「農」の雇用事業は、全国農業会議所が、担い手育成・確保対策事業実施要領(平成14年13経営第6627号農林水産事務次官依命通知。以下「実施要領」という。)等に基づき、就農意欲のある若者等多様な人材が農業法人等に就業することを促進し、農業の担い手として定着することを支援するため、農業法人等に対して、農業法人等が新たに雇用する者等に対して実施する実践研修に要した経費等を助成するもの(以下、この事業を「助成事業」という。)である。
そして、農林水産省は、助成事業の実施に必要な資金の財源に充てるため、全国農業会議所に対して国庫補助金を交付して資金を造成させており、全国農業会議所は、実施要領等に基づき、この資金を取り崩して農業法人等に対して助成を行っている。
実施要領等によると、実践研修を実施する農業法人等は、実践研修を受ける者に対して十分な指導を行うことのできる指導者(以下「研修責任者」という。)を確保することとされており、研修責任者は、5年以上の農業経験を有する者とされている。
本院が、全国農業会議所及び9府県管内の21農業法人等において会計実地検査を行ったところ、次のような事態が見受けられた。
部局等 | 補助事業者等 | 間接補助事業者等 | 補助事業等 | 年度 | 事業費 | 左に対する国庫補助金等交付額 | 不当と認める事業費 | 不当と認める国庫補助金等相当額 | |
千円 | 千円 | 千円 | 千円 | ||||||
(209) | 農林水産本省 | 全国農業会議所 | 有田農産有限会社 (事業主体) |
「農」の雇用 | 21、22 | 1,128 | 1,128 | 1,128 | 1,128 |
有田農産有限会社(鹿児島県曽於郡大崎町所在)は、新たに雇用した職員Aに対して研修責任者Bが平成21年8月から1年間の実践研修を実施したとして、実践研修に要した経費に係る助成金交付申請書等を全国農業会議所に提出して、全国農業会議所から助成金1,128,824円の交付を受けていた。
しかし、履歴書等によると、Bについては、同社の企画部門における2年4か月の経験のみが農業経験とされており、研修責任者の要件とされている5年以上の農業経験を有する者に該当しないことから、Bを研修責任者とする実践研修に要したとしている経費は、助成の対象とはならないものであった。また、同社の作業日誌を確認したところ、Aを農作業に従事させて実践研修を実施したとしている日にBが農作業に従事した記録がなく、BがAに対して直接実践研修を実施していたことを確認できなかった。
したがって、全国農業会議所が同社に交付した助成金計1,128,824円は、補助の対象とは認められず、これに係る国庫補助金計1,128,824円が不当と認められる。
このような事態が生じていたのは、同社において本件助成事業の適正な実施に対する認識が十分でなかったこと、全国農業会議所において本件助成事業の審査及び確認が十分でなかったことなどによると認められる。