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  • 平成23年度|
  • 第3章 個別の検査結果|
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  • 第9 農林水産省|
  • 意見を表示し又は処置を要求した事項

漁業従事者数等の減少に対応した今後の漁港施設用地の利活用について、民間事業者による利用範囲の拡大や利用手続の簡素化等も含めた新たな利用の態様を検討するなどするよう意見を表示したもの


(6) 漁業従事者数等の減少に対応した今後の漁港施設用地の利活用について、民間事業者による利用範囲の拡大や利用手続の簡素化等も含めた新たな利用の態様を検討するなどするよう意見を表示したもの

会計名及び科目 一般会計 (組織)水産庁 (項)水産基盤整備費等
部局等 水産庁
事業の根拠 漁港漁場整備法(昭和25年法律第137号)
事業 特定漁港漁場整備事業等
事業の概要 水産業の健全な発展及びこれによる水産物の供給の安定を図り、国民生活の安定及び国民経済の発展に寄与するために漁港を整備するもの
漁港施設用地が利用計画に沿って利用されていないなどしていた漁港数 111漁港
上記に係る漁港管理者 13道府県、13市、5町、計31漁港管理者
利用計画に沿っていないなどしていた漁港施設用地の面積 362,490m2
上記に係る事業費(1)及び固定資産評価額(2) (1) 12億3974万余円  
(2) 14億7230万余円  
27億1204万余円  
上記に対する国庫補助金等相当額 (1) 6億8859万円  
(2) 7億4934万円  
14億3793万円  

【意見を表示したものの全文】

 漁業従事者数等の減少に対応した今後の漁港施設用地の利用等について

(平成24年10月26日付け 水産庁長官宛て)

 標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり意見を表示する。

1 漁港施設用地の概要

(1) 漁港整備の概要

 貴庁は、漁港漁場整備法(昭和25年法律第137号)等に基づき、水産業の健全な発展及びこれによる水産物の供給の安定を図り、国民生活の安定及び国民経済の発展に寄与するために、漁港を整備して、その維持管理を適正に行うこととしている。
 漁港の整備は、漁港漁場整備長期計画(平成13年度以前は漁港整備長期計画)等に基づき行うこととされており、事業主体である都道府県、市町村等が、特定漁港漁場整備事業、水産流通基盤整備事業等(以下、これらを合わせて「漁港整備事業等」という。)を補助事業等により実施している。
 漁港整備事業等により整備する漁港施設のうち漁港施設用地には、荷さばき所、給油施設、漁具保管修理施設等を設置するための敷地及び更地のまま利用する野積場等の敷地がある。
 「漁港施設用地(公共施設用地に限る。)の取扱いについて」(昭和33年33水生第6563号水産庁長官通知。以下「通知」という。)によれば、補助金の交付対象となる漁港施設用地は、地方公共団体又は水産業協同組合が管理する一定の漁港施設の敷地(公共施設用地)とされている。また、「漁港施設用地等利用計画の策定について」(平成2年2水港第40号水産庁長官通知)に基づき、事業主体は貴庁に提出した漁港施設用地等利用計画(以下「利用計画」という。)に定めた漁具保管修理施設用地、野積場用地等の利用目的に従って、漁港施設用地を利用しなければならないこととされている。
 また、「漁港施設用地等利用計画策定要領について」(平成14年13水港第4220号水産庁長官通知)によれば、利用計画を策定する際には、整備しようとする漁港施設用地ごとに、漁港施設等の規模等を十分考慮した上で、必要な面積を積算することとされており、地域の漁業実態を考慮して過大な積算とならないようにすることとされている。

(2) 漁港管理の概要

 漁港漁場整備法によれば、漁港が所在する地方公共団体は、漁港管理者として漁港管理規程を定め、これに従い適正に漁港の維持、保全及び運営その他漁港の維持管理を行わなければならないこととされている。また、漁港管理者が管理する漁港施設用地について占用許可を受けられる者は、通知等に基づき、地方公共団体、水産業協同組合等に限られており、実際に占用許可を受けている者は、主として水産業協同組合のうちの漁業協同組合(以下「漁協」という。)となっている。
 なお、「漁港法の一部を改正する法律」(平成12年法律第78号)の施行により、13年度から漁港の管理は地方公共団体の自治事務とされている。

(3) 8年の本院による処置要求の概要

 本院は、8年11月に、会計検査院法第36条の規定に基づき、貴庁に対して、漁港の管理及び使用状況について適時的確に把握して、漁港管理者を指導する体制を整備することなどにより、漁港施設用地が適正に利活用され、事業効果の発現が図られるよう改善の処置を要求している。
 貴庁は、9年5月に、本院の指摘の趣旨に沿い、漁港管理者に対して漁港施設用地の利用、占用状況等を報告するよう義務付けるなどの処置を講じている。

(4) 漁港施設用地の有効活用のための施策等

 我が国の漁業関係の指標について、本院が上記の処置を要求した8年と直近の統計値とを比較すると、漁業従事者数は28万7千余人から20万2千余人へと29.4%の減少、漁業経営体数は15万9千余経営体から12万6千余経営体へと20.6%の減少となっている。また、漁港に陸揚げされる漁獲物の数量及び金額は、547万t、1兆5154億円から421万t、1兆1631億円へとそれぞれ23.0%、23.3%の減少となっている。
 そして、貴庁は、漁業従事者数等の減少により、未利用又は低利用となっている漁港施設用地の有効活用を図るために、次のような規制緩和措置を実施してきている(以下、この措置を「緩和措置」という。)。

ア 13年10月に、公共施設用地において利用計画に基づく漁港施設の整備が見込まれないなどの場合には、地方公共団体又は水産業協同組合が漁港施設以外の施設を整備したり、社団法人等が漁港施設を整備したりすることができることとした。

イ 19年5月に、漁港漁場整備法の改正により、同年8月から、地方公共団体等が漁港施設の機能の高度化に資する事業を行う者として漁港管理者の認定を受けた民間事業者に対して、漁港施設の貸付けを行うことができることとした。

ウ 同年7月に、漁港管理者が当該漁港の機能上特に必要と認めるなどした場合には、漁港管理者が公正な手続に従い選定した民間事業者等を公共施設用地に漁港施設を整備することができる者として追加した。

2 本院の検査結果

 (検査の観点及び着眼点)

 各種の漁港施設を利用する漁業従事者数等は、8年の本院による処置要求後も減少し続けている。そして、貴庁は、これらの状況を踏まえて、前記のとおり緩和措置を実施してきているところである。
 そこで、本院は、合規性、有効性等の観点から、漁港施設用地がこれらの社会経済情勢の変化の中で適切に利用されているか、緩和措置の実施により有効に活用されているかなどに着眼して検査した。

 (検査の対象及び方法)

 15道府県(注1) に所在し、道府県又は管内市町が管理する漁港のうち、第2種漁港、第3種漁港、特定第3種漁港又は第4種漁港(注2) とされている計173漁港(漁港施設用地の面積計6,377,833m2 、事業費計411億5381万余円、事業費に対する国庫補助金等相当額計217億5036万余円、固定資産評価額(注3) 計358億7931万余円、固定資産評価額に対する国庫補助金相当額計181億7134万余円)を対象として、貴庁及び15道府県において、漁港台帳、利用計画等の関係書類を確認するとともに、漁港施設用地等の現地の状況を確認するなどして会計実地検査を行った。

(注1)
 15道府県  北海道、大阪府、新潟、石川、愛知、鳥取、岡山、広島、山口、香川、佐賀、長崎、熊本、大分、沖縄各県
(注2)
 第2種漁港、第3種漁港、特定第3種漁港又は第4種漁港漁港  漁場整備法において、利用範囲が地元の漁業を主とするものが第1種漁港、利用範囲が第1種漁港よりも広く第3種漁港に属さないものが第2種漁港、利用範囲が全国的なものが第3種漁港(このうち水産業の振興上特に重要で政令で定めるものが特定第3種漁港)、離島その他辺地にあって漁船の避難等のため特に必要とされるものが第4種漁港に分類されている。
(注3)
 固定資産評価額  漁港台帳に取得価額(事業費)等が記載されていない場合は、近隣に所在し規模等が類似している土地の固定資産評価額等を参考にした。

 (検査の結果)

(1) 漁港施設用地の利用状況

 検査したところ、14道府県(注4) に所在し、13道府県、13市及び5町がそれぞれ管理する111漁港(漁港施設用地の面積計362,490m2 、事業費計12億3974万余円、事業費に対する国庫補助金等相当額計6億8859万余円、固定資産評価額計14億7230万余円、固定資産評価額に対する国庫補助金相当額計7億4934万余円)において、次のとおり、漁港施設用地が法令等により占用許可を受けることができない住民等に占用されていたり、利用計画に沿った利用が全くされていなかったりなどしている事態が見受けられた(アとイには重複している漁港がある。)。

ア 法令等により占用許可を受けることができない近隣住民等又は占用許可を受けていない漁協等により占用されていた事態
 14道府県に所在する80漁港において、漁具保管修理施設用地、野積場用地等の計111,561m2 (事業費計6億7803万余円、事業費に対する国庫補助金等相当額3億5226万余円、固定資産評価額7億6569万余円、固定資産評価額に対する国庫補助金相当額3億8931万余円)が、法令等により占用許可を受けることができない近隣住民又は占用許可を受けていない漁協等により占用されていた。
 上記の事態について事例を示すと、次のとおりである。

<事例1>

 新潟県は、糸魚川市に所在する筒石漁港において、昭和34年度の補助事業により漁具保管修理施設用地及び野積場用地計1,762.4m2 を整備していた。しかし、国道の整備により他の漁港施設用地等から分断されて通行が不便になったことから、上記の用地は本来の目的での利用が徐々に低調となり、このうち657.7m2 については、45年頃から法令等により占用許可を受けることができない近隣住民が漁港管理者である同県に無断で建設した住宅や物置小屋等の敷地として使用されていた。

イ 利用計画に沿った利用が全くされていないなどしていた事態
 10道県(注5) に所在する66漁港において、給油施設用地、荷さばき所用地等の計250,928m2 (事業費5億6171万余円、事業費に対する国庫補助金等相当額3億3632万余円、固定資産評価額7億0660万余円、固定資産評価額に対する国庫補助金相当額3億6003万余円)が、利用計画に沿った利用が全くされていないなどしていた。さらに、これらの漁港施設用地について、直近の漁業従事者数等に基づき必要となる面積を改めて算定するよう漁港管理者に求めたところ、実際に整備された面積と大きなかい離が生じている用地が見受けられた。
 上記の事態について事例を示すと、次のとおりである。

<事例2>

 長崎県は、平戸市に所在する田助漁港において、昭和62年度から平成元年度までの補助事業により給油施設用地680m2 を整備していた。当該用地に給油施設を設置する予定であったが、近隣の港に給油施設があることや、漁協の経営悪化により、同漁港には設置しないこととなり、当該用地は全く利用されていなかった。そして、漁港管理者である同県と漁協が協議したが、利活用のための具体的な改善策は決まっていない。また、現時点で必要となる面積を改めて算定したところ、給油施設用地は、同漁港において全く必要のない用地となっている。

 漁港施設を利用する漁業従事者数等が全国的に減少し続けている中で、上記のように、利用計画に沿った利用が全くされていないなどしている漁港施設用地が利用計画の策定当時に計画したとおりに使用される見込みは低く、今後、このような漁港施設用地が増加していくおそれがある。
 一方、前記のとおり、13年度から漁港の管理が地方公共団体の自治事務とされたことから、14道府県のうち5県(注6) のみが漁港施設用地の利用、占用状況等を貴庁に報告していた。このため、貴庁は漁港の利用及び管理の状況について適時的確に把握して、利用計画を漁業の情勢の変化に対応して随時見直すよう漁港管理者に助言することができなくなっていた。
 したがって、貴庁は漁港施設用地の利用及び管理の状況を適宜把握した上で、漁港施設用地の適切かつ効率的な利用等のために必要な技術的助言を行う必要がある。

(2) 緩和措置の活用状況

 貴庁は、前記のとおり、13年以降、緩和措置を実施してきているが、漁港管理者において、未利用となっている漁港施設用地を利用することの必要性についての認識が十分でないことなどから、漁協が水産物直売施設を整備するなどした事例は15道府県で1漁港、全国でも6漁港にとどまっていた。
 また、緩和措置が民間事業者に対して十分周知されていないことや、民間事業者の選定に公正な手続を経る必要があることを漁港管理者が煩さであると認識していることなどから、民間事業者が漁港施設を整備するなどした事例は15道府県で1漁港、全国でも4漁港にとどまっていた。

 (改善を必要とする事態)

 多額の国費を投じて整備された漁港施設用地が、利用計画に沿って利用されていないなどしている事態や、緩和措置が十分に活用されていない事態は適切ではなく、改善の要があると認められる。

 (発生原因)

 このような事態が生じているのは、次のことなどによると認められる。

ア 貴庁において、漁業従事者数等が全国的に減少し続けている中で、漁港施設用地が利用計画に沿って利用されていないなどしている事態を早期に解消するなどのために必要な措置を十分に執っていないこと

イ 漁港管理者において、民間事業者等に対して緩和措置を周知して、漁港施設用地の利用に対する要望をくみ上げるなどの緩和措置の活用に向けた取組を十分に行っていないこと

3 本院が表示する意見

 我が国の漁業従事者数等が全国的に減少し続けている中で、貴庁及び漁港管理者は多額の国費を投じて整備された漁港施設用地を有効に活用することが求められる。
 ついては、貴庁において、漁港施設用地が適切かつ効率的に利用され、有効に活用されるよう、次のとおり意見を表示する。

ア 漁港施設用地の利用及び管理の状況を適宜把握した上で、民間事業者による利用範囲の拡大や利用手続の簡素化等も含めて、漁港施設用地の新たな利用の態様を検討するとともに、漁港管理者に対して緩和措置の更なる活用を求めるなどの漁港施設用地の適切かつ効率的な利用等のために必要な技術的助言を行うこと

イ 利用計画の策定又は変更を行う場合は、今後新たに漁港を整備する場合も含めて、漁業従事者数等が減少傾向にあることなどを漁港施設用地の面積の算定に的確に反映させたり、既存用地の活用を図ったりするよう、漁港管理者に対して周知徹底すること

(注4)
 14道府県  北海道、大阪府、新潟、石川、愛知、鳥取、岡山、広島、山口、香川、佐賀、長崎、熊本、沖縄各県
(注5)
 10道県  北海道、新潟、石川、愛知、鳥取、山口、佐賀、長崎、熊本、沖縄各県
(注6)
 5県  新潟、愛知、広島、長崎、熊本各県