科目 | 一般勘定 | (項)競馬事業費 |
(項)競走事業費 | ||
部局等 | 日本中央競馬会本部、栗東、美浦両トレーニング・センター | |
契約名 | 騎手送迎用自動車運行等10契約 | |
契約の概要 | 中央競馬等の競走に出走する競走馬に騎乗する予定の騎手を送迎するための自動車運行契約 | |
契約の相手方 | 株式会社帝産タクシー滋賀、大和自動車交通株式会社、船橋交通株式会社、江戸崎合同ハイヤー株式会社 | |
日本中央競馬会が契約に基づき支払った額 | 8685万余円 | (平成22、23両事業年度) |
上記のうち節減できた経費の額 | 3658万円 |
標記について、会計検査院法第34条の規定により、下記のとおり是正改善の処置を求める。
記
貴会は、競走馬の調教及び飼養管理を一元的、専門的に行うため、滋賀県栗東市に栗東トレーニング・センターを、また、茨城県稲敷郡美浦村に美浦トレーニング・センター(以下、トレーニング・センターを単に「トレセン」といい、栗東トレセンと美浦トレセンを合わせて「両トレセン」という。)をそれぞれ設置している。
両トレセンは、平成22、23両事業年度に、一般乗用旅客自動車運送事業を営む4株式会社と騎手送迎用自動車運行契約等(以下「自動車運行契約」という。)を締結して、表1
の運行区間について貴会所属騎手の送迎のための一般乗用旅客自動車(以下「タクシー」という。)の運行を委託している。
トレセン | 事業年度 | 運行区間 |
栗東 | 平成22 | 栗東トレセン〜中京、京都、阪神各競馬場 |
23 | 栗東トレセン〜京都、阪神両競馬場 | |
22、23 | 栗東トレセン〜金沢、笠松、名古屋、園田、姫路各競馬場 | |
美浦 | 22、23 | 美浦トレセン〜中山、東京両競馬場 |
22、23 | 美浦トレセン〜浦和、船橋、大井、川崎各競馬場 |
注(1) | 中京、京都、阪神、中山、東京各競馬場は貴会が主催する中央競馬が開催される競馬場である。 |
注(2) | 金沢、笠松、名古屋、園田、姫路、浦和、船橋、大井、川崎各競馬場は地方公共団体が主催する地方競馬が開催される競馬場である。 |
両トレセンは、契約の相手方から毎月又は競馬開催ごとに行われる請求に基づいて料金を支払うこととしており、各契約に基づく料金の支払額(以下「料金支払額」という。)は、栗東トレセンで22、23両事業年度計4936万余円(運行台数2,696台)、美浦トレセンで22、23両事業年度計3748万余円(運行台数1,535台)、合計8685万余円(運行台数4,231台)となっている。
競馬法(昭和23年法律第158号)では、貴会が行う免許を受けた騎手でなければ、中央競馬の競走のために騎乗することができないとされている。そして、貴会は、日本中央競馬会法(昭和29年法律第205号)、日本中央競馬会競馬施行規程(平成19年理事長達第28号。以下「競馬施行規程」という。)等に基づき、免許試験に合格した者に対して騎手の免許を交付している。
このように、騎手は、貴会から中央競馬の競走で騎乗するための免許は受けているが、貴会との雇用関係はなく、騎乗するために競馬場まで移動する場合は、その費用を通常自ら負担していて、貴会が日本中央競馬会旅費規程(昭和30年理事長達第2号)に基づく旅費を騎手に対して支給することはない。
また、騎手は、いずれかのトレセンに所属し、貴会がトレセン敷地内に設置している世帯用宿舎又は独身寮に居住するなどしていて、騎乗の際には多くの者が公共交通機関、自家用自動車等によりトレセン又はその周辺から競馬場まで移動しているが、自動車運行契約に基づき運行されるタクシーにより移動する者もいる。ただし、自動車運行契約に基づき運行されるタクシーは、前記の運行区間に限って運行されており、それ以外の区間については、騎手は、公共交通機関、自家用自動車等により移動することになっている。
近年、経済状況の低迷等のために、貴会の勝馬投票券収入は減少傾向にある。このため、貴会は、経費の節減について特に留意していくことが求められる。
そこで、本院は、合規性、経済性等の観点から、騎手送迎のためのタクシーが適切に運行されているかなどに着眼して、22、23両事業年度に両トレセンが締結した前記の自動車運行契約(料金支払額計8685万余円)を対象に、貴会本部及び両トレセンにおいて、契約書、仕様書等の関係書類により会計実地検査を行った。
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
自動車運行契約に基づきトレセンと中央競馬が開催される5競馬場(注1) との間で競馬開催日に運行されたタクシーは、22、23両事業年度合計で3,381台(料金支払額計6524万余円)となっており、これらを運行区間等により分類すると、表2 のとおりとなっていた。
運行区間(乗車地⇒降車地) | 事業年度 | トレセン | 運行台数(台) | 料金支払額(千円) |
トレセン ⇒ 競馬場 | 平成22 | 栗東 | 635 | 10,818 |
美浦 | 346 | 9,028 | ||
計 | 981 | 19,846 | ||
23 | 栗東 | 497 | 7,562 | |
美浦 | 235 | 5,699 | ||
計 | 732 | 13,262 | ||
小計 | 1,713 | 33,109 | ||
競馬場 ⇒ トレセン | 22 | 栗東 | 653 (338) |
11,290 (5,935) |
美浦 | 319 (150) |
8,179 (3,828) |
||
計 | 972 (488) |
19,469 (9,764) |
||
23 | 栗東 | 490 (248) |
7,520 (3,831) |
|
美浦 | 206 (97) |
5,144 (2,451) |
||
計 | 696 (345) |
12,665 (6,282) |
||
小計 | 1,668 (833) |
32,135 (16,046) |
||
計 | 3,381 | 65,244 |
貴会は、上記のタクシーについて、中央競馬の競走の公正を確保するための措置の一環として運行させたものであるため、その経費を負担しているとしている。
すなわち、貴会は、競走の公正を害するおそれのある第三者との接触を防止するため、競馬施行規程等により、騎乗予定の騎手は、騎乗予定日前日の21時までに、また、騎乗日の翌日にも騎乗予定がある場合は当日の最終騎乗が終了した後速やかに、騎乗予定の競馬場又はトレセンに設置されている調整ルームに入室しなければならないとしていることから、トレセンの調整ルームに入室している騎手については第三者との接触を防止したまま騎乗予定の競馬場までタクシーで移動させる必要があるなどとしている。
また、貴会は、23年9月まで、騎乗予定のある騎手であれば誰でもその前日にトレセンの調整ルームに入室して、競馬開催日当日にトレセンから競馬場までタクシーで移動することができるとしていた取扱いについて、同年10月以降は、騎乗予定のある騎手のうち、調教師の依頼により開催日当日にトレセンで調教を行う騎手に限ってトレセンの調整ルームに入室できることに改めて、タクシーの運行台数を減少させて経費の節減を図ったとしている。
しかし、中央競馬は、通常、連続する土曜日及び日曜日を一節(注2)
として開催されており、この2日間における最終騎乗が終了した騎手については、公正確保のために第三者との接触を防止する必要はない。そして、タクシーの運行状況をみると、トレセンから競馬場までタクシーで移動した騎手の全員が騎乗が終了した後に競馬場からトレセンまでタクシーで移動しているわけではなく、また、騎乗が終了した後にのみ競馬場からトレセンまでタクシーで移動している騎手も見受けられた。
したがって、各節の最終日に競馬場から両トレセンまで運行されたタクシー(運行台数計833台、これに係る料金支払額計1604万余円)については、中央競馬の競走の公正を確保するために必要な措置とは認められず、これについて貴会がその経費を負担しているのは適切とは認められない。また、23年10月に貴会が執ったとしている経費の節減策は、上記の経費をなお負担している点において、十分でなかったと認められる。
自動車運行契約に基づきトレセンと地方競馬が開催される9競馬場(注3)
との間で運行されたタクシーは、22、23両事業年度合計で782台(料金支払額計2053万余円)となっていた。この運行は、競馬法施行規則(昭和29年農林省令第55号)に基づき、地方競馬の主催者があらかじめ指定する中央競馬と地方競馬との交流による競走(以下「指定交流競走」という。)が地方競馬として行われ、貴会に所属する騎手が指定交流競走において騎乗する日に行われていた。
貴会は、上記タクシーの運行について、地方競馬の主催者との協議の結果、地方競馬の競走の公正を確保するための措置として、騎乗予定の騎手は、騎乗予定日の前日に騎乗予定の競馬場の調整ルームに入室しなければならないが、貴会の責任で騎手を競馬場まで移動させる場合は当日の移動が認められていることによるものであるとしており、その旨を自動車運行契約の仕様書に記載している。また、貴会は、上記タクシーの運行により貴会に所属する騎手の指定交流競走における騎乗が促進され、地方競馬の支援にもつながっているとしている。
しかし、地方競馬においては各地方競馬の主催者が指定交流競走の実施要領等を定めているが、その実施要領等において貴会に所属する騎手は騎乗前に騎乗予定の競馬場又はトレセンの調整ルームに入室しなければならないとしている例はなく、また、地方競馬においては、騎乗予定の騎手は開催日当日の定められた時刻までに競馬場まで移動することとされており、その移動については、公共交通機関等によることが認められていた。
したがって、トレセンと地方競馬が開催される9競馬場との間のタクシーの運行については、競走の公正を確保するために必要な措置とは認められず、地方競馬の支援につながるという面があることを考慮しても、貴会がその経費を負担しているのは適切とは認められない。
以上のとおり、自動車運行契約に基づく経費の負担の範囲を競走の公正を確保するために必要な措置として認められる合理的な範囲に限定していれば、貴会は、22、23両事業年度にタクシー1,615台の運行に係る料金支払額合計3658万余円(栗東トレセン分2087万余円、美浦トレセン分1571万余円)を節減できたと認められる。
上記のとおり、競走の公正を確保するために必要な措置とは認められず、貴会による経費の負担が合理的でないタクシーの運行に係る経費を貴会が負担している事態は適切とは認められず、是正改善を図る要があると認められる。
このような事態が生じているのは、貴会において、自動車運行契約による経費の負担が競走の公正を確保するために必要な措置として認められる合理的な範囲のものとなっているかについて検討していなかったこと、23年10月から執っている経費節減策の策定に当たり検討が十分でなかったことなどによると認められる。
貴会は、前記のとおり、勝馬投票券収入が大部分を占める事業収益が減少傾向にある中で、より一層の経費の節減に留意していく必要がある。
ついては、貴会において、自動車運行契約に基づく経費の負担を合理的な範囲に限定することとし、もって更なる経費の節減を図るよう是正改善の処置を求める。