科目 | 経常費用 |
部局等 | 独立行政法人宇宙航空研究開発機構 |
契約の概要 | 人工衛星等の研究、開発等について請け負わせるなどするもの |
契約の相手方 | 三菱電機株式会社 |
契約件数 | 613件(平成19年度〜23年度) |
上記に係る支払額 | 1657億9478万円(背景金額) |
(平成24年10月25日付け 独立行政法人宇宙航空研究開発機構理事長宛て)
標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり意見を表示する。
記
貴機構は、三菱電機株式会社(以下「三菱電機」という。)との間で契約を締結して、人工衛星等の研究、開発等を行っている。これらの契約に係る平成19年度から23年度までの間に履行の全部又は一部を完了した契約は計613件で、その支払額は、計1657億9478万余円となっている(表 参照)。貴機構は、人工衛星等の研究、開発等については、その仕様が複雑かつ高度であり、契約相手方が限定されるとして多くの契約を随意契約にしており、契約締結時に契約金額が確定する確定契約が契約件数の大部分を占めているものの、支払額でみると、契約締結時に契約金額を確定しがたいとして、契約締結時の契約金額を上限金額とし、実際に要した額を基に契約金額を確定する上限付概算契約にしているものが三菱電機に対する支払額で計917億4561万余円(9件)と全契約の支払額の5割を超えている。
(単位:件、千円)
年度 | 件数 | 金額 |
平成19 | 157(5) | 37,038,987(20,523,732) |
20 | 132(2) | 42,015,776(24,200,907) |
21 | 130(0) | 39,851,550(22,536,877) |
22 | 106(2) | 38,723,087(22,542,097) |
23 | 88(0) | 8,165,384(1,941,996) |
計 | 613(9) | 165,794,786(91,745,611) |
注(1) | 契約実績は、平成19年度から23年度までの間に履行の全部又は一部を完了した契約の実績であり、1件300万円以上のものである。 |
注(2) | 括弧書きは、上限付概算契約に係る分で内数である。 |
注(3) | 単位未満を切り捨てているため、金額の合計と計欄は一致しない。 |
そして、貴機構は、確定契約、上限付概算契約のいずれの場合においても、予定価格の積算に当たって、市場価格が形成されていないものについては、契約事務実施要領(平成15年契約部長通達第15-1号。以下「実施要領」という。)に基づき、原価要素別に費用を積み上げて計算する原価計算方式を採用することとしており、契約を予定する相手方等から見積書を徴してこれを参考に必要に応じて査定を行うなどしている。そして、原価要素のうち、直接労務費と製造間接費を合わせた加工費については、工数(製造等に直接従事した作業時間)に加工費率(1時間当たりの加工費)を乗じて算出している。
貴機構は、予定価格の積算に当たって、原価計算方式を採用し契約を予定する相手方等から見積書を徴してこれを参考にして必要に応じて査定を行うものについては、契約書等に基づき、見積書等の適正性を契約相手方の会計制度等の面から確認するために制度調査を実施しており、その具体的な実施方法等については、実施要領等に定めている。
また、貴機構は、上限付概算契約としている契約については、契約書等に基づき、実際に要した経費を確認する原価監査を実施しており、その具体的な実施方法等については、宇宙開発事業団(15年10月に貴機構が業務を承継。以下同じ。)が定めた原価監査事務取扱規則(昭和55年55達第22号)等を準用することとしている。
貴機構は、24年1月に、三菱電機から、貴機構と締結した契約に係る工数について、他の契約の工数を付け替えるなどして、貴機構に対して申告する工数を水増ししたことによる過大請求の事実があった旨の報告を受けた。このため、貴機構は、三菱電機に対して当分の間競争参加資格の停止を行うとともに、契約書等に基づき、過大請求額の算定を行うための特別調査を実施しており、この調査は現在も継続中である。
宇宙開発事業団では、10年に過大請求事案が発覚した。これは、上限付概算契約において工数を付け替えるなどすることによって水増し請求が行われたものであり、同事業団は、この事案を踏まえて、以下の再発防止策を講ずるなどした。
ア 二重帳簿の早期発見と抑止に努めるため、調査項目を増やすなど制度調査(従来のシステム監査を含む。以下同じ。)を充実・強化することとした。
イ 期中の実績原価を把握して、過大請求を防止するため、期中原価監査を実施することとした。
ウ 制度調査、原価監査等を専門に担当する部署を設置し、公認会計士の支援を受けることなどにより監査等の体制を強化することとした。
エ 正規の工数等を確認するために必要となる伝票類等の関係資料を原価監査完了の翌年度末まで保存することを契約相手方に契約上義務付けるとともに、不適切な資料を提出するなどした場合には、過大請求額と同額の違約金を徴するなどの契約上の制裁措置を講ずるなどして、関係資料の保存及び当該資料の信頼性確保を図ることとした。
文部科学省宇宙科学研究所(15年10月に貴機構が業務を承継)では、15年に過大請求事案が発覚した。これは、確定契約において見積書の金額を過大に計上したことによって過大な予定価格を算定させ、その結果、契約金額が過大になったものである。承継後の貴機構は、この事案を踏まえた再発防止策として、過去の契約の原価に関する資料を契約相手方に開示させ、それを見積りのチェックに反映させることなどとした。
本院は、合規性、経済性等の観点から、三菱電機の過大請求はどのように行われていたのか、特に工数の付替えの方法はどのようなものであったのか、貴機構が講じてきた過大請求事案に対する再発防止策は有効に機能していたか、特に制度調査及び原価監査は適切に実施されていたかなどに着眼して検査した。
検査に当たっては、貴機構が三菱電機と締結した前記の契約計613件、支払額計1657億9478万余円を対象として、貴機構筑波宇宙センター及び東京事務所において、実績原価報告書等の関係書類を確認するなどの方法により会計実地検査を行った。また、三菱電機に赴いて、精算関係資料や社内の調査資料を確認したり、関係者に説明を求めたり、製造現場を確認したりなどする方法により会計実地検査を行った。
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
三菱電機は、貴機構と締結した大半の契約において、その契約金額に基づき損益管理等を行うための指標として目標工数を設定していた。
そして、確定契約、上限付概算契約のいずれの場合においても、契約金額の確定時に契約金額の減額や返納を避けるなどの目的で、実績工数が目標工数を下回った場合には、その下回った分について、実績工数が目標工数を上回った他の契約から実績工数の一部を付け替えるなどしていた。
これらの工数の付替えについては、三菱電機は、作業報告データ等の工数データを上書きして修正するための専用端末(以下「工数修正専用端末」という。)を使用して、課員が入力した作業報告データを承認している課長が、承認後に当該データを修正したり、課員に指示して目標工数を実績工数として計上させたりなどする方法により行っていたとしている。そして、このような方法による付替えは、貴機構と締結した契約との間だけでなく、その一部は人工衛星等の研究、開発等を行う宇宙部門における他の機関との契約、防衛装備品等の製造等を行う防衛部門の契約及び民需部門の契約との間でも行われており、遅くとも1990年代から行われていたとしている。
なお、実際の作業時間が記録された工数データは、元々作成されていなかったり、廃棄されていたり、上書き修正されていたりしていたとしている。また、上書き修正されていない工数データが一部保管されていたとしているが、これについても、課長の指示により、元々実際の工数が入力されていなかったことなどから、実際の工数を正確に示しているものではなかった。
ア 制度調査の実施状況
貴機構は、前記のとおり、予定価格の積算に当たって、原価計算方式を採用し契約を予定する相手方等から徴した見積書を参考にしているものについては、見積書等の適正性を契約相手方の会計制度等の面から確認するために制度調査をおおむね5年に1度の頻度で、必要があると認める場合には公認会計士を同行させて実施することとしており、三菱電機に対しては、直近では、21年度に公認会計士を同行させて実施している。
そして、貴機構は、過去の過大請求事案を踏まえるなどして、制度調査について、従来のシステム監査の調査項目を増やしたり、契約書において制度調査の受入義務を定めたりすることにより、契約相手方の社内規程類並びに原価計算制度及び見積手順・手法その他原価計算方式に関連する内部統制の整備及び運用状況等を確認したり、作業現場に赴いて作業の実態、工数計上の手続等を実地に確認する調査(以下「フロアチェック」という。)を行ったりなどして原価計算システムの適正性の確認を行っている。
しかし、貴機構は、三菱電機に対する制度調査の実施に当たっては、契約書、実施要領等において、あらかじめ日時、場所等調査を行う上での必要事項を文書により通知することとされていること、効率的に調査が実施できることなどから、三菱電機の都合等を考慮して、あらかじめ調査の実施時期や日程について調整した上で、更に三菱電機に赴くなどして、出席者、聴取内容の概要、事前提出資料の内容等の制度調査の進め方について説明して、調査実施の数箇月前に調査の実施方法の概要を明らかにしていた。
このように、貴機構は、公認会計士の意見も参考にするなどして、その都度、工夫・改善を行ってはいるものの、上記のとおり、制度調査の実施方法の概要を事前に明らかにしていたことから、三菱電機は、工数の付替えが行われている事態が発覚しないよう、フロアチェックが行われる場合には、次のような対応を執っていたとしている。
(ア) 入念な事前準備を行い、当日は、準備していた作業についてのみ作業時間を工数計上する手続を実施して見せたり、聴取の対象者については貴機構に選定させるものの、不用意な回答を防ぐために管理者等が主体的に対応するようにしたりなどしていた。
(イ) 損益計画、効率化及び工程に関する質問につながるような掲示物は、あらかじめ撤去していた。
(ウ) 予定外の調査や行動が行われないように調査の日程を調整し、経理担当者や営業担当者が随行するなどして、この調査の日程に沿った調査になるよう誘導していた。
そして、貴機構は、三菱電機との事前の調整や調査の日程に従って制度調査を実施し、原価計算システムの適正性を確認したとしていた。
また、貴機構は、16年度に、工数操作が行われているとの情報を受けて三菱電機に対する制度調査を実施したが、三菱電機が次のような対応を執っていたため、実態を把握できなかったとしている。
(ア) 工数の付替えを行う工数修正専用端末の存在を隠蔽していた。
(イ) 貴機構が、目標工数と実績として申告された工数がほぼ一致するものが複数あって不自然ではないかとの疑問を呈した際には、これが工数の付替えの結果によるものであったにもかかわらず、目標工数が極めて精確な見積方法で算出されていることによるものであるなどとする説明をしていた。
そして、三菱電機は、21年度の制度調査の際も、フロアチェックに当たって、前記のような対応を執るなどして、その後も引き続き工数の付替えを行っていた。
このように、三菱電機は、10年と15年に他社において過大請求事案が発覚し、貴機構等が再発防止に向けてその措置を講じたにもかかわらず、工数の付替えを継続的に行っており、原価計算方式に関連する内部統制が十分機能していない状況であった。
イ 原価監査の実施状況
貴機構は、契約の履行後に実際に要した経費を確認するなどして契約金額を確定する上限付概算契約については、原価監査事務取扱規則に基づき、実績原価等の適否の審査を行い、契約金額を確定するための監査を実施する旨を契約相手方に連絡した上で、原価監査を実施している。
そして、貴機構は、過去の過大請求事案を踏まえるなどして、期中原価監査を実施したり、関係資料を原価監査完了の翌年度末まで保存しなければならないこと及び虚偽の資料を提出した場合には違約金を支払わなければならないことを契約書に明記したりしている。三菱電機に対しては、前記のとおり、上限付概算契約に係る支払額が多額に上っていることもあり、直近では、23年度に公認会計士を同行させて原価監査を4契約について実施している。
しかし、貴機構は、三菱電機に対する原価監査の実施に当たって、工数計上の方法については、経理担当者に説明を求めるなどしたものの、実際に工数計上を行った作業員への聴取を行っておらず、事実確認については、三菱電機が示した関係書類等の照合にとどまっていた。このような方法では、契約相手方が工数の付替え等を隠蔽しようとする限り、その発見は困難と思料される。また、今回の工数の付替えのように、他の契約の実績工数が付け替えられ、その改ざんされたデータに基づき関係書類が作成されていて、他に正規の関係書類が存在しない場合(一重帳簿)には、たとえ関係資料が保存されていても、当該資料の信頼性が確保されていないことから、関係書類等の照合では工数の付替え等は発見できなかったと認められる。
なお、貴機構は、今回の過大請求事案を踏まえて、24年3月以降に締結した上限付概算契約から、違約金の額を過大請求額の2倍の額とすることとするなどしている。
このように、貴機構において、過去の過大請求事案を踏まえるなどして、制度調査の充実・強化を図ったり、関係資料の保存を義務付けたりするなどの再発防止策を講じてきたとしているにもかかわらず三菱電機による過大請求事案が発生していて、制度調査及び原価監査が、作業現場や工数計上の実態等の把握が十分に行われていないなど有効に機能していない事態は適切ではなく、改善の要があると認められる。
このような事態が生じているのは、貴機構において、制度調査及び原価監査について、三菱電機との事前の調整に基づいて実施していたり、事実確認が関係書類等の照合にとどまっていたりなどしていて、制度調査及び原価監査が有効に機能するための実施体制、実施方法に関する検討が十分でなかったことなどによると認められる。
工数の付替え等による過大請求事案の再発防止のためには、工数の付替え等の発生原因、背景等を究明し、これに対する有効な対策を講ずることが肝要である。そのためには、制度調査及び原価監査が有効に機能して、過大請求の抑止と早期発見がなされることが必要である。
ついては、貴機構において、制度調査及び原価監査をより有効に機能させるなどして、予算の執行のより一層の適正化を図るよう、次のとおり意見を表示する。
ア 制度調査について
(ア) 抜き打ち調査を実施できるように実施要領等を改正するとともに、調査が効果的に実施できるような体制を整備し、また、調査に当たっては、自ら調査項目等を選定するとともに、適宜、調査項目等を変更し、直ちに担当者への聴取を実施するなどして、形式的な調査にならないよう努め、牽(けん)制効果が十分に働く実施方法に改めること
(イ) フロアチェックを行う場合には、想定された作業員等にのみ質問を行うのではなく、想定外の作業員等に対しても質問を行うなどして作業実態等を把握するようその充実・強化を図ること
(ウ) 契約相手方の原価計算方式に関連する内部統制の整備及び運用状況について適切に調査して把握するとともに、契約相手方の内部統制が十分に機能するよう必要に応じて適切な指導を行うなどすること
イ 原価監査について
(ア) 抜き打ち監査を実施できるように原価監査事務取扱規則を改正するなどするとともに、監査が効果的に実施できるような体制を整備し、また、契約相手方が示す事項にとどまることなく様々な視点で事実確認を行うなどして、形式的な監査にならないよう努め、牽制効果が十分に働く実施方法に改めること
(イ) 関係書類等の照合にとどまることなく、直接担当者に対して作業実態に関する質問を行うなどして事実の把握及び確認に努めること