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  • 平成23年度|
  • 第3章 個別の検査結果|
  • 第2節 団体別の検査結果|
  • 第3 日本銀行|
  • 本院の指摘に基づき当局において改善の処置を講じた事項|

支店の非常用設備等に組み込まれている蓄電池の更新に係る判断に必要な管理情報を的確に把握したり、直流電源設備の定期的な保守・点検を実施したりなどすることにより、非常用設備等の維持・管理を適切に行うよう改善させたもの


(1) 支店の非常用設備等に組み込まれている蓄電池の更新に係る判断に必要な管理情報を的確に把握したり、直流電源設備の定期的な保守・点検を実施したりなどすることにより、非常用設備等の維持・管理を適切に行うよう改善させたもの

科目 有形固定資産  
   建物  
部局等 日本銀行本店
非常用設備等の概要 災害等による商用電源の停電時に対処するための蓄電池が組み込まれた設備
非常用設備等のうち支店に設置された自家発電設備、直流電源設備及び消防用設備の設備数並びに取得価額 96設備(32支店) 61億5123万余円
上記のうち更新目安期限を1年以上超過した蓄電池が組み込まれた設備の設備数及び取得価額(1) 17設備(13支店)   8億7960万円(背景金額)
定期的な保守・点検を実施する必要があると認められた直流電源設備の設備数及び取得価額(2) 27設備(27支店)  17億6022万円(背景金額)
(1)及び(2)の純計 40設備(28支店)  25億7719万円(背景金額)

1 非常用設備等の概要等

(1) 非常用設備等の概要

 日本銀行は、本店、支店等の施設において、災害等による商用電源の停電時に対処する設備として、非常用電源となる自家発電設備と、同設備が稼働するまでの間、非常用照明等に電気を供給する直流電源設備を設置している。自家発電設備には原動機を始動させるための蓄電池が、直流電源設備には非常用照明等に電気を供給するための蓄電池が、それぞれ組み込まれている。また、これら以外の設備にも、消防用設備のように予備電源として蓄電池が組み込まれているものがある(以下、蓄電池が組み込まれている設備を総称して「非常用設備等」という。)。
 蓄電池は、一般的に設備の耐用年数に比べ短い期間で劣化して必要な性能を維持できなくなることから、設備の取扱説明書等において更新の目安となる期待寿命(注1) が示されている。そして、蓄電池の実際の寿命は、使用条件や保守・点検の良否によって変動することから、例えば、自家発電設備及び直流電源設備の蓄電池については、蓄電池の信頼性を確保し、性能を最大限に長期間発揮させるには、日常点検のほか、定期的に保守・点検を行うことが必要であるとされている。

 期待寿命  一定の使用条件と保守・点検を前提に想定される摩耗・故障による寿命のこと

(2) 日本銀行における非常用設備等の維持・管理の方法

 非常用設備等の維持・管理は、本店文書局が行うこととなっており、本店の非常用設備等と支店の非常用設備等とは、同局内の二つの部門でそれぞれ分担して事務を行っている(以下、このうち支店の非常用設備等の維持・管理を担当する部門を「本店担当部門」という。)。
 本店担当部門は、支店の非常用設備等の維持・管理のうち、日常点検、軽微な修繕等の一部事務を支店に行わせている。そして、支店の要員では実施が困難な定期点検、蓄電池の更新等は、本店担当部門が自ら専門業者等と契約を締結して行っている。その際、支店の自家発電設備及び直流電源設備の蓄電池の更新に当たっては、これら設備が停電時における基幹設備であり、更新に数百万円程度と多額の費用を要することから、本店担当部門が計画的に行うことになっており、それら以外の設備については、原則として、支店が更新の要否を判断した上で、その要望に応じて本店担当部門が契約を締結することになっている。

(3) 災害発生時等における日本銀行の業務継続体制

 日本銀行は、災害発生時等においても決済システムの円滑な運行や金融市場の安定を確保する必要があることなどから、本店、支店共に業務継続体制を構築している。そして、災害対策基本法(昭和36年法律第223号)等に基づいて作成した日本銀行防災業務計画(昭和42年9月作成。平成18年9月最終改正)では、災害発生時等における業務の円滑な遂行を期するため、平常時から店舗等の業務関係施設等について整備充実を図り、その維持・管理を一層強化するよう措置するとされている。

2 検査の結果

 (検査の観点、着眼点、対象及び方法)

 日本銀行の業務の重要性に鑑みれば、非常用設備等については、災害発生時等においても業務継続に支障を及ぼすことがないよう、不具合が発生していない状態であっても設備の劣化を測定するための診断を行い、その結果、故障等のリスクが高いと判断される場合は、一定の手順に従って修繕、更新等を行い、安全な状態に回復させる予防保全を適切に行う必要がある。
 そこで、本院は、有効性等の観点から、非常用設備等の維持・管理が適切に行われているか、特に、それら設備に組み込まれている蓄電池はその機能を十分に発揮できるよう、設備の重要性、ライフサイクル、管理コスト等を勘案して適切に予防保全が行われているかなどに着眼して検査した。検査に当たっては、本店及び全国の32支店(注2) に共通して設置されている非常用設備等のうち11種類の設備(注3) を対象として、本店において、設備の保守契約書、保守点検報告書等により会計実地検査を行うとともに、4支店(注4) において、設備の管理状況について説明を聴取するなどして会計実地検査を行った。

(注2)
 32支店  釧路、札幌、函館、青森、秋田、仙台、福島、前橋、横浜、新潟、金沢、甲府、松本、静岡、名古屋、京都、大阪、神戸、岡山、広島、松江、下関、高松、松山、高知、北九州、福岡、大分、長崎、熊本、鹿児島、那覇各支店
(注3)
 11種類の設備  自家発電設備、直流電源設備、消防用設備、空調中央監視設備、電力中央監視設備、電話設備、情報表示設備、時計設備、放送設備、防犯設備、監視カメラ設備
(注4)
 4支店  青森、秋田、大阪、神戸各支店

 (検査の結果)

 検査したところ、支店の非常用設備等の維持・管理について、次のような事態が見受けられた。

(1) 支店の非常用設備等の蓄電池の更新について

 自家発電設備及び直流電源設備の蓄電池について、本店担当部門は、おおむね蓄電池の期待寿命を経過する期限(以下「更新目安期限」という。)を踏まえて計画的に更新することとしていたが、設備の取扱説明書や保守点検報告書等に記載された更新目安期限、使用期間等の管理情報を的確に把握する体制が執られていなかった。
 また、上記以外の消防用設備等9種類の設備(以下「消防用設備等」という。)の蓄電池について、本店担当部門は、非常用設備等の管理に関して支店が行うべき事務の範囲や蓄電池の更新方法等を支店に対して明確に示していなかったことから、支店において、蓄電池の管理情報を的確に把握していなかったり、把握していても更新の要否を検討していなかったりしていた。
 このため、11種類の設備のうち日本銀行が特に災害発生時等における業務継続を図る上で重要であるとしている自家発電設備、直流電源設備及び消防用設備の3種類の設備について、32支店における計96設備(取得価額計61億5123万余円)の蓄電池の更新目安期限等の状況を検査したところ、 のとおり、平成24年2月時点で更新目安期限を1年以上超過しているが具体的な更新の要否を検討しないまま使用しているものが、13支店(注5) において計17設備(取得価額計8億7960万余円)見受けられた。これらの中には、性能が低下した蓄電池が組み込まれていた設備もあった。

 更新目安期限を超過した蓄電池が組み込まれていた非常用設備等の状況
設備名\区分 設備数(A) (A)のうち更新目安期限を1年以上超過した蓄電池が組み込まれていた設備数 左の設備に組み込まれていた蓄電池の種類
(期待寿命)
注(1)
5年以上超過(B) 3年以上5年未満超過
(C)
1年以上3年未満超過
(D)

(E)=(B)+(C)+(D)
自家発電設備 32 1
注(2)
1 制御弁式据置鉛蓄電池
(7年〜9年)
直流電源設備 32 1 3 4
消防用設備 32 7 3 2 12 密閉形ニッケル・カドミウム蓄電池
(5年)
96 8 4 5 (13支店)  17  
注(1)  蓄電池は、構造・特性が異なる様々な種類があり、用途によって使用する種類が異なる。
注(2)  平成23年6月及び12月に実施された定期点検の保守点検報告書によると、性能が低下しているとされていた。

 したがって、11種類の設備について、予防保全の見地から、蓄電池の更新に係る判断を行う上で必要な管理情報を的確に把握できる体制を整備するとともに、消防用設備等について、設備の重要性に応じた蓄電池の更新方法を検討し、非常用設備等の管理に関して支店が行うべき事務の範囲等を支店に周知する必要があると認められた。

 13支店  釧路、秋田、仙台、福島、甲府、松本、京都、大阪、岡山、松江、北九州、福岡、長崎各支店

(2) 支店の直流電源設備の定期的な保守・点検について

 本店担当部門は、自家発電設備及び消防用設備について専門業者による定期的な保守・点検を行っていたが、直流電源設備の計32設備(取得価額計19億0578万余円)については、日常点検の中で設備の維持・管理が可能であると判断して、専門業者等による定期的な保守・点検を行うこととしていなかった。
 しかし、設備の取扱説明書等において、直流電源設備について長期的に信頼性を確保するためには、定期的な点検を実施するとともに時期に応じて部品を交換するなど適切に保守を行う必要があるとされており、現に、本店の非常用設備等の維持・管理を担当する部門で管理している直流電源設備については、予防保全の見地から、専門業者による定期点検を実施して、その機能及び部品の状態を確認の上、必要に応じて部品を交換するなどしていた。
 したがって、直流電源設備について、予防保全の見地から、定期的な保守・点検の方法を検討するとともに、23年度中に設備の更新を行った3支店及び独自に点検を実施していた2支店を除いた27支店(注6) の計27設備(取得価額計17億6022万余円)については、点検の実施を検討する必要があると認められた。

 27支店  釧路、札幌、函館、青森、仙台、福島、前橋、新潟、金沢、甲府、松本、静岡、京都、大阪、岡山、広島、松江、下関、松山、高知、北九州、福岡、大分、長崎、熊本、鹿児島、那覇各支店

 (1)及び(2)のとおり、支店の非常用設備等の維持・管理が十分に図られていない事態は予防保全の見地から適切とは認められず、改善の必要があると認められた。

 (発生原因)

 このような事態が生じていたのは、日本銀行において、支店の非常用設備等について、設備の重要性、ライフサイクル、管理コスト等を勘案して適切に予防保全を行うことの認識が十分でなかったことによるほか、次のことなどによると認められた。

ア 自家発電設備及び直流電源設備については、本店担当部門が蓄電池の更新を計画的に行うこととしているのに、更新を計画するために必要な管理情報を的確に把握する体制が十分でなかったこと

イ 消防用設備等については、本店担当部門が非常用設備等の管理に関して支店において行うべき事務の範囲等を明確に示していなかったため、支店が蓄電池の更新等について適切に管理する必要性を十分に認識していなかったこと

ウ 直流電源設備については、本店担当部門が設備の重要性を踏まえた定期的な保守・点検の必要性を十分に認識していなかったこと

3 当局が講じた改善の処置

上記についての本院の指摘に基づき、日本銀行は、支店の非常用設備等の維持・管理が適切に行われるよう、24年4月及び8月に各支店に通知を発するなどして、次のような処置を講じた。

ア 自家発電設備及び直流電源設備については、蓄電池の管理情報を把握するための管理表を作成して、本支店で共有するとともに、設備のライフサイクル等を勘案した蓄電池の更新計画を作成して、蓄電池の更新に係る判断に必要な管理情報を的確に把握できる体制を整備した。

イ 消防用設備等については、上記と同様に管理表を作成して、本支店で共有するとともに、設備の重要性に応じた蓄電池の更新方法を検討し、非常用設備等の管理に関して支店が行うべき事務の範囲等を支店に周知した。

ウ 直流電源設備については、定期的な保守・点検の方法を検討するとともに、専門業者による定期的な保守・点検を実施することとした。