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森林整備加速化・林業再生基金事業における木造公共施設等整備及び木質バイオマス利用施設等整備の実施に当たり、事業採択の要件である費用対効果分析の算定方法を明確にするなどして、費用対効果分析が適切に行われるよう意見を表示したものっていたもの


(5) 森林整備加速化・林業再生基金事業における木造公共施設等整備及び木質バイオマス利用施設等整備の実施に当たり、事業採択の要件である費用対効果分析の算定方法を明確にするなどして、費用対効果分析が適切に行われるよう意見を表示したもの

会計名及び科目 一般会計 (組織)林野庁 (項)森林整備・林業等振興対策費
部局等 林野庁
補助の根拠 予算補助
補助事業者 8道県(うち事業主体4県)
間接補助事業者
(事業主体)
(1) 木造公共施設等整備
市23、町53、村18、広域連合1、財産区1、その他の団体56、計152事業主体
(2) 木質バイオマス利用施設等整備
市16、町15、村10、その他の団体21、計62事業主体
((1)及び(2)の事業主体数並びに上記4県の合計から重複する事業主体13を除いた事業主体数205事業主体)
補助事業 森林整備加速化・林業再生基金事業
補助事業の概要 都道府県が国庫補助金の交付を受けて、間伐等の森林整備の加速化と間伐材等の森林資源を活用した林業・木材産業等の地域産業の再生を図るための基金を造成し、基金事業を実施する事業主体に補助金を交付するもの
費用対効果分析における効果額の算定が適切でなかった基金事業 (1)
木造公共施設等整備 206件  
(2)
木質バイオマス利用施設等整備 102件  
上記に係る事業費 (1) 154億1985万余円 (平成21年度〜23年度)  
(2) 16億0112万余円 (平成21年度〜23年度)  
170億2098万余円    
上記に対する国庫補助金相当額 (1) 77億4393万円    
(2) 13 億1359 万円    
90億5753万円 (背景金額)  

【意見を表示したものの全文】

 森林整備加速化・林業再生基金事業における費用対効果分析について

(平成24年10月26日付け 林野庁長官宛て)

 標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり意見を表示する。

1 森林整備加速化・林業再生基金事業における費用対効果分析等の概要

(1) 森林整備加速化・林業再生基金事業の概要

 貴庁は、間伐等の森林整備の加速化と間伐材等の森林資源を活用した林業・木材産業等の地域産業の再生を図ることなどのため、森林整備加速化・林業再生事業費補助金交付要綱(平成21年21林整計第82号農林水産事務次官依命通知)、森林整備加速化・林業再生事業費補助金実施要綱(平成21年21林整計第83号農林水産事務次官依命通知)等(以下、これらを合わせて「実施要綱等」という。)に基づき、都道府県が行う木造公共施設等整備事業、木質バイオマス利用施設等整備事業等の森林整備加速化・林業再生基金事業(以下「基金事業」という。)に必要な基金の造成に要する経費に対して国庫補助金を交付している。
 そして、貴庁から国庫補助金の交付を受けた都道府県は、基金を造成し、実施要綱等に基づき基金事業を実施する市町村、社会福祉法人等の事業主体に対して、この基金を取り崩して補助を行うほか、自ら基金事業を実施している。
 実施要綱等によると、基金事業の適正な執行を確保するなどのために、都道府県は事業主体による基金事業の実施について総括的な指導監督を行うこととされており、また、国は都道府県に対して基金事業の実施等の基金の運営について資料の提出を求め、必要に応じて指導、助言、調査等を行うことができるなどとされている。
 貴庁は、当初、基金事業の実施期間を平成21年度から23年度までとしていたが、その後、東日本大震災の被災地の早期の復興を図るなどのため、基金事業のうち木造公共施設等整備事業については23年度をもって終了することとしたものの、基金事業の実施期間については26年度まで延長することとした。
 そして、21年度から23年度までの間に、貴庁が47都道府県に対して交付した国庫補助金の額は、計2837億2112万余円となっており、また、都道府県において事業主体が実施した基金事業に係る国庫補助金相当額は、計1376億7232万余円となっている。

(2) 基金事業における費用対効果分析の概要

 貴庁は、基金事業の実施に当たり、事業計画の作成から事業の完了に至るまでの事業実施過程の透明性及び客観性を確保し、より効率的かつ効果的な事業の執行を図ることを目的として、事業評価制度を導入している。
 すなわち、実施要綱等によると、事業主体は、木造公共施設等整備事業、木質バイオマス利用施設等整備事業等の基金事業を実施する場合には、「森林整備加速化・林業再生基金事業の事業評価実施要領」(平成21年21林整計第88号林野庁長官通知。以下「評価要領」という。)に基づき事業評価を行うこととされている。この事業評価には、事業計画の作成段階で行う事前評価と、事業実施後の目標年度(事業の完了年度又は事業実施年度の翌年度から3年目)に行う事後評価があり、その結果については事業主体から都道府県に報告することとされている。
 評価要領によると、事前評価では費用対効果分析を行うこととされており、これは、原則として、基金事業で整備する施設ごとに、次の算式のとおり、妥当投資額を総事業費で除することにより投資効率を算定するもので、費用対効果分析の結果、投資効率が1.0以上となることが基金事業としての事業採択の要件の一つとされている。
 投資効率=妥当投資額/総事業費
 妥当投資額=年総効果額/還元率(注1)

 還元率  年総効果額から妥当投資額を算定する場合の率であり、将来発生する効果額を現在価値に換算するための社会的割引率及び耐用年数から算出したもの

 上記の年総効果額については事業ごとに複数の効果項目が定められており、効果項目ごとに算定した年効果額を合算して年総効果額を算定することとされている。そして、基金事業のうち木造公共施設等整備事業及び木質バイオマス利用施設等整備事業における主な効果項目及びその内容については、表1 のとおりとなっている。

表1  主な効果項目の種類

効果項目 内容
(木造公共施設等整備事業)
交流資源利用効果 地域交流促進効果 当該施設の利用者に対して、利用・休息の場の提供等により地域間の交流を促進させる効果
イベント開催等促進効果 当該施設においてイベントの開催等が行われ、地域活動が活発になる効果
施設展示効果 当該施設の利用者に対して、木材の良さや新技術等を展示する効果
住宅における地域材需要拡大効果 当該施設の整備により、木造住宅の建築が促進され、地域材の需要が拡大する効果
公共施設における地域材需要拡大効果 当該施設の整備により、木造公共施設の建設が促進され、地域材の需要が拡大する効果
(木質バイオマス利用施設等整備事業)
炭素排出抑制効果 当該施設の整備により、化石燃料の使用が抑制され、炭素の排出が抑制される効果

 都道府県は、事業主体が行った費用対効果分析の内容について十分精査することとされている。
 また、貴庁は、事業評価制度について更なる透明性及び客観性を確保するため、事業評価制度の結果を有効に活用して今後の基金事業の在り方等について検討するとともに、事業評価の内容等についても改善を進めていくこととしている。

2 本院の検査結果

 (検査の観点及び着眼点)

 前記のとおり、基金事業の実施に当たり、事業主体は事業の実施過程の透明性及び客観性を確保し、より効率的かつ効果的な事業の執行を図ることを目的として費用対効果分析を行うこととされており、その結果、投資効率が1.0以上となることが事業採択の要件の一つとされている。
 そこで、本院は、合規性、効率性、有効性等の観点から、費用対効果分析は評価要領に基づき適切に行われているかなどに着眼して検査した。

 (検査の対象及び方法)

 本院は、貴庁、8道県(注2) 及び8道県管内の事業主体において会計実地検査を行った。そして、4県(注3) 並びに8道県管内の126市町村(広域連合及び財産区を含む。)及び社会福祉法人等の116団体が21年度から23年度までの間に実施した木造公共施設等整備事業計216件(161事業主体、事業費計157億2698万余円、国庫補助金相当額計78億4950万余円)及び木質バイオマス利用施設等整備事業計141件(99事業主体、事業費計30億2506万余円、国庫補助金相当額計23億1404万余円)、合計357件(246事業主体、事業費合計187億5205万余円、国庫補助金相当額合計101億6354万余円)を対象として、費用対効果分析の算定書類等により検査した。

(注2)
 8道県  北海道、山形、長野、鳥取、島根、徳島、高知、沖縄各県
(注3)
 4県  山形、島根、徳島、高知各県

 (検査の結果)

 検査したところ、事業主体は、木造公共施設等整備事業及び木質バイオマス利用施設等整備事業の費用対効果分析に当たり、いずれも評価要領のほか、15年10月に全国林業構造改善協会が貴庁の協力と指導の下に編集した「林業・木材産業構造改革事業費用対効果分析手法マニュアル」(以下「マニュアル」といい、評価要領及びマニュアルを合わせて「評価要領等」という。)に基づき各効果項目における効果額を算定していた。
 マニュアルは、14年度から木造公共施設を含む全ての施設整備事業について費用対効果分析が導入されたことを踏まえ、15年10月に編集されたもので、木造公共施設等の費用対効果分析に係る効果額の具体的な算定方法、算定事例等が記載されているものである。
 しかし、基金事業における木造公共施設等整備事業及び木質バイオマス利用施設等整備事業計357件に係る費用対効果分析において、効果額等の算定が適切とは認められない事態が、木造公共施設等整備事業で計206件(156事業主体、事業費計154億1985万余円、国庫補助金相当額計77億4393万余円)、木質バイオマス利用施設等整備事業で計102件(62事業主体、事業費計16億0112万余円、国庫補助金相当額計13億1359万余円)、合計308件(205事業主体、事業費合計170億2098万余円、国庫補助金相当額合計90億5753万余円)見受けられた。
 上記の事態について、それぞれの事業の効果項目等ごとに示すと、次のとおりとなっている(下記の事態の間には重複しているものがあるため、これらの事態の件数、金額等の合計は、上記の件数、金額等の合計とは一致しない。)。

(1) 交流資源利用効果について

木造公共施設等整備 89事業主体 計101件 事業費計108億9092万余円
国庫補助金相当額計50億9955万余円

 この効果は、評価要領等によると、木造公共施設等が整備されることにより、地域間の交流を促進させる効果、利用者に対して木材の良さや新技術等を展示する効果等であるとされている。そして、効果額については、利用者は施設までの移動費用をかけても利用する価値があるとして当該施設を訪れているとの考え方等に基づき、次のとおり算定することとされている。

効果額

年間利用者数
×

1人当たり
の移動費用

1人当たり
の施設利用
費用
1人当たりの
移動
時間
(分)
利用
時間
(分)
×

1分当たりの当該地域平均賃金報酬

 しかし、評価要領等においては、木造公共施設等整備事業により整備された施設にどのような目的で訪れる者を当該施設の年間利用者数とするのかなどについては明確に示されていない。
 そこで、年間利用者数の算定等について検査したところ、当該事業により整備された老人ホーム、保育所等の施設の年間利用者数に、当該施設の勤務者、利用者の送迎を行う保護者等を含めて効果額を算定するなどしている事態が見受けられた。
  しかし、当該施設の勤務者はその利用者に対してサービスを提供する者であり、また、送迎を行う保護者は幼児等の送迎のために当該施設を訪れる者であるにすぎないことなどを踏まえると、これらの者を年間利用者数に含めて効果額を算定するなどしている事態は適切とは認められない。

<事例1>

 長野県小諸市は、平成22年度に実施した木造公共施設等整備事業(事業費2億1400万余円、国庫補助金相当額1億円)により整備した保育所に係る「交流資源利用効果」の効果額の算定に当たり、保育所の年間利用者数に幼児の送迎を行う保護者の年間延べ人員21,761人を含めて、効果額を2507万余円としていた。
 しかし、これらの保護者は、幼児の送迎のために保育所を訪れる者にすぎないことなどから、保育所の年間利用者数には含めないこととして修正計算を行うと、効果額は132万余円となり、2375万余円過大に算定されていたことになる。
 なお、上記効果額のほか、他の効果項目における効果額等についても修正計算を行い投資効率を試算すると、当初1.94と算定されていた投資効率は0.21となる。

(2) 住宅における地域材需要拡大効果について

木造公共施設等整備 144事業主体 計189件 事業費計144億6156万余円
国庫補助金相当額計72億9195万余円
 
ア及びイの事態には重複しているものがあるため、これらの事態の件数、金額等の合計は、上記の件数、金額等とは一致しない。

 この効果は、評価要領等によると、木造公共施設等整備事業により地域材を利用した木造公共施設等が整備されることにより、当該施設の年間利用者のうち一定割合の者が地域材を利用した木造住宅を建築するようになることが見込まれ、これにより地域材の需要が拡大する効果であるとされており、効果額については次のとおり算定することとされている。

効果額

年間利用者数(大人・実人員)
×

当該施設の利用により地域材を利用した住宅を建築するようになる者の割合
×

木造住宅と非木造住宅の1m2 当たりの木材利用量の差
×

木造住宅の平均的床面積
×

製材品等の1m3 当たりの価格

ア 効果額の過大な算定

 上記のとおり、年間利用者数は、大人の実人員により算出することとされている。
 しかし、年間利用者数を延べ人員とするなどして当該効果額を過大に算定している事態が、29事業主体において、計29件(事業費計27億5033万余円、国庫補助金相当額計15億8067万余円)見受けられた。

イ 「地域材を利用した住宅を建築するようになる者の割合」の根拠

 マニュアルによると、前記の算式中の「当該施設の利用により地域材を利用した住宅を建築するようになる者の割合」は、貴庁の調査の結果として0.1%(1,000人に1人の割合)とされており、当該効果額の算定に当たり、この0.1%という係数を用いているものは、134事業主体において、計169件(事業費計128億1689万余円、国庫補助金相当額計65億3206万余円)となっている。
 しかし、貴庁は、当該係数を0.1%と算出した根拠については不明であり、根拠資料は保有していないとしている。このため、当該効果額の算定が適切に行われているかについて検証することは困難となっている。そして、前記のとおり、15年10月にマニュアルが作成されてから相当の期間が経過しており、また、効果額の算定に当たり、ほとんどの事業主体がこの係数を用いているのに、貴庁はこれまで当該係数の見直しなどについて検討したことはないとしている。
 また、事業主体が整備する施設は保育所、消防署等であるのに、木造住宅の販売等を目的とする展示施設に来場した者のうち建築契約の締結に至った者の割合が0.515%であるとして、この割合を「当該施設の利用により地域材を利用した住宅を建築するようになる者の割合」として用いて当該効果額を算定している事態が、10事業主体において、計20件(事業費計16億4466万余円、国庫補助金相当額計7億5988万余円)見受けられた。

(3) 公共施設における地域材需要拡大効果について

木造公共施設等整備 147事業主体 計196件 事業費計147億6725万余円
国庫補助金相当額計74億5103万余円

 この効果は、評価要領等によると、木造公共施設等整備事業により地域材を利用した木造公共施設等が整備されることを契機として、当該施設と同規摸の木造公共施設が一定の割合で建設されることが見込まれ、これにより地域材の需要が拡大する効果であるとされており、効果額については次のとおり算定することとされている。

効果額

当該施設の整備を契機として建設が見込まれる木造公共施設の数
×

当該施設と同規模の木造公共施設と非木造公共施設の1m2 当たりの木材利用量の差
×

当該施設の延床面積
×

当該施設の整備に要する1m3 当たりの木材費
÷

当該施設の耐用年数

 そして、マニュアルによると、「当該施設の整備を契機として建設が見込まれる木造公共施設の数」は、貴庁の調査の結果として0.78施設であるとされており、効果額の算定に当たり、この0.78施設という係数を用いているものは、143事業主体において、計190件(事業費計146億0324万余円、国庫補助金相当額計73億1932万余円)となっている。
 しかし、貴庁は、当該係数を0.78施設と算出した根拠については不明であり、根拠資料は保有していないとしている。このため、当該効果額の算定が適切に行われているかについて検証することは困難となっている。そして、前記(2)イの事態と同様に、貴庁はこれまで当該係数の見直しなどについて検討したことはないとしている。
 また、上記の係数は、「当該施設の整備を契機として建設が見込まれる木造公共施設の数」であるのに、既に事業主体において建設を予定している木造公共施設数が1施設あるとして、この施設数(1.0)を「当該施設の整備を契機として建設が見込まれる木造公共施設の数」として用いて当該効果額を算定している事態が、4事業主体において、計6件(事業費計1億6401万余円、国庫補助金相当額計1億3170万余円)見受けられた。

(4) 炭素排出抑制効果について

木質バイオマス利用施設等整備 62事業主体 計102件 事業費計16億0112万余円
国庫補助金相当額計13億1359万余円

 この効果は、評価要領等によると、木質バイオマス利用施設等整備事業により整備される施設が利用されることにより、化石燃料の使用が抑制され、炭素の排出が抑制される効果であるとされており、効果額については次のとおり算定することとされている。

効果額

化石燃料等の計画年間消費抑制量
×

化石燃料等の炭素又は二酸化炭素排出原単位
×

炭素又は二酸化炭素回収技術コスト
 

効果額=化石燃料等の計画年間消費抑制量×化石燃料等の炭素又は二酸化炭素排出原単位×炭素又は二酸化炭素回収技術コスト

 そして、マニュアルによると、二酸化炭素回収技術コストについては貴庁の試算に基づく12,704円/t—CO (二酸化炭素1t当たり単価。以下同じ。)を用いることとされているが、貴庁は21年度に林野公共事業において事業評価を行う際に必要となる二酸化炭素回収技術コストの参考単価を6,046円/t—CO に改定している。
  しかし、マニュアルに記載されている12,704円/t—CO については見直しが行われておらず、また、8道県のうち6道県(注4) 管内においては、貴庁が林野公共事業における参考単価を改定したことが事業主体に周知されていなかった。このため、事業主体がマニュアルに記載されている12,704円/t—CO をそのまま用いて当該効果額を算定している事態が、62事業主体において、計102件(事業費計16億0112万余円、国庫補助金相当額計13億1359万余円)見受けられた。

 6道県  北海道、山形、長野、島根、徳島、高知各県

 上記(1)から(4)までの事態のほか、木造公共施設等整備事業の費用対効果分析において誤った耐用年数を用いている事態が、26事業主体において、計28件(事業費計26億8943万余円、国庫補助金相当額計10億7776万余円)見受けられた。
 そこで、本院において、これらの事態を踏まえて、効果額等の算定が適切とは認められない前記の計308件の費用対効果分析で事業主体が計上していた効果額等について、(2)イの係数(0.1%)及び(3)の係数(0.78施設)についてはそのまま用いることとした上で修正計算を行い、投資効率を試算した。
 その結果、表2 のとおり、木造公共施設等整備事業の47事業主体に係る計55件(事業費計69億0793万余円、国庫補助金相当額計30億9546万余円)、木質バイオマス利用施設等整備事業の14事業主体に係る計15件(事業費計8億5586万余円、国庫補助金相当額計7億6077万余円)、合計61事業主体に係る70件(事業費計77億6379万余円、国庫補助金相当額計38億5623万余円)について、当初1.0以上と算定されていた投資効率は事業採択の要件である1.0を下回ることになる。

表2  事業主体の算定した投資効率及び本院の修正計算による試算結果

(単位:件)

投資効率 1.0未満

1.0以上
1.5未満

1.5以上
2.0未満

2.0以上
2.5未満

2.5以上
3.0未満

3.0以上
3.5未満

3.5以上
4.0未満

4.0以上
4.5未満

4.5以上
5.0未満

5.0以上
(木造公共施設等整備事業)
当局算定 0 70 36 13 13 6 11 5 6 46 206
本院修正 55 62 21 7 8 4 9 4 6 30 206
(木質バイオマス利用施設等整備事業)
当局算定 0 87 12 1 1 0 1 0 0 0 102
本院修正 15 84 0 2 1 0 0 0 0 0 102

(投資効率が1.0を下回るものの内訳)
施設の種別 事業主体数 件数 事業費
(円)
国庫補助金相当額
(円)
左の施設のうち投資効率の開差が最大となるもの
投資効率 開差
当局(A−B)
当局
算定
(A)
本院
修正
(B)
(木造公共施設等整備事業)
保育所等 21 23 3,913,603,759 1,540,036,250 10.77 0.39 10.38
老人ホーム等 11 11 1,371,409,378 817,355,765 7.84 0.23 7.61
学校関連施設 7 7 710,559,049 215,808,000 3.53 0.24 3.29
体育館等運動施設 4 4 377,872,456 198,152,000 2.47 0.68 1.79
庁舎 2 3 157,159,050 68,665,000 1.90 0.38 1.52
休憩所等 3 3 98,963,000 45,546,000 4.69 0.31 4.38
公民館等 2 2 83,668,250 41,200,000 1.49 0.84 0.65
町営住宅 2 2 194,700,225 168,701,000 1.20 0.48 0.72
47 55 6,907,935,167 3,095,464,015
(木質バイオマス利用施設等整備事業)
木質資源利用ボイラー等 14 15 855,864,210 760,771,510 1.85 0.41 1.44
合計 61 70 7,763,799,377 3,856,235,525
(注)
 木造公共施設等整備事業の事業主体は、施設の種別間で重複があるため、合計しても計欄の事業主体数とは一致しない。

 本院の修正計算による試算の結果、投資効率が1.0を下回るものについて事例を示すと、次のとおりである。

<事例2>

 徳島県美馬市は、平成23年度に実施した木造公共施設等整備事業(事業費5億8999万余円、国庫補助金相当額1億円)により整備した認定こども園に係る費用対効果分析において、年総効果額を5767万余円、妥当投資額を8億3342万余円とそれぞれ算定して、総事業費5億8999万余円に対する投資効率を1.41としていた。
 しかし、同市は、この算定に当たり、幼児の送迎を行う保護者の年間延べ人員43,722人を年間利用者数に含めるなどして「交流資源利用効果」を算定していた。また、同市は、徳島県産の木材を使用した木造住宅の販売等を目的とする展示施設に来場した者のうち建築契約の締結に至った者の割合が0.515%であるとし、これを「当該施設の利用により地域材を利用した住宅を建築するようになる者の割合」として用いて「住宅における地域材需要拡大効果」を算定していた。さらに、同市は、誤った耐用年数を用いて「公共施設における地域材需要拡大効果」を算定していた。
 そこで、本院において、「交流資源利用効果」の算定については幼児の送迎を行う保護者は年間利用者数に含めないこととし、また、「住宅における地域材需要拡大効果」の算定についてはマニュアルに記載の係数(0.1%)をそのまま用いることとし、さらに、「公共施設における地域材需要拡大効果」については適正な耐用年数を用いることとして修正計算を行い、投資効率を試算した。
 その結果、これらの年総効果額は計2558万余円、妥当投資額は3億6976万余円となることから、当該認定こども園の整備に係る投資効率は0.63となり、事業採択の要件である1.0を下回ることになる。

 (改善を必要とする事態)

 前記のとおり、木造公共施設等整備事業及び木質バイオマス利用施設等整備事業に係る費用対効果分析において、交流資源利用効果等の効果額が適切に算定されていなかったり、効果額の算定に用いられる係数の算出根拠が不明となっていて効果額の算定が適切に行われているか検証が困難となっていたりなどしている事態は適切とは認められず、改善の要があると認められる。

 (発生原因)

 このような事態が生じているのは、次のことなどによると認められる。

ア 貴庁において、事業主体における事前評価の実施状況について十分把握しておらず、評価要領等に費用対効果分析の適切な実施のために必要となる基本的な考え方、算定方法等についての具体的かつ十分な記述をしていないこと、また、効果額の算定の基礎となる係数について見直しを行っていないこと

イ 事業主体において評価要領等に対する理解及び費用対効果分析の適切な実施に対する認識が十分でないこと、また、道県において事業主体における費用対効果分析の適切な実施に対する指導監督が十分でなく、事業主体が行った費用対効果分析の内容について十分精査していないこと

3 本院が表示する意見

 貴庁は、前記のとおり、事業評価制度については、その結果を有効に活用するとともに、事業評価の内容等についても改善を進めていくこととしている。そして、公共建築物の木造化等については、「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律」(平成22年法律第36号)に基づき一層推進することとしており、今後も交付金事業等により必要な助成を行うこととしている。また、木質バイオマス利用施設等整備事業については、24年度以降も引き続き基金事業として実施することとしている。
 ついては、貴庁において、前記のような事業評価制度の重要性を踏まえて、事業主体における費用対効果分析が適切に行われるよう、次のとおり意見を表示する。

ア 事業主体における事前評価の実施状況について十分把握するとともに、評価要領等の内容について速やかに見直しを行い、事業主体における費用対効果分析の適切な実施のために必要となる基本的な考え方、算定方法等について具体的かつ十分な記述等を行うこと、また、効果額の算定の基礎となる係数については、その妥当性について根拠資料により検証することが可能なものとすること

イ 都道府県に対して、事業主体に対する費用対効果分析の適切な実施、効果額の適切な算定等について周知徹底を図るよう指導するとともに、評価要領等の見直しの内容等についても周知徹底を図ること、また、事業主体が行った費用対効果分析の内容について十分精査するよう指導すること