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  • 平成23年度|
  • 第3章 個別の検査結果|
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  • 第13 防衛省|
  • 意見を表示し又は処置を要求した事項

防衛施設周辺放送受信事業の実施において、テレビ放送の聴取における航空機騒音の実態を反映させたものとなっているかを検証し、指定基準を見直すなどして、補助金を交付する根拠について透明性を十分に確保するよう意見を表示したもの


(4) 防衛施設周辺放送受信事業の実施において、テレビ放送の聴取における航空機騒音の実態を反映させたものとなっているかを検証し、指定基準を見直すなどして、補助金を交付する根拠について透明性を十分に確保するよう意見を表示したもの

会計名及び科目 一般会計 (組織)防衛本省 (項)防衛施設安定運用関連諸費
部局等 内部部局、9地方防衛局等
防衛施設周辺放送受信事業補助金の概要 航空機騒音によるテレビ放送の聴取障害対策として、補助対象区域内においてNHKと放送の受信についての契約をした者に対し、放送受信料のうち地上系放送文の半額相当を補助するもの
指定基準がテレビ放送の聴取における航空機騒音の実態を適切に反映したものとなっているか不明なまま交付している補助金の額 55億3041万円(平成22、23両年度)

【意見を表示したものの全文】

防衛施設周辺放送受信事業補助金の補助対象区域について

(平成24年10月19日付け 防衛大臣宛て)

標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり意見を表示する。

1 防衛施設周辺放送受信事業の概要

(1) 防衛施設周辺放送受信事業補助金の概要

 貴省は、航空機騒音によるテレビ放送の聴取障害対策として、「防衛施設周辺放送受信事業補助金交付要綱」(平成19年防衛省訓令第126号)等に基づき、自衛隊又は我が国に駐留するアメリカ合衆国の軍隊が使用する飛行場又は対地射爆撃場(以下、合わせて「基地等」という。)でターボジェット発動機を有する航空機の離陸、着陸等が頻繁に実施されるものの周辺地域のうち指定する区域(以下「補助対象区域」という。)内において、放送法(昭和25年法律第132号)第64条第1項の規定により日本放送協会(以下「NHK」という。)と放送の受信についての契約を締結した者(以下「受信契約者」という。)に対し、放送受信料のうち地上系放送分の半額相当額を防衛施設周辺放送受信事業補助金(以下「補助金」という。)として交付している。

(2) 補助対象区域の概要

 補助対象区域は、昭和57年以前にNHKが調査結果に基づき設定した区域を、貴省が引き継ぐ形で57年に指定したものである。
 「防衛施設周辺放送受信事業補助金の交付について」(平成18年施本第600号(CFM)防衛施設庁長官通達)によると、補助対象区域は、当分の間、「放送受信障害対策補助金の交付の対象とする区域について」(昭和57年5月防衛施設庁長官制定)に基づき、以下の区域とすると定められている。
 すなわち、ターボジェット発動機を有する航空機の離陸、着陸等により生ずる80ホン(注1) 以上の音響の発生回数が一定回数以上継続していると認められる飛行場の主要着陸帯の短辺の延長で当該飛行場の外辺から各1キロメートル及び長辺の延長で当該飛行場の外辺から各5キロメートルの長方形(対地射爆撃場にあっては、航空機の主要旋回経路の直下から外側に1キロメートルの距離にある線を外辺として得られる区域)を基準として、音響の強度及び基地等又はその周辺の地形、集落の状況等を勘案して(以下、これらの要件を「指定基準」という。)、防衛施設庁長官が指定した区域とされている。
 補助対象区域が指定されている基地等は、平成23年度末現在で19基地等(注2) となっており、各補助対象区域における22、23両年度の放送受信契約件数は、22年度末386,171件、23年度末389,221件、補助金交付額は、22年度27億7292万余円、23年度27億5749万余円、計55億3041万余円となっている。また、これらの補助対象区域は、17年4月に廃止された島松空対地射爆撃場周辺区域を除き、昭和57年以降、一度も見直されることなく現在に至っている。

(注1)
 ホン  旧計量法(昭和26年法律第207号)で定められていた騒音レベルの計量単位。計量法の改正(平成4年法律第51号)によりこの単位は廃止され、現在はデシベルが使用されている。
(注2)
 19基地等  千歳、松島、百里、入間、厚木航空、浜松、岐阜、小松、芦屋、築城、新田原、鹿屋航空各基地、三沢、横田、岩国、嘉手納、伊江島補助各飛行場、三沢対地、出砂島各射爆撃場

2 本院の検査結果

 (検査の観点、着眼点、対象及び方法)

 上記のとおり、補助対象区域については、57年の指定以降、長期間見直されることなく現在に至っている。その間、基地等に配備される航空機の機種(以下「配備機種」という。)の更新が進み、その性能は向上してきており、また、市街地化や集落の移転等により、補助対象区域を巡る情勢が大きく変化した地域も見受けられる状況となっている。
 そこで、本院は、有効性、経済性等の観点から、57年に指定した補助対象区域が、音響の強度及び基地等又はその周辺の地形、集落の状況等の実態に即したものとなっているかなどに着眼して、貴省内部部局、地方防衛局等(注3) において、19基地等周辺の補助対象区域の受信契約者に対して平成22、23両年度に交付された補助金を対象として、補助金の交付、航空機騒音に関する資料等の書類及び補助対象区域の現地の状況を確認するなどして会計実地検査を行った。

 地方防衛局等  北海道、東北、北関東、南関東、近畿中部、中国四国、九州、沖縄各防衛局及び東海防衛支局

 (検査の結果)

 検査したところ、昭和57年の指定以降、主要な配備機種が、騒音の大きなエンジンを装備しアフターバーナー(注4) を使用して離陸するF-4戦闘機から、比較的騒音が低くかつ推力の高いエンジンを装備し通常はアフターバーナーを使用せずに離陸可能なF-15戦闘機やF-2戦闘機に移行したことや、基地等の運用形態の変更による航空機騒音の変化等が生じており、貴省が本件事業とは別に航空機騒音対策として実施している住宅防音事業の助成対象区域(以下「住宅防音区域」という。)の見直しも行われていて、補助対象区域内で航空機騒音が低下している地域もあると認められた。
 すなわち、住宅防音区域については、平成13年9月から14年7月までの間に防衛施設庁長官により開催された「飛行場周辺における環境整備の在り方に関する懇談会」において、配備機種の性能向上等が騒音の低下につながり、騒音区域が縮小する傾向にあるとの提言がなされたことなどを踏まえ、補助対象区域が指定された19基地等のうち、4基地等(注5) で17年以降順次見直しが行われており、住宅防音区域の面積が1基地で増加したものの、3基地等で減少していた。
 例えば、上記3基地等のうち浜松基地においては、昭和56年7月の住宅防音区域の指定以降、相当の期間が経過し、主要な配備機種がT-33中等練習機から比較的騒音の低いエンジンを装備したT-4中等練習機に移行したことなどから、平成20年度から22年度にかけて航空機騒音の状況を把握するための調査が実施され、その結果、24年1月に住宅防音区域を大幅に縮小する見直しが行われた。しかし、浜松基地に係る補助対象区域については、前記のとおり、昭和57年以降見直しが行われておらず、従来、住宅防音区域の対象面積より大きな面積を対象としていたことから、今回の住宅防音区域の大幅な縮小により、対象面積の差は更に広がった状況となっている。
 そこで、57年に指定された補助対象区域が指定基準に照らし適切なものとなっているか確認しようとしたところ、指定基準を定めた際の根拠資料が残されておらず、指定基準がテレビ放送の聴取における航空機騒音の実態を適切に反映したものとなっているか不明となっていた。
 したがって、補助対象区域が指定基準に照らし適切なものとなっているか確認できず、貴省がテレビ放送の聴取障害対策として補助金を交付する根拠について、透明性が十分に確保されていない状況となっていた。

(注4)
 アフターバーナージェット  エンジンから出された排気ガスに、更に燃料を噴射し燃焼させる装置
(注5)
 4基地等  松島、厚木航空、浜松各基地及び横田飛行場

 (改善を必要とする事態)

 以上のように、指定基準がテレビ放送の聴取における航空機騒音の実態を適切に反映したものとなっているのか不明となっていて、補助対象区域が指定基準に照らし適切なものとなっているか確認できない事態及びこのような状況のまま指定基準の見直しを行うことなく継続して補助金を交付している事態は、事業を効果的に実施する上で適切とは認められず、改善の要があると認められる。

 (発生原因)

 このような事態が生じているのは、貴省において、補助対象区域を巡る情勢の変化を踏まえた指定基準の見直しの重要性に対する認識が十分でなく、見直しに向けた検討が十分でなかったことなどによると認められる。

3 本院が表示する意見

 防衛施設周辺放送受信事業は、真に必要としている者に対して効果的に実施することが求められており、そのためには、指定基準を見直すなどして、航空機騒音の実態の変化を適切に反映させた補助対象区域の見直しを随時行うことのできる体制を整備することが肝要である。
 ついては、貴省において、防衛施設周辺放送受信事業を効果的に実施するために、指定基準がテレビ放送の聴取における航空機騒音の実態を反映させたものとなっているかを検証し、指定基準を見直すなどして、防衛施設周辺放送受信事業により補助金を交付する根拠について、透明性を十分に確保するよう意見を表示する。