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  • 意見を表示し又は処置を要求した事項

生活保護事業における生業扶助の支給に当たり、被保護者の自立に向けた目標を明確にすることなどにより、就労支援がより効果的に行われるよう改善の処置を要求したもの


(8) 生活保護事業における生業扶助の支給に当たり、被保護者の自立に向けた目標を明確にすることなどにより、就労支援がより効果的に行われるよう改善の処置を要求したもの

会計名及び科目 一般会計 (組織)厚生労働本省 (項)生活保護費
部局等 厚生労働本省、23都道府県
国庫負担の根拠 生活保護法(昭和25年法律第144号)
補助事業者
(事業主体)
都道府県16、市221、特別区23、計260事業主体
生活保護事業の概要 生活に困窮する者に対して最低限度の生活を保障するためにその困窮の程度に応じて必要な保護を行うもの
生業扶助の効果が十分に発現していない被保護者数 2,849人
上記の被保護者に支払われていた技能修得費 1億2323万余円 (平成21、22両年度)
上記に係る国庫負担金相当額 9242万円  

【改善の処置を要求したものの全文】

 生活保護における就労支援(生業扶助の支給)について

(平成24年10月19日付け 厚生労働大臣宛て)

 標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり改善の処置を要求する。

1 事業の概要

(1) 生活保護制度の概要

 生活保護は、生活保護法(昭和25年法律第144号)等に基づき、生活に困窮する者に対して、その困窮の程度に応じて必要な保護を行い、その最低限度の生活を保障するとともに、その自立の助長を図ることを目的として行われるものであり、生活に困窮する者が、その利用し得る資産、能力その他あらゆるものをその最低限度の生活の維持のために活用することを要件として行われるものである。
 貴省は、都道府県又は市町村(特別区を含む。以下、これらを合わせて「事業主体」という。)が生活保護法による保護(以下「保護」という。)を受ける者(以下「被保護者」という。)に支弁した保護に要する費用(以下「保護費」という。)の4分の3について生活保護費等負担金(以下「負担金」という。)を交付している。

(2) 生業扶助の概要

 保護は、その内容によって、生活扶助、医療扶助、生業扶助等の8種類に分けられ、このうち生業扶助は、困窮のため最低限度の生活を維持することのできない者又はそのおそれのある者に対して、その者の収入を増加させ又はその自立を助長することのできる見込みのある場合に限り、生業に必要な資金、器具又は資料、生業に必要な技能の修得及び就労のために必要なものの範囲内において行われることとなっている。
 生業扶助には、生業費、技能修得費及び就職支度費があり、このうち技能修得費(高等学校等就学費を除いたもの。以下同じ。)については、就労するために必要な技能を修得する経費等を必要とする被保護者に対して、その必要とする実態について調査確認を行った上で、原則として平成21年度は年間70,000円、22年度は年間72,000円の範囲内で必要最小限度の額を支給することとなっている。そして、技能修得費として認められるものは、技能修得のために直接必要な授業料、教材、資格検定等に要する費用等の経費となっているが、技能修得のために交通費を必要とする場合は、必要な技能修得費の額にその実費を加算することとなっている。
 また、技能修得費として認められる経費が上記の範囲内の額により難い場合であり、やむを得ない事情があると事業主体が認めたときは、21年度は116,000円、22年度119,000円の範囲内で必要な額を認定して差し支えないこととなっており、さらに、自動車運転免許の取得が雇用の条件となっているなど、確実に就労するために必要とする場合等に限って、自動車運転免許の取得等の経費に充てるために、21、22両年度は380,000円の範囲内で技能修得費を認定することができることとなっている。そして、技能修得費の支給額は、21年度4億1788万余円、22年度5億5062万余円となっている。

(3) 就労支援における技能修得費の支給

 前記のとおり、保護は利用し得る資産、能力その他あらゆるものの活用を前提として実施されるものであるため、就労可能な被保護者については、稼働能力の十分な活用が求められるとともに、事業主体は、これらの者の就労・求職状況を把握し、適切な指導援助(以下「就労支援」という。)を行うこととなっている。
 そして、貴省は、事業主体が就労支援を行うに当たっては、当該被保護者の状況や地域の雇用情勢を考慮するとともに、技能修得費の積極的な活用を図ることを求めており、効果的な取組が行われるように努めることとしている。
 一方、貴省は、事業主体が組織的に被保護世帯の自立を支援するために、17年度から、就労支援等の自立支援プログラムを導入しており、この中で生業扶助の積極的な活用を求めている。この自立支援プログラムは、事業主体が被保護者とともに就労に向けた具体的な自立目標を設定して、これに基づき被保護者に必要な支援を実施するものであり、その一環として、被保護者が自立目標を達成するまでの期限や自立目標を達成するための活動等を記入して自立計画書等を作成する取組を実施している。

2 本院の検査結果

 (検査の観点、着眼点、対象及び方法)

 近年、稼働年齢層(15歳以上65歳未満)にある被保護者数が増加しており、事業主体において、これらの被保護者の自立の助長を図ることが急務となっている。そして、生業扶助は、被保護者等の稼働能力を引き出して、それを助長することによって、その者の自立を図ることを目的としているものである。
 そこで、本院は、有効性等の観点から、技能修得費を支給する必要性の検討は十分に行われているか、技能修得費により生業に必要な技能が修得されているか、技能の修得後に就労に結びついているかなどに着眼して、23都道府県(注1) の520事業主体(735福祉事務所)において、21、22両年度に支給した計13,550件の技能修得費計6億9614万余円(うち負担金相当額5億2210万余円)を対象として、貴省及び23都道府県等において、保護費の支給決定等に係る関係書類を確認するなどして会計実地検査を行った。

 23都道府県  東京都、北海道、京都、大阪両府、秋田、群馬、埼玉、新潟、山梨、岐阜、静岡、愛知、兵庫、和歌山、岡山、香川、愛媛、高知、福岡、長崎、熊本、鹿児島、沖縄各県

 (検査の結果)

 検査したところ、次のような事態が見受けられた。

(1) 就労支援における生業扶助の支給後の技能修得及びその後の就労状況等

 技能修得費の支給を受けた被保護者の技能修得及びその後の就労状況等について検査したところ、次のとおり、技能修得費を支給した効果が十分に発現していない事態が23都道府県の260事業主体(401福祉事務所)の被保護者2,849人、支給された技能修得費4,948件計1億2323万余円(うち負担金相当額9242万余円)において見受けられた(ア及びイの事態には事業主体及び福祉事務所の重複がある。)。

ア 被保護者が資格を取得していなかったもの

140事業主体の261福祉事務所における被保護者825人

支給された技能修得費1,269件計3566万余円(うち負担金相当額2674万余円)

 上記の被保護者825人は、資格の取得の経費に充てるとして技能修得費の支給を受けていたものの、その資格を取得していなかった。このうち9人は、自動車運転免許を取得するなどのために支給された技能修得費計1,711,330円を遺失したとしたり、生活費等に費消したりしており、また、411人(支給された技能修得費計17,173,947円)は、研修課程の受講を途中でやめるなどして試験等を受験する要件すら満たしていなかった。

<事例1>

 事業主体Aは、被保護者Bから自動車運転免許の取得を条件として就職の内定を受けたという申立てがあったことから、これを認め、被保護者Bから提出された内定書と自動車学校の教習案内等に基づいて、平成22年5月に自動車運転免許取得のための技能修得費314,600円を支給していた。
 しかし、被保護者Bは、受講の有効期限である23年3月までに受講を終了しておらず、事業主体Aは、同年11月に初めて自動車学校に問い合わせるまで、被保護者Bが実際には2日間しか教習を受けておらず、支給した技能修得費のうち自動車学校に支払っていたのは62,055円であったことを把握していなかった。

<事例2>

 事業主体Cは、被保護者Dから就職のために簿記の検定資格を取得したいという申出があったことから、これを認めて、平成22年4月から同年7月までの間に5回にわたり、10回分の簿記の検定料等計103,152円を支給していた。
 しかし、実地検査において被保護者Dの技能修得費の支給等に係る書類を検査したところ、確認できたのは検定料等に係る金額のみであり、事業主体Cから被保護者Dへの技能修得費を支給した意義についての説明、資格取得後の自立に向けた目標、資格の取得状況等についての記録は残されていなかった。また、事業主体Cは、最初に検定料等を支給した後、被保護者Dから領収書等を提出させておらず、検定料等の払込金額の確認や、検定試験の結果の確認を行わないまま、その後も繰り返し同種の資格に係る検定料等を支給していた。そして、領収書等の証ひょう類が確認できなかったため、更に調査したところ、技能修得費として被保護者Dに支給された103,152円のうち、検定料として支給された84,780円については、実際には検定料として全く支払われておらず、被保護者Dは検定資格を取得していなかった。

イ 被保護者が資格を取得するなどしたものの、就労に至っていないものなど

214事業主体の352福祉事務所における被保護者2,024人

支給された技能修得費3,679件計8757万余円(うち負担金相当額6568万余円)

 上記の被保護者2,024人は、試験に合格したり、全ての研修課程を修了したりしたことにより資格を取得するなどしたものの、その後、実地検査を行った時点では就労等に至っていなかった。
 資格の取得が直ちに被保護者の就労に結びつくものではないことから、事業主体が効果的な支援を行うためには、被保護者の自立に向けた目標を明確にしたり、技能修得費を支給した後に適時適切に資格の取得状況等を把握したりなどして、必要な指示や助言を行うことが重要である。しかし、事業主体が技能修得費を支給する際に、被保護者の自立に向けた目標を明確にしていなかったり、技能の修得状況を把握していなかったり、それらの過程等について記録に残していなかったりしていた事態が見受けられた。

<事例3>

 事業主体Eは、被保護者Fから、公共職業安定所のあっせんにより職業訓練(機械・電気設備科)を受講することが決まったため、訓練校に通うための交通費の支給申請があったことから、これを認めて、平成21年10月に技能修得費171,950円を支給した。
 しかし、実地検査において被保護者Fの技能修得費の支給等に係る書類を検査したところ、当該訓練を受講する理由や訓練受講後の自立に向けた具体的な目標については明確にされておらず、技能修得の内容が適切であるか、効果が期待できるかなどの検討の経過等については、記録に残されていなかった。
 被保護者Fは、22年4月に上記訓練の全課程を修了したが、その後、別の講習等の受講を希望するのみで、求職活動は進展せず、実地検査を行った24年5月現在においても、就労には結びついていなかった。

(2) 技能修得費の支給の必要性の検討等の状況

 検査の過程において、技能修得費を支給した効果が十分に発現していない事態が見受けられたことから、11都道府県(注2) 75事業主体の97福祉事務所において、技能修得費の支給に当たり、必要とする実態についてどのように調査確認を行っているかについて検査したところ、52事業主体の58福祉事務所においては、被保護者から計画書等の提出を求めることとはしておらず、技能修得費を必要とする具体的な理由等について記録として残していなかった。
 また、10事業主体の11福祉事務所は全ての場合について、18事業主体の28福祉事務所は自動車運転免許を取得する場合等の特定の場合について、それぞれ計画書等の提出を求めることとしていた。しかし、実際に提出された計画書等を確認したところ、取得する資格名及び技能修得費の額等について記入させているのみで、自立支援プログラムにおいて設定している自立に向けた目標や、自立計画書に記入させている具体的な活動計画や達成期限といった項目については記入させることとなっておらず、技能修得費の支給の必要性を検討する上で十分な内容とはなっていなかった。
 そして、このように、調査確認が必ずしも十分に行われていなかったり、技能修得費の支給の必要性や被保護者の自立に向けた目標が必ずしも明確になっていなかったりしていた事業主体は、技能を修得した後の就労支援に当たっても、修得した技能等を勘案した指示や助言を十分に行う体制となっていなかったと認められる。

 11都道府県  東京都、北海道、京都、大阪両府、秋田、新潟、愛知、兵庫、和歌山、高知、福岡各県

 (改善を必要とする事態)

 上記のように、事業主体において、被保護者の自立に向けた目標を明確にすることなどもなく、被保護者に対する生業扶助の意義や効果についての説明を必ずしも十分に行わないまま技能修得費を支給したことに加えて、技能修得費の支給後の状況の把握や就労支援を十分に行わなかったため、生業扶助の効果が必ずしも十分に発現していない事態は適切とは認められず、改善の要があると認められる。

 (発生原因)

 このような事態が生じているのは、次のことなどによると認められる。

ア 事業主体において、

(ア) 被保護者への技能修得費の支給に当たり、具体的な自立に向けた目標を設定させるなど被保護者に対する自立の助長に向けた支援をする必要があるのに、被保護者に対して、生業扶助の意義や効果について必ずしも十分な説明が行われていないこと
(イ) 技能修得費を支給した後の技能の修得状況等の確認を十分に把握していないことなどにより被保護者への支援が効果的なものとなっていないこと
(ウ) 技能修得費の支給の必要性及び支給後の支援に係る経過等が十分記録されていないこと

イ 貴省において、事業主体に対する、技能修得費の支給に当たっての調査確認の方法並びに技能修得費を支給した後の技能の修得状況の把握や就労支援についての指導及び助言が十分でないこと

3 本院が要求する改善の処置

 近年、稼働年齢層の被保護者は増加傾向にあり、これらの被保護者の自立の促進が強く求められている。
 ついては、貴省において、被保護者の就労への努力がより効果的なものとなり、生業扶助の効果がより発現されることとなるよう、次のとおり改善の処置を要求する。

ア 事業主体に対して、次のような技術的助言を行うこと

(ア) 技能修得費の支給に当たっては、被保護者の適性及び求職状況等を踏まえて、具体的な自立に向けた目標を設定させるなど被保護者に対する自立の助長に向けた支援を行うとともに、被保護者に対して、生業扶助の意義や効果について十分な説明を行うこと
(イ) 技能修得費を支給した後に、技能の修得状況等を十分に把握して、その後の就労等により結びつくものとなるように支援すること
(ウ) 技能修得費の支給の検討、技能修得の状況、その後の支援についての経過等を確実に記録に残すこと

イ 貴省及び都道府県等が事業主体に対して行う生活保護法施行事務監査において、技能修得費の支給状況及びその後の就労等に向けた支援の実施状況を確認し、技能修得費の支給状況及びその後の就労等に向けた支援の実施状況が十分でない事業主体に対して改めて指導を徹底すること