科目 | 委託費(一般) | |
部局等 | 全国健康保険協会本部 | |
契約名 | 全国健康保険協会健康保険業務システムの維持管理業務 | |
契約の概要 | 健康保険業務システムを安定的に運用し、保険給付業務等の円滑な実施を図るため、健康保険業務システムの運用、障害対応等の維持管理業務を請け負わせるもの | |
契約の相手方 | 株式会社エヌ・ティ・ティ・データ | |
契約 | 平成22年4月、10月、23年4月 随意契約 | |
積算額 | 18億3037万余円 | (平成22、23両年度) |
低減できた積算額 | 6480万円 | (平成22、23両年度) |
全国健康保険協会(以下「協会」という。)は、平成20年10月1日に、社会保険庁から健康保険法(大正11年法律第70号)に基づく政府管掌健康保険事業を承継して、保険者として健康保険事業を運営している。
健康保険事業は、被保険者等の健康増進及び良質かつ効率的な医療の享受を図るため、保険給付に関する業務や保健事業に関する業務等を行うものである。そして、協会は、上記の事業承継に伴い、これらの業務等を行うために、被保険者情報等を管理する全国健康保険協会健康保険業務システム(以下「業務システム」という。)を社会保険庁から承継し運用している。
業務システムは、社会保険庁が株式会社エヌ・ティ・ティ・データ(以下「NTTデータ」という。)等で構成される全国健康保険協会健康保険業務システム開発業務共同企業体に開発を請け負わせたもので、社会保険庁は、19年2月に契約を締結するに当たって、NTTデータに提出させた見積書の参考資料として、NTTデータから開発に従事する技術者1人当たりの月額単価(以下「開発単価」という。)を報告させていた。
この開発単価は、システム開発に従事する技術者(技術者の有する能力等によりS、A、B及びCの4ランクに区分)のランク別月額単価をランク別工数の構成比率により加重平均して算出されたものである。そして、この業務システムの開発時のランク別工数の構成比率においては、高度な専門知識を必要とするシステム開発の分析、設計等の能力を有している上位ランク(S及びAランク)の技術者の比率が50%となっていた。
協会は、業務システムを安定的に運用し、保険給付業務等の円滑な実施を図るため、業務システムの運用、障害対応等の維持管理業務(以下「維持管理業務」という。)について、毎年度、仕様書を作成してNTTデータに随意契約により請け負わせている(以下、維持管理業務に係る契約を「維持管理業務契約」という。)。そして、22、23両年度に締結した維持管理業務契約は、表1 のとおりとなっている。
表1 平成22、23両年度に締結した維持管理業務契約
(単位:千円)
年度 | 契約年月日 | 契約期間 | 契約金額 |
平成22年度上期 | 22年4月1日 | 22年4月〜9月 | 499,999 |
22年度下期 | 22年10月1日 | 22年10月〜23年3月 | 477,477 |
23年度 | 23年4月1日 | 23年4月〜24年3月 | 849,870 |
計 | 1,827,346 |
協会は、維持管理業務契約に係る予定価格の積算について、NTTデータから毎月提出を受けている作業報告書に記載されている維持管理業務の実績工数及びNTTデータから徴した契約期間における維持管理体制を踏まえた必要見込工数を基に、契約期間の工数を算出し、これに技術者1人当たりの月額単価(以下「維持管理単価」という。)を乗ずるなどして予定価格を積算している。
本院は、経済性等の観点から、維持管理業務契約に係る予定価格の積算が適切に行われているかなどに着眼して、22、23両年度の維持管理業務契約3件(契約金額計18億2734万余円)を対象として、協会において、契約書、仕様書、見積書等の書類を確認するなどして会計実地検査を行い、また、維持管理業務の請負人であるNTTデータにおいて、上記3件の契約に関する維持管理業務の実態について関係資料により会計実地検査を行った。
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
協会は、維持管理業務契約に係る予定価格の積算に際し、開発単価の145万円を基にNTTデータと価格交渉を行い、22年度の2件の契約及び23年度の当初契約に係る維持管理単価を143万円とし、23年度の変更契約に係る維持管理単価を142万円としていた。そして、前記のとおり、過去の実績工数やNTTデータから徴した必要見込工数を基に契約期間の工数を算出し、これに上記の維持管理単価を乗ずるなどして、表2
のとおり、予定価格を積算していた。
年度 | 単価 | 工数 | 予定価格 | |
単価×工数 | 左の税込額 | |||
平成 22年度上期 |
千円 1,430 |
人月 333 |
千円 476,190 |
千円 499,999 |
22年度下期 | 1,430 | 318 | 454,740 | 477,477 |
23年度(23年4月〜9月) | 1,430 | 288 | 411,840 | 432,432 |
23年度(23年10月〜24年3月) | 1,420 | 282 | 400,440 | 420,462 |
計 | 1,743,210 | 1,830,370 |
しかし、維持管理業務の中には、単純な問合せへの対応、データの抽出等、主に下位ランク(B及びCランク)の技術者が行う業務であって、業務システムの開発時には行われていなかった業務が含まれていた。
そして、22、23両年度のNTTデータにおける実際の維持管理体制等についてみたところ、NTTデータは、仕様書の業務内容に応じた体制表を作成して、この体制表により維持管理業務を実施していた。この体制表には各技術者の役割が明記されていて、技術者は原則として専任となっていることから、技術者をランク別(SからCランク)に区分することが可能となっていた。
そこで、実際の維持管理体制に基づいて技術者のランク別に工数の構成比率を算出したところ、表3
のとおりとなり、業務システムの開発時と比較すると、月額単価がより低額である下位ランクの技術者の比率が高くなっており、業務システムの開発時のように高度な専門知識を有している上位ランクの技術者が多い構成比率とはなっていなかった。
技術者のランク | 業務システムの開発請負契約 | 維持管理業務契約 | |||||||
平成22年度上期 | 22年度下期 | 23年度(23年4月〜9月) | 23年度(23年10月〜24年3月) | ||||||
比率 | 人数 | 比率 | 人数 | 比率 | 人数 | 比率 | 人数 | 比率 | |
S | 20.0% | 5 | 7.58% | 5 | 7.69% | 7 | 12.50% | 6 | 11.32% |
A | 30.0% | 16 | 24.24% | 14 | 21.54% | 13 | 23.21% | 14 | 26.42% |
B | 30.0% | 24 | 36.36% | 36 | 55.38% | 23 | 41.07% | 21 | 39.62% |
C | 20.0% | 21 | 31.82% | 10 | 15.38% | 13 | 23.21% | 12 | 22.64% |
計 | 100.0% | 66 | 100% | 65 | 100% | 56 | 100% | 53 | 100% |
したがって、維持管理業務契約に係る予定価格の積算に当たっては、開発単価を参考として維持管理単価を算出しこの単価により積算するのではなく、技術者のランク別月額単価を仕様書の業務内容に応じた技術者のランク別工数の構成比率を反映させて積算する必要があると認められた。
このように、維持管理業務契約に係る予定価格の積算に当たり、仕様書の業務内容に応じた技術者のランク別工数の構成比率によることなく維持管理単価を定めてこの単価により積算している事態は適切とは認められず、改善の必要があると認められた。
上記のことから、技術者のランク別月額単価を実際の維持管理業務の体制表を基にした技術者のランク別工数の構成比率により加重平均した1人当たりの月額単価を算出し、これを維持管理単価として必要工数に乗ずるなどして、前記3契約に係る予定価格を修正計算すると、計17億6555万余円となり、前記の予定価格計18億3037万余円を約6480万円低減できたと認められた。
このような事態が生じていたのは、協会において、維持管理業務契約に係る予定価格の積算に当たり、維持管理単価を仕様書の業務内容に応じたものとすることの重要性に対する認識が十分でなかったことなどによると認められた。
上記についての本院の指摘に基づき、協会は、24年4月から、維持管理業務契約の予定価格について、仕様書の業務内容に応じた技術者のランク別工数の構成比率を反映させて積算することとする処置を講じた。