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  • 平成23年度|
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灯台巡回道路の改修工事の実施に当たり、設計が適切でなかったため、落石防止柵等の所要の安全度が確保されておらず、工事の目的を達していなかったもの


(255) 灯台巡回道路の改修工事の実施に当たり、設計が適切でなかったため、落石防止柵等の所要の安全度が確保されておらず、工事の目的を達していなかったもの

会計名及び科目 一般会計  (組織)海上保安庁  (項)航路標識整備事業費
部局等 第八管区海上保安本部
工事名 余部埼北灯台改良改修工事
工事の概要 近隣の集落と灯台とを結ぶ巡回道路を改修するために、落石防止柵等を設置するもの
工事費 34,335,000円
請負人 株式会社中川工務店
契約 平成21年9月 一般競争契約
しゅん功検査 平成22年3月    
支払 平成21年10月、22年3月
不適切な設計となっていた落石防止柵等に係る工事費 14,611,000円(平成21年度)

1 工事の概要

 この工事は、第八管区海上保安本部(以下「海上保安本部」という。)が、兵庫県美方郡香美町余部地内において、近隣の集落と余部埼北灯台とを結ぶ幅員0.8mの灯台管理用の歩道(以下「巡回道路」という。)が落石や雨水の浸食により破損したことから、この巡回道路を復旧するために、平成21年度に、落石防止工、排水構造物工、土留擁壁工、チェーン柵工等を工事費34,335,000円で実施したものである。
 このうち、落石防止工は、巡回道路の山側からの落石を防止するために、落石防止柵及び落石防護網を敷設するものである。そして、落石防止柵は、プラスチック製の擬木板柵(高さ0.2m、長さ2.0m、最大厚さ80mm、最小厚さ30mm)を3段組み合わせたものを支柱(高さ1.55m。地表露出部0.6m)にビス(径3.8mm、長さ57mm)で固定するなどして、延長170mにわたって敷設したものである。
 また、排水構造物工は、山側斜面から流れてくる雨水の浸食により巡回道路が崩壊することを防止するために、内径0.1mのポリエチレン製の有孔波状管(以下「有孔管」という。)を落石防止柵の背面(山側)に添わせて、土砂等で埋め戻すことなく遮水シートの上に露出させたまま、延長170mにわたって敷設するなどしたものである(参考図 参照)。

2 検査の結果

 本院は、合規性等の観点から、本件工事の設計が適切に行われているかなどに着眼して、海上保安本部において会計実地検査を行った。そして、本件工事について、設計図書等の書類及び現地の状況を確認するなどして検査したところ、落石防止柵及び有孔管の設計が次のとおり適切でなかった。

(1) 落石防止柵の設計

 海上保安本部は、本件工事の設計に当たり、現地調査及び設計業務をコンサルタントに委託して報告書を受け取り、これに基づき、本件工事を施工していた。
 上記の報告書によると、落石防止柵の高さを決定するため、次のような条件により、落石が防止柵を跳び越える高さが計算されていた。

ア 落石の直径を、現地調査により確認された巡回道路付近の転石の平均である0.2mとする。
イ 落石の出発点と落石防止柵との高低差を、地形図の等高線が最も密となる位置から落石が始まると仮定して86.33mとする。

 そして、この計算の結果、落石が防止柵を跳び越える高さが0.48mとなったことから、これに対応できる高さとして落石防止柵の高さを0.6mとすることとされていた。また、落石防止柵は、落石による衝撃荷重を考慮しないこととされていた。
 しかし、落石対策便覧(社団法人日本道路協会編。以下「便覧」という。)によれば、落石対策の基本的な考え方として、予想される落石の規模等を考慮して落石防護工等を設置して落石による災害を最小限に抑えるよう努めることとされている。また、落石防護工の設計に当たっては、現場における調査や過去の落石等の経験を基に、最も妥当と思われる落石等の質量等を推定しなければならないこととされている。
 したがって、巡回道路付近だけを調査して単にその付近の転石の平均直径を計算の条件としていた設計は適切とは認められない。現に、海上保安本部が巡回道路の山側斜面を再調査したところ、最大で直径0.5mの転石が確認された。
 また、前記の報告書では、計算の条件として、落石の出発点と落石防止柵の高低差を86.33mとしていたが、便覧によれば、斜面が長大となって高低差が40mを越えると落石の落下速度は一定値(上限速度)に達する傾向にあるとされている。
 そこで、再調査の結果確認された直径0.5mの落石が高低差40mを落下するとして落石が防止柵を跳び越える高さを再計算すると0.4mとなり、落石が実際に敷設された高さ0.6mの落石防止柵に衝突することとなる。そして、直径0.5mの落石による衝撃荷重を考慮して落石防止柵の設計計算を行ったところ、落石防止柵と支柱とを固定するビスに生ずる引抜力は3.01kN/本となり、許容引抜力は2.35kN/本であることから、設計計算上安全とされる範囲に収まっていなかった。現に、24年4月の会計実地検査時点において、落石により落石防止柵の一部が破損したり、破損した落石防止柵を跳び越えた落石により土留擁壁及びチェーン柵の一部が破損したりしていた。

(2) 有孔管の設計

 報告書等によると、有孔管は高外圧に耐えられると製品カタログに記載されていることなどから、現地調査により確認された平均直径0.2mの落石が衝突しても耐えられるとして、落石による衝撃荷重を考慮せず、また、前記のとおり土砂等で埋め戻すことなく露出したまま敷設することとされていた。
 しかし、有孔管は、土砂等で埋め戻すことにより、有孔管に加わる外圧を全周にわたり均等化して抵抗する特性を有するものであることから、土砂等で埋め戻しをしないこととした設計は適切とは認められない。
 そこで、現地調査により確認された直径0.2mの落石による衝撃荷重を考慮し、埋め戻しがされていないこととして有孔管の設計計算を行ったところ、有孔管に作用する圧縮強度が33,110N/mとなり、許容圧縮強度は1,765N/mであることから、設計計算上安全とされる範囲に収まっていなかった。現に、会計実地検査時点において、有孔管の一部は、落石により押しつぶされていた。
 したがって、落石防止柵及び有孔管は設計が適切でなかったため、落石防止柵のうち落石防護網を併設している区間等を除く124mの区間及び有孔管の全延長170mについては、いずれも所要の安全度が確保されていない状態になっていて工事の目的を達しておらず、また、上記124mの区間に係る土留擁壁、チェーン柵等も落石防止柵の影響を受けることから工事の目的を達しておらず、これらに係る工事費相当額14,611,000円が不当と認められる。
 このような事態が生じていたのは、海上保安本部において、委託した調査設計業務の成果品に誤りがあったのに、これに対する検査が十分でなかったことなどによると認められる。

(参考図)

落石防止柵等の概念図

落石防止柵等の平面図、正面図及び側面図