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  • 平成23年度|
  • 第3章 個別の検査結果|
  • 第2節 団体別の検査結果|
  • (第10 中日本高速道路株式会社)|
  • 不当事項|
  • 予算経理|
  • その他

新東名高速道路建設事業に伴う損失補償等の実施に当たり、契約条項に違反した行為がなされていたのに支払を行うなどの不適正な会計経理を繰り返したり、補償費の算定が適切でなかったため契約額が割高となったりしていたもの


(319) 新東名高速道路建設事業に伴う損失補償等の実施に当たり、契約条項に違反した行為がなされていたのに支払を行うなどの不適正な会計経理を繰り返したり、補償費の算定が適切でなかったため契約額が割高となったりしていたもの

科目 仕掛道路資産
部局等 中日本高速道路株式会社名古屋支社豊川工事事務所(平成19年1月1日から3月31日までは中部地区支配人付豊川工事事務所、18年12月31日以前は中部地区支配人付新城工事事務所)
契約名 (1) 土地売買契約14契約、権利放棄補償契約12契約
(2) 物件移転補償契約
(3) 物件移転補償契約
(4) 物件移転補償契約
契約の概要 (1) 新東名高速道路建設のために必要となる土地の取得及び土地に附帯した権利の放棄に伴う損失補償を行うもの
(2)〜(4) 新東名高速道路建設に支障となる物件の移転補償を行うもの
契約の相手方 (1) 音羽開発株式会社等13者
(2) オトワテック株式会社
(3)、(4) 音羽開発株式会社
契約 (1) 平成17年12月〜22年1月 契約26件
(2) 平成17年12月 契約1件
(3) 平成20年12月 契約1件
(4) 平成17年12月 契約1件
契約額 (1) 1,266,170,768円  
(2) 393,816,300円  
(3) 40,797,831円  
(4) 6,149,504,000円  
支払 (1) 平成17年12月〜22年3月
(2) 平成17年12月、20年11月
(3) 平成20年12月、21年2月
(4) 平成17年12月、20年12月

不適正な会計経理により支払われた額

(1) 1,266,170,768円 (平成17年度〜21年度)
(2) 305,418,400円 (平成17、20両年度)
(3) 12,712,016円 (平成20年度)

割高となっていた契約額

(4) 179,773,400円 (平成17、20両年度)
(1)〜(4)の計 1,764,074,584円

1 契約の概要

 中日本高速道路株式会社(以下「会社」という。)名古屋支社豊川工事事務所(平成19年1月1日から3月31日までは中部地区支配人付豊川工事事務所、118年12月31日以前は中部地区支配人付新城工事事務所。以下「事務所」という。)は、豊川市(20年1月14日以前は宝飯郡音羽町)萩地区において、新東名高速道路(以下「新東名」という。)の建設に必要となる土地を取得するなどのため、同地区で採石業を営む音羽開発株式会社(以下「音羽開発」という。)、その関連会社であるオトワテック株式会社(24年4月23日以降は合併により音羽開発。以下「オトワテック」という。)等との間で、土地売買契約、権利放棄補償契約及び物件移転補償契約を締結している。
 そして、土地売買契約書では、所有者は契約締結後、事務所の同意なしに土地の形質を変更しないことや、当該土地を事務所に引き渡すまでの間、善良なる管理者の注意をもって管理することなどが、権利放棄補償契約書では、権利者は契約締結後、事務所の同意なしに採石権等を有する土地の形質を変更しないことなどがそれぞれ定められている。
 また、物件移転補償契約書では、事務所は契約締結後に前払金を支払うこと、当該物件の収去を完了した後に遅滞なく残金を支払うこと、所有者に債務不履行があったときは契約を解除することができることなどが定められている。

2 検査の結果

 新東名の建設をめぐっては、会社の社員が、音羽開発から受けた多額の資金供与等について、その所得を申告しなかった脱税事件等が発生し、同社員は23年10月から12月までに逮捕され起訴されており、会社は詳細について調査を実施していた。
 本院は、上記の状況を踏まえて、合規性、経済性等の観点から、契約は適正に履行されているか、補償費の算定は適切に行われているか、補償費の支払は適正に行われているかなどに着眼して、事務所が音羽開発、オトワテック等と締結している土地売買契約、権利放棄補償契約及び物件移転補償契約を対象として、会社の本社、名古屋支社(19年3月31日以前は中部地区支配人付)及び事務所において、契約書、補償費の内訳書等の書類を検査するとともに、現地の状況を確認するなどして会計実地検査を行った。
 検査したところ、次のような事態が見受けられた。

(1) 契約条項に違反して土地が形質変更されていたのに、契約金額を支払っていたもの

 事務所は、17年12月から22年1月までの間に、音羽開発が所有していた土地(面積計5,742m2 )及び音羽開発が採石権等の権利を有していて第三者が所有していた土地(面積計135,040m2 )の売買契約計14件を契約金額計393,679,026円で締結するとともに、音羽開発が有していた採石権の放棄等を目的とした権利放棄補償契約12件(対象土地面積計138,453m2 )を契約金額計872,491,742円で締結していた。
 しかし、上記各契約の締結後に、音羽開発は、契約条項に違反して、採石行為を継続して土地の掘削や盛土を行うなど土地の形質変更を行っていた。そして、事務所は、これを把握していたのに、音羽開発及び土地の所有者へ土地の形質変更の中止や是正を求めるなどの措置を講じないまま、契約金額計1,266,170,768円全額を支払っていた。
 また、上記の形質変更により、本線工事において盛土工、土運搬等の施工方法の見直しなどが必要となり、今後、建設費用の増加等が発生するおそれがある状況となっている。

(2) 移転対象物件の残置を容認して補償費を支払っていたもの

 事務所は、17年12月に、取得予定の土地等に存在するプレハブ小屋(1棟)、庭石(103,830個)、砕石(38,247m3 )等の物件を収去させることに係る費用を補償する物件移転補償契約をオトワテックとの間で契約金額393,816,300円で締結し、同月に前払金を支払っていた。
 しかし、事務所は、20年10月に、オトワテックから庭石、砕石等の所有権を放棄する旨の申出を受け、名古屋支社との協議を経た上で、これらが残置されても本線工事に影響がなく追加の費用も発生しないと判断してこれを容認したことから、同年11月に残金を支払っていたのに、庭石、砕石等を収去しないままとしていた(これに係る補償費相当額305,418,400円)。
 なお、実際には本線工事において庭石の運搬・撤去が必要となり、現地で庭石を小割りする費用(24年7月の会計実地検査時点で約4000万円)が追加的に発生していて、今後も、庭石、砕石等を撤去するために多額の費用が発生するおそれがある状況となっている。

(3) 補償する必要のなかった物件等に係る補償費を支払っていたもの

 事務所は、20年12月に、工事用道路工事及び沈砂池造成工事の支障とならないように、音羽開発所有の土地に存在する倉庫(2棟)、住宅(1棟)等の物件を収去させることに係る費用を補償する物件移転補償契約を音羽開発との間で契約金額40,797,831円で締結し、21年2月までに全額を支払っていた。
 しかし、事務所は、上記の契約金額に、契約書中の収去させる物件には含まれていない沈砂池の造成に要した工事費の2分の1に相当する額5,916,456円を含めていた。この沈砂池は、沈砂池造成工事の実施に当たり、事務所と音羽開発が共同で造成することとしていたものの協定等の締結に至らないまま、音羽開発が20年6月までに自社の敷地内に築造したものであるが、本線工事期間中に事務所が使用する予定にしているものであり、収去させることとして補償する必要はなかった。
 また、事務所は、前記の契約金額に、上記の沈砂池の造成に伴い既に収去していた物件や、沈砂池造成工事とは関係のない物件の収去に係る費用の2分の1に相当する額等計6,795,560円を含めていた。
 したがって、沈砂池の造成に要した工事費5,916,456円及び既に収去していた物件の収去に係る費用等6,795,560円、計12,712,016円は、補償する必要はなかった。

(4) 補償費の算定が適切でなかったため、契約額が割高となっていたもの

 事務所は、17年12月に、新東名の建設に支障となる砕石製造プラント等を構内残地に再配置させることに係る費用を補償する物件移転補償契約を音羽開発との間で契約金額6,149,504,000円で締結し、20年12月までに契約金額全額を支払っていた。
 事務所は、本件補償費の算定に当たり、補償費算定業務を補償コンサルタントに委託し、受領した成果品を検査して、これを基に、建物、機械工作物等の移転費、機械工作物の再配置に必要な平坦地を造成するための造成工事費等からなる本件補償費を算定していた。
 このうち造成工事費については、国土交通省制定の「土木工事標準積算基準書(」以下「積算基準」という。)に基づき、硬岩及び土砂の処分費1,042,323,112円を含む直接工事費を2,804,540,878円と算定した上で、これに工種区分ごとに定められた率を乗じて共通仮設費を算定し、さらに、直接工事費に共通仮設費を加えた額に所定の率を乗じて現場管理費を算定して、これらを合算するなどして3,581,327,400円と算定していた。
 しかし、積算基準によると、処分費については、共通仮設費及び現場管理費(以下、両者を合わせて「間接工事費」という。)の算定対象となる額は3000万円を上限とするとされているのに、事務所は、誤って処分費の全額を間接工事費の算定対象額としていた。
 このため、処分費のうち3000万円を間接工事費の算定対象額とするなどして造成工事費を修正計算すると3,334,267,900円となり、その他の算定誤りの修正も含めて適正な補償費を算定すると5,969,730,600円となることから、前記の契約金額6,149,504,000円との差額179,773,400円が割高になっていた。

 したがって、(1)において契約条項に違反して土地の形質変更が行われていた土地売買契約及び権利放棄補償契約計26件に係る契約金額計1,266,170,768円、(2)において残置を容認したため収去されなかった庭石、砕石等に係る補償費相当額305,418,400円及び(3)において補償する必要のなかった物件等に係る補償費相当額12,712,016円は、不適正な会計経理を繰り返していたもので著しく適正を欠いていると認められ、また、(4)において補償費の算定を誤ったため契約額が割高となっていた補償費相当額179,773,400円は適切とは認められず、これらの合計1,764,074,584円が不当と認められる。
 このような事態が生じていたのは、名古屋支社及び事務所において、契約を適正に実施すること及び会計経理を適正に行うことに対する認識が著しく欠けていたこと並びに情報共有が適切に行われていなかったこと、事務所において、委託した補償費算定業務の成果品に誤りがあったのに、これに対する検査が十分でなかったことなどによると認められる。