会計名及び科目 | 一般会計 (組織)防衛本省 (項)武器車両等整備費 |
部局等 | 陸上幕僚監部 |
患者情報装置の概要 | 陸上自衛隊が保有する救急車に搭乗している救急救命士等と自衛隊病院の医官との間の通信手段を確保することにより、患者の搬送中における救命率の向上を目的とする装置 |
上記装置の調達数及び価格 | 29式 5054万円(平成22年度) |
陸上幕僚監部は、隊員等が災害派遣や演習の際に負傷した場合に、陸上自衛隊が保有する救急車(以下「救急車」という。)に搭乗している救急救命士等(以下「救護員」という。)と自衛隊中央病院及び自衛隊地区病院(以下「自衛隊病院」という。)の医官との間で、救急車内で計測された患者の生体情報(脈拍、心電図モニター等)等のデータを送受信し、その情報を共有することにより、患者の搬送中における救命率の向上を図ることを目的として、コンピュータ、伝送用データカード等から成る患者情報装置(以下「装置」という。)を装備施設本部に29式要求し、同本部は、これらの装置を平成23年1月に5054万余円で調達している。そして、陸上幕僚監部は、各方面、師団又は旅団の衛生隊等計21部隊(注1)
及び8自衛隊病院(注2)
の計29か所にそれぞれ配備している。
陸上自衛隊の隊員が演習場で訓練を実施したり災害派遣に派遣されたりする場合には、必ずしも医官が同行しているわけではなく、隊員が負傷し医師の診断が必要なときは、部隊が自衛隊病院を含む近隣の病院に救急車で搬送している。しかし、陸上自衛隊が管理している演習場又は災害派遣現場の多くは市街地から離れているため、演習場等から近隣の自衛隊病院等に患者を搬送するには時間を相当程度要するとともに、医官は通常救急車には同乗していないのが現状となっている。このため、この装置は、隊員等が災害派遣や演習の際に負傷し、部隊が近隣の自衛隊病院等へ患者を搬送するまでの間、患者の容体が急変するなどの緊急時に、救急車内で計測された患者の生体情報等のデータを医官に送信し、この情報を受信した医官が救護員に対して必要な指示を迅速に与えることにより、患者の救命に効果的な役割を果たすものである。
(注1) | 21部隊 真駒内(北部方面衛生隊、第11後方支援隊衛生隊)、旭川、帯広、東千歳、仙台、神町、青森、朝霞、練馬、新町、伊丹、千僧、春日井、海田市、善通寺、健軍、福岡、北熊本、那覇の各駐屯地所在の衛生隊、衛生学校
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(注2) | 8自衛隊病院 中央、札幌、仙台、富士、阪神、福岡、熊本、別府各病院
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患者搬送時の容体急変等の緊急事態が生じた際に迅速かつ的確に対応するためには、使用が想定される地域における通信状況を確認しておくとともに、緊急時にも装置の取扱いが容易にできるようにしておくことが必要である。このためには、装置の訓練計画を作成した上で、演習等の際に患者を想定し、装置による生体情報等の送受信の訓練を部隊と自衛隊病院との間で定期的に実施するなどして装置を計画的に訓練に使用する必要がある。
そこで、本院は、有効性等の観点から、装置が有効に活用されているかなどに着眼して、陸上幕僚監部、16部隊(注3)
及び6自衛隊病院(注4)
において、装置の使用記録簿等の関係書類等により会計実地検査を行った。そして、会計実地検査を行わなかった5部隊及び2自衛隊病院についても、上記の関係書類の提出を受けて、これを確認するなどして検査した。
(注3) | 16部隊 真駒内(北部方面衛生隊、第11後方支援隊衛生隊)、東千歳、仙台、青森、朝霞、練馬、伊丹、千僧、海田市、善通寺、健軍、福岡、北熊本、那覇の各駐屯地所在の衛生隊、衛生学校
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(注4) | 6自衛隊病院 中央、札幌、仙台、阪神、福岡、熊本各病院
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検査したところ、装置の使用状況等について次のような事態が見受けられた。
すなわち、装置を使用する際のデータの送信側である21部隊において、装置が納入された23年1月から24年3月までの間の装置の使用状況を確認したところ、装置を緊急時でも迅速かつ的確に使用できるための訓練を行っていなかったり、自衛隊病院との間で通信機能を確認するための導通試験しか行っていなかったり、災害派遣や演習に装置を携行していなかったりなどしていた。
また、装置を使用する際のデータの受信側である8自衛隊病院において、装置が納入された23年1月から24年3月までの間の使用状況等を確認したところ、装置を訓練等で使用していなかったり、部隊との間で通信機能を確認するための導通試験しか行っていなかったり、装置の使用方法に関する研修を行っていなかったりなどしていた。さらに、装置の設置状況を確認したところ、装置をデータの通信の圏外となっている執務室に設置していたり、装置を保管箱に入れたままにしていたりなどしていて、自衛隊熊本病院を除く7自衛隊病院においては装置を直ちに使用することができない状況となっていた。
このように、21部隊及び8自衛隊病院において、装置を使用した訓練を連携して行っていなかったなどのため、患者の搬送中における緊急時に、装置を迅速かつ的確に使用できる体制が整備されておらず、装置の有効な活用が見込めない状況となっている事態は適切ではなく、改善の必要があると認められた。
このような事態が生じていたのは、陸上幕僚監部において部隊及び自衛隊病院に対して、装置の使用のために必要な体制整備について具体的に周知していなかったこと、装置の使用方法等を十分に指導していなかったこと、部隊及び自衛隊病院において装置の導入目的に対する理解が十分でなかったことなどによると認められた。
上記についての本院の指摘に基づき、陸上幕僚監部は、部隊及び自衛隊病院に対して、24年7月に通達を発するとともに、同年7月及び8月に説明を行うなどして、装置の操作教育や計画的に訓練を実施して装置を使用することなどについて周知徹底を図った。そして、部隊及び自衛隊病院は、同年8月末までに、装置を使用した訓練を実施し、部隊においては、装置を必携するなどして救護体制を確保するなどし、自衛隊病院においては、部隊からの要請に24時間対応が可能な体制を確保するなどして、緊急時に確実に対応できるよう体制整備を図り装置を有効に活用する処置を講じた。