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  • 平成23年度|
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  • 保険給付

農業災害補償制度に係る保険金の支払が適正でなかったもの


(196) 農業災害補償制度に係る保険金の支払が適正でなかったもの

会計名及び科目 農業共済再保険特別会計(家畜勘定)  (項)家畜再保険費及交付金
  (平成19年度以前は、  (項)家畜再保険費)
部局等 農林水産本省
支払の相手方 熊本県農業共済組合
保険事業 牛を対象とする家畜共済事業に係る保険事業
適正とは認められない共済金支払額 10,848,050円 (平成18年度〜21年度)  
不当と認める保険金支払額 5,424,010円 (平成18年度〜21年度)  

1 保険給付の概要

 農林水産省は、農業災害補償法(昭和22年法律第185号)等に基づき、農業者が不慮の事故によって受ける損失を補填して農業経営の安定を図り、農業生産力の発展に資することを目的として、農業災害補償制度を運営している。
 この制度は、都道府県内の農業共済組合が1組合に合併し都道府県ごとの農業共済組合連合会の権利義務を承継する組合(以下「特定組合」という。)を設立している場合には、特定組合が行う共済事業及び国が行う保険事業の2段階によって構成されている。
 そして、特定組合が行う共済事業のうち、牛を対象とする家畜共済事業(以下「牛共済」という。)において、共済対象の牛に死亡、廃用(注1) 、疾病又は傷害の共済事故(以下、死亡又は廃用の共済事故を「死廃事故」といい、疾病又は傷害の共済事故を「病傷事故」という。)が発生した場合は、特定組合は、所定の計算式により共済金の額を算定し、その額を共済金として組合員に支払い、国は、共済金の5割に相当する額を保険金として特定組合に支払うこととなっている。
 「家畜共済の事務取扱要領及び事務処理要領について」(昭和61年61農経B第804号農林水産省経済局長通知)等によると、組合員は、共済対象の牛に共済事故が発生した場合は、遅滞なくその旨を特定組合に通知し、獣医師の診察又は検案(注2) (以下、これらを「診察等」という。)を受け、獣医師による診断書又は検案書(以下、これらを「診断書等」という。)を提出して共済金を請求することとされている。また、特定組合の獣医師の資格を持つ職員(以下「獣医職員」という。)が組合員から共済事故の発生の通知を受けて現地で診察等を行った場合は、その獣医職員が診断書等を交付するため、組合員は、診断書等を別に提出する必要はないとされている。そして、獣医師法(昭和24年法律第186号)によると、獣医師は、診療中死亡した場合に交付する死亡診断書を除き、自ら診察等を行わないで診断書等を交付してはならないとされている。
 特定組合は、組合員から共済金の請求を受けたときは、診断書等を審査して、適正と認めたものについて共済金の支払手続を行うとともに同省に保険金の請求手続を行うこととされている。そして、同省は、特定組合から保険金の請求を受けたときは、提出された保険金請求書等を審査し、適正と認めたものについて保険金を支払うこととしている。

(注1)
 廃用  疾病又は不慮の傷害によって死にひんした状態等になること
(注2)
 検案  診療中でない家畜等が死亡した際にこれを獣医学的に確認すること

2 検査の結果

 本院は、特定組合である熊本県農業共済組合(以下「熊本組合」という。)において、合規性等の観点から、牛共済における共済金の支払及び保険金の請求が適正に実施されているかなどに着眼して、共済金の支払に関する書類等を確認するなどして会計実地検査を行った。
 検査したところ、次のような事態が見受けられた。
 熊本組合は、5支所(注3) 管内で発生する共済事故の確認等を行うため、宇城支所管内に設置した家畜診療所に、平成18、19両年度4人、20年度3人の獣医職員を配置し、牛の診察等を行わせていた。そして、これらの獣医職員のうち、獣医職員Aは、芦北支所管内で発生した18年度48件、19年度37件、20年度31件、計116件の死廃事故(共済金計16,492,624円(保険金相当額計8,246,289円))及び18年度380件、19年度365件、20年度248件、計993件の病傷事故(共済金計6,419,807円(保険金相当額計3,209,903円))について、牛の診察等を行ったとして診断書等を交付していた。
 しかし、これらの共済事故のうち、18年度26件、19年度23件、20年度18件、計67件の死廃事故(共済金計10,812,430円(保険金相当額計5,406,200円))及び18年度10件、19年度1件、計11件の病傷事故(共済金計35,620円(保険金相当額計17,810円))については、獣医職員Aが自ら診察等を行わずに診断書等を交付したものであった。
 したがって、上記の共済事故に係る共済金の支払は適正と認められないことから、これらに基づき同省が18年7月から21年5月までの間に熊本組合に支払った上記の67件の死廃事故に係る保険金5,406,200円及び11件の病傷事故に係る保険金17,810円、計5,424,010円は、支払が適正でなく、不当と認められる。
 このような事態が生じていたのは、熊本組合において共済金の審査及び確認が十分でなかったこと、同省において保険金の審査及び確認が十分でなかったこと並びに熊本組合に対する指導が十分でなかったことなどによると認められる。

 5支所  宇城、上益城、八代、芦北、天草各支所