科目 | (宿舎等勘定) 未収金、雑益 等 | ||
部局等 | 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構本部、7都道府県職業 | ||
訓練支援センター(平成23年9月30日以前は独立行政法人雇用・能 | |||
力開発機構本部、7都道府県センター) | |||
貸与契約の解除手続の概要 | 5か月分の家賃等が滞納となった場合に、家賃等滞納者に対して、指 | ||
定の納入期限までに滞納家賃等の支払がなければ、雇用促進住宅の貸 | |||
与契約を解除する効果が生ずる催告書を送付するもの | |||
損害金の概要 | 家賃等滞納者が貸与契約の解除後に雇用促進住宅を明け渡さない場合 | ||
に発生する不法入居による損害金(家賃の2倍相当額)等 | |||
7県に係る5か月分以上の滞納家賃等 | 1,180件 | 3億5962万余円 | (平成22年度末) |
上記のうち通達に定める貸与契約の解除手続を適正に行っていないもの(1) | 1,034件(1,034戸分) | 3億4259万円 | |
7県に係る損害金の発生額 | 855件 | 5億7805万余円 | (平成22年度末) |
上記のうち損害金の未収額(2) | 855件 (855戸分) | 5億1132万円 | |
(1)及び(2)の計 | 1,889件(1,171戸分) | 8億5392万円 |
(平成23年12月26日付け 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構理事長宛て)
標記について、会計検査院法第34条の規定により、下記のとおり是正の処置を要求し及び是正改善の処置を求める。
記
貴機構は、独立行政法人雇用・能力開発機構法を廃止する法律(平成23年法律第26号。以下「廃止法」という。)に基づき、平成23年10月1日に解散した独立行政法人雇用・能力開発機構(以下「旧機構」という。)が実施していた雇用促進住宅(公共職業安定所の広域職業紹介により移転就職する者に貸与するための宿舎をいう。以下同じ。)の管理運営等に係る業務を承継して実施しており、承継した雇用促進住宅は1,333住宅、123,271戸となっている。
旧機構は、雇用促進住宅運営要領(平成16年要領第46号。以下「要領」という。)等に基づき、雇用促進住宅の貸与契約を締結した入居者から、家賃については入居日から明渡し日までの期間について、共益費については入居日の属する月から明渡し日の属する月の前月までの期間について、それぞれ各月分を前月末(新規に入居する者の入居日の属する月分及び翌月分については入居日。以下「支払期限」という。)までに徴収することとしていた。また、入居者が雇用促進住宅の敷地内に設置された駐車場を利用している場合は、駐車料金(以下、家賃、共益費及び駐車料金を合わせて「家賃等」という。)を、家賃の徴収の取扱いに準じて徴収することとしていた。
そして、旧機構は、雇用促進住宅の管理運営等に係る業務のうち、貸与契約の締結・解除、家賃等の徴収・督促、雇用促進住宅の明渡しに係る訴訟等に係る業務を、財団法人雇用振興協会(以下「受託者」という。)に委託して実施していた。
ア 家賃等の滞納
前記のとおり、雇用促進住宅の入居者は、要領等に基づき、各月分の家賃等を支払期限までに支払うこととされているが、当該入居者が支払期限を経過しても家賃等を支払わなかった場合には滞納(以下、滞納となった家賃等を「滞納家賃等」という。)となる。そして、旧機構の22年度末現在における滞納家賃等の残高は、19億3838万余円となっていた。なお、23年10月1日に貴機構が承継した滞納家賃等の残高は、21億6936万余円となっている。
イ 貸与契約の解除手続及び損害金の概要
旧機構は、緊急一時入居者(注1) 等を除く雇用促進住宅の入居者が家賃等を滞納した場合に、受託者が旧機構の代理人として、「雇用促進住宅の賃貸料等滞納者に対する督促等手続」(平成17年4月28日付け17雇能理発第28号。以下「通達」という。)等に基づき、次のとおり貸与契約の解除手続等を行うこととしていた(図1 参照)。
〔1〕 5か月分の家賃等が滞納となった場合に、受託者は、家賃等を滞納している入居者(以下「家賃等滞納者」という。)に対して、滞納家賃等の支払を求めるなどの催告書を送付する。この際、当該催告書に定める納入期限(以下「指定の納入期限」という。)は、同催告書が家賃等滞納者に到達した日の翌日から起算して14日目の日とする。同催告書は、家賃等滞納者が指定の納入期限までに滞納家賃等の全額を支払わない場合に、指定の納入期限の経過をもって貸与契約を解除する効果が生じるものとなっている。
〔2〕 指定の納入期限までに滞納家賃等の全額の支払がない場合に、受託者は、家賃等滞納者に対して、貸与している雇用促進住宅の明渡し、滞納家賃等の支払並びに貸与契約の解除日の翌日から明渡し日までの間等の不法入居による損害金(家賃の2倍相当額を徴収するもの)及び駐車場の不法利用による損害金(駐車料金相当額を徴収するもの。以下、不法入居による損害金と合わせて「損害金」という。)の支払を請求する催告書(以下「明渡し等催告書」という。)を送付する。
〔3〕 家賃等滞納者が明渡し等催告書を受領したにもかかわらず不法入居している雇用促進住宅を明け渡さない場合に、受託者は、当該家賃等滞納者に対して雇用促進住宅の明渡し並びに滞納家賃等及び損害金の支払を請求する訴訟を提起することを旧機構の都道府県センター(23年10月1日以降は貴機構の都道府県職業訓練支援センター。以下「センター」という。)所長に依頼し、各センター所長は、当該訴訟に関する事務を弁護士に委任するなどの手続を行う。
また、各センター所長は、当該訴訟に係る滞納家賃等及び損害金の管理状況を記録する帳簿(以下「管理状況記録簿」という。)を作成し、判決後に滞納家賃等及び損害金の支払を受けた場合は、その都度、支払の事実を記録して、滞納家賃等及び損害金を適切に把握し管理する。
〔4〕 判決が下されたにもかかわらず家賃等滞納者が不法入居している雇用促進住宅を明け渡さない場合に、受託者は、強制執行の申立てを行うことを各センター所長に依頼し、各センター所長は不法入居の解消を図る。
〔5〕 受託者は、家賃等滞納者ごとに督促事跡表を作成し、上記の〔1〕 から〔4〕 までの催告書及び明渡し等催告書の送付、訴訟及び強制執行の経緯や結果等を、その都度、督促事跡表に記録する。
図1 貸与契約の解除手続及び損害金の発生の流れ
旧機構は、このように雇用促進住宅の管理運営等に係る業務を実施していたが、同業務を承継した貴機構においても、現在、旧機構と同様の方法で同業務を実施している。
前記のとおり、滞納家賃等の残高は多額に上っていたため、家賃等の滞納による貸与契約の解除に伴い発生する損害金も多額になると思料された。
そこで、本院は、合規性等の観点から、通達に定める貸与契約の解除手続が適正に行われているか、損害金の発生額及び未収額が適切に把握し管理されているかなどに着眼して、7センター(注2)
が業務担当区域とする7県(注3)
に所在する雇用促進住宅に係る22年度末現在における5か月分以上滞納となっているなどの家賃等(以下「7県に係る5か月分以上の滞納家賃等」という。)1,180件、3億5962万余円を対象として、旧機構本部、7センター及び受託者において、督促事跡表等の関係書類により会計実地検査を行うとともに、7県に係る損害金等について報告を求め、集計するなどの方法により検査を行った。
(注2) | 7センター 愛知、岡山、広島、山口、福岡、佐賀、長崎各センター
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(注3) | 7県 愛知、岡山、広島、山口、福岡、佐賀、長崎各県
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検査したところ、次のような事態が見受けられた。
前記のとおり、通達によると、5か月分の家賃等が滞納となった場合に、家賃等滞納者に対して催告書を送付し、指定の納入期限までに滞納家賃等の全額の支払がなければ、貸与契約を解除することとされている。なお、貸与契約の解除に当たり催告書を送付する滞納月数を5か月分としているのは、旧機構において、判例等を考慮した結果であるとしていた。
そこで、貸与契約の解除手続の実施状況を検査したところ、図2
のとおり、7県に係る5か月分以上の滞納家賃等1,180件、3億5962万余円のうち1,034件、3億4259万余円については、通達に定める貸与契約の解除手続を適正に行っておらず、5か月分以上の家賃等が滞納となっていたのに解除手続を行っていないため損害金が発生しないことになっていたり、6か月分以上の家賃等が滞納となってから解除手続を行っているため損害金の発生額が過小に算定されていたりしていた。そして、この中には、12か月分以上の家賃等が滞納となってから解除手続を行っているものも332件(これに係る滞納家賃等1億6382万余円)見受けられた。
ア 損害金の発生額及び未収額の把握・管理状況
前記のとおり、貸与契約の解除日の翌日から損害金が発生することになるが、旧機構は、滞納家賃等については賃貸台帳等で債権として管理していたものの、損害金については、これを家賃等滞納者等から徴収することが困難であるとして債権と認識しておらず、支払があった損害金の収納済額を賃貸台帳に記録しているのみであった。このため、旧機構は、家賃等滞納者等ごとに損害金の発生額及び未収額を把握しておらず、その結果、損害金全体の発生額及び未収額も把握し管理していない状況となっていた。しかし、損害金は、金銭の給付を受けることを目的として家賃等滞納者等に対して有する権利であり、損害金についても滞納家賃等と同様に債権として管理を行う必要がある。
そして、上記のとおり、旧機構においては損害金の発生額及び未収額を把握し管理していなかったことから、それぞれの金額を本院で算定したところ、次表
のとおり、7センターが業務担当区域とする7県に所在する雇用促進住宅に係る22年度末までの損害金(以下「7県に係る損害金」という。)の発生額は855件、5億7805万余円、未収額は855件、5億1132万余円となっていた。
なお、支払のあった損害金の収納済額は、滞納家賃等に係る電子データと共に賃貸台帳に記録することになっているが、5年の消滅時効が成立した滞納家賃等に係る電子データは賃貸台帳から削除することになっていたことから、17年度以前に雇用促進住宅を明け渡した者に係る損害金の未収額については算定することができなかった。
22年度末までに支払われた損害金の収納済額 | 22年度末現在の損害金の未収額 | ||||
平成22年度末までの損害金の発生額 | うち判決で請求が認められた損害金の発生額 | ||||
855件 |
(A) 578,050千円 |
275件 |
311,309千円 |
(B) 66,721千円 |
(A−B) 511,329千円 |
また、前記のとおり、各センター所長は管理状況記録簿を作成し、判決後に損害金の支払を受けた場合は、その都度、支払の事実を記録して、損害金を適切に把握し管理することとされている。
しかし、7県に係る損害金のうち判決で請求が認められた損害金の発生額は、前記の表のとおり、275件、3億1130万余円となっていたが、7センターの各所長のいずれもが管理状況記録簿を作成していなかった。これについて、旧機構は、7県に係る損害金については、受託者が独自に作成している滞納額一覧表等をもって管理状況記録簿に代えているとしていた。しかし、この滞納額一覧表を確認したところ、貸与契約の解除日の翌日から訴訟の提起時までの分に係る損害金の額を算定しているだけで、訴訟の提起後については継続して算定していないため、損害金の発生額の総額を把握することができないものとなっていた。
このように、損害金については、その全体の発生額及び未収額を把握し管理していないだけでなく、判決で請求が認められた損害金についても十分に把握し管理していない状況となっていた。
上記の事態について、事例を示すと次のとおりである。
福岡県に所在する雇用促進住宅A宿舎の入居者Bが、平成20年10月分以降の6か月分の家賃等(月額43,400円)を滞納したことから、受託者は、Bに対して催告書を送付した。しかし、Bは、指定の納入期限までに滞納家賃等の全額を支払わなかったため、指定の納入期限の経過をもって21年4月に貸与契約は解除された。これに伴い、Bは雇用促進住宅の明渡し並びに滞納家賃等及び損害金の支払をしなければならないが、これらを履行しなかったため、旧機構(福岡センター)は、22年3月に訴訟を提起した。その後、Bによる控訴及び上告を経て、23年3月に、明渡し及び支払の請求を認める判決が確定し、同月末に、Bは同宿舎を明け渡した。
しかし、旧機構は、損害金の発生額について、受託者が独自に作成している滞納額一覧表により、訴訟の提起時までの額634,060円を把握しているのみで、Bの明渡し日をもって確定した損害金の発生額の総額2,143,730円を把握しておらず、また、これを債権として管理していなかった。
イ 損害金の請求等の実施状況
前記のとおり、指定の納入期限までに滞納家賃等の全額の支払がない場合に、家賃等滞納者に対して明渡し等催告書を送付して、損害金の支払を請求することとされている。しかし、7県に係る損害金855件のうち6割を超える567件については、明渡し等催告書が送付されていない状況となっていた。
また、損害金は私法上の債権に当たるため、支払を請求する訴訟を提起するなどの時効中断の措置を執らないと、10年で時効により消滅することとなるが、通達には損害金の時効中断の措置を執るために必要な手続について明確に定められていなかった。
そこで、損害金の時効中断の措置の実施状況を検査したところ、7県に係る損害金855件のうち6割を超える539件については、時効中断の措置を執っていない状況となっていた。
上記ア及びイの事態は、損害金の未収額が増加したり、時効により消滅する損害金が増加したりすることにつながるおそれがあるため、適切とは認められない。
なお、(1)の事態に係る滞納家賃等の件数1,034件(1,034戸分)と(2)の事態に係る損害金の未収額の件数855件(855戸分)の計は、1,889件(1,171戸分)となる。
以上のように、通達に定める貸与契約の解除手続を適正に行っていなかったり、損害金の発生額及び未収額を適切に把握し管理していなかったりなどしている事態は適切とは認められず、是正及び是正改善を図る要があると認められる。
このような事態が生じているのは、旧機構において、次のことによると認められる。
ア 通達に定める貸与契約の解除手続を適正に行うことについての受託者に対する指導が十分でないこと
イ 損害金の発生額及び未収額の適切な把握・管理や損害金の請求等の必要性及び重要性についての認識が十分でないこと
ウ 損害金の債権管理簿や時効中断の措置等の債権管理の事務に関する具体的な手続の整備が十分でないこと
前記のとおり、貴機構は、廃止法の施行に伴い、旧機構が実施していた雇用促進住宅の管理運営等に係る業務に関する一切の権利及び義務を承継しており、現在、旧機構と同様の方法で同業務を実施している。
そして、今回、会計実地検査の対象とした7県に係る前記の事態は、他の都道府県においても同様となっていると旧機構から報告を受けているところである。
ついては、貴機構において、損害金の発生額及び未額を適切に把握し管理するとともに、家賃等滞納者等に対して損害金の請求等を行い、また、判決で請求が認められた損害金を管理状況記録簿に記録するよう是正の処置を要求し、及び通達に定める貸与契約の解除手続を適正に行うとともに、貸与契約の解除に伴い発生する損害金を債権として適切に把握し管理するよう、次のとおり是正改善の処置を求める。
ア 通達に定める貸与契約の解除手続を適正に行うよう雇用促進住宅の管理運営等に係る業務の委託を受けた者に対して指導すること
イ 雇用促進住宅に係る損害金の債権管理簿や時効中断の措置等の債権管理の事務に関する具体的な手続を整備するとともに、雇用促進住宅の管理運営等に係る業務の委託を受けた者等に対してこれを十分に周知し、これに基づいて適切に事務を行うこと