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  • 平成23年度|
  • 第3章 個別の検査結果|
  • 第1節 省庁別の検査結果|
  • 第11 国土交通省|
  • 本院の指摘に基づき当局において改善の処置を講じた事項

巡視船艇等に搭載されている無線設備について、法定整備及び機能試験に関する整備の方針を定めて、具体的な実施方法等を明確にすることにより法定整備及び機能試験が適切に実施されるよう改善させたもの


(1) 巡視船艇等に搭載されている無線設備について、法定整備及び機能試験に関する整備の方針を定めて、具体的な実施方法等を明確にすることにより法定整備及び機能試験が適切に実施されるよう改善させたもの

会計名及び科目 一般会計 (組織)海上保安庁 (項)船舶交通安全及海上治安対策費
部局等 海上保安庁本庁、10管区海上保安本部
契約名 GMDSS救命設備機能試験等整備等88件(平成21年度〜23年度)
契約の概要 巡視船艇等に搭載されている無線設備について、法定整備及び機能試験の実施を請け負わせるもの
契約の相手方 株式会社釧路内燃機製作所等29会社
契約 平成21年4月〜24年3月 一般競争契約、随意契約
無線設備の点検整備に係る契約額 1億6117万余円 (平成21年度〜23年度)
機能試験等の実施に係る費用の額 6954万余円 (平成21年度〜23年度)
機能試験の仕様を明確にした場合との開差額 2260万円 (平成21年度〜23年度)

1 無線設備の点検整備の概要

(1) 無線設備の概要

 海上保安庁は、海上における人命の安全のための国際条約等で規定されている「海上における遭難及び安全に関する世界的な制度」(GMDSS(注1) )で要求されている無線機器を巡視船艇等に搭載している。この無線機器は、船舶が遭難した場合に人工衛星を利用して遭難信号を発信したり、通信等を行ったりするためのもので、衛星非常用位置指示無線標識(以下「衛星イーパブ」という。)、捜索救助用レーダートランスポンダ(以下「サート」という。)、双方向無線電話(以下、これら三つの設備を「無線設備」という。)等で構成されている。
 無線設備は、船舶安全法(昭和8年法律第11号)に基づく検査(以下「船舶検査」という。)と電波法(昭和25年法律第131号)に基づく検査(以下「無線検査」という。)を定期的に受ける必要があるほか、無線局運用規則(昭和25年電波監理委員会規則第17号。以下「運用規則」という。)に基づく機能試験を実施することとされている。

 GMDSS  Global Maritime Distress and Safety Systemの略称。衛星通信技術等を利用することにより、船舶が世界中のいかなる海域で遭難しても海上保安庁等の捜索救助機関や付近を航行する船舶等との間で遭難・安全通信をより迅速かつ確実に行うことができる海難救助システム

(2) 船舶検査及び無線検査の概要と受検時期等

 船舶検査及び無線検査は、無線設備が法令に規定された性能要件等に適合していることなどを確認することを目的として、それぞれ検査執行官庁(注2) により実施されている。そして、船舶安全法に基づき国土交通大臣が認定した整備事業場又は電波法に基づき総務大臣の登録を受けた者(以下、これらを合わせて「登録点検事業者等」という。)のいずれかが受検のための点検整備(以下「法定整備」という。)を実施し、これにより作成された整備記録等を相互に活用することなどにより、それぞれの検査の一部を省略することができるなどの措置が講じられている。また、登録点検事業者等が行う法定整備の実施方法は、登録検査等事業者等規則(平成9年郵政省令第76号)等に定められており、その主な内容は、本体、アンテナ等の構成品や表示等についての外観の点検のほか、電波遮蔽室内において実際に電波を発射し、測定機器を使用して電力や周波数等を測定するなどの機能の点検等となっている。
 船舶検査の受検時期は、船舶安全法の規定により、国際航海に従事しない巡視船艇等の場合、定期検査は5年ごと、中間検査は定期検査から約3年ごととされている。また、無線検査の受検時期は、電波法施行規則(昭和25年電波監理委員会規則第14号)の規定により、原則として前回の検査から2年が経過した日の前後3月を超えない時期とされている。ただし、無線局の免許を受けた者が船舶検査の受検時期に合わせて受検する旨を申し出た場合は、受検時期を変更することができることとされている。

 検査執行官庁  船舶検査は船舶の所在地を管轄する地方運輸局。無線検査は総務省総合通信局

(3) 機能試験の概要

 機能試験は、無線設備が遭難信号を発信するなど人命の保護に直結するものであることから、無線設備の機能を良好に維持し、いつでも使用可能な状態であることなどを確認することを目的として実施することとされている。そして、運用規則及び「遭難自動通報局の無線設備の機能試験の方法」(平成4年郵政省告示第142号。以下「告示」という。)において、当該船舶に乗船している船舶無線の有資格者等が自ら実施することが可能な方法が定められている。

2 検査の結果

 (検査の観点、着眼点、対象及び方法)

 海上保安庁本庁及び全11管区海上保安本部は、巡視船艇等に搭載されている無線設備の点検整備を、毎年度、登録点検事業者等へ請け負わせて実施している。
 そこで、本院は、経済性等の観点から、無線設備の点検整備が法定整備及び機能試験のそれぞれの実施方法に即して適切に実施されているかなどに着眼して検査した。そして、平成21年度から23年度までの間に締結した無線設備の点検整備に係る請負契約計176件、契約額計2億2869万余円を対象として、海上保安庁本庁及び5管区海上保安本部(注3) において会計実地検査を行うとともに、残る6管区海上保安本部(注4) については関係書類の提出を受けるなどして検査した。

(注3)
 5管区海上保安本部  第一、第六、第七、第八、第十一各管区海上保安本部
(注4)
 6管区海上保安本部  第二、第三、第四、第五、第九、第十各管区海上保安本部

 (検査の結果)

 検査したところ、海上保安庁本庁及び10管区海上保安本部(注5) (以下、これらを合わせて「11海上保安本部等」という。)における21年度から23年度までの間の請負契約計88件、契約額計1億6117万余円について、次のような事態が見受けられた。
 11海上保安本部等は、無線設備の点検整備に係る請負契約の仕様において、法定整備を実施する場合と機能試験を実施する場合について明確に区分しておらず、機能試験についても法定整備と同じ内容の点検整備を実施する契約を締結していた。
 しかし、前記のとおり、機能試験は、無線設備が人命の保護に直結するものであることから、その状態や機能の確認を、当該船舶に乗船する船舶無線の有資格者等が自ら行うことが可能な方法が定められている。具体的には、無線設備のうち、衛星イーパブ及びサートの機能試験は、1年以内の期間ごとに実施することとされており、その内容は主に構成品や表示の確認等の外観点検である。このほか、衛星イーパブについては、遭難警報を構成する信号及び空中線電力を測定機器等を使用して確認することとされており、サートについては、自船レーダーを使用して動作確認を行うこととされている。また、双方向無線電話の機能試験は、航行中毎月1回以上、双方向無線電話によって通信連絡を行ってその機能を確認することとされている。
 そして、機能試験については、次のとおり実施することとすれば、法定整備と同じ内容の点検整備を登録点検事業者等に請け負わせて実施する必要はないと認められた。

ア 衛星イーパブ及びサートの機能試験は、前記のとおり、構成品や表示の確認等の外観点検について、告示に定められた方法により、巡視船艇等に乗船している通信担当職員等(以下「通信科職員等」という。)が自ら実施し、測定機器等が備えられていないなどの理由から、自ら実施できない項目のみを登録点検事業者等に請け負わせて実施することとしても、運用規則及び告示で規定された要件を満たすことになる。

イ 11海上保安本部等のうち、海上保安庁本庁及び3管区海上保安本部(注6) は、双方向無線電話の機能試験についても登録点検事業者等に請け負わせて実施していた。しかし、双方向無線電話の機能試験は、前記のとおり、航行中毎月1回以上、双方向無線電話によって通信連絡を行ってその機能を確認するという内容であることから、通信科職員等が自ら実施しても、運用規則で規定された要件を満たすことになる。

 現に、第七管区海上保安本部は、無線設備の点検整備に係る請負契約の仕様書において、法定整備を実施する場合と機能試験を実施する場合とを区分するなどして登録点検事業者等へ請け負わせていた。そして、その23年度の衛星イーパブ及びサートの整備単価は、いずれも、法定整備を実施する場合と機能試験のみを実施する場合で20,000円の開差が生じていた。
 このほか、無線検査のみを受検する場合の法定整備について、法定整備の整備記録等を船舶検査及び無線検査で相互に活用することができることから、無線検査の受検時期を船舶検査の受検時期に合わせて受検するように変更すれば、無線検査のみを受検するための法定整備を実施する必要はなく、機能試験を実施すれば足りることとなるのに、11海上保安本部等が、受検時期を変更せずに無線検査のみを受検するための法定整備を実施していた事態も見受けられた。

(注5)
 10管区海上保安本部  第一、第二、第三、第四、第五、第六、第八、第九、第十、第十一各管区海上保安本部
(注6)
  3管区海上保安本部  第四、第八、第十一各管区海上保安本部

 したがって、法定整備を実施する場合と機能試験を実施する場合について明確に区分せず、機能試験について、法定整備と同じ内容の点検整備を実施していたり、無線検査のみを受検する場合について、受検時期を船舶検査の受検時期に合わせるように変更して機能試験を実施することとしないで、法定整備を実施したりしていたのは適切とは認められず、改善の必要があると認められた。

 (機能試験の仕様を明確にした場合との開差額)

 衛星イーパブ及びサートの機能試験については、通信科職員等が告示に定める方法によって実施し、測定機器等が備えられていないことなどの理由から実施できない項目のみを登録点検事業者等に請け負わせることとして、前記の第七管区海上保安本部における法定整備を実施する場合と機能試験のみを実施する場合の整備単価の比率を適用するなどし、また、双方向無線電話の機能試験については、通信科職員等が自ら実施することとして費用を算定すると、無線設備の機能試験等の実施に係る費用6954万余円は、4692万余円となり、約2260万円の開差が生ずることとなる。

 (発生原因)

 このような事態が生じていたのは、11海上保安本部等において、無線設備の点検整備に関する制度等についての理解が十分でなかったこと、法定整備及び機能試験についての具体的な実施方法とそれぞれを実施する対象を明確に区分しておらず、法定整備及び機能試験の実施方法を仕様に反映していなかったことなどによると認められた。

3 当局が講じた改善の処置

 上記についての本院の指摘に基づき、海上保安庁は、24年9月に、無線設備の法定整備及び機能試験に関する整備の方針並びに点検整備の請負契約に係る標準的な仕様書について、各管区海上保安本部に通知を発するなどして周知徹底を図り、今後、整備の方針等に即して法定整備及び機能試験を適切に実施することとする処置を講じた。