会計名及び科目 | 社会資本整備事業特別会計(港湾勘定)(平成19年度以前は、港湾整備特別会計(港湾整備勘定)) (項)港湾事業費 等 |
部局等 | 国土交通本省、6地方整備局等 |
事業の根拠 | 港湾法(昭和25年法律第218号)等 |
港湾整備事業の概要 | 岸壁等の係留施設、航路等の水域施設、防波堤等の外郭施設等の建設、改良等を実施する事業 |
検査の対象とした事業評価の件数 | 202件 |
上記の事業評価に係る事業費(平成23年度までの評価原案上の事業費 | 3兆7700億円(平成16年度〜23年度) |
便益の算定方法の検討が十分に行われたか確認できなかったなどの事業評価件数 | 7件
|
上記の事業評価に係る事業費(平成23年度までの評価原案上の事業費) | 2208億円(背景金額) |
機能試験の仕様を明確にした場合との開差額 | 2260万円(平成21年度〜23年度) |
(平成24年10月26日付け 国土交通大臣宛て)
標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり改善の処置を要求する。
記
貴省は、港湾法(昭和25年法律第218号)等に基づき、直轄事業による港湾整備事業として、岸壁等の係留施設、航路等の水域施設、防波堤等の外郭施設等の建設、改良等を実施している。
港湾は、岸壁、航路、泊地、防波堤等の施設から構成されており、これらは一体となって整備されることにより特定の機能を発揮する。そして、これら一体となって整備される施設群は、その主な機能及び目的によって、国際海上コンテナターミナル整備事業、複合一貫輸送ターミナル整備事業、国際物流ターミナル整備事業、旅客対応ターミナル整備事業等に分類され、一連の施設群を一つのプロジェクトとして事業採択され整備される。
貴省は、貴省所管の公共事業について、効率性及びその実施過程の透明性の向上を図るため、平成10年以降、事業評価に関する実施要領等を定めて、新規事業採択時評価、再評価及び事後評価を実施している。
事業評価は、貴省港湾局が策定した「港湾整備事業の費用対効果分析マニュアル」によると、費用対効果分析のほかに、実施体制の状況、その他の考慮事項等の要因を総合的に判断して行うこととされているが、このうち費用対効果分析が評価の重要な要素となっている。同マニュアルは、費用対効果分析の手法の向上等に対応するために何度か更新されており、最新の同マニュアルは23年に改定されたものであり、その前は16年に改定されている。
23年に改定された同マニュアルによると、費用対効果分析は、経済資源投入の効率性の良否を判断するため、港湾投資により失われる資源と港湾投資により得られる効果を比較する分析方法であり、効果を貨幣換算して分析する費用便益分析と貨幣換算しない効果の分析とがあるとされている。そして、費用便益分析は、港湾整備事業主体の収益と費用を評価するのではなく、社会的便益と社会的費用を貨幣換算して比較し、当該事業が投資効率性の観点から合理的なものであるかについて評価することが目的とされている。港湾整備事業においては、この費用便益分析が中心となるとされている。
港湾・空港整備事務所等(以下「事務所等」という。)は、以下の各評価を行うに当たって必要となるデータの収集、整理等を行うとともに、評価原案を作成するなど様々な業務を実施している。
ア 新規事業採択時評価
新規事業採択時評価は、貴省本省が、当該事業の予算化に係る対応方針を決定するなどの目的で実施するものである。そして、貴省本省は、学識経験者等の第三者から構成される交通政策審議会港湾分科会事業評価部会に事務所等が作成した評価原案、直轄事業負担金の負担者である都道府県等の意見を提示し、その判断を踏まえるなどして当該 事業の予算化等に係る対応方針を決定することとしている。
イ 再評価
再評価は、地方整備局等が事業採択後長期間(5年)経過している事業等について評価を行うもので、事業の継続に当たり、必要に応じその見直しを行うほか、事業の継続が適当と認められない場合には事業を中止する目的で行うものである。
そして、地方整備局等は、事務所等が作成した再評価に係る評価原案に関し各地方整備局等に設置している学識経験者等の第三者で構成される事業評価監視委員会で審議した結果等を踏まえ、事業の対応方針案を決定し、貴省本省は、その対応方針案を審査するなどして事業の継続、中止等を決定することとしている。
ウ 事後評価
事後評価は、地方整備局等が、事業完了後一定期間(5年以内)経過した事業等を対象として、事業完了後の事業効果の発現状況、事業完了後における実績の確認等を行い、その変化、事業効果の発現状況等を分析し、適切な改善措置を検討したり、今後の事業評価の必要性等を検討したりする目的で行うものである。
そして、地方整備局等は、事務所等が作成した事後評価に係る評価原案に関し各地方整備局等に設置している学識経験者等の第三者で構成される事業評価監視委員会で審議した結果等を踏まえ、改善措置が必要な場合その対応方針を決定することとしている。
貴省は、直轄事業として行う港湾整備事業について前記の各評価を実施する場合は、前記の「港湾整備事業の費用対効果分析マニュアル」、港湾事業評価手法に関する研究委員会が編集した「港湾投資の評価に関する解説書」等(以下、これらを合わせて「マニュアル等」という。)に基づき、費用対効果分析を行っている。
そして、貴省は、効果を貨幣換算できる事業について、次のとおり、投資によって整備する施設等がもたらす便益と事業に投入する費用とを比較する費用便益分析を行っている。
便益は、新たな施設整備により、どの程度荷主の貨物の輸送コストが削減できるか、旅客船の来航により乗客が下船して観光したり、周辺住民が港に訪れたりするなどの交流機会増加便益がどの程度増加するかなどにより算定することとしている。例えば、岸壁整備事業についてみると、事業を実施せず当該岸壁等の施設が未整備の場合に、機能的に代替可能な港湾に荷を陸揚げし、そこから荷主までトラック等により輸送するために生ずるコストについて、事業を実施して当該岸壁等の施設が整備された場合に、当該港に直接荷を陸揚げすることによりどの程度削減できるのかなどをもって当該事業の便益とすることとしている。
このため、将来の貨物量、利用船舶の規模、事業を実施する場合と実施しない場合の輸送方法がどのように変化するかなどを想定し、事業を実施する場合と事業を実施しない場合の各年の輸送コストを算定して、その差額を整備による各年の便益額とすることとしている。
なお、将来の貨物量等の需要の推計に当たっては、当該貨物量や輸送経路に関して、主要な企業の当該港湾利用の意向のみではなく、関連する資料やデータの収集分析を行い、需要推計値の妥当性を検討することとしている。
費用便益分析の分析対象期間は、事業の中心的施設の耐用年数等に基づき設定することとしているが、港湾の場合は、岸壁、防波堤等の耐用年数が50年とされていることなどから、分析対象期間も多くは50年としている。そして、各年度の便益を社会的割引率(注1)
を用いて現在価値化した上で、50年分を合計するなどしたものを総便益とすることとしている。
また、港湾施設が未整備の場合に、次善の策として荷の陸揚げなどに使用することを想定する他の港(以下「代替港」という。)は、機能面等を考慮して代替可能と考えられる候補の港(以下「代替候補港」という。)の中から輸送コストが最小となる港を選択して定めることとしている。
費用は、実際の資金の出所にかかわらず関係する全ての費用を計上することとしていて、計上する費用は、建設費、維持管理費等としている。そして、各費用は、それぞれの発生する年度に計上し、便益と同様に現在価値化して50年分を合計したものを総費用とすることとしている。
上記ア の総便益及びイ の総費用を用いて、事業の投資効率性を評価するために便益を費用により除して得られる数値(費用便益比)等により費用便益分析を行うこととしている。そして、便益、費用ともにその額が確実なものであれば便益を費用により除して得られる数値が1を超えれば、基本的に事業を行うことについて投資効率性の点で合理性があると判断している。
港湾整備事業の事業評価における費用便益分析は、事業採択、事業継続、事業効果の発現状況の確認等の判断材料として重要なものとなっている。そこで、合規性、効率性、有効性等の観点から、費用便益分析における便益及び費用の算定は諸要因を適切に考慮して行われているかなどに着眼して検査した。
検査に当たっては、16年度から23年度までの間に、9地方整備局等(注2) の29事務所等(注3) が評価原案等の作成等の業務を行った新規採択時評価40件、再評価120件、事後評価42件、計202件の事業評価(事業評価の対象事業の評価原案上の23年度までの事業費計3兆7700億円)を対象として、貴省本省、9地方整備局等及び29事務所等において、評価原案、その根拠資料等の関係書類等を基に現地の状況を確認するなどして会計実地検査を行った。
上記202件の事業評価について検査したところ、次のような事態が見受けられた。
ア 便益発生の前提条件である航路開設等が実現していない港湾に関し、便益発生の前提条件の実現可能性についての検討状況に係る書類が残されておらず、その検討が十分に行われたのか確認できないもの
マニュアル等によると、便益の算定に当たっては、事業を実施する場合と実施しない場合の貨物量や輸送手段、輸送経路等について裏付ける資料等の収集分析を行うことが望ましいとされている。
室蘭開発建設部及び小松島港湾・空港整備事務所は、室蘭港等に係る2件の事業評価(表1
参照)の費用便益分析において、事業の実施に伴い岸壁が整備されれば、新規航路が開設されることによって輸送コストが削減される便益が発生するとしていた。
しかし、施設の供用後も新規航路の開設は実現していない。そこで、新規航路の開設の前提条件である採算性確保の見通しに係る検討状況等について検査したところ、貴省は、評価時点において検討を十分行ったとしているが、これに係る書類等が残されておらず、便益発生の前提条件である新規航路の開設等の実現可能性についての検討が十分に行われたのか確認できなかった。
地方整備局等 | 事務所等 | 評価年度 | 事業実施年度 | 新規/再評価/事後評価の別 | 港湾名 | 事業名 | 事業の主目的 | 総便益(B)(億円) | 総費用(C)(億円) | 費用便益比(B/C) | RORO船の就航、中国航路開設を見込んだ便益(億円)(総便益に対する割合) | 評価原案上の23年度までの事業費(億円) | 事態 |
北海道開発局 | 室蘭開発建設部 | 平成18 | 平成15〜23 | 再評価 | 室蘭港 | 複合一貫輸送に対応した内貿ターミナル整備事業(室蘭港入江地区) | RORO船の就航を見込んだターミナル整備 | 160 |
45 |
3.6 |
127(79%) | 45 |
便益発生の前提条件となるRORO船の定期航路が開設されていない |
四国地方整備局 | 小松島港湾・空港整備事務所 | 17 |
8〜18 |
再評価 |
徳島小松島港 | 多目的国際ターミナル整備事業(徳島小松島港赤石地区) |
中国航路開設を見込んだターミナル整備 |
204 |
107 |
1.9 |
173(85%) |
88 |
便益発生の前提条件となる中国航路が開設されていない |
合計 |
133 |
/ |
上記の事態について、事例を示すと次のとおりである。
室蘭開発建設部は、室蘭港入江地区において、複合一貫輸送に対応した内貿ターミナル整備事業として、岸壁(水深8m)、港湾施設用地、臨港道路等を整備している。この事業は、フェリー航路の休止等により、フェリー埠頭として利用していた岸壁をRORO船(注)
に対応させることなどを目的として行われたものであり、岸壁等は、平成20年度から供用開始されている。室蘭港背後圏の荷主は、当該岸壁等が整備されない場合、RORO船の定期航路のある苫小牧港まで貨物を運ぶために室蘭と苫小牧港間(68km)を陸上輸送することになるのに対し、本件事業を実施すると、室蘭港背後圏から室蘭港までの距離(5km)を陸上輸送すればよくなり、輸送コストが削減できることになる。そして、同建設部は、18年度の再評価の費用便益分析において、この輸送コスト削減便益を127億円とするなどとして、総便益(B)を160億円、総費用(C)を45億円、費用便益比(B/C)を3.6としていた。これにより、貴省は、本件事業を継続すると判断していた。
しかし、室蘭港は、RORO船の定期航路を維持するだけの貨物が集荷されず、船会社の採算性がないことから、会計実地検査時点(24年5月)までに定期航路が開設されておらず、開設される具体的な見込みも立っていなかった。また、貴省は、上記の再評価において、船会社が航路を開設するための重要な要素である船会社の採算性の検討を行ったとしているが、これに係る書類が残されておらず、また、評価原案でも船会社の採算性に関する記載がないなど、同建設部において便益発生の前提条件の実現可能性についての検討が十分に行われたのか確認できなかった。
イ 便益を算定するための代替港の選定について、選定に至った過程が評価原案になく、また、根拠資料も残されていないため、検討が十分に行われたのか確認できないもの
マニュアル等によると、便益の算定に当たり、事業を実施しない場合に想定される代替港は、代替候補港の中から輸送コストが最小となる港湾を選択して定めることとされている。そして、代替候補港において、当該貨物を取り扱うことが可能な適切なターミナルが整備されているか、整備される見込みがあるかなどについて検討する必要があるとされている。
四日市港湾事務所及び大阪港湾・空港整備事務所は、四日市港等に係る2件の事業評価(表2
参照)の費用便益分析において、評価時点で直ちに代替可能な遠方の港湾のみを代替港として、その便益が50年間にわたり発生するとして総便益を計上していた。
しかし、近隣港の重要度等からみた近隣港の整備の可能性、港湾計画に記載されている近隣港の整備計画とその整備状況等からみて、近隣港が将来代替港となり得ると考えられるところ、代替港の選定についての検討資料が残されておらず、検討が十分に行われたのか確認できなかった。
地方整備局等 | 事務所等 | 評価実施年度 | 事業実施年度 | 新規/再評価/事後評価の別 | 港湾名 〔1〕 |
事業名 | 主たる貨物 | 代替港 (km) 〔2〕 |
直近の港湾 (km) 〔3〕 |
総便益 (B) (億円) |
総費用 (C) (億円) |
費用便益比 (B/C) |
評価原案上の23年度までの事業費 (億円) |
中部地方整備局 | 四日市港湾事務所 | 平成22 | 平成13〜27 | 再評価 | 四日市港 | 国際海上コンテナターミナル整備事業 (四日市港霞ヶ浦北ふ頭地区) |
コンテナ | 大阪港 (120) |
名古屋港 (18) |
1421 | 727 | 2.0 | 456 |
近畿地方整備局 | 大阪港湾・空港整備事務所 | 22 | 8〜31 | 再評価 | 堺泉北港 | 国際物流ターミナル整備事業 (堺泉北港助松地区) |
自動車 | 名古屋港 (142) |
堺泉北港 (4) |
293 | 234 | 1.3 | 139 |
合計 | 595 |
上記の事態について、その内容を示すと次のとおりである。
四日市港湾事務所は、四日市港霞ヶ浦北ふ頭地区において、国際海上コンテナターミナル整備事業として、岸壁(水深14m)、泊地(水深14m)、防波堤、臨港道路等を整備している。この事業は、国際海上コンテナターミナルを整備することにより、コンテナ貨物の取扱能力の不足を解消し物流の効率化を図ることなどを目的として行われているものである。同事務所は、平成22年度に行った本件事業の再評価の費用便益分析において、ターミナルの整備による輸送コスト削減便益を1065億円とするなどとして、総便益(B)を1421億円、総費用(C)を727億円、費用便益比(B/C)を2.0としていた。これにより、貴省は、本件事業を継続すると判断していた。同事務所は、上記の輸送コスト削減便益について、四日市港にターミナルが整備されない場合、アジア向け貨物について三重県等の荷主が大阪港を利用するとして、ターミナルを整備すれば陸上輸送距離が短くなり陸上輸送コストが年額43.1億円減少すると算定し、この状況が18年度から50年間継続することを前提に50年間の便益の現在価値を合計1013億円と算定していた。そして、本件ターミナルの利用が見込まれる荷主に対するアンケートによると、四日市港に最も近い名古屋港を利用している荷主が最も多かったのに、代替港を名古屋港ではなく遠方の大阪港とした理由について、同事務所は、評価時点において、名古屋港の取扱能力に余裕がないと判断したことによるとしている。
しかし、名古屋港は、再評価の時点において、既にアジア航路のコンテナを扱う鍋田ふ頭コンテナターミナルに岸壁を増設する工事に着手していたため、近隣の名古屋港を代替港に設定することを検討すべきであったと認められる。貴省は、これらの比較検討を行ったとしているが、評価原案では代替港の選定に至った過程に一切触れられておらず、根拠資料も残されていないことから、代替港の選定について検討が十分に行われたのか確認できなかった。
大阪港湾・空港整備事務所は、堺泉北港助松地区において、国際物流ターミナル整備事業として、岸壁(水深14m、延長300m)、泊地(水深14m)、航路(水深14m)等を整備している。この事業は、西日本における中古自動車の輸出増加等に対応することにより物流効率化を図ることなどを目的として行われているものである。同事務所は、平成22年度に行った本件事業の再評価の費用便益分析において、ターミナルの整備による輸送コスト削減便益を121 億円とするなどとして、総便益(B)を293億円、総費用(C)を234億円、費用便益比(B/C)を1.3としていた。これにより、貴省は、本件事業を継続すると判断していた。同事務所は、上記の輸送コスト削減便益について、この地区にターミナルが整備されない場合、本件ターミナルの利用が見込まれる年間22,000台の中古車について荷主が名古屋港を利用するとして、ターミナルを整備すれば陸上輸送距離が短くなり陸上輸送コストが年額5.1億円減少すると算定し、この状況が18年度から50年間継続することを前提に50年間の便益の現在価値を121億円と算定していた。
しかし、大阪府は、堺泉北港汐見沖地区を年間45,000台の中古自動車の輸出拠点とするとして、59haの中古自動車輸出関連施設のほか、国庫補助事業により岸壁(水深11m×2バース、水深13m×1バース、総延長810m)の整備を計画し、このうち、水深11mの岸壁の290m分については、19年度に事業を開始し、23年度に供用を開始していた。このため、近隣の汐見沖地区を代替施設に設定して便益を算定することを検討すべきであったと認められる。貴省は、これらの比較検討を行ったとしているが、評価原案では代替港の選定に至った過程に一切触れられておらず、根拠資料も残されていないことから、代替港の選定について検討が十分に行われたのか確認できなかった。
ウ 事後評価において、将来大幅な利用増が見込めるとして便益を算定し、再度の事後評価を不要と判断しているもの
マニュアル等によると、事後評価においては、新規事業採択時評価時及び再評価時に用いた需要推計等に関して事業完了後における実績の確認等を行い、その変化、事業効果の発現状況等を分析し、この後、再度事後評価を行う必要性があるかどうかについて検討することとされている。
新潟、鹿児島両港湾・空港整備事務所は、新潟港等に係る2件の事後評価(表3
参照)の費用便益分析において、臨港道路整備事業に関して事後評価時点の算定を大幅に上回る交通量が将来達成されるとしたり、旅客対応ターミナル整備事業に関してアンケート調査による地元住民の旅客対応ターミナルへの来訪希望の人数を、事後評価時点の推計来訪者数を大きく超えているのにそのまま将来の来訪者数としたりしていた。そして、これらの便益の算定に基づき、費用便益比を算出するといずれも1を超えていたため、事業の効果が発現しているとして、再度の事後評価は必要ないと判断していた。
地方整備局等 | 事務所等 | 評価実施年度 | 事業実施年度 | 新規/再評価/事後評価の別 | 港湾名 | 事業名 | 総便益(B)(億円) | 総費用(C)(億円) | 費用便益比(B/C) | 将来の予測値等に基づき算定された便益 |
評価原案上の23年度までの事業費 (億円) |
事態 |
北陸地方整備局 | 新潟港湾・空港整備事務所 | 平成22 | 昭和62〜平成17 | 事後評価 | 新潟港 | 道路トンネル整備事業 (新潟港西港地区) |
2515 | 2386 |
1.1 |
434 |
1396 |
将来予定されているとする開発による交通量の増加を見込んで評価時点より大幅に上回る便益を算定 |
九州地方整備局 | 鹿児島港湾・空港整備事務所 | 19 |
3〜15 |
事後評価 |
名瀬港 | 旅客対応ターミナル整備事業 |
88 |
88 |
1.0 |
26 |
59 |
評価時点における来訪者数を大幅に上回る将来の予測来訪者数により交流機会の増加便益を算定 |
合計 |
1455 | / |
上記の事態について、その内容を示すと次のとおりである。
新潟港湾・空港整備事務所は、新潟港西港地区において、道路トンネル整備事業として、沈埋トンネル(850m)等を整備している。この事業は、湾口部が東西地区に分断されており、港湾関係車両の円滑な輸送経路が確保されていなかったことから、トンネルにより両地区を接続して、貨物輸送の効率化を図ることなどを目的として行われたものであり、本件トンネルは、平成17年度から供用開始されている。同事務所は、22年度に行った本件事業の事後評価の費用便益分析において、輸送時間費用削減便益を2413億円とするなどして、総便益(B)を2515億円、総費用(C)を2386億円、費用便益比(B/C)を1.1としていた。これにより、貴省は、事業効果が発現しているとして再度の事後評価は必要ないと判断していた。同事務所は、上記の輸送時間費用削減便益について、貴省が行った全国道路・街路交通情勢調査による実績交通量を基に43年度までの各年度の交通量を推計し、22年度の14,631台/日から漸減し、43年度は11,844台/日になるなどとして各年度の便益を算定していた。そして、44年度以降は、本件事業とは別に今後行われる西側の入舟地区の埋立開発事業により、交通量が44年度には16,297台/日に大幅に増加するなどとして、これにより便益を算定していた。
しかし、入舟地区の開発は、一部埋立に着手しているものの整備完了予定が当初の20年から大きく遅延し、20年以上先の44年度となっている。仮に事業が順調に行われたとしても、当該埋立地に企業等が立地して交通量が増加する確証はないのに、同事務所は、大幅に増加するとした交通量を基に便益を算定し、貴省は、事業の効果が発現しており、再度の事後評価は必要はないと判断していた。
鹿児島港湾・空港整備事務所は、名瀬港長浜地区において、旅客対応ターミナル整備事業として、岸壁(水深10m)及び港湾施設用地を整備している。この事業は、同港において、クルーズ船就航のニーズに対応することで、旅客対応ターミナルへの来訪者の交流機会の増大及び地域経済の活性化を目指すことを目的として行われたものであり、ターミナルは、平成16年4月から供用開始されている。同事務所は、19年度に行った本件事業の事後評価の費用便益分析において、旅客ターミナルの整備により地域住民による交流機会が増加するとして、その便益を84.4億円とするなどして、総便益(B)を88.4億円、総費用(C)を87.5億円、費用便益比(B/C)を1.0としていた。同事務所は、上記の交流機会が増加する便益については、周辺住民に対して行ったアンケート調査の結果に基づき、来訪者数、来訪回数等を推計するなどして算定していた。そして、当該ターミナルに来訪したことがあるか否かを問う設問等により18年度の来訪者数を14,251人、来訪回数を4回/年と推計する一方、将来来訪を希望するか否かを問う設問により、19年度以降の各年度の来訪者数を18,388人、来訪回数を5.62回/年と推計し、これにより総便益を算定していた。
しかし、上記の将来の来訪者数等は、アンケート調査の結果に基づく予測値であり、18年度の推計来訪者数等を大幅に上回っているにもかかわらず、これにより貴省は、再度の事後評価は必要ないとしていた。
マニュアル等によると、費用については直接に評価の対象とする事業の費用だけではなく、事業の効果発現のために必要なプロジェクトを対象に関係する全ての費用を計上することとされている。
高知港湾・空港整備事務所は、宿毛湾港における1件の新規事業採択時評価(表4
参照)の費用便益分析において、便益を発生させるために必要となる過去の岸壁の整備費を含めておらず、費用便益比を算定する際に総費用に本来含める必要があった当該整備事業の効果発現に相当すると考えられる部分の整備費を含めていなかった。
地方整備局等 | 事務所等 | 評価年度 | 事業実施年度 | 新規/再評価/事後評価の別 | 港湾名 | 事業名 | 総便益 (B) (億円) |
総費用 (C) (億円) |
費用便益比(B/C) | 中止された事業で整備された岸壁の事業費 |
評価原案上の23年度までの事業費 (億円) |
事態 |
四国地方整備局 | 高知港湾・空港整備事務所 | 平成21 | 平成21〜25 | 新規 | 宿毛湾港 | 防波堤整備事業 (宿毛湾港池島地区) |
81 | 52 |
1.6 |
37 |
25 |
中止された事業で整備された岸壁が防波堤の整備により利用可能となる。 |
上記の事態について、その内容を示すと次のとおりである。
高知港湾・空港整備事務所は、宿毛湾港池島地区において、平成21年度から、不足する港内静穏度を確保し、岸壁での荷役作業の安全性や効率性を確保することなどを目的として、防波堤整備事業を実施している。同事務所は、21年度に行った本件事業の新規事業採択時評価の費用便益分析において、同港の背後地から八幡浜港等へ陸上輸送されている貨物が、静穏度が確保されていないことから利用されていない岸壁(同事務所が整備して12年度に供用を開始。以下「本件岸壁」という。)を利用して同港から海上輸送されることになれば、輸送コストが削減できるとして、総便益(B)を81億円と算定していた。また、総費用(C)については、本件岸壁は12年度に整備を完了していて、その整備費37億円を新たに支出しないことから、防波堤の整備費のみの52億円を計上して、費用便益比(B/C)を1.6としていた。
貴省は、本件岸壁について、防波堤がないと利用できないことから、当初、防波堤と一体で整備するとしていたが、本件岸壁の整備途中で貴省が行った事業評価の結果等に基づき、需要が見込めないとして本件岸壁のみ完成させて、防波堤は整備しないことにしていた。そして、貴省は当初の整備事業を中止と位置付けていたものの、外部に対しては中止の発表を行っていなかった。
防波堤整備による便益として、本件岸壁利用による輸送コスト削減便益を計上していることから、本件防波堤整備事業を以前に中止された本件岸壁及び防波堤整備事業の一部事業として捉えると、前記の評価における総費用(C)には本件岸壁の整備費37億円が加わることになり、岸壁及び防波堤整備事業全体の費用便益比は大幅に低下することになる。そして、このことは評価原案に記述されていなかった。
なお、貴省内部で、岸壁のみを整備し防波堤の整備を中止すると決定されたことに関して、37億円が投じられた岸壁整備事業に関する事業評価が発表されておらず、説明責任の点で問題があると認められる。
上記のとおり、便益の算定に当たり、便益発生の前提条件の実現可能性についての検討状況に係る資料が残されておらず、その検討が十分に行われたのか確認できない事態、便益を算定するための代替港の選定についての検討が十分に行われたのか確認できない事態、事後評価において将来大幅な利用増が見込めるとして便益を算定し再度の事後評価を不要と判断している事態及び計上する費用の範囲を限定的に捉えている事態は適切ではなく、改善を図る要があると認められる。
このような事態が生じているのは、次のことなどによると認められる。
ア 貴省本省において
(ア) 便益発生の前提条件である船会社の航路開設等の実現可能性について検討を十分に行い、その根拠資料を保存することについてマニュアル等に明示していないこと
(イ) 代替港は代替候補港の将来の整備状況の見通しを考慮した上で輸送コストを最小とする港を選択して定める必要があるのに、代替港の設定も含めた便益の算定に当たっては、事業を実施しない場合について複数案想定し、その検討過程や決定根拠を明確にして評価原案に記載した上で根拠資料を保存することをマニュアル等に明示していないこと
(ウ) 事後評価において将来の便益が実績を大幅に上回ると認めた場合に、評価原案にどのように記述するかマニュアル等に明示していないこと。また、マニュアル等において、効果の発現状況等に着目して、今後の事後評価の必要性について検討することとされているが、このような場合、今後の事後評価の必要性をどのように判断するかについて明示していないこと
(エ) 関連する事業の評価の状況を踏まえた当該事業の費用の具体的な範囲とその計上方法をマニュアル等において明示していないこと
イ 貴省本省及び地方整備局等において、事務所等から提出された費用便益分析を含む評価原案、便益及び費用に係るデータ等の妥当性を十分検討していないこと
近年の厳しい財政状況の中で、港湾整備事業においても国際競争力の強化、安全・安心の確保等の政策目標達成のために予算の効率的な使用が強く求められており、そのためには、投資効果の確認を十分に行う必要がある。
ついては、貴省において、評価原案、便益及び費用に係るデータ等の妥当性を十分検討するなどして費用便益分析を適切に行い、事業に関する適切な意思決定を行うとともに将来の再評価、事後評価の適切な実施に資するよう、次のとおり改善の処置を要求する。
ア 便益発生の前提条件である船会社の航路開設等の実現可能性について十分検討した上で便益の算定を行い、その検討に係る書類等を保存しておくことをマニュアル等に明示すること
イ 代替港を選定する際には、代替候補港の将来の整備状況の見通しを勘案して輸送コストを最小とする港を選択し、代替港を選定した場合にはその理由を明確にすることをマニュアル等に明示すること
ウ 事後評価において将来の便益が実績を大幅に上回ると認めた場合に、評価原案へどのように記述するか、また、今後の事後評価の必要性をどのように判断するかについてマニュアル等に明示すること
エ 関連する事業の評価の状況を踏まえ、当該事業の費用の具体的な範囲とその計上方法をマニュアル等に明示すること