会計名及び科目 | 労働保険特別会計(雇用勘定) (項)失業等給付費 |
部局等 | 厚生労働本省(支給庁)、42公共職業安定所(支給決定庁) |
採用証明書等による調査確認の概要 | 受給資格者の申告のみでは自己就職の状況の把握が十分ではないことから、同人を採用した事業主に直接証明させることにより、就職の事実を把握するもの |
失業等給付金が適正に支給されていなかった受給資格者 | 96人 |
上記の者に対する不適正な支給額 | 2558万円(平成21年度〜23年度) |
厚生労働省は、雇用保険法(昭和49年法律第116号)に基づき、常時雇用される労働者等を被保険者として、被保険者が失業した場合、被保険者について雇用の継続が困難となる事由が生じた場合等に、その生活及び雇用の安定並びに就職の促進等のために失業等給付金の支給を行っている。
失業等給付金の支給を受けようとする者は、公共職業安定所(以下「安定所」という。)に出頭し受給資格の決定を受けた(以下、受給資格の決定を受けた者を「受給資格者」という。)上で、一定期間ごとに失業認定申告書を提出して、実際に失業している日について認定を受けることとなっている。
受給資格者は、安定所で受給資格の決定を受ける際、都道府県労働局(以下「労働局」という。)が作成した「雇用保険の失業等給付受給資格者のしおり」を受領することになっている。このしおりには、受給資格者が安定所の紹介による就職以外の就職(以下「自己就職」という。)をした場合に、その就職の事実を証明する書類として採用証明書の書式が示されている。採用証明書は、就職先の事業主が当該受給資格者を雇用した年月日等を記入して押印するもので、雇用年月日とは在籍となる初日をいい、この在籍となる初日には、試用期間、アルバイト期間等を含むことになっている。そして、受給資格者は、自己就職をした場合には、失業認定申告書とともに採用証明書を安定所に提出することになっている。
厚生労働省職業安定局が定めた業務取扱要領[雇用保険給付関係](以下「取扱要領」という。)によれば、受給資格者が就職の事実を秘匿し、又は自己の労働による収入を届け出ないなどの手段を用いて失業等給付金の支給を受けようとすることを未然に防止するため、受給資格者から自己就職をした旨の申告を受けたときは、安定所は、適宜当該就職先を調査して就職の事実を確認することとされている(以下、この確認を「調査確認」という。)。しかし、その具体的な方法は、取扱要領等には示されていない。
雇用保険法によれば、安定所は、受給資格者が偽りその他不正の行為により失業等給付金の支給を受けた場合には、支給額の全額又は一部の返還を命じ、場合によっては支給額の2倍に相当する額以下の納付を命ずることができることとされており、事業主の偽りの証明等により失業等給付金の支給がなされた場合には、当該事業主に対し、受給資格者と連帯して、返還又は納付を命ぜられた金額の納付をすることを命ずることができることとされている。
本院は、毎年度の検査報告において、失業等給付金の支給を受けた者が、再就職した後も引き続き失業等給付金の支給を受けるなどしていて、その支給が適正でない事態を不当事項として掲記しており(前掲の「雇用保険の失業等給付金の支給が適正でなかったもの
」参照)、これらの中には、自己就職した受給資格者に係る支給が多数見受けられている。こうした事態に対して、厚生労働省は、失業認定申告書等の審査、就職先の事業所に対する調査確認等を強化することなどにより、同様な事態の再発防止に取り組んできたとしている。
そこで、本院は、合規性、有効性等の観点から、厚生労働省が取り組んできたとしている再発防止策としての調査確認は適切に行われているか、その調査確認はどのような方法により行われているかなどに着眼して、埼玉労働局等14労働局(注1)
管内の116安定所において、平成20年度から23年度までの間に自己就職した受給資格者のうち、失業等給付金を受給していた者6,755人(失業等給付金の支給額計52億1806万余円)を対象として、採用証明書等の書類により会計実地検査を行った。
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
ア 採用証明書等による調査確認が行われていなかったもの
石川労働局等8労働局(注2) 管内の17安定所 27人
(不適正な失業等給付金の支給額538万余円)
前記6,755人のうち、埼玉労働局等14労働局管内の100安定所において失業等給付金を受給していた1,191人について、安定所は、採用証明書等による調査確認を行っておらず、このうち27人については、受給資格者から提出された就職の事実と相違する失業認定申告書のみに基づき支給決定を行っていて、失業等給付金538万余円が適正に支給されていなかった。
イ 採用証明書等による調査確認が行われていたものの、採用証明書等の内容が受給資格者の就職の事実と相違していたもの
東京労働局等12労働局(注3) 管内の36安定所 69人
(不適正な失業等給付金の支給額2020万余円)
前記6,755人のうち、埼玉労働局等14労働局管内の116安定所において失業等給付金を受給していた5,564人について、安定所は、採用証明書等による調査確認を行った上で、失業認定申告書に記載されていた就職年月日が採用証明書の雇用年月日と同一であったなどとして、支給決定を行っていた。しかし、このうち69人については、実際には、採用証明書等に記載されていた雇用年月日より前に、当該事業主の下で試用期間等として職業に就いているのに、事業主が就職の事実と相違した雇用年月日を記載していたり、事業主が受給資格者に求められるまま虚偽の雇用年月日を記載していたりして、失業等給付金2020万余円が適正に支給されていなかった。
このように、安定所において採用証明書等による調査確認が行われていなかったり、事業主が記載した採用証明書等の内容が受給資格者の就職の事実と相違していたりしていて、失業等給付金の支給が適正に行われていない事態は適切とは認められず、改善の必要があると認められた。
このような事態が生じていたのは、主として次のことなどによると認められた。
ア 厚生労働省において、失業等給付金の支給決定に当たり、受給資格者から採用証明書を提出させ、提出がない場合に安定所が行う調査確認の具体的な方法を取扱要領等に明示していなかったこと
イ 労働局及び安定所において、事業主に対し、雇用年月日とは試用期間等も含む在籍となる初日であること、就職の事実に相違して偽りの証明をして受給資格者が失業等給付金の支給を受けた場合には、受給資格者と連帯して返還等の命令を受ける場合があることなどについて十分に周知していなかったこと
上記についての本院の指摘に基づき、厚生労働省は、24年3月及び7月に取扱要領を改正するなどして、失業等給付金の支給に当たり、支給の一層の適正化が図られることとなるよう、次のような処置を講じた。
ア 取扱要領等に、受給資格者から自己就職した旨の申告があった場合に安定所が行う調査確認の具体的な方法として、採用証明書等による調査確認の方法等を明示した。
イ 採用証明書等の記載に当たり、受給資格者の雇用年月日とは試用期間等も含む在籍となる初日であること、雇用年月日を事実に相違して記載するなど偽りの証明をして受給資格者が失業等給付金の支給を受けた場合には、受給資格者と連帯して返還等の命令を受ける場合があることなどを注意事項として採用証明書の書式に加えるなどして、事業主に対する周知徹底を図るなどした。