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防衛装備品及びその修理等の役務を調達する契約について、防衛省が実施している制度調査や原価監査の実施方法等を見直すなどして、予算の執行のより一層の適正化を図るよう意見を表示したもの


(2) 防衛装備品及びその修理等の役務を調達する契約について、防衛省が実施している制度調査や原価監査の実施方法等を見直すなどして、予算の執行のより一層の適正化を図るよう意見を表示したもの

会計名及び科目 一般会計 (組織)防衛本省 (項)防衛本省共通費
    (項)武器車両等整備費
   

(項)人材確保育成費

    (項)航空機等整備費
    (項)研究開発費
    (項)艦船整備費等
部局等 内部部局(装備品等調達制度の所掌部局)、装備施設本部(平成19年8月31日以前は装備本部)、陸上、海上、航空各自衛隊の部隊等(契約部局)
契約の概要 防衛装備品及びその修理等の役務を調達するもの
契約の相手方 三菱電機株式会社、三菱スペース・ソフトウエア株式会社、三菱プレシジョン株式会社、三菱電機特機システム株式会社、太洋無線株式会社、住友重機械工業株式会社、住重特機サービス株式会社
契約件数 6,295件(平成19年度〜23年度)
上記に係る契約金額 7467億1428万円(背景金額)

【意見を表示したものの全文】

防衛装備品等の調達に関する契約における制度調査、原価監査等の実施状況等について

(平成24年10月25日付け 防衛大臣宛て)

標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり意見を表示する。

1 防衛装備品等の調達に係る過大請求事案等の概要

(1) 防衛装備品等の調達の概要

 貴省は、三菱電機株式会社(以下「三菱電機」という。)並びにその関係会社である三菱スペース・ソフトウエア株式会社(以下「MSS」という。)、三菱プレシジョン株式会社(以下「プレシジョン」という。)、三菱電機特機システム株式会社(以下「三電特機」という。)及び太洋無線株式会社(以下「太洋無線」といい、これら4社を「関係4社」という。)と契約を締結するとともに、住友重機械工業株式会社(以下「住友重機械」という。)及びその関係会社である住重特機サービス株式会社(以下「住重特機」といい、関係4社と合わせて「関係5社」という。)と契約を締結して、03式中距離地対空誘導弾、高性能20mm機関砲用弾薬給弾装置等の防衛装備品及び防衛装備品の修理等の役務(以下、これらを「防衛装備品等」という。)の調達を行っている。そして、これらの防衛装備品等の調達に係る平成19年度から23年度までの間に締結された契約の件数及び契約金額は、6,295件、総額7464億1428万余円となっている。これらの契約の内訳は、「装備品等及び役務の調達実施に関する訓令」(昭和49年防衛庁訓令第4号)に基づき定められた防衛装備品等を装備施設本部(19年8月31日以前は装備本部。以下「装本」という。)が行った調達(以下「中央調達」という。)が1,013件、計5617億2932万余円、上記の訓令に定められていない防衛装備品等を陸上、 海上、航空各自衛隊の部隊等が行った調達(以下「地方調達」という。)が5,282件、計1846億8495万余円となっている(表1 参照)。

表1  防衛省と三菱電機、住友重機械及び関係5社における契約実績

上段:件数、下段:契約金額(単位:千円)

年度\会社

三菱電機 MSS プレシジョン 三電特機 太洋無線 住友重機械 住重特機

中央調達 平成
19
162 8 16 7 13 34 0 240
96,074,969 868,906 2,226,909 464,058 183,563 3,198,476 103,016,882
20 178 6 12 2 13 25 0 236
155,577,782 1,070,875 881,156 274,758 215,185 1,869,749 159,889,508
21 150 8 10 4 23 30 0 225
182,748,036 661,565 792,416 336,682 111,906 1,919,203 186,569,811
22 159 7 12 5 18 27 0 228
101,571,472 751,750 1,043,521 370,573 84,427 1,711,914 105,533,660
23 0 3 14 9 20 38 0 84
151,095 3,468,200 643,361 111,073 2,345,734 6,719,464
小計 649 32 64 27 87 154 0 1,013
535,972,261 3,504,192 8,412,204 2,089,433 706,156 11,045,079 561,729,327
地方調達 19 534 15 141 263 28 98 58 1,137
22,992,747 254,448 3,505,877 10,029,394 305,306 2,183,430 1,353,107 40,624,312
20 538 21 122 256 23 99 50 1,109
18,766,239 279,068 3,128,372 10,774,174 201,203 1,601,010 1,171,564 35,921,632
21 555 19 129 261 21 91 60 1,136
17,804,304 292,495 2,994,276 11,359,786 334,224 1,569,749 1,376,780 35,731,617
22 469 14 119 231 23 74 43 973
17,658,474 388,353 2,550,547 12,194,754 173,779 1,405,834 1,147,615 35,519,358
23 379 11 115 249 20 92 61 927
20,913,582 195,255 2,924,904 9,708,215 243,123 1,499,827 1,403,120 36,888,031
小計 2,475 80 626 1,260 115 454 272 5,282
98,135,347 1,409,620 15,103,979 54,066,325 1,257,637 8,259,853 6,452,189 184,684,953
3,124 112 690 1,287 202 608 272 6,295
634,107,609 4,913,813 23,516,183 56,155,759 1,963,794 19,304,932 6,452,189 746,414,280
(注)
 単位未満を切り捨てているため、各項目の合計と計欄は一致しない場合がある。

 貴省は、防衛装備品等の調達に当たり、その仕様が特殊で市場価格が形成されていななどの場合には、「調達物品等の予定価格の算定基準に関する訓令」(昭和37年防衛庁訓令第35号)に基づき、製造原価を材料費、労務費等の構成要素ごとに積み上げるなどして算定し、これに一定の適正利益等を付加する原価計算方式により計算した価格に基づき予定価格を算定するなどしている。この原価計算方式による契約には、原則として契約締結時に確定した契約金額をもって契約の相手方に契約代金を支払う確定契約と、製造原価の実績に基づき契約代金の確定を行う概算契約及び準確定契約(以下「概算契約等」という。)とがある。このうち概算契約等の場合には、契約書の条項の中に原価監査付条項を付す監査付契約とすることとし、契約の履行のために現に支出し又は負担した費用が原価として妥当であるか否かを審査するための原価監査を行い、防衛装備品等の調達の特性上関連しないと認められる事項等を否認した上で契約代金を確定することとしている。また、確定契約の中には、契約の相手方に超過利益が生じた場合に、あらかじめ定めた基準に従ってその超過利益を返納させることとする超過利益返納条項を付した契約があり、この超過利益返納条項付契約についても監査付契約とすることとしている。
 そして、原価監査の実施に関し必要な事項については、中央調達を行う装本では「原価監査事務に関する達」(平成18年装備本部達第49号)及び「原価監査実施準則について(通達)」(平成18年装本原管第102号)を定め、契約の相手方から実際原価計算書、製造原価突合表等を提出させ、実際原価の確認等を行うこととしており、工数(製造等に直接従事した作業時間)の監査を必要に応じて実施するとともに、原価監査の実施に先立ち、契約の相手方の会計処理が原価計算の規則に沿って実施され、発生原価を適正に把握できるものとなっているかなどを確認するための運用状況調査を実施することとしている。
 また、地方調達を行う各自衛隊では、海上自衛隊は「原価監査に関する事務処理要領及び原価監査実施基準について(通達)」(平成元年海幕経第5734号)を定め、上記の実際原価の確認等と運用状況調査を行うこととしており、陸上自衛隊及び航空自衛隊は、契約条項に基づくなどして、上記と同様に原価の確認を行う原価監査(航空自衛隊は「原価調査」。以下、これらの原価監査及び原価調査を合わせて「原価監査」という。)を行うこととしている。

(2) 過去の過大請求事案に対する貴省の対応等

 貴省は、原価監査を行った契約において、契約の相手方が虚偽の資料を示して過大請求を行ったことにより、実際の原価に適正な利益等を加えた額を超える額により契約代金を確定して支払ったことなどから過払いとなった事案が、5年以降相次いで発覚していることなどを踏まえて、11年4月に「調達改革の具体的措置」を取りまとめ、同年6月に、貴省の調達関係機関に対して「契約の相手方の提出資料の信頼性確保のための施策について(通達)」(平成11年防装管第3550号。以下「11年通達」という。)を発するとともに、11年通達の内容の主旨について企業に対して説明会を開催するなどして、再発防止のための周知等を行ったとしている。
 11年通達の主な事項は、次のとおりである。

ア 契約の相手方が一般的に遵守すべき事項として、会計制度の信頼性、原価発生部門から原価元帳又はこれに相当する帳票類への集計システムの適正性、貸借対照表及び損益計算書の内訳と原価元帳等との数値の整合性等を確認する制度調査について受け入れる義務があること、また、虚偽の資料を提出又は提示してはならないこと

イ 一定の条件を備える契約の場合は、あらかじめ契約条項において、貴省が行う原価計算、経費率(加工費率、一般管理及び販売費率、利子率並びに利益率)の算定、原価監査等に際して、契約の相手方が虚偽の資料を提出又は提示したことを貴省が調査で確認したときは、過払額に加えて同一金額(20年4月1日以降は過払額の2倍)の違約金を支払わなければならないことなどについて定めた資料の信頼性確保に関する特約条項を設けること

 上記アの制度調査については、その実施に際して、あらかじめ、日時、場所等調査を行う上での必要事項を契約の相手方に通知した上で、作業現場に赴いて作業実態、工数計上の手続等を実地に確認するための調査(以下「フロアチェック」という。)等を行うこととしている。
 そして、15年5月に発覚した過大請求事案においては、防衛装備品等以外の工数が防衛装備品等の工数に付け替えられて、その改ざんデータに基づき帳票類が作成されていて、他に正規の帳票類が存在しなかった(以下、このように作成された帳票類を「一重帳簿」という。)ことなどから、その後の制度調査は、単に帳票類を審査するだけでなく、その背景となる生産管理情報等との比較検証や内部統制システムの調査を調査項目に加えるなどして、契約の相手方の原価計算システムの適正性を確認することとしている。

(3) 三菱電機、住友重機械及び関係5社による過大請求事案の状況

 貴省は、三菱電機、住友重機械及び関係5社が、工数等を書き換えて水増しして、過大請求を行っているという情報を受けるなどしたことから調査を実施したところ、各社は、貴省に対して工数等を過大に申告して過大請求を行っていたことを認め、その報告を貴省に行った。
 このため、貴省は、過大請求に係る過払金等が国庫に納入されるとともに再発防止策が報告されるまでの間は、各社に対する指名停止の措置を執ることとし、真にやむを得ない場合を除き契約を行わないこととした。また、貴省は、事態の全容を解明し、過払額の算定を行うために特別調査を実施している(表2 参照)。

表2  三菱電機、住友重機械及び関係5社による過大請求事案の状況
会社 三菱電機

MSS

プレシジョン

三電特機 太洋無線

住友重機械

住重特機

会社の報告及び指名停止日 平成24年1月27日 24年2月24日 24年5月25日
特別調査開始日 24年1月31日 24年2月28日

24年5月29日

2 本院の検査結果

(検査の観点、着眼点、対象及び方法)

 貴省は、調達改革の具体的措置に基づき調達制度の改革を推進してきたとしていたが、また新たな過大請求事案が発生することになった。このため、本院は、合規性、経済性等の観点から、三菱電機、住友重機械及び関係5社による過大請求はどのように行われていたのか、特に工数はどのように過大に申告されていたのか、また、貴省が講じてきた過大請求の再発防止策は有効に機能していたか、制度調査、原価監査等は適切に実施されていたか、再発防止策が上記の各会社における法令遵守等に係る施策等に有効に機能していたかなどに着眼して検査した。
 検査に当たっては、貴省内部部局、装本、航空自衛隊第4補給処等において、貴省が19年度から23年度までの間に三菱電機、住友重機械及び関係5社と締結した契約計6,295件(契約金額計7464億1428万余円)を対象として、契約関係書類を確認するなどの方法により会計実地検査を行った。さらに、三菱電機、住友重機械及び関係5社の計7社に赴いて、精算関係資料や社内の調査資料を確認したり、関係者に説明を求めたり、製造現場を確認したりなどする方法により会計実地検査を行った。

(検査の結果)

検査したところ、次のような事態が見受けられた。

(1) 三菱電機及び関係4社による工数付替え等の状況

 三菱電機及び関係4社は、貴省と締結した契約のうち単に物品を納入するなどの一部の契約を除き、その契約金額に基づき損益管理等を行うための指標として目標工数を設定していた。そして、概算契約等において、実際の直接作業時間に基づき申告する実績工数が目標工数を下回った場合には、契約代金の確定時に契約代金の減額を回避する目的で、その下回った分について、実績工数が目標工数を上回った他の契約から実績工数の一部を付け替えて、付け替えた工数を加算した後の工数を当該契約の実績工数として貴省に申告するなどしていた。また、確定契約においても、実績工数が目標工数を下回った場合には、超過利益を返納すること、その後の契約に際して貴省に提出する見積書に記載する工数に影響を与えることなどを回避したり、社内の損益管理の観点から赤字契約を減らしたりする目的で、実際の実績工数ではなく、契約金額に基づく目標工数を実績工数とするなどしていた。
 これらの付替えについては、各社は、貴省と締結した別の契約に係る実績工数から付け替えていただけでなく、その一部は独立行政法人宇宙航空研究開発機構等と締結した契約に係る実績工数や民間会社との契約に係る実績工数からも付け替えていたとしている。そして、その方法については、〔1〕 製作所等の課長等が、実績工数の集計の際に、実績工数が目標工数を上回った契約を選定し、その上回った分の工数(以下「超過工数」という。)を付替えの言わば原資として、実績工数が目標工数を下回った契約について、課員が記載した実績工数を手書きで又は工数データを上書きして修正する専用端末(以下「工数修正専用端末」という。)等を使って修正し、他の契約の超過工数の一部を加算することにより当該実績工数を目標工数と一致させた上で貴省に申告する実績工数としたり、〔2〕 課長が課員に指示して、実績工数ではなく目標工数を貴省に申告する実績工数として計上させたり、〔3〕 付替えとは異なり、過去の実績工数に基づく過大な目標工数を貴省に申告する実績工数としたりしていたとしている。各社の付替え等の状況は、表3のとおりである。

表3 三菱電機及び関係4社の付替え等の状況
会社 三菱電機 MSS プレシジョン 三電特機 太洋無線
付替え等の開始時期

鎌倉製作所
 遅くとも1970年頃(昭和45年頃)

通信機製作所
 遅くとも1980年代後半(昭和60年頃)

 遅くとも1990年代前半
(平成2年頃)
遅くとも1990年代前半
(平成2年頃)
1970年代半ば
(昭和50年頃)
1999年頃
(平成11年頃)
付替え等の方法 〔1〕 課員が記載した実績工数を課長等が手書き等や工数修正専用端末を使って目標工数に付け替えていた。 課員が記載した実績工数を課長等が手書き等や工数修正専用端末を使って目標工数に付け替えていた。 課員が記載した実績工数を課長等が手書き等で目標工数に付け替えていた。 〔1〕 課員が記載した実績工数を課長等が手書き等や工数修正専用端末を使って目標工数に付け替えていた。 課員が記載した実績工数を課長等が手書き等で目標工数に付け替えていた。
〔2〕 課長が課員に指示して目標工数を計上していた。 〔2〕 課長等が課員に指示して目標工数を計上していた。
〔3〕 過去の実績に基づく過大な目標工数を申告する実績工数としていた。

 三菱電機及び関係4社における実際の作業時間として記録されている工数データは、一 部が保管されていたものの、大半が廃棄されていたり、元々作成されていなかったりして いたことなどから、付替え等を行った工数の実態について正確に把握することはできない 状況となっている。

(2) 住友重機械及び住重特機における工数水増し等の状況

 住友重機械及び住重特機は、貴省と締結した契約のうち、住重特機が海上自衛隊と締結した確定契約及び航空自衛隊と締結した現地整備に係る概算契約を除く全ての契約において、その契約金額に基づき損益管理等を行うための指標として目標工数を設定していた。両社による工数の水増し等は次のとおりとなっていた。

ア 貴省は、確定契約の場合、過去に同種契約を締結した会社から実績工数に基づいた見積書の提出を受けて予定価格を算定している。このため、住友重機械は、確定契約において実績工数が契約に際して貴省に提出した見積書の工数を下回った場合には、次回以降の同種契約における契約金額の減額を回避することを目的として、また、概算契約等においても契約代金の確定時に契約代金の減額を最小限に抑えることを目的として、それぞれ、その下回った分について防衛装備品の製造等に直接従事した時間ではない間接作業時間を当該防衛装備品の工数に振り替えることなどにより、実績工数を目標工数まで水増しするなどして、これを実績工数として申告していた。
 これらの水増しについては、住友重機械は、遅くとも1970年代(昭和45年頃)から行っており、工数管理システムに工数データを上書きして修正するプログラム(以下「工数修正プログラム」という。)を導入していた1980年代(55年から平成元年頃にかけて)から20年3月までは、製造部門が実際の作業に基づく工数を入力し、月1回の工数集計の際に、工数修正プログラムにより入力された工数を自動的に目標工数まで水増しする手法により行っていたとしている。そして、住友重機械は、同年4月以降、この工数修正プログラムを削除して工数計上の適正化を図ったとしているが、急激な実績工数の減少は工数の水増しの発覚につながりかねないため、一部の契約においては、同年9月まで、工数管理システムの誤入力修正機能を使用して水増しを行っていたとしている。
 住友重機械は、20年10月以降は水増しを行っていないとしていた。しかし、防衛装備品の設置等のために出張した際の実績工数の計上について、本院が、23年度分の出張旅費精算書に添付された精算に関する領収書と照合するなどして実績工数を検査したところ、次のような事態が見受けられた。すなわち、従業員が出張した際に、出張先において、具体的に指示された作業を実施したとして実績工数を計上していたものについて、作業を実施していたとしていた時刻に、宿泊施設にチェックインしていたり、社用車に燃料を給油していたり、高速道路の料金所で精算を行っていたりしていて、作業に従事していなかったにもかかわらず、その時刻を含む一定の時間を実績工数として計上していた事態が複数見受けられた。
 このような事態は、従業員自らが工数を架空に計上していたものであり、適正を欠いていると認められる。

イ 住重特機は、地方調達に係る防衛装備品の点検及び修理作業の実施を主たる業務としていることから、貴省との契約は大半が概算契約となっている。このため、契約代金の確定時に契約代金の減額を最小限に抑えることを目的として、会社設立当初の1988年頃(昭和63年頃)から、間接作業時間を直接作業時間に振り替えたり、他の契約から工数を付け替えたり、関係会社である株式会社住重エス・エヌビジネスとの間の架空の取引により工数をねつ造したり、民間会社との契約に係る金型修理工数を付け替えたりすることにより目標工数まで水増しを行い、これを実績工数として申告するなどしていたとしている。
 住友重機械及び住重特機における実際の作業時間として記録されている工数データは、一部が保管されていたものの、大半が廃棄されていたことなどから、付替え等を行った工数の実態について正確に把握することはできない状況となっている。

(3) 制度調査及び原価監査の状況等

ア 制度調査及び原価監査の実施状況及びこれらに対する各社の対応

(ア) 制度調査の実施状況等

 貴省は、制度調査を契約の相手方に対し、おおむね5年に1度の頻度で行うこととしており、三菱電機、MSS及びプレシジョンに対しては平成17、22両年度に装本が、太洋無線に対しては15、23両年度に装本が、三電特機に対しては18、22両年度に航空自衛隊が、住友重機械に対しては16、20両年度に装本が、住重特機に対しては15、20両年度に航空自衛隊が、それぞれ制度調査を実施していた。さらに、三菱電機及び住友重機械に対しては、工場の規模が大きいことから、貴省の担当者に加えて、委託契約を締結している監査法人に所属する公認会計士やシステム監査人も調査を実施していた。
 また、貴省は、制度調査を実施するに当たり、11年通達に基づくなどして、調査の日時、場所等のほかに調査対象とする契約等について、調査実施日の数箇月前に会社側に通知していた。そして、この通知を受けて、三菱電機、住友重機械及び関係5社は、工数の付替え等による過大請求の発覚を回避するため、次のような対応を執っていた。

a 工数管理等のシステムの調査の際は、工数修正専用端末や工数修正プログラムの存在について開示しなかった。

b フロアチェックの際は、実際の作業とは異なる工数計上が発覚する懸念があったため、調査実施日の数箇月前に調査内容や、調査対象の契約等が事前に通知されていることを利用して、入念な事前準備を行い、〔1〕 実際の調査の際には、あらかじめ決めておいた作業内容を実演してその作業時間をそのまま工数計上したり、〔2〕 入力した実績工数が自動的に目標工数に修正されないように、工数修正プログラムの使用を停止したり、〔3〕 工数の入力を行う端末の画面に実績工数が表示されないようにしたり、〔4〕 作業員が少なくて済む自動工作機械に多くの作業員を張り付けたり、〔5〕 作業員等への直接の質問や不用意な回答を防ぐために、対応者を管理職等に限定したりなどしていた。また、現場の作業の効率化やコストの削減活動に関する掲示物等、工数計上に疑念を持たれるおそれがあるものを撤去していた。

c 帳簿類の調査の際は、貴省との事前の打合せにおいて、対象契約数や提示する帳簿類の種類が極力限定されるようにしていた。

d 貴省の担当官による予定外の調査や行動が行われないよう、日程調整を行い、この日程に沿った調査が行われるようにしていた。

 一方、貴省は、11年通達において、制度調査の実施に際して、あらかじめ、日時、場所等調査を行う上での必要事項を契約の相手方に通知することとしていて、事前通告なしの抜き打ち調査を行っていなかった。そして、貴省と各会社との事前の打合せや調整された日程に従って、各会社が準備して設定し又は示した事項に限定した調査を予定どおり行うことにより、各会社の原価システムの適正性を確認するなどしていた。このため、帳簿類の調査のみでは発見が困難な一重帳簿による工数付替え等については、対応できない状況となっていた。

(イ) 原価監査の実施状況等

 貴省は、毎年度、三菱電機、住友重機械及び関係5社と多数の中央調達及び地方調達に係る概算契約等を締結していることから、「原価監査事務に関する達」等に基づいて、装本及び各自衛隊が、各会社について、運用状況調査を行ったり、原価監査を行ったりしている(表4 参照)。

表4  原価監査等の実施状況(平成23年度)

会社 三菱電機 MSS

プレシジョン

三電特機 太洋無線

住友重機械

住重特機
実施件数 250件 2件 100件

194件

20件

14件

45件

 しかし、運用状況調査の際は、制度調査と同様に、会社側と事前に調整した日程に沿って行い、フロアチェックを行う場合でも、予定どおりの調査を行うことにより、各会社の発生原価の適正性等を確認していた。また、原価監査の際は、質問事項について個別に管理職等への説明等を求めていたものの、その質問内容は、各会社があらかじめ事前に準備した事項についての確認が中心となっていた。そして、実際に工数計上を行った担当者への聴取を行わなかったり、一部の契約については製品の確認等を行わないまま完了したりしていた。
 また、地方調達においては、各会社に赴かずに原価監査を実施していて、各会社に送付させた帳簿類を含む関係資料を突合するなどの形式的な確認のみにより、契約代金を確定して支払っているものが多数見受けられた。
 さらに、中央調達及び地方調達のいずれの調達においても、各会社に対して、事前通告なしの抜き打ちの原価監査又は運用状況調査を行っていなかった。なお、一部の契約について抜き打ちの原価監査を行おうとして、会社まで赴いたところ、会社に協力を拒否されたため、調査を実施することができなかったこともあった。

イ 地方調達の原価監査等に係る規程類の整備状況等

 前記のとおり、中央調達においては、装本が、「原価監査事務に関する達」及び「原価監査実施準則(通達)」に基づき、また、地方調達においては、海上自衛隊が、「原価監査に関する事務処理要領及び原価監査実施基準について(通達)」に基づき、原価監査及び運用状況調査を行うこととなっている。
 しかし、陸上自衛隊の一部及び航空自衛隊は、部隊等が行う調達について、原価監査等の実施に係る規程類を定めていないなど、各自衛隊においてその取扱いが区々となっている。
 また、海上自衛隊は、制度調査を実施していなかったり、運用状況調査を行っていても、その調査結果に対する適否の判断を行っていなかったり、作成することとされている運用状況調査報告書を作成していなかったりしている。

ウ 各会社における法令遵守等に係る施策等

 三菱電機、住友重機械及び関係5社は、社内に、法令遵守、内部統制等に関する部署を設置するなどして、企業倫理・遵法に関する活動等を推進してきたとしている。しかし、その活動等の内容は、過去に自社で発生した法令違反や自社社員の不祥事に対する再発防止に重点を置くものなどであったため、5年以降に多数発覚した他社の過大請求事案に着目した監査等の取組は行われていなかった。
 また、貴省は、前記のとおり、資料の信頼性確保に関する特約条項等を新設及び改正した際に説明会を開き、企業に対して過大請求事案の再発防止のための周知等を行ったとしている。しかし、三菱電機、住友重機械及び関係5社は、他社の過大請求事案を受けて、自社でも同様の事態が発生していないか調査するなど、貴省が求める再発防止のための会社内への周知等を全く実施しておらず、他社も含めた過大請求事案を踏まえた法令遵守等の活動やこれを推進させるための統制機能が働いていないと思料される。
 そして、貴省は、上記の周知等の効果の確認を行っておらず、各会社の上記のような状況を把握していなかった。

(改善を必要とする事態)

 貴省は、5年以降、防衛装備品等の調達に係る過大請求事案が発生してきたことから、11年以降、調達改革の具体的措置に基づき、契約の相手方の提出資料の信頼性の確保や制度調査、原価監査等の充実等の諸施策に取り組み、企業に対してその内容の周知等を行ってきたとしている。
 しかし、貴省がこれまでに実施してきたとしていた諸施策等は、その効果が十分発現しておらず、三菱電機、住友重機械及び関係5社の一重帳簿による過大請求事案には対応できていないなどの事態は、防衛装備品等の調達が税金等を原資とする国費により賄われていること、防衛装備品等の調達は特定少数の企業との随意契約により行われる場合が多く、当該企業には特に高い企業倫理が求められることなどを考慮すると適切ではなく、改善の要があると認められる。

(発生原因)

 このような事態が生じているのは、貴省において、次のことなどによると認められる。

ア 制度調査、原価監査及び運用状況調査を、各会社の要望や事前の調整の下に実施し、会社側の意向に沿って実施していること及び抜き打ちの制度調査、原価監査及び運用状況調査を実施していないこと

イ 地方調達の原価監査及び運用状況調査に係る規程類の整備等が区々となっているのに、これらの整備状況等について把握していないこと

ウ 調達改革の具体的措置を踏まえた諸施策の各会社に対する周知等について、その効果の確認を行っていないこと

3 本院が表示する意見

 貴省は、現在、三菱電機、住友重機械及び関係5社に対する特別調査を実施するとともに、今回の事態を踏まえた再発防止策の検討、具体的措置の見直しなどを早急に行うこととしている。
 一方、貴省は、前記のとおり、各会社の過大請求事案の発覚以降、事実関係の全容が解明され、過大請求に係る過払金等が国庫に納入されるとともに再発防止策が報告されるまでの間、各会社に対し指名停止の措置を執ったとしているが、指名停止以降、貴省の会計実地検査を実施した24年6月末までの間に、真にやむを得ない場合として、三菱電機、MSS、プレシジョン及び三電特機と206件の契約(契約金額計1148億6863万余円)を締結している。また、三菱電機、住友重機械及び関係5社に対しては、今後とも防衛装備品等の調達に係る契約を多数締結していくことが見込まれている。
 ついては、貴省において、防衛装備品等の調達に関する国民の信頼を回復し、予算の執行のより一層の適正化を図るよう、制度調査、原価監査等に関し、次のとおり意見を表示する。

ア 制度調査、原価監査及び運用状況調査に当たっては、貴省の担当官が主体となって調査項目等を選定したり、質問を直接担当者に行ったり、現場で原価の発生状況を確認したり、作業員等に対して作業実態に関するアンケートを行ったり、抜き打ちで実施したりするなど、企業側が準備し予定する範囲を超えた内容の調査を行うことにより、現場における作業の実態や工数管理の実態の把握等が十分に行えるよう、調査の方法等を見直すとともに、企業に対してこのような方法による制度調査等が効果的に行われるように、その受入体制を整備するよう求めること

イ 地方調達の原価監査及び運用状況調査に係る規程類を統一的に整備させるとともに、規程類の整備状況等について内部部局に報告させることによりこれらの状況を把握すること

ウ 制度調査等の際に、企業の内部統制等について調査を行うこととして法令遵守活動等の実態を把握するなど、調達改革の具体的措置を踏まえた諸施策について企業に対する周知等の効果の確認を行うとともに、必要に応じて改善を行わせること