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社会福祉施設等施設整備費補助金等による障害福祉サービスを提供する事業所の施設整備等について、障害者等の具体的な需要を把握することなどにより、事業の効果が十分発現するよう改善の処置を要求したもの


(9) 社会福祉施設等施設整備費補助金等による障害福祉サービスを提供する事業所の施設整備等について、障害者等の具体的な需要を把握することなどにより、事業の効果が十分発現するよう改善の処置を要求したもの

会計名及び科目 一般会計 (組織)厚生労働本省 (項)障害保険福祉費
    (項)社会福祉施設整備費
部局等 厚生労働本省、7地方厚生(支)局
補助の根拠 予算補助
補助事業者 21都道府県、22市
間接補助事業者
(事業主体)
149事業者
補助事業 社会福祉施設等施設整備費補助金(平成17年度〜22年度)
障害程度区分認定等事業費補助金(障害者就労訓練設備等整備事業分)
(平成20年度〜22年度)
補助事業の概要 社会福祉法人等が実施する社会福祉施設の施設整備又は設備整備に要する費用を補助するもの
上記に対する国庫補助金交付額の合計 248億3916万余円 (平成17年度〜22年度)
上記のうち施設整備等の効果が十分発現していない事態に係る国庫補助金交付額 21億6784万円  

【改善の処置を要求したものの全文】

 社会福祉施設等施設整備費補助金等による施設整備等について

(平成24年10月26日付け 厚生労働大臣宛て)

 標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり改善の処置を要求する。

1 制度の概要

(1) 障害福祉サービスの概要

 障害福祉サービス(以下「サービス」という。)は、障害者自立支援法(平成17年法律第123号。以下「自立支援法」という。)に基づいて、障害者及び障害児(以下「障害者等」という。)が自立した日常生活等を営むことができるよう、介護給付費及び訓練等給付費(以下「介護給付費等」という。)の支給を受ける障害者等に対して提供されるものである。
 市町村(特別区を含む。以下同じ。)は、障害者等からの介護給付費等の支給の申請に基づき、障害者等のサービスの利用に関する意向、当該市町村においてサービスを利用できる見込みなどを勘案して、介護給付費等の支給の要否の決定を行うこととされている。
 そして、支給決定を受けた障害者等が、都道府県知事等の指定を受けた指定障害福祉サービス事業者(以下「事業者」という。)の事業所(以下「事業所」という。)においてサービスの提供を受けた場合に、市町村はこれに係る介護給付費等を事業者に支払うこととなっている。
 上記のサービスの指定は、都道府県知事等が、事業者の申請に基づき、各事業所のサービスの種類ごとに行うこととなっている。また、事業者は、サービスの利用定員を変更する場合や、サービスを廃止、休止又は再開する場合には、都道府県知事等に対して届出等を行うこととなっている。
 そして、自立支援法が平成18年に施行されたことにより、サービスは、従来の施設ごとの体系から、障害者等が日中の活動支援と夜間の居住支援を組み合わせて利用できるようこれらを分離するなどして、新たなサービス体系(以下「新体系」という。)に再編され、事業者は24年4月1日までに新体系に移行することとされた。また、新体系への移行に伴い、事業所に支払われる介護給付費等についても、サービスの利用日数にかかわらず所定の月額で算定する方法からサービスの利用日ごとに算定する方法に変更されたことから、事業者は、利用日数が少ない場合には収入が減少することとなるため、サービスを提供する日ごとの障害者等の利用状況に留意することが必要となった。
 また、24年6月に、自立支援法が「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律」に改正され、25年4月以降、障害者等に対する支援の充実を図るためにサービスの対象となる障害者等の範囲を拡大するなど、サービスの更なる拡充等が見込まれている。

(2) 施設整備補助金の概要

 社会福祉施設等施設整備費補助金(以下「施設整備補助金」という。)は、施設入所者等の福祉の向上を図ることを目的として、社会福祉法人等が行う施設整備に対して都道府県又は政令指定都市若しくは中核市(以下「都道府県等」という。)が行う補助事業を交付の対象としている。
 そして、施設整備補助金の交付額は、交付要綱に基づき、〔1〕 対象経費の実支出額の合計額と総事業費から寄附金その他の収入額を控除した額とを比較して少ない方の額に4分の3を乗じた額と、〔2〕 施設の種類ごとに算出した基準額の合計額と、〔3〕 都道府県等が補助した額とを比較して、最も少ない額に3分の2を乗じて算出した額とされている。
 施設整備補助金の交付手続については、〔1〕 都道府県等は、事業者の申請等に基づき、国庫補助の対象とする事業所を選定して、施設整備計画協議書(以下「整備計画」という。)をまとめ、事業所の所在市町村の意見書とともに地方厚生(支)局を経由して貴省本省に提出し、〔2〕 貴省本省は、当該整備計画の審査等を行い、都道府県等を通じて事業者に内示を行う。そして、〔3〕 地方厚生(支)局は、内示を受けた事業者から都道府県等を通じて提出された交付申請書を審査した上、交付決定を行い、〔4〕施設整備の実施後に、事業者から都道府県等を通じて提出された事業実績報告書を基に、補助金の額の確定を行うこととなっている。
 そして、この交付手続のうち、都道府県等が国庫補助の対象とする事業所を選定するに当たっては、単に障害者等の待機者数の把握にとどまらず、施設の必要性を調査するなどして実態を的確に把握し、中長期的視点から真に必要性が認められ、かつ施設整備の目的、計画等が具体的であることなどを審査することとされており、地方厚生(支)局においても、都道府県等からヒアリングを行うなどして審査することとされている。

(3) 設備整備補助金の概要

 障害程度区分認定等事業費補助金のうち障害者就労訓練設備等整備事業(就労訓練設備事業)に係る分(以下「設備整備補助金」という。)は、新体系への円滑な移行を図ることを目的として、社会福祉法人等が22年度までに行う設備整備等に対して都道府県等が行う補助事業を交付の対象としている。
 そして、設備整備補助金の交付額は、交付要綱に基づき、〔1〕 施設ごとに定められた基準額と対象経費の実支出額とを比較して少ない方の額と、総事業費から寄附金その他の収入額を控除した額とを比較して少ない方の額を選定して、〔2〕 この選定した額と都道府県等が補助した額とを比較して少ない方の額の合計額とされている(1施設当たり50万円以上。上限500万円等)。
 また、都道府県等は、設備整備補助金の交付申請に当たり、対象施設における設備等の内容を把握して、当該事業の目的及び効果について検証した上で事業計画書を作成して、当該事業所の所在する市町村の意見書を添付して申請を行うこととされている。

2 本院の検査結果

 (検査の観点、着眼点、対象及び方法)

 本院は、有効性等の観点から、事業者が施設整備補助金及び設備整備補助金(以下、これらを合わせて「国庫補助金」という。)により施設整備及び設備整備(以下「施設整備等」という。)を行った事業所において、新体系に移行後サービスの利用が順調に推移し、国庫補助金の効果が十分発現しているかなどに着眼して検査を行った。
 検査に当たっては、18年度から22年度までの間に国庫補助金による施設整備等を行った23都道府県(注1) に所在する795事業者の914事業所(国庫補助金交付額計248億3916万余円)を対象として、貴省、22都道府県及び34市において、23年度に提供された1,357サービスの利用状況等について資料の提出を求め、これを確認するなどの方法により会計実地検査を行った。

23都道府県  東京都、北海道、京都、大阪両府、秋田、茨城、群馬、埼玉、新潟、岐阜、静岡、愛知、兵庫、和歌山、岡山、香川、愛媛、高知、福岡、長崎、熊本、鹿児島、沖縄各県

 (検査の結果)

 検査したところ、次のような事態が見受けられた。

(1) サービスの利用状況

 上記の1,357サービスについてサービスの利用率(注2) を算出するなどして検査したところ、149事業者の152事業所で実施された178サービスについては、次のとおり、国庫補助金の効果が十分発現していない事態が見受けられた(各態様における事業者数、事業所数及びサービス数については重複しているものがある。)。

 利用率  当該サービスに係る事業所の開所日数に利用定員を乗じた定員による延べ利用者数に対する実際の延べ利用者数の割合

 ア サービスの提供を廃止、休止等していたもの

16事業者の16事業所における19サービス

国庫補助金計2億6139万余円

 上記の事業者のうち、11事業者(11事業所、13サービス)は一部のサービスの提供を廃止し、1事業者(1事業所、1サービス)は不正請求によりサービスの指定を取り消され、また、1事業者(1事業所、2サービス)は全部のサービスの提供を一定期間休止した後、再開したもののその利用が低調となっていた。さらに、残りの3事業者(3事業所、3サービス)はサービスの提供を24年3月末時点で休止していた。

<事例1>

 事業者Aは、平成20年度に、施設整備補助金6886万余円の交付を受けて事業所を創設し、21年5月に生活介護サービス(注3) (利用定員6人)及び就労移行支援サービス(注4) (利用定員14人)の指定を県から受け、整備計画に従ってサービスの提供を開始していた。
 しかし、利用者が集まらなかったなどのため、県に届出を行い、22年3月から23年4月までサービスの提供を休止していた。その後、サービスの提供を再開したものの利用者が集まらず、23年度の利用率は、生活介護サービスで49.7%、就労移行支援サービスで19.8%と低調となっていた。

(注3)
 生活介護サービス  常時介護を要する障害者に対して行われる、入浴、排せつ等の介護、掃除等の家事、必要な日常生活上の支援並びに創作的活動及び身体機能等の向上のために必要な支援
(注4)
 就労移行支援サービス  就労を希望する65歳未満の障害者で通常の事業所に雇用されることが可能と見込まれるものにつき、生産活動等の機会の提供を通じて行われる、就労に必要な知識及び能力の向上のために必要な訓練その他の必要な支援(期間2年間等)

イ サービスの利用定員を減らしていたもの

41事業者の41事業所における49サービス

国庫補助金計3億9128万余円

 上記の41事業者(41事業所、49サービス)は、サービスの利用が低調であったことなどから都道府県知事に届出を行い、サービスの利用定員を減らしていた。なお、このうち3事業者(3事業所、4サービス)は、利用定員を減らした後も利用率が50%未満と依然として低調となっていた。

<事例2>

 事業者Bは、平成19年度に、施設整備補助金4782万余円の交付を受けて事業所を創設し、20年7月に就労移行支援サービス(利用定員20人)の指定を県から受け、整備計画に従ってサービスの提供を開始していた。
 しかし、事業者Bは、障害者等に対する周知不足等により利用者が集まらなかったなどのため、県に届出を行い、22年9月から利用定員を10人に減らしていた。

ウ サービスの利用が低調となっていたもの

100事業者の101事業所における112サービス

国庫補助金15億1515万余円

 上記の事業者のうち、6事業者(6事業所、6サービス)は障害者等によるサービスの利用がなく、残りの94事業者(95事業所、106サービス)は一部又は全部のサービスの利用率が50%未満と利用が低調となっていた。

<事例3>

 事業者Cは、平成22年度に、施設整備補助金5300万円の交付を受けて事業所を創設し、23年4月に生活介護サービス(利用定員25人)の指定を県から受け、整備計画に従ってサービスの提供を開始していた。
 しかし、事業者Cは、23年度の利用率が22.2%と利用が低調となっていた。

 以上のとおり、事業所がサービスの提供を廃止、休止等していたり、サービスの利用定員を減らしていたり、サービスの利用が低調となっていたりしていたため、149事業者(152事業所、178サービス)に係る国庫補助金による施設整備等(国庫補助金交付額計21億6784万余円)は、事業効果が十分に発現しているとは認められない。

(2) サービスの需要に関する調査状況等

 上記(1)のとおり、国庫補助金による施設整備等を行った事業所においてサービスの利用が低調等となっていた事態が見受けられたことから、国庫補助金の申請時におけるサービスに対する利用者の需要に関する調査状況について検査したところ、国庫補助金の申請等の際に、事業者、市町村又は都道府県が障害者等に費用負担等の条件を詳細に提示して、利用に係る意向の有無について回答を求めるなど利用に向けた具体的な調査を行っていたのは、前記1,357サービスのうち、98サービス(全体の7.2%)にとどまっていた。
 また、サービスの利用が低調等となっていた前記149事業者の178サービスについて、その理由を調査したところ、回答が得られた127事業者の146サービスにおける主な理由は以下のとおりであった。

ア 51事業者が提供する65サービス(146サービスの44.5%)については、「利用者の見込み誤り」が理由として挙げられていた。これは、事業者において、サービスに対する需要の有無等を詳細な意向調査等により十分把握しないまま、国庫補助金による施設整備等を行いサービスを開始したことが主な原因であると思料された。

イ 36事業者が提供する40サービス(同27.3%)については、「障害者等に対する周知不足」が理由として挙げられていた。これは、事業者において、提供するサービスの障害者等への周知の努力が不足していること、また、市町村において、事業者に対してサービスの利用を図るための指導等を十分に行っていないことなどによると思料された。

ウ ア及びイのほかに、「利用日数が少ない者がいるため」(同5.4%)、「就職等による退所のため」(同4.7%)、「サービス提供期間終了のため」(同3.4%)なども理由として挙げられていた。これらは、新体系への移行によりサービスを提供する日ごとの利用状況に留意することが必要となること、一部のサービスにはその提供期間が決まっていることなど、事業者において新体系における各サービスの特徴等についての理解が十分ではなかったことによると思料された。

 上記の(1)及び(2)から、貴省本省、地方厚生(支)局及び都道府県等においては、国庫補助金の交付申請の審査等に当たり、具体的な需要の有無等の状況を十分に確認することが必要であり、事業者においては、各サービスの特徴等を十分に理解するとともに、具体的な需要の有無を十分に把握すること及び提供するサービスの障害者等に対する周知を十分に行うことが必要であると認められる。また、事業所が所在する市町村において、サービスの利用状況について把握の上、利用が低調等となっているサービスについて事業者に適切に助言等を行い、サービスの利用を図ることが重要であると認められる。

 (改善を必要とする事態)

 国庫補助金により施設整備等を行った事業所がサービスの提供を廃止、休止等していたり、サービスの利用定員を減らしていたり、サービスの利用が低調となっていたりしている事態は、国庫補助金による施設整備等の効果が十分に発現していないことから適切とは認められず、改善の要があると認められる。

 (発生原因)

 このような事態が生じているのは、次のことなどによると認められる。

ア 都道府県等において、サービスの需要の有無を十分に把握しないまま国庫補助金の申請を行っていること

イ 貴省本省及び地方厚生(支)局において、国庫補助金の交付申請の審査等に当たり、事業所が提供することとなるサービスに対する具体的な需要の有無を審査するようになっていないこと

ウ 事業者において、新体系における各サービスの特徴等を十分に理解していないこと、また、サービスに対する具体的な需要の有無を十分に把握しないまま国庫補助金の申請を行っていること

エ 施設整備等の実施後に、事業者において、提供するサービスの障害者等に対する周知を十分に行っていないこと、また、事業所が所在する市町村において、サービスの利用状況を十分に把握しておらず、サービスの利用を図るための取組が十分でないこと

3 本院が要求する改善の処置

 障害者等に対するサービスについては、前記のとおり、25年4月以降更なる拡充等が見込まれているところである。
 ついては、貴省において、国庫補助金による施設整備等の効果が十分に発現するよう、次のとおり改善の処置を要求する。

ア 都道府県等に対して、国庫補助の対象とする事業所の選定に当たり、事業所が提供することとなるサービスに対する具体的な需要の有無を把握した上で整備計画がこれを踏まえたものとなっているかを確認し、必要に応じて関係機関と連携をとるなどして審査を行うよう指導及び助言すること

イ 貴省本省及び地方厚生(支)局において、国庫補助金の交付申請の審査に当たり、事業所が提供することとなるサービスに対する具体的な需要の有無及び整備計画の妥当性について、必要に応じて関係機関と連携をとるなどして確認して、審査を行うこと

ウ 事業所が所在する市町村に対して、事業者が、国庫補助金の交付申請を行う際に、新体系における各サービスの特徴等を十分に理解して、提供することとなるサービスに対する具体的な需要の有無を把握するよう、事業者に助言等を行うことを都道府県等を通じて指導及び助言すること

エ 施設整備等の実施後に、事業所が所在する市町村に対して、事業所が提供するサービスの利用状況について、関係者と連携をとるなどして十分に把握するとともに、提供するサービスの障害者等に対する周知の重要性等について事業者に助言等を行うことを都道府県等を通じて指導及び助言すること