会計名及び科目 | 労働保険特別会計(労災勘定) (項)仕事生活調和推進費 | |
部局等 | 厚生労働本省、42労働局 | |
支給の根拠 | 予算補助 | |
補助事業者
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民間団体等 | |
団体助成の概要
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中小企業における労働時間等の設定の改善を推進するため、団体が実施する傘下事業主に対する相談等の事業に要した費用の一部を助成するもの | |
企業助成の概要
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中小企業における労働時間等の設定の改善を推進するため、職場意識改善に係る計画に基づく措置を効果的に実施した事業主に助成金を支給するもの | |
平成21年度から23
年度までの間に28労 働局が団体助成の承認 をした延べ団体数 |
77団体 | |
上記の団体に対する団
体助成の支給額 |
3億0038万円 | (背景金額)(平成21年度〜24年度) |
平成21年度から23年
度までの間に42労働局が 企業助成の認定をした事 業主数 |
1,160事業主 | |
上記の事業主に対する企業
助成の支給額 |
12億0050万円 | (背景金額)(平成21年度〜23年度) |
標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり意見を表示する。
貴省は、中小企業における労働時間等の設定の改善を推進するため、中小企業事業主(以下「事業主」という。)の団体等(以下「団体」という。)に対して労働時間等設定改善推進助成金(以下「団体助成」という。)を支給するとともに、事業主に対して職場意識改善助成金(以下「企業助成」という。)を支給している(以下、団体助成と企業助成を合わせて「両助成金」という。)。
団体助成は、都道府県労働局(以下「労働局」という。)が承認した団体が、傘下事業主に対する相談等の実施に要した費用について、原則として300万円を上限に助成するものであり、貴省は、労働時間等設定改善推進助成金支給要領(平成18年基発第0401008号)により、団体の傘下の全ての事業主(労働者を雇用していない事業主等を除く。以下「傘下事業主全体」という。)において、事業主が雇用する労働者の年次有給休暇平均取得率の上昇や、平均所定外労働時間数の削減に取り組むことなどを団体に対して求めている。
また、企業助成は、労働局が認定した事業主が、職場意識の改善に係る計画に基づく措置を効果的に実施した場合に、原則として単年度で一律50万円を2か年度にわたり支給するものであり、貴省は、職場意識改善助成金支給要領(平成20年基発第0401010号)により、同計画に事業主が雇用する労働者の年次有給休暇平均取得率の上昇や、平均所定外労働時間数の削減のための措置を盛り込むことなどを事業主に対して求めている(以下、両助成金における事業主が雇用する労働者の年次有給休暇平均取得率を「年休取得率」、平均所定外労働時間数を「所定外時間数」という。)。
そして、平成21年度から23年度までの間に労働局から承認等を受けた団体及び事業主に係る両助成金の支給実績は、表1
のとおり、計16億0192万余円となっている。
表1 両助成金の支給実績
(単位:千円)
年度 | 団体助成 注(1) | 企業助成 注(1) | 計 | ||
21年度認定分 | 22年度認定分 | 23年度認定分 | |||
平成21 | (35)
158,890
|
(432)
216,000
|
— | — | 374,890 |
22 | (29)
99,324
|
(368)
211,000
|
(477)
387,000
|
— | 697,324 |
23 | (14)
45,213
|
— | (378)
229,500
|
(346)
255,000
|
529,713 |
計 | (78)
303,429
|
(2,001)
1,298,500
|
1,601,929 |
注(1) | ( )内は、団体助成については団体数、企業助成については事業主数である。団体助成については、平成21年度と22年度で10団体、22年度と23年度で7団体が重複している。 |
注(2) | 千円未満で切り捨てている。 |
両助成金は、労働者災害補償保険法(昭和22年法律第50号)に基づく事業として、労働者の安全及び衛生の確保等を行う社会復帰促進等事業の一つに位置付けられている。貴省は、「社会復帰促進等事業に係る目標管理に関する基本方針」(平成20年労働基準局策定。以下「基本方針」という。)等において、PDCA(Plan(計画)-Do(実行)-Check(評価)-Action(改善))サイクルによる不断のチェックを行うなどのため、社会復帰促進等事業として実施する各事業について毎年度成果目標を設定して、その達成の状況等を社会復帰促進等事業に関する検討会において検証するなどして評価を行い、評価結果を成果目標を設定した年度の翌々年度の概算要求に反映することとしている。
毎年度設定する成果目標については、事業の実施による政策効果を測定する具体的な評価指標(以下「アウトカム指標」という。)や事業執行率を測定する評価指標を設定して、それぞれの達成の状況を評価することとしている。そして、貴省は、これらの評価指標のうち、アウトカム指標について、この指標が未達成と評価された場合には、その要因を分析の上、当該事業について見直し又は廃止を行うこととしている。
貴省は、基本方針に基づき、21年度から23年度までの間に労働局から承認等を受けた団体及び事業主に対して支給した各年度の両助成金のアウトカム指標として、年休取得率の上昇度合い(3.5ポイント以上の上昇等)及び所定外時間数の削減割合(10%以上の削減)を設定するなどしている。そして、貴省は、各年度においてアウトカム指標の実績値を検証し、それぞれ達成されたと評価しており、この評価結果に基づいて、両助成金の予算の概算要求を継続して行っている(以下、両助成金のアウトカム指標である年休取得率の上昇度合い及び所定外時間数の削減割合について、その実績値を「アウトカム実績」とい う。)。
雇用調整助成金は、雇用保険で行う雇用安定事業の一環として、景気の変動等の経済上の理由により事業活動の縮小を余儀なくされた場合等に、雇用する被保険者について休業等を行った事業主に対して、休業手当等の一部を助成するものである。
貴省は、雇用調整助成金を受給している事業主も本件の企業助成の対象となるとしており、傘下の事業主が雇用調整助成金を受給している場合の団体助成についても同様であるとしている。
貴省は、両助成金の支給が終了した後においても団体及び事業主が取組を継続するよう働きかけるために、23年度から、両助成金の支給が終了した直後に、労働時間の設定改善に向けて労働局の更なる支援等を希望するかどうかについてアンケート調査を実施している。
また、23年度の労働局に対する貴省本省の通知において、両助成金における事業主に対して必要に応じて更なる取組の指導を実施するなどのフォローアップを行うことを求めている。
貴省は、前記のとおり、両助成金のアウトカム指標の達成の状況を評価し、評価結果を踏まえて必要に応じて事業の見直しなどを行うとしていることなどから、アウトカム指標の実績値であるアウトカム実績を的確に把握することが重要である。
そこで、本院は、効率性、有効性等の観点から、両助成金のアウトカム実績は的確に把握されているかなどに着眼して、28労働局(注1)
が21年度から23年度までの間に承認した延べ77団体に対して支給した団体助成3億0038万余円、42労働局(注2)
が21年度から23年度までの間に認定した1,160事業主に対して支給した企業助成12億0050万円、計15億0088万余円を対象として、貴省本省及び18労働局(注3)
において、両助成金に係る報告書等の関係書類により会計実地検査を行った。また、上記の42労働局から両助成金のアウトカム実績の把握方法等に関する調書の提出を受けて、その内容を分析するなどの方法により検査した。
(注1) | 28労働局 秋田、群馬、埼玉、東京、神奈川、新潟、石川、岐阜、静岡、愛知、滋賀、京都、大阪、兵庫、奈良、和歌山、鳥取、島根、岡山、広島、山口、徳島、香川、高知、福岡、大分、鹿児島、沖縄各労働局
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(注2) | 42労働局 北海道、青森、秋田、山形、栃木、群馬、埼玉、東京、神奈川、新潟、富山、石川、福井、山梨、長野、岐阜、静岡、愛知、三重、滋賀、京都、大阪、兵庫、奈良、和歌山、鳥取、島根、岡山、広島、山口、徳島、香川、愛媛、高知、福岡、佐賀、長崎、熊本、大分、宮崎、鹿児島、沖縄各労働局
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(注3) | 18労働局 北海道、埼玉、東京、神奈川、福井、静岡、愛知、和歌山、大阪、岡山、広島、香川、福岡、佐賀、大分、宮崎、鹿児島、沖縄各労働局
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検査したところ、次のような事態が見受けられた。
貴省における両助成金のアウトカム実績の把握方法を確認したところ、団体及び事業主は、両助成金の助成開始前(注4)
及び助成終了時(注5)
における傘下事業主等の年休取得率及び所定外時間数をそれぞれ把握して、これらの数値を所定の報告書に記載して労働局へ提出していた。そして、労働局は、提出を受けた報告書を審査の上、上記の数値について貴省本省へ報告を行い、貴省本省は、この報告を集計して両助成金のアウトカム実績として把握していた。
そこで、貴省が把握していた両助成金のアウトカム実績の状況について更に検査したところ、次のような状況となっていた。
ア 団体助成において、正確な年休取得率及び所定外時間数が把握されていないと認められるもの
(ア) 助成開始前及び助成終了時の両方の年休取得率及び所定外時間数を把握できた傘下事業主の数が少なかったもの
貴省は、助成開始前及び助成終了時の年休取得率及び所定外時間数について、いずれも傘下事業主全体の状況を把握しているとしている。
しかし、前記の延べ77団体のうち、年休取得率の上昇に取り組んだ延べ75団体及び所定外時間数の削減に取り組んだ延べ74団体が年休取得率等の算出対象としていた傘下事業主数についてみたところ、助成開始前及び助成終了時の両方の時点において共に算出対象となっていた傘下事業主数が、当該団体の傘下事業主全体数の50%未満となっていた団体が、表2
のとおり、年休取得率で39団体(全体の52.0%)、所定外時間数で35団体(全体の47.3%)見受けられた。
団体の取組内容 | 取組団体数 | 助成開始前及び助成終了時の両方の時点において共に算出対象となっていた傘下事業主数/傘下事業主全体数(%) | |||
100% | 100%未満50%以上 | 50%未満 | 回収した傘下事業主数を確認できなかったもの | ||
年休取得率の上昇 | 75 | 7 (9.3%) |
23 (30.7%) |
39 (52.0%) |
6 (8.0%) |
所定外時間数の削減 | 74 | 9 (12.2%) |
26 (35.1%) |
35 (47.3%) |
4 (5.4%) |
大分労働局管内のA組合は、平成22年度に労働時間等の設定改善に取り組み、傘下事業主全体(165事業主)の年休取得率が6.5ポイント上昇し、1か月当たりの所定外時間数が19.3時間削減されたなどと報告していた。
これについて本院が確認したところ、同組合は、調査票を傘下事業主全体に対して配布して、これらを回収して年休取得率等を把握していたが、全事業主から回答を得られなかったことなどにより、助成開始前及び助成終了時の両方の年休取得率等を把握できた事業主数は、17事業主(10.3%)にすぎなかった。また、同組合が助成開始前の年休取得率等を把握できた事業主数は33事業主、助成終了時の年休取得率等を把握できた事業主数は20事業主にとどまっていた。
(注4) | 助成開始前 労働局の承認又は認定を受けた年度の前年度
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(注5) | 助成終了時 団体助成については労働局の承認を受けた年度。2か年度にわたって支給される企業助成については労働局の認定を受けた年度の翌年度
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(イ) 貴省が示した年休取得率の算出方法と異なる算出方法で年休取得率を算出していたと認められるもの
貴省本省は、労働局に対して、年休取得率の算出方法について、算定期間中の年次有給休暇取得日数を前年度からの繰越分を除く算定期間中の同付与日数で除して算出するものとして、労働局を通して支給対象団体に対して示しているとしている。
そこで、前記の年休取得率の上昇に取り組んだ延べ75団体が年休取得率の算出方法を傘下事業主に適切に示しているか確認したところ、貴省が示しているとしている算出方法と異なる方法を支給対象団体が調査票に示していて、その結果、年休取得率を貴省が示している算出方法と異なる方法で算出していたと認められる団体が、表3
のとおり、44団体(全体の58.7%)見受けられた。
取組団体数 | 〔1〕 貴省が示していた算出方法を示していた団体数 | 左とは異なる方法を示していた団体数 | 算出方法を具体的に示していなかった団体数 | 算出方法を確認することができなかった団体数 | ||
〔2〕 取得日数を付与日数(いずれも前年度からの繰越分を除く。)で除して算出 | 〔3〕 取得日数を付与日数(前年度からの繰越分を含む。)で除して算出 | 〔4〕 付与日数を上限とした取得日数を付与日数(前年度からの繰越分を除く。)で除して算出 | ||||
75 | 14 (18.7%) |
20 (26.7%) |
16 (21.3%) |
8 (10.7%) |
13 (17.3%) |
4 (5.3%) |
44 (58.7%) |
イ 雇用調整助成金を受給していて休業させるなどしている労働者を所定外時間数等の算出対象に含めていたもの
雇用調整助成金を受給している事業主において、例えば、休業させた労働者について、助成終了時の所定外時間数等の算出対象に含めた場合は、含めない場合に比べて所定外時間数の数値が小さくなるなど、貴省が把握しようとしている所定外時間数等の数値に影響を与えることになる。
これについて、貴省本省は、休業している労働者については、労働時間等が存在しないことから、所定外時間数等の算出対象に含めないことになるとしているが、労働局や団体及び事業主に対してこの考え方を明示していなかった。
そこで、本院が所定外時間数等の算出対象となった労働者の状況を確認することができた企業助成についてみたところ、企業助成の算出期間中に雇用調整助成金を受給していた事業主が197事業主見受けられ、このうち191事業主(雇用調整助成金を受給していた事業主の96.9%)は、休業させるなどしていた労働者を所定外時間数等の算出対象に含めていて、雇用調整助成金を受給していて休業させるなどしている労働者が所定外時間数等のアウトカム実績に影響を与えていると認められた。
東京労働局管内の株式会社Bは、平成21、22両年度に労働時間等の設定改善に取り組んだ結果、所定外時間数が企業助成の助成開始前の196.2時間から助成終了時の66.8時間に削減されたなどと報告していた。
これについて本院が確認したところ、同社は、22年度中に雇用する労働者のうち一部の労働者を休業させて雇用調整助成金を受給していたが、当該労働者を除外することなく所定外時間数の算出対象に含めていた。そこで、算出期間中に全日休業させていた労働者を算出対象から除外すると、助成終了時に係る所定外時間数は最低でも96.6時間であったと認められる。
以上のとおり、団体助成の助成開始前及び助成終了時の両方の年休取得率等を把握できた傘下事業主の数が少なかったり、貴省が示した年休取得率の算出方法と異なる算出方法で年休取得率を算出していたと認められるものが見受けられたり、雇用調整助成金を受給していて休業させるなどしている労働者を所定外時間数等の算出対象に含めていたりするなど、正確なアウトカム実績の把握が行われていないと認められる。
前記のとおり、貴省は、両助成金の支給が終了した直後にアンケート調査を実施しており、また、貴省本省は、労働局に対して通知を発して、フォローアップを行うことなどを求めている。
そこで、24年4月時点の両助成金に係る支給後のフォローアップの実施状況についてみたところ、上記のアンケート調査の実施以外にフォローアップを全く行っていない労働局が、団体助成については28労働局のうち26労働局(92.8%)、企業助成については41労働局(注6)
のうち19労働局(46.3%)見受けられた。
以上のように、貴省は、両助成金のアウトカム指標の達成の状況を評価し、評価結果を踏まえて必要に応じて事業の見直しなどを行うとしているのに、正確なアウトカム実績を把握していなかったり、貴省本省が労働局に対してフォローアップを行うことを求めているのに、両助成金に係る支給後のフォローアップを実施していない労働局が見受けられたりしている事態は適切とは認められず、改善の要があると認められる。
このような事態が生じているのは、貴省において、次のことなどによると認められる。
ア 正確なアウトカム実績を把握することや、これを把握するために必要な体制を整備することの重要性について認識が十分でないこと
イ 両助成金の支給後における事業主の取組状況をフォローアップすることについて労働局に対する貴省本省の周知徹底が十分でないこと
貴省は、両助成金を含めた社会復帰促進等事業について、PDCAサイクルによる不断のチェックを行うなどのため、毎年度の成果目標の達成の状況等を踏まえ、個別の事業の必要性について徹底した精査を実施するなどとしている。また、両助成金は、年休取得率の上昇や所定外時間数の削減が必要な事業主への効果的な支援であるとして、今後も支給するとしている。
ついては、貴省において、両助成金について、正確なアウトカム実績を把握してアウトカム指標を達成しているか否かの評価をより的確に行うこととなるよう、また、両助成金の支給後においても必要に応じて適切な支援が行われるよう、次のとおり意見を表示する。
ア 両助成金に係る正確なアウトカム実績を把握するため、労働局が正確なアウトカム実績の把握に必要な事業主の年休取得率等の報告を審査の上貴省本省がこれに基づいたアウトカム実績を把握することができる体制を整備すること
イ 両助成金の支給後における事業主の取組状況を把握するため、労働局に対して適時にフォローアップを行うよう周知徹底を図ること