県
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(注2) | 3県 群馬、兵庫、大分各県
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(注3) | 5市 前橋、高崎、館林、神戸、豊後大野各市
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