会計名及び科目 | 一般会計 (組織)中小企業庁 (項)経営革新・創業促進費 | |||
部局等 | 中小企業庁 | |||
補助の根拠 | 予算補助 | |||
補助事業者(事業主体) | 全国中小企業団体中央会 | |||
補助事業 | ものづくり中小企業製品開発等支援事業 | |||
補助事業の概要 | 試作開発から販路開拓等を行うもの及び中小企業が作成した製品について公設試験研究機関等を活用した実証を行うもの | |||
全国中小企業団体中央会が交付した事業件数及び事業費 | 2,993件 | 762億5913万余円 | (平成21、22両年度) | |
上記に対する国庫補助金相当額 | 480億0714万円 | (背景金額) | ||
企業化状況報告書が提出されていない事業件数及び事業費 | 694件 | 152億9977万余円 | ||
上記に対する国庫補助金相当額(1) | 97億8813万円 | |||
無断で生産設備として使用されている処分制限財産数及び残存簿価相当額 | 32処分制限財産 | 1億7085万余円 | ||
上記に対する国庫補助金相当額(2) | 1億1322万円 | |||
(1)及び(2)の計 | 99億0135万円 |
標記について、下記のとおり、会計検査院法第34条の規定により是正改善の処置を求め、 並びに同法第36条の規定により改善の処置を要求し及び意見を表示する。
貴庁は、平成21年度第1次補正予算により、ものづくり中小企業製品開発等支援補助金交付要綱(平成21・05・29財中第2号。以下「交付要綱」という。)に基づき、我が国経済をけん引する製造業の国際競争力の強化と次代を担う新産業の創出を推進することを目的として、全国中小企業団体中央会(以下「全国中央会」という。)に対して、ものづくり中小企業製品開発等支援補助金を交付している。同補助金は、繰越明許費として22年度に繰り越され、さらに、23年3月に発生した東日本大震災により、事故繰越しとして23年度に繰り越されている。
全国中央会は、交付要綱及び全国中央会が定めた「ものづくり中小企業製品開発等支援補助金(試作開発等支援事業)交付規程」(平成21年7月22日21全中発第679号及び平成22年4月2日22センター発第040234号)、「ものづくり中小企業製品開発等支援補助金(実証等支援事業)交付規程」(平成21年7月22日21全中発第676号。以下、これらを合わせて「交付規程」という。)等に基づき、新製品又は新技術の試作開発から販路開拓等を行う事業(以下「試作開発事業」という。)及び中小企業が作成した製品について公設試験研究機関等を活用した実証を行う事業(以下「実証事業」といい、両事業を合わせて「ものづくり支援事業」という。)を支援することを目的として、21、22両年度に、ものづくり支援事業を実施した中小企業者(以下「会社等」という。)に対して、補助金を交付している(表1
参照)。そして、全国中央会は、23年6月に、補助事業が完了したとして、貴庁に実績報告書を提出している。
事業 | 件数 | 補助対象事業費 | 国庫補助金交付額 |
試作開発事業 | 2,327 | 74,718,855 | 46,606,003 |
実証事業 | 666 | 1,540,276 | 1,401,142 |
計(平成21、22両年度) | 2,993 | 76,259,132 | 48,007,145 |
ア 事業効果の把握方法
貴庁は、ものづくり支援事業の成果目標について、事業の成果物のうち80%の成果物が事業実施終了後5年以内に対価を得る市場取引の対象となること(以下「事業化」という。)としており、事業効果を評価するための指標として事業化率を用いている。このことは、21年11月に行政刷新会議が行った事業仕分けの際に説明している。
このため、全国中央会は、交付規程等において、会社等は、補助事業の完了した日の属する国の会計年度の終了後5年間、毎会計年度終了後30日以内に補助事業に係る過去1年間の事業化等の状況(中断、継続、事業化(第1段階から第5段階まで)の中から選択)等について記載した報告書(以下「企業化状況報告書」という。)を全国中央会へ提出することとしている。そして、貴庁は、交付要綱において、全国中央会は、提出された企業化状況報告書を基に、会社等の事業化等の状況等について記載した報告書を貴庁へ提出することとしている。これにより、貴庁は、ものづくり支援事業の事業効果を把握することにしている。
イ 収益納付の取扱い
貴庁は、補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律(昭和30年法律第179号。以下「補助金等適正化法」という。)第7条第2項の規定に基づき、ものづくり支援事業に収益納付の条件を付している。すなわち、交付要綱において、経済産業大臣は、会社等が当該補助事業の実施結果の事業化等により相当の収益が生じたときであって、かつ、その収益が全国中央会に納付されたと認めたときは、全国中央会に対し、交付した補助金の全部又は一部に相当する金額を国に納付させることができることとしている。
全国中央会は、交付規程等において、会社等は、補助事業が事業化した場合等には、新製品等の販売等による収益額から補助事業に要した経費のうち自己負担によって支出した額の5分の1を控除するなどして、当該年度における全国中央会への納付金額(以下「納付予定額」という。)を算出し企業化状況報告書に記載して報告することとしている。また、その記載内容を証明するために、生産及び販売実績書等の写し(以下「証明書類」という。)を添付することとしている。さらに、全国中央会会長は、会社等に収益が生じたと認めたときは、交付した補助金の全部又は一部に相当する金額を全国中央会に納付させることができることとしている。
ウ 処分制限財産の取扱い
補助金等適正化法第22条の規定によれば、補助事業者等は補助事業等により取得し又は効用の増加した財産のうち、政令で定める財産(補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律施行令(昭和30年政令第255号)第13条に定める財産。以下「処分制限財産」という。)を、各省各庁の長の承認を受けないで、補助金等の交付の目的に反して使用することなど(以下「財産処分」という。)をしてはならないとされている。そして、経済産業省は、「補助事業等により取得し又は効用の増加した財産の処分等の取扱いについて」(平成16・06・10会課第5号)において、当該承認のための基準等を次のとおり定めて いる。
すなわち、補助事業者等からの財産処分の申請について承認を行う場合は、処分制限財産の残存簿価相当額に補助率を乗じて得た金額を国庫に納付(以下「残存簿価分納付」という。)するなどの条件を付さなければならないこととしていたが、21年3月に、中小企業者が研究開発等を主たる目的とする補助事業等の成果を活用して実施する事業に使用するために行う処分制限財産の転用(所有者の変更を伴わない目的外使用)の承認の際には、残存簿価分納付の条件を付さないことができる(以下「中小企業特例」という。)こととした。
ものづくり支援事業のうち試作開発事業は、中小企業特例が初めて適用された事業である。これにより、全国中央会は、交付規程等において、試作開発に係る処分制限財産を補助事業の成果を活用して実施する生産活動等に転用(以下「成果活用型転用」という。)する場合は、会社等は、あらかじめ成果活用型転用の申請書及び添付書類(以下「転用申請書類」という。)を全国中央会に提出し、承認を受ければ残存簿価分納付が免除されることとしている。また、全国中央会は、申請を受けた場合には、貴庁と協議の上作成した「補助事業で取得した処分制限財産の処分に係る承認基準等について」(22センタ ー発第050707号。以下「承認基準」という。)に基づき、承認審査を行い、原則として、新製品等の完成に至っていない開発途中にある補助事業の成果を活用するものも含めて転用を承認することとしている。
本院は、合規性、有効性等の観点から、ものづくり支援事業の効果は適切に把握されているか、収益納付や成果活用型転用に係る取扱いは適切に実施されているかなどに着眼して、21、22両年度にものづくり支援事業2,993件に対して交付された補助金計480億0714万余円を対象として、貴庁において、ものづくり支援事業の実施状況や中小企業特例の適用状況等を聴取するとともに、全国中央会において、企業化状況報告書、転用申請書類等を、113会社等において、決算書等の関係書類や処分制限財産の使用状況等をそれぞれ確認するなどして会計実地検査を行った。
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
貴庁及び全国中央会は、企業化状況報告書を会社等から紙媒体により提出させることとしていたが、22年度にシステムを構築して電子情報により提出させることとした。その際、提出期限を会社等が補助事業を完了した会計年度終了後5年間、決算終了後30日以内とし、添付することとしていた証明書類の提出を会社等に求めないことにした。
そこで、事業効果の把握状況について、24年5月末までに企業化状況報告書を提出することとされていたものづくり支援事業2,731件の事業化等の状況及び企業化状況報告書の提出状況をみたところ、表2
のとおりとなっていた。
表2 事業化等の状況及び企業化状況報告書の提出状況(平成24年5月末現在)
(単位:件、千円)
事業化等の状況 | 事業件数 | 国庫補助金交付額 |
中断 | 368 | 4,779,433 |
継続 | 999 | 16,332,158 |
事業化第1段階から第2段階 (製品販売に関する宣伝等を行っているものなど) |
361 | 6,948,716 |
事業化第3段階から第5段階 (事業化を達成しているもの)(事業化率) |
309(11.3%) | 6,014,915 |
計 | 2,037(74.5%) | 34,075,224 |
提出期限が到来しているにもかかわらず未提出のもの | 694(25.4%) | 9,788,138 |
合計(提出期限が到来しているもの) | 2,731(100%) | 43,863,363 |
このように、提出期限が到来している企業化状況報告書のうち2,037件が期限までに提出されており、このうち309件が事業化を達成したとされていた(事業化率11.3%)。一方、企業化状況報告書の提出期限が到来していたのに694件(事業費計152億9977万余円、国庫補助金相当額計97億8813万余円)が提出されておらず、全国中央会において事業効果を適切に把握していなかった。上記694件の中には、提出期限を約15か月も過ぎているのに提出していない会社等も見受けられた。しかし、全国中央会は、これらの会社等に対して、23年度中はメールで不定期に提出の督促を行っていたものの、24年4月以降はどの会社等に対しても督促を行っていなかった。
企業化状況報告書を期限までに提出していた会社等のうち、54会社等は、納付予定額が生じていると報告していた。
そこで、全国中央会が実施させる収益納付の状況についてみたところ、会社等に証明書類の提出を求めないこととしたこと、補助事業に係る収益額の算定方法を明確にしていなかったことなどから、全国中央会は、企業化状況報告書の記載内容について証明書類を用いた確認を行っておらず、各会社等の納付予定額を確定していなかった。このため、全国中央会は、報告から13か月を経過している会社等もあるのに、どの会社等に対しても収益納付を命じていなかった。
また、事業化等により新製品等の販売等があったものの納付予定額が生じていないと報告した会社等について、改めて証明書類等を確認して試算したところ、補助事業に係る収益額が過小に算定されていたため、納付予定額が生じている会社等も見受けられた。
ア 会社等の申請の状況
24年2月までに、会社等から全国中央会に対して471件の成果活用型転用に係る転用申請書類が提出されていた。また、試作開発事業を実施して企業化状況報告書において事業化等により新製品等の販売等があったと報告されていた118件のうち50件は、上記の成果活用型転用に係る転用申請書類が提出されていたが、残りの68件については転用申請書類が提出されていなかった。
そこで、上記の68件の試作開発事業における処分制限財産の使用状況等についてみたところ、15件の試作開発事業を実施した会社等は補助事業により取得した32の処分制限財産(残存簿価相当額計1億7085万余円、国庫補助金相当額1億1322万余円)を全国中央会に無断で試作開発事業の成果により事業化した新製品等の生産設備として使用 していた。
イ 全国中央会における承認審査の状況
全国中央会は、24年5月末に、会社等から提出された473件の転用申請書類に対して、承認基準に基づき、その内容を審査してその全件について承認し、処分制限財産の残存簿価分納付を免除していた。承認基準では新製品等の完成に至っていない開発途中にある補助事業の成果を活用するものについても転用を認めており、承認された473件のうち37件は、企業化状況報告書において事業化等の状況を「中断」とし、137件は事業化等の状況を「継続」としていた。
そこで、会社等において成果活用型転用の承認を受けた処分制限財産の使用状況等についてみたところ、残存簿価分納付が免除された当該処分制限財産を生産活動に使用して収益額が生じているのに、交付規程等により、事業化等の状況を「中断」又は「継続」としている場合には収益額の報告が必要とされていないことから、当該収益額が全国中央会に報告されていない事態が生じていた。
株式会社Aは、平成21、22両年度に、試作開発事業として風力発電の部品に使用される低温衝撃値を保証したダクタイル鋳鉄製品(以下「新製品」という。)の試作開発を行い、溶解炉等(取得価額127,400,000円、国庫補助金相当額84,930,132円)を取得していた。そして、補助事業完了後、23年2月に、処分制限財産である溶解炉等を新製品及び開発途中の成果を活用した既存産業機械向け鋳鉄製品(以下「既存製品」という。)の生産設備に転用するとして成果活用型転用を申請し、全国中央会は、同月に承認していた。しかし、同社は、残存簿価分納付(23年2月末現在残存簿価相当額に係る国庫補助金相当額51,752,343円)を免除された溶解炉等を使用して既存製品を生産及び販売し、収益額が生じていたのに、補助事業に係る新製品は開発途中であるため、23年10月に全国中央会に提出した企業化状況報告書において、事業化等の状況を「継続」として収益額を記載していなかった。
交付規程等によれば、補助事業の成果がなく処分制限財産を生産活動に転用する場合は残存簿価分納付の対象となり、新製品等の試作開発を成功させ事業化を達成した場合は収益納付の対象となるとされている。しかし、全国中央会の承認結果により、処分制限財産を生産活動に転用して収益額が生じているのに、残存簿価分納付の対象とならず収益納付の対象ともなっていない事態は、著しく公平性を欠くこととなり、適切とは認められない。
ものづくり支援事業の効果を適切に把握していなかったり、成果活用型転用に係る転用申請書類が提出されていなかったりしている事態は適切ではなく、是正改善の要があると認められる。また、会社等が納付予定額が生じていると報告しているのに収益納付を命じていなかったり、成果活用型転用の承認結果により処分制限財産から生じた収益が納付の対象となっていなかったりなどしている事態は適切ではなく、改善を図る要があると認められる。
このような事態が生じているのは、全国中央会及び一部の会社等において、補助事業完了後においても、ものづくり支援事業を適正に実施する必要があることなどについての認識が欠けていたことにもよるが、貴庁において、全国中央会に事業効果を適切に把握するよう指導及び助言を行っていなかったこと、全国中央会が収益納付を実施する際の報告内容の確認から納付を命ずるまでの取扱いに係る指針等を示していないこと、成果活用型転用の承認審査について適切な指針等を示していないことなどによると認められる。
貴庁において、ものづくり支援事業の実施に当たり、事業効果を適切に把握する体制を整備するとともに、収益納付及び成果活用型転用が適切に実施されるよう、次のとおり是正改善の処置を求め、並びに改善の処置を要求し及び意見を表示する。
ア 会社等に対して、提出すべき毎年度の企業化状況報告書について、定期的な督促を行うなどして確実に提出させて、事業効果を適切に把握する体制を整備するよう、全国中央会に対して指導及び助言を行うこと(会計検査院法第34条による是正改善の処置を求めるもの)
イ 全国中央会の収益納付の取扱いに係る指針等を定めて、全国中央会に企業化状況報告書の記載内容について十分確認させるとともに、納付予定額を確定して会社等に納付を命ずるなど収益納付を適切に実施させること(同法第36条による改善の処置を要求するもの)
ウ 補助事業完了後の処分制限財産の取扱いについて、会社等に対して周知徹底を図るよう、全国中央会に対して指導及び助言を行うこと(同法第34条による是正改善の処置を求めるもの)
エ 全国中央会による成果活用型転用の承認審査について、承認基準を変更させるなどの見直しを検討した上で成果活用型転用の取扱いに係る指針等を示すなどして、全国中央会に承認審査を適切に実施させること(同法第36条による意見を表示するもの)