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国有林野事業特別会計において発生した債権の管理に当たり、森林管理局及び森林管理署等の行う事務の範囲等を明確にして、債権の管理事務の実施状況、内容等を的確に把握する体制を整備するなどして、債権の管理事務を適切に行うこととするよう是正改善の処置を求めたもの


(2) 国有林野事業特別会計において発生した債権の管理に当たり、森林管理局及び森林管理署等の行う事務の範囲等を明確にして、債権の管理事務の実施状況、内容等を的確に把握する体制を整備するなどして、債権の管理事務を適切に行うこととするよう是正改善の処置を求めたもの

会計名及び科目 国有林野事業特別会計 (款)国有林野事業収入
     (項)業務収入
     (項)財産貸付料等収入
    (款)雑収入
     (項)国有林野事業雑収入
部局等 林野庁、7森林管理局  
事務の概要 国有林野事業特別会計における土地の貸付契約、林産物の売払い等により発生した債権の管理
適切な管理事務が行われていなかった債権の件数及び金額 1,416件 8億2696万円(平成23年度末)

【是正改善の処置を求めたものの全文】

 国有林野事業特別会計における債権管理について

(平成24年10月26日付け 林野庁長官宛て)

 標記について、会計検査院法第34条の規定により、下記のとおり是正改善の処置を求める。

1 債権管理の概要等

(1) 債権管理の概要

ア 債権管理に関する会計法令等

 貴庁は、会計法(昭和22年法律第35号)、国の債権の管理等に関する法律(昭和31年法律第114号。以下「債権管理法」という。)、国有林野事業特別会計経理規程(昭和44年農林省訓令第34号。以下「経理規程」という。)等に基づき、国有林野事業特別会計において、土地の貸付契約、林産物の売払い等により発生した債権(以下「林野特会の債権」という。)の管理に関する事務を行っている。
 債権管理法等の規定によると、歳入徴収官等は、その所掌に属すべき債権が発生したときは、遅滞なく、債務者の住所及び氏名、債権金額、履行期限等の事項を調査し、確認の上、これを帳簿(以下「債権管理簿」という。)に記載しなければならず、また、履行の督促の実施等の当該債権の管理に関する事務の処理上必要な措置を執ったときは、その都度遅滞なく、これらの内容を債権管理簿に記載しなければならないなどとされている。
 また、歳入徴収官等は、その所掌に属する債権の履行を請求するため、債務者に対して納入の告知をしなければならず、履行期限を経過してもなお履行されない場合には、債務者に対して履行を督促しなければならないなどとされている。そして、履行期限を経過した債権について督促をした後、相当の期間を経過してもなお履行されない場合には、歳入徴収官等は、法務大臣に対し、訴訟手続により履行を請求することを求めなければならず、また、債務名義(注1) のある債権については、強制執行の手続を執ることを求めなければならないなどとされている。
 さらに、歳入徴収官等は、その所掌に属する債権が時効により消滅することとなるおそれがあるときは、債務承認書の徴取等の時効を中断するために必要な措置を執らなければならないなどとされている(以下、訴訟手続による履行の請求、強制執行の手続の請求及び時効を中断するために必要な措置を合わせて「債権の保全措置」といい、債権の調査確認、債権管理簿への記載、債権の保全措置等に係る一連の事務を「債権の管理事務」という。)。

 債務名義  一定の請求権の存在と内容を証する文書であって、かつ、その請求権の内容を実現するために、法律によって執行力が認められたものをいう。民事執行法(昭和54年法律第4号)第22条の規定によると、強制執行は債務名義により行うとされており、確定判決、仮執行宣言を付した支払督促等がある。

イ 貴庁における債権管理

 貴庁は、経理規程等に基づき、各森林管理局長を歳入徴収官に指定し、各森林管理局において債権の管理事務を行わせている。
 そして、貴庁は、林野特会の債権の管理事務については、会計法令や経理規程等のほか、国有林野事業特別会計債権管理等事務取扱細則(昭和53年53林野経第126号)、「債権管理マニュアル」(平成14年1月林野庁管理課会計調達班作成。以下「マニュアル」という。)等に基づき行うこととしている。
 国有林野事業特別会計債権管理等事務取扱細則等によると、林野特会の債権については、官庁会計システム(平成20年12月までは官庁会計事務データ通信システム。以下「ADAMS」という。)の端末から出力される帳票をもって債権管理簿とするとされている。そして、履行期限を3か月経過しても弁済されない債権(以下「不良債権」という。)については、上記の出力された帳票から債務者の住所及び氏名、債権金額等の事項を長期債権管理票に移記し、これをその債権管理簿とするとされている。

ウ 林野特会の債権の消滅時効

 林野特会の債権は、土地の使用許可により発生した物件使用料債権については会計法第30条の規定により、土地の貸付けにより発生した物件貸付料債権については民法(明治29年法律第89号)第169条の規定により、また、林産物の売払いにより発生した林産物売払代債権については商法(明治32年法律第48号)第522条の規定により、債権の発生から5年を経過すると消滅時効が完成するなどとされている

(2) 収納未済となっている債権の管理事務手続

 歳入徴収官事務取扱規程(昭和27年大蔵省令第141号)等によると、歳入徴収官等は、その発する納入告知書、督促状等については、ADAMSを使用して作成するものとされている。そして、履行期限を経過しても収納未済となっている債権については、ADAMSにより収納未済債権の一覧表(以下「収納未済債権一覧表」という。)が出力されることから、歳入徴収官等は、この収納未済債権一覧表により収納未済債権の収納状況を確認し、このうち履行期限を経過しても納付されない債権については、財務省会計センターに指示して、履行期限経過後おおむね翌々月までに、計2回まで債務者に督促状を送付することとなっている(以下、この督促を「ADAMSによる督促」という。)。
 マニュアルによると、歳入徴収官である森林管理局長は、次のように森林管理署等と連携して収納未済債権の管理事務を行うこととされている。
〔1〕 債権の履行遅滞が発生した場合には、局内の関係各課及び該当する森林管理署等に対し、収納未済であることを速やかに連絡する。
〔2〕 督促の実施については、歳入徴収官である森林管理局長の事務ではあるが、森林管理署等と連携し、督促状の送付にとどまらず、面談等も併せて繰り返し督促し、経過については逐次記録する。
〔3〕 原則として、履行期限を6か月経過しても弁済のない債権については、法務局長等に対して強制執行等の手続を請求する

(3) 7森林管理局における林野特会の債権額の推移

 19年度末から23年度末までの7森林管理局(注2) における林野特会の債権額の推移は、表1 のとおりとなっている。そして、林野特会の債権額に占める履行期限の到来している債権額の割合は年々増加している。

表1 7森林管理局における林野特会の債権額等の推移

(単位:千円、%)

区分 平成        
19年度末 20年度末 21年度末 22年度末 23年度末
林野特会の債権額計
(A)=(B)+(C)
1,589,814 1,467,296 1,495,967 1,581,758 1,361,284
  履行期限の到来している債権額(B) 834,374 905,580 959,855 1,024,867 927,441
履行期限の到来していない債権額(C) 755,439 561,715 536,112 556,891 433,843
林野特会の債権額に占める履行期限の到来している債権額の割合
(B)/(A)×100
52.4 61.7 64.1 64.7 68.1
(注)
 金額は単位未満切捨てのため、(A)欄は、(B)欄及び(C)欄の計と一致しない場合がある。


 7森林管理局  北海道、東北、関東、中部、近畿中国、四国、九州各森林管理局

2 本院の検査結果

 (検査の観点、着眼点、対象及び方法)

 本院は、合規性等の観点から、債権管理簿の記載、債権の保全措置等の債権の管理事務は会計法令等に基づき適切に行われているかなどに着眼して検査した。
 検査に当たっては、7森林管理局における23年度末の林野特会の債権計13億6128万余円のうち、23年度末までに履行期限の到来している債権計1,498件、9億2744万余円を対象として、貴庁本庁及び中部森林管理局を除く6森林管理局において債権管理簿等の関係書類により会計実地検査を行うとともに、中部森林管理局については債権管理簿等の提出を受けるなどして検査した。

 (検査の結果)

 検査したところ、23年度末までに履行期限の到来している上記債権のうち不良債権となっているものが、計1,461件、9億1611万余円あり、このうち、盗伐等のため債務者が判明していない債権等を除く債権(以下「請求対象債権」という。)は、計1,416件、8億2696万余円となっていた。そこで、請求対象債権に係る債権の管理事務について検査したところ、次のような事態が見受けられた。

(1) 森林管理局における債権の管理事務

ア 債権の管理事務の実施体制について

 前記のとおり、マニュアルによると、債権の管理事務は、歳入徴収官である森林管理局長が森林管理署等と連携して行うこととされている。そこで、検査したところ、森林管理局は、ADAMSによる督促が行われた後も履行されない債権については、管内の森林管理署等に収納未済債権一覧表を送付して督促の実施等の事務を行わせていたが、債権の管理事務の実施体制については、表2 のとおりとなっていた。

表2  債権の管理事務の実施体制

森林管理局名

北海道 東北 関東 中部 近畿中国 四国 九州
区分
督促の実施状況等の報告 森林管理局が、森林管理署等に対し、債権の履行の督促の実施等について文書により指示していたもの × × × × ×
森林管理局が、森林管理署等に対し、督促や債権の保全措置の実施状況、内容等について文書により適時に報告するよう求めていたもの × × × × × × ×
年次報告 森林管理局が、森林管理署等に対し、債権の管理事務の実施状況、内容等についての年次報告を文書により報告するよう求めていたもの × × × ×

 すなわち、7森林管理局のうち、5森林管理局(東北、関東、中部、四国、九州各森林管理局)は、森林管理署等に収納未済債権一覧表を送付しているのみで、債権の履行の督促の実施等について文書により指示していなかった。そして、7森林管理局は、いずれも森林管理署等に対して督促や債権の保全措置の実施状況、内容等について文書により適時に報告するよう求めていなかった。このため、7森林管理局管内の森林管理署等は、いずれも森林管理局に対して督促の実施状況等について文書による定期的な報告を行っていなかった。
 また、3森林管理局(東北、近畿中国、九州各森林管理局)は、森林管理署等における不良債権に係る債権の管理事務の実施状況、内容等について、文書により年次報告を行うよう求めていたが、4森林管理局(北海道、関東、中部、四国各森林管理局)は、文書により年次報告を行うよう求めていなかった。このため、4森林管理局管内の森林管理署等は、いずれも文書による年次報告を行っていなかった。

イ 長期債権管理票の記載状況について

 上記アのような事態を踏まえ、7森林管理局において、債権管理簿である長期債権管理票における債権の保全措置の内容等の記載状況について検査したところ、表3 のとおりとなっていた。

表3  長期債権管理票の記載状況

(単位:件)

森林管理局名

北海道 東北 関東 中部 近畿中国 四国 九州
区分
債権の保全措置の内容等が記載されていたもの 3 23 239 2 93 1 40 401
債権の保全措置の内容等が記載されていなかったもの 45 178 617 51 58 4 62 1,015
48 201 856 53 151 5 102 1,416

 すなわち、請求対象債権計1,416件のうち、債権の保全措置の内容等が長期債権管理票に記載されていたものは401件だけであり、残りの1,015件の長期債権管理票に記載されていたのは、ADAMSによる督促や文書又は口頭による督促の実施に関するもののみとなっていて、債権の保全措置の内容等については記載されていなかった。

ウ 債権の保全措置の状況について

 上記ア及びイの事態を踏まえ、7森林管理局における請求対象債権1,416件、8億2696万余円に係る23年度末時点の債権の保全措置の状況について更に検査したところ、表4 のとおりとなっていた。

表4  債権の保全措置の状況
区分  
請求対象債権
消滅時効期間の経過状況
未経過 経過
件数
(件)
金額
(千円)
件数
(件)
金額
(千円)
件数
(件)
金額
(千円)
債権の保全措置を執っていたもの 919 727,666 747 660,368 172 67,297
  訴訟手続による履行の請求等を求めていたもの 328 312,198 309 269,187 19 43,010
債務承認書の徴取等の時効を中断するために必要な措置を執っていたもの 591 415,468 438 391,180 153 24,287
債権の保全措置を執っていなかったもの 497 99,297 353 74,108 144 25,188
1,416 826,963 1,100 734,476 316 92,486
(注)
 金額は単位未満切捨てのため、計は一致しない場合がある。

 すなわち、請求対象債権1,416件のうち497件については、実際に森林管理局及び森林管理署等のいずれにおいても債権の保全措置が執られていなかった。
 そして、これら497件の請求対象債権のうち、計144件、2518万余円については、適切な債権の保全措置が執られていなかったため消滅時効期間が経過し、既に消滅時効が完成していると考えられる。

<事例>

 中部森林管理局東信森林管理署は、同署管内国有林において、Aに対し、昭和63年12月1日以降、建物敷として土地1,329.3m2 を貸し付けていたが、平成24年3月末の時点で15年度から18年度までの物件貸付料48万余円が滞納となっていた。しかし、同局は、Aに督促等を行っていたのみで、特に債権の保全措置を執っていなかった。また、18年2月に督促状が宛先不明で返送されたことから、同年3月にAの住民票を徴取し、現住所を確認して督促を行ったとしているが、債権の保全措置を執る必要性について十分検討していなかった。
 このため、当該債権については、適切な債権の保全措置が執られないまま5年の消滅時効期間が経過しており、既に消滅時効が完成していると考えられる。

 上記のアからウまでのとおり、マニュアルでは、森林管理局長と森林管理署等が連携して債権の管理事務を行うこととされているのに、実際には、森林管理局が森林管理署等に対し、督促の実施について文書による指示を行っておらず、また、督促の実施状況等についての報告を求めていないなど、両者の連携が十分に図られていなかった。このため、森林管理局は、森林管理署等における債権の管理事務の実施状況、内容等を的確に把握しておらず、長期債権管理票に債権の保全措置の内容等が記載されていなかったり、適切な債権の保全措置が執られていなかったりしている事態が多数見受けられた。

(2) 貴庁本庁の債権の管理に対する取組

 経理規程等によると、森林管理局長は、貴庁本庁に対して、毎年度、債権現在額通知書を送付することとされており、この債権現在額通知書には、不良債権等の内容、状況等を履行期限後の経過期間別に記載するなどした不良債権現況調が添付されている。
 しかし、貴庁本庁は、当該調書を森林管理局における債権の管理状況等について把握するための資料として活用しておらず、森林管理局における債権の管理事務の実態について十分把握していなかった。

 (是正改善を必要とする事態)

 以上のとおり、森林管理局において債権の管理事務が適切に行われていない事態及び貴庁本庁において各森林管理局における債権の管理事務の実態について十分把握していない事態は適切とは認められず、是正改善を図る要があると認められる。

 (発生原因)

 このような事態が生じているのは、次のことなどによると認められる。

ア 森林管理局において、債権の管理事務については、歳入徴収官である森林管理局長が森林管理署等と連携して行うこととされている一方で、森林管理局及び森林管理署等においてそれぞれ行うべき事務の範囲等が明確にされておらず、債権の管理事務の実施状況、内容等を的確に把握する体制が整備されていないこと及び債権の管理事務を適切に行わなけ ればならないことについての認識が十分でないこと

イ 貴庁本庁において、森林管理局における債権の管理事務の実態を把握する必要性についての認識が十分でないこと

3 本院が求める是正改善の処置

 近年の景気低迷等のため、林野特会の債権で履行期限の到来しているものは増加する傾向にある。また、国有林野事業特別会計は24年度末において廃止されることとされているが、25年度から同特別会計に所属する権利義務は一般会計に帰属することとされていることから、林野特会の債権については今後とも適切な管理を行う必要がある。
 ついては、貴庁において、森林管理局における債権の管理事務の実態を把握し、マニュアルの見直し等を行って、森林管理局及び森林管理署等の行う事務の範囲等を明確にするとともに、森林管理局に対し、マニュアル等に基づき、森林管理署等における債権の管理事務の実施状況、内容等について的確に把握する体制を整備して債権の管理事務を適切に行うことを周知徹底するよう是正改善の処置を求める。