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  • 平成23年度|
  • 第3章 個別の検査結果|
  • 第1節 省庁別の検査結果|
  • 第9 農林水産省|
  • 本院の指摘に基づき当局において改善の処置を講じた事項

ソフトウェアのバージョンアップを実施するに当たり、実施の必要性や実施時期を十分に検討することなどにより、バージョンアップ業務を実施するための費用の節減を図るよう改善させたもの


(6) ソフトウェアのバージョンアップを実施するに当たり、実施の必要性や実施時期を十分に検討することなどにより、バージョンアップ業務を実施するための費用の節減を図るよう改善させたもの

会計名及び科目 一般会計 (組織)地方農政局 (項)地方農政局
食料安定供給特別会計(業務勘定) (項)事務取扱費
部局等 7地方農政局
契約名 東北農政局食糧部等グループウェアのバージョンアップ業務等31件
契約の相手方 リコー東北株式会社等16業者
契約 平成19年9月〜24年1月 一般競争契約
契約金額 7億9651万余円 (平成19年度〜23年度)
上記の契約金額のうちバージョンアップ業務を実施するための費用 2億0200万余円 (平成19年度〜23年度)
節減できたバージョンアップ業務を実施するための費用 5003万円 (平成20年度〜22年度)

1 ソフトウェアのバージョンアップの概要

(1) ソフトウェアの概要

 農林水産省は、農林水産行政に係る各種の事務情報の交換や省内における情報の共有を行って事務の効率化を図るために、電子メールの送受信、電子掲示板の提供等の機能を有した日本アイ・ビー・エム株式会社(以下「メーカー」という。)製のソフトウェア(ロータスノーツ・ドミノ。以下「ノーツ」という。)を職員用のパーソナルコンピュータ(以下「パソコン」という。)等に導入して設定を行い職員に使用させている。
 ノーツの使用に関する権利には、〔1〕 プログラムを使用する権利(以下「使用権」という。)と〔2〕 ノーツの機能を向上させたり、新しい機能を追加したりするためのソフトウェアの改訂(以下「バージョンアップ」という。)及びメーカーによるソフトウェアの不具合等への対応を1年間無償で受けることができる権利(以下「年間ライセンス」という。)の2種類がある。そして、農林水産省は、職員のパソコン用にノーツの使用権を販売店等から購入するとともに、年間ライセンスを毎年度継続して購入している。
 ソフトウェアの使用に当たり情報の安全を維持するためには、ソフトウェアの脆(ぜい)弱性を解消するための修正を継続的に行う必要がある。このことについて、農林水産省は、メーカーが使用権を購入した者に対して無償で提供しているパッチ(注1) を適用することにより対応している(以下、メーカーによるパッチの無償提供を「メーカーサポート」という。)。
 ノーツは、バージョン6.5(以下「v6.5」という。)が平成15年10月から、バージョン7(以下「v7」という。)が17年11月から、バージョン8.5(以下「v8.5」という。)が21年1月からそれぞれ販売されているが、メーカーは、それぞれについてメーカーサポートを無期限に実施するのではなく、v6.5については22年4月に、v7については23年4月にそれぞれメーカーサポートを終了している。なお、メーカーサポートを終了するときは、事前に終了日を発表しており、v6.5については20年9月(注2) に、v7については21年8月にそれぞれ終了日を発表している。

(注1)
 パッチ  ソフトウェアの欠陥等を修正するためのプログラム
(注2)
 20年9月  メーカーは、平成19年10月にv6.5のメーカーサポートの提供の終了日を21年4月とすると発表していたが、20年9月に終了日を22年4月に延期すると発表した。

(2) 農林水産省におけるノーツのバージョンアップの状況

 農林水産省は、ノーツのバージョンアップを農林水産本省(以下「本省」という。)大臣官房統計部(林野庁分を含む。以下同じ。)、本省農村振興局、水産庁、地方農政局等の部局ごとに行わせている。そして、各部局は、ノーツのバージョンアップを行う際には、サーバのデータベースの移行等の業務及び職員用のパソコンのノーツのバージョンアップを職員に行わせるための手順書の作成業務(以下、これらの業務を「バージョンアップ業務」という。)を実施する必要が生ずるため、バージョンアップ業務を一般競争入札により、業者に請け負わせている。

2 検査の結果

 (検査の観点、着眼点、対象及び方法)

 本院は、経済性等の観点から、バージョンアップ業務が経済的に行われているかなどに着眼して、本省大臣官房統計部、本省農村振興局、水産庁、9地方農政局等(注3) が19年度から23年度までに締結したバージョンアップ業務を含む31件の請負契約(契約金額計7億9651万余円、このうちバージョンアップ業務を実施するための費用計2億0200万余円)を対象として検査した。
 検査に当たっては、本省大臣官房統計部、本省農村振興局、4地方農政局等(注4) において、関 係書類等を確認するなどして会計実地検査を行うとともに、水産庁、5地方農政局等(注5) が締結 した契約については、関係書類等の提出を受けるなどして検査した。

(注3)
 9地方農政局等  東北、関東、北陸、東海、近畿、中国四国、九州各農政局、北海道農政事務所、植物防疫所
(注4)
 4地方農政局等  東北、北陸、近畿各農政局、北海道農政事務所
(注5)
 5地方農政局等  関東、東海、中国四国、九州各農政局、植物防疫所

 (検査の結果)

 検査したところ、次のような事態が見受けられた。
 すなわち、7地方農政局(注6) は、年間ライセンスにより、v6.5であった職員用のパソコンのノーツについて、一部を除いて、21年2月から22年4月までの間にv7へバージョンアップを行った後に、22年3月から23年3月までの間にv8.5へ2回目のバージョンアップを行っていた。
 しかし、v6.5のメーカーサポートは、前記のとおり22年4月まで継続されており、v8.5が21年1月から発売されていた。そして、v7はv6.5に比べて機能の向上がみられるものの、ノーツを使用して行っている業務の実態に照らせば、v6.5であっても農林水産省が求める電子メールの送受信、電子掲示板の提供等の機能の水準を十分に満たしていた。
 したがって、7地方農政局においては、v6.5のメーカーサポートが継続していた22年4月までの間は可能な限りv6.5を継続して使用して、v6.5のメーカーサポートの終了日が間近になってから、その時点の最新であるv8.5にバージョンアップを行うことが可能であった。そして、v6.5からv8.5へ1回でバージョンアップを行っていれば、前記のような2回のバージョンアップを行う必要はなく、バージョンアップ業務を実施するための費用を節減できたと認められた。現に、水産庁、東海農政局、北海道農政事務所及び植物防疫所は、全て又は一部の職員用のパソコンについて、v6.5からv8.5へ1回でバージョンアップを行っていた。
 このように、バージョンアップについて、実施の必要性や実施時期を十分に検討しないまま、7地方農政局がそれぞれの判断でこれを実施している事態は適切とは認められず、改善の必要があると認められた。

 7地方農政局  東北、関東、北陸、東海、近畿、中国四国、九州各農政局

 (節減できたバージョンアップ業務を実施するための費用)

 前記の31契約におけるバージョンアップ業務を実施するための費用計2億0200万余円について、v6.5からv8.5へ1回でバージョンアップを行うことにして計算すると、計1億5197万余円となり、5003万余円が節減できたと認められた。

 (発生原因)

 このような事態が生じていたのは、7地方農政局においてノーツのバージョンアップについて、実施の必要性や実施時期を十分に検討して費用の節減を図ることに対する認識が十分でなかったことにもよるが、本省において実施する際の指針等を定めていないことによると認められた。

3 当局が講じた改善の処置

 上記についての本院の指摘に基づき、農林水産省は、24年7月に、ノーツのバージョンアップを適時適切に実施するために、メーカーが無償で提供するメーカーサポートの終了時期や新しく発売されるノーツに追加された機能を的確に把握するなどして、費用対効果を十分に検討するなどのガイドラインを定めるとともに、同月に関係部局に通知を発してその旨を周知する処置を講じた。