部局等 | 財務本省、中小企業庁(貸付制度の所掌部局) | |
株式会社日本政策金融公庫(貸付けの実施部局) | ||
省エネルギーの促進に係る貸付けの概要 | 中小企業者が省エネルギーに資する施設を設置する場合に、当該施設を取得するために必要な資金を貸し付けるもの | |
省エネルギーの促進に係る貸付件数及び貸付額 | 824件 | 314億3132万円(平成22、23両年度) |
上記のうち省エネルギー効果要件に沿った事業効果が確認できない貸付件数及び貸付額 | 623件 | 229億9735万円 |
(平成24年10月26日付け | 財務大臣 経済産業大臣 |
宛て) |
標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり意見を表示する。
株式会社日本政策金融公庫(以下「公庫」という。)は、独立して事業を遂行する者に対して当該事業を遂行するために必要な小口の事業資金を貸し付け(以下「国民生活貸付」という。)、また、中小企業者に対して事業の振興に必要な資金を貸し付けている(以下「中小企業貸付」という。)。
そして、中小企業における省エネルギー(以下「省エネ」という。)の促進、非化石エネルギーの導入、公害防止及び再生資源の有効利用等の環境対策の促進等を図るために、財務省は国民生活貸付について「環境・エネルギー対策貸付制度要綱」(平成20年財政第489号。以下「国民生活貸付要綱」という。)を、財務省及び中小企業庁は中小企業貸付について「環境・エネルギー対策貸付制度要綱」(平成20年財政第489号、平成20・09・19中庁第1号。以下「中小企業貸付要綱」という。)をそれぞれ定め、公庫は、これらの貸付要綱等に基づき、環境・エネルギー対策資金の貸付けを実施している。
環境・エネルギー対策資金のうち、省エネの促進に係る貸付け(以下「省エネ貸付」という。)は、公庫の前身である国民金融公庫(平成11年10月以降は国民生活金融公庫)及び中小企業金融公庫当時の昭和53年度から実施しているもので、中小企業者が、省エネに資する施設、設備等(以下、単に「施設」という。)として貸付要綱に定められた施設を設置して省エネの推進を図る場合に、当該施設を取得するために必要な資金を通常より有利な貸付条件(貸付利率の引下げ、返済期間の長期化、貸付限度額の拡大等)で貸し付けるものである。
省エネ貸付の対象となる施設(以下「貸付対象施設」という。)は、国民生活貸付要綱及び中小企業貸付要綱において同一となっており(以下、これらの貸付要綱を合わせて「貸付要綱」という。)、貸付要綱の別表(以下「要綱別表」という。)に列挙されている電動送り式金属工作機械、自走式作業用機械設備等の施設(表1
参照)のうち、施設ごとに定められた省エネに資するとされる一定の構造等の要件(以下「構造要件」という。)に該当するなどの施設であって、省エネ効果(注1)
が現在の平均的な施設に対して25%以上のものであること(ただし、施設の更新の場合には、これに加えて、省エネ効果が更新前の施設に比べて40%以上のものであること)という要件(以下「省エネ効果要件」という。)を満たすものに限るとされている。
そして、中小企業庁は、資源エネルギー庁と協議した上で公庫に対して発した「資源エネルギー資金(省エネ関連)の対象施設の可否判断方法について」(以下「事務連絡」という。)において、公庫による省エネ貸付の実施に当たっての省エネ効果の確認・判断方法として、要綱別表に示されている施設は、省エネ効果が25%以上のものであると確認されているため、当該施設であれば必然的に省エネ効果要件を満たす(ただし、施設の更新の場合には、更新される施設が耐用年数を経過しているのであれば、更新による省エネ効果とこの25%を合わせて40%以上の省エネ効果が見込まれるので、省エネ効果要件を満たす)ものとしてよいとしており、公庫は、これに基づいて省エネ貸付を実施している。
ヒートポンプ方式熱源装置 | 省エネルギー型麺類製造装置 |
廃熱ボイラー | 省エネルギー型焼成焼上装置 |
省エネルギー型工業炉 | 高熱効率型連続蒸米機 |
コ・ジェネレーションシステム | 高性能ねん糸機 |
染色整理装置 | 高速全自動殖版機 |
単板乾燥装置 | 省エネルギー型鍛造素材切断機 |
せん断機 | 省エネルギー型鋳物砂混練装置 |
高性能ダイカストマシン | 省エネルギー型ショットブラスト |
プレス・タッピング複合加工装置 | 省エネルギー型古紙梱包装置 |
自動温度調整装置 | 省エネルギー型ボイラー |
省エネルギー型鋳型造型機 | 省エネルギー型アーク溶接機 |
高周波誘導加熱装置 | 省エネルギー型真空焼鈍炉 |
省エネルギー型乾燥装置 | 熱成形機 |
省エネルギー型染色整理装置 | 精密打抜プレス |
省エネルギー型紙製容器製造装置 | 省エネルギー型フォークリフト |
省エネルギー型製本装置 | 高効率生地連続包あん機 |
省エネルギー型成形機 | 多段ホーマー |
電動送り式金属工作機械 | 外断熱システム |
省エネルギー型プレス | 省エネルギー型ジョークラッシャー |
無杼(ひ)式自動織機 | 省エネルギー型経編機 |
省エネルギー型ダイカストマシン | 建築物の省エネ性能の向上に資する設備、機器及び建築材料 |
プリンタースロッタ | |
省エネルギー型印刷機 | 高効率変圧器 |
自走式作業用機械設備 | 燃料電池発電設備 |
油圧解体機 | 省エネルギー型吸収式冷温水器 |
大口径掘削機 | 計51種類 |
省エネルギー電気炉 |
省エネ貸付の制度は創設から30年以上が経過しており、その間の技術進歩等に伴い施設の省エネ性能は近年大きく向上するとともに、優れた省エネ性能を有する施設の普及が進んでいるところであって、制度の創設当時とは状況が大きく異なってきている。
そこで、本院は、有効性等の観点から、貸付けの対象とされた施設の設置により貸付要綱等に定める省エネ効果要件に沿った事業効果が発現しているか、省エネ性能の向上、省エネ性能の高い施設の普及等の状況の変化に応じて貸付対象施設の見直しが行われているかなどに着眼して検査した。
検査に当たっては、公庫が平成22、23両年度に実施した貸付け(22年度371件、貸付額計153億3487万円、23年度453件、貸付額計160億9645万円、合計824件、貸付額計314億3132万円)を対象として、財務本省、資源エネルギー庁及び中小企業庁において、要綱別表の各施設の省エネ効果等について説明を聴取したり、公庫の本店及び10支店において、貸付関係書類により、貸付対象とした個々の施設について説明を聴取したりして実地に検査を行うとともに、資源エネルギー庁及び中小企業庁を通じて各施設に係る業界団体等に対して省エネ性能の状況、施設の普及状況等について調査を行うなどした。
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
公庫は、貸付けに当たって、設置される施設が要綱別表に示された施設であり、構造要件に該当するものであることなどを確認しており、事務連絡に従って、これらの施設は省エネ効果要件を満たすものとして、貸付けを行っていた。
財務省及び中小企業庁は、貸付対象施設として要綱別表に掲載される施設の省エネ効果の確認等は中小企業庁が資源エネルギー庁と共同して行っているとしており、中小企業庁は、3年度に、当時の要綱別表に掲載していた全施設について、資源エネルギー庁と共同で、省エネ効果の確認及び構造要件の検討を行い、当時の平均的な施設に対して省エネ効果が25%以上となっていることを確認したとしている。
しかし、23年度において要綱別表に掲載されている51種類の施設の大半を占める46種類の施設は3年度当時から掲載されているものであり、特にこのうち36種類の施設については3年度以降構造要件が変更されていないものである。この36種類の施設の省エネ効果については、3年度に確認が行われた後は、17年度にこのうち2種類の施設について検証が行われた記録があるのみで、その他の施設については現在まで検証の記録はなく、これらの各施設が現在の平均的な施設に対してどの程度の省エネ効果があるかなどについては確認できない状況となっている。
上記のとおり、貸付対象施設として要綱別表に掲載されている施設の多くについて省エネ効果が確認できない状況であったため、本院が、各施設の省エネ効果について、資源エネルギー庁及び中小企業庁を通じて、当該施設の製造者等の業界団体等に対して調査を行った(注2) ところ、その回答の結果は表2 のとおりとなっていた。
調査項目 | 調査結果 | ||
設置する施設が構造要件に該当することだけで、現在の平均的な施設に対して25%以上の省エネ効果があるといえるか。 | 25%以上の効果があるといえる。 | 16施設 (32.0%) |
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25%以上の効果があるとはいえない。 | 15施設 (30.0%) |
34施設 (68.0%) |
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25%以上の効果があるかどうか判断できない。 | 19施設 (38.0%) |
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計 | 50施設 (100%) |
すなわち、調査の対象とした50種類の施設のうち、設置する施設が構造要件に該当することだけで現在の平均的な施設に対して25%以上の省エネ効果があるといえるとしているものは、省エネルギー型製本装置、省エネルギー型印刷機等16種類の施設にとどまっており、この他の電動送り式金属工作機械、自走式作業用機械設備等34種類の施設については、以下の〔1〕 又は〔2〕 のとおり、構造要件に該当することだけで一律に省エネ効果要件を満たすとはいえないとしている。
〔1〕 現在では要綱別表に示されている構造要件は同種施設において一般的なものとなっており、構造要件を満たす施設がすなわち現在の平均的な施設となっていることなどから、設置する施設が構造要件に該当することだけで一律に現在の平均的な施設に対して25%以上の省エネ効果があるとはいえない(15種類の施設)。
〔2〕 用途等によって多種多様な施設があり、特に近年は多種多様な施設が設置されるようになっていることなどのため、「現在の平均的な施設」の省エネ性能を設定することが困難であることなどから、これに対して25%以上の省エネ効果があるかどうか判断できない(19種類の施設)。
なお、前記で25%以上の省エネ効果があるとされた16種類の施設についても、そのうち7種類の施設については、施設の更新の場合、更新前の施設の構造が更新後の施設の構造と大きく変わらないことなどから、耐用年数を経過していることなどだけで一律に更新前の施設に比べて40%以上の省エネ効果があるとはいえないなどとしている。
このように、50種類の施設のうち34種類の施設については構造要件に該当することだけで一律に省エネ効果要件を満たすとはいえないと認められるにもかかわらず、事務連絡により、構造要件に該当するなどしていれば一律に省エネ効果要件を満たすものとして取り扱ってよいとされているため、これらに該当する施設に対する貸付け(623件、貸付額計229億9735万円)については、貸付要綱に定める省エネ効果要件に沿った事業効果があるかどうか確認できないのに貸し付けられていると認められる。
なお、上記の623件のうち、実地に検査を行った10支店における貸付けであって貸付額が比較的高額であるものなど16件について、本院において、設置された施設の省エネ効果について借受者からその状況を聴取するなどして調査したところ、いずれも平均的な施設に対して25%以上の省エネ効果があったことなどについては確認できなかった。
以上のように、貸付要綱に定める省エネ効果要件に沿った事業効果があるか確認できない施設に多額の貸付けが行われている事態は適切ではなく、改善を図る要があると認められる。
このような事態が生じているのは、中小企業庁において、近年の施設の省エネ性能の向上、構造要件を満たす施設の普及等の状況の変化に応じて、要綱別表に掲載されている施設の省エネ効果の検証、構造要件の見直しなどを十分に行っていなかったこと、財務省及び中小企業庁において、上記のような状況の変化に応じて当該施設を貸付対象とすることの妥当性を検討するなどの貸付要綱の見直しを十分に行っていなかったことなどによると認められる。
省エネ対策については、エネルギーの需給関係の改善、地球温暖化の防止等のため、近年、より一層の取組が必要となっており、財務省及び中小企業庁においては引き続き中小企業者による省エネ施設の設置を支援する必要があるとしているところである。
しかし、現在の省エネ貸付の制度については、貸付要綱において具体的な省エネ効果要件が定められているものの、近年、施設の省エネ性能の向上、構造要件を満たす施設の普及、施設の多種多様化等が進んでいる中で、省エネ効果要件に沿った事業効果があるか確認できない施設に対して多額の貸付けが行われており、省エネ効果要件は実効のあるものとなっていないと認められる。
ついては、財務省及び中小企業庁において、要綱別表に掲載している施設の省エネ性能や普及状況等に鑑み、これらの施設の省エネ効果を適切に検証したり、省エネ効果の確認・判断方法を見直したりなどして、十分な省エネ効果が期待できなくなっている施設については貸付対象施設から除外するなどの制度の見直しを行うことなどにより、省エネを促進するという制度の目的に沿った効果的な貸付けとするよう意見を表示する。