科目 | (款)鉄道事業営業費 | |
(款)建設勘定 等 | ||
部局等 | 北海道旅客鉄道株式会社本社 | |
定期検査の概要 | 直営及び請負契約により、工場、運転所等において実施基準等に基づいて車両の各種装置の作用及び機能等について交番検査等を実施し、検査の結果を記録するとともに車両システムにデータ入力するなどしているもの | |
契約名 | 車両関係工事 | |
契約数 | 220契約 | |
契約の概要 | 工場等において、定期検査等で取り外した車両部品の検査修繕を実施するもの | |
契約 | 平成23年4月 随意契約(単価契約) | |
請負人 | 札幌交通機械株式会社等10社 | |
交番検査を実施した延べ車両数 | 3,926両(平成23年度) | |
上記のうち実施基準等に基づいて実施していない項目があるなどしている交番検査の延べ車両数 | 2,302両 | |
直営による交番検査に係る費用 | 8億9761万余円 | (平成23年度) |
上記のうち実施基準等に基づいて実施していない項目があるなどしている額 | 3億4693万円 | |
請負修繕部品の検査修繕に係る支払額 | 11億7705万余円 | (平成23年度) |
上記のうち報告書等の作成提出等がされていないなどしている契約に係る支払額 | 2億6851万円 | |
有効に活用できない状況になっている車両システムに係る費用 | 2億4535万円 | (平成20年度〜23年度) |
鉄道車両の定期検査及び検査修繕について
(平成24年10月26日付け 北海道旅客鉄道株式会社代表取締役社長宛て)
標記について、下記のとおり、会計検査院法第36条の規定により改善の処置を要求し、及び同法第34条の規定により是正改善の処置を求める。
記
貴会社は、「鉄道営業法」(明治33年法律第65号)、「鉄道に関する技術上の基準を定める省令(」平成13年国土交通省令第151号。以下「技術基準」という。)及び「施設及び車両の定期検査に関する告示(」平成13年国土交通省告示第1786号。以下「告示」という。)に基づき、保有して運行している鉄道車両(以下「車両」という。)の定期検査を実施することとされている。
そして、貴会社は、技術基準に基づき、気動車(ディーゼルカー)、電車等の車両の種類ごとに、検査周期等の技術基準の実施に関する基準として、「内燃動車整備心得(実施基準)」(平成14年社達第100号)等(以下「実施基準」という。)を定めている。また、実施基準及び「車両管理規程」(昭和62年社達第23号)に基づき、定期検査の対象箇所等を「気動車整備基準(規程)」(昭和62年運達第21号)等(以下「整備基準」という。)により定めている。
さらに、貴会社は、車両管理規程及び整備基準に基づき、定期検査の作業の手順、技術的数値等について、「気動車整備標準」(昭和62年制定)等(以下「整備標準」という。)を定めている。
貴会社は、告示に従い、実施基準において、気動車、電車等の車両の種類ごとに、車両の定期検査の種類及び周期について定めており、気動車の場合を例にすると、次のとおり定めている。
ア 交番検査は、走行装置、動力発生装置、動力伝達装置、電気装置、ブレーキ装置、車体等の状態、作用及び機能並びに電気部分の絶縁抵抗について在姿状態で定期検査を行うものであり、90日を超えない期間ごとに行うこととする。
イ 要部検査は、動力発生装置、動力伝達装置、走行装置、ブレーキ装置、その他の重要な装置の主要部分について定期検査を行うものであり、48か月又は走行距離が50万㎞を超えない期間のいずれか短い期間ごとに行うこととする。
ウ 全般検査は、気動車の主要部分を取り外して、車両全般について定期検査を行うものであり、96か月を超えない期間ごとに行うこととする。
そして、貴会社は、実施基準、整備基準及び整備標準等(以下、これらを合わせて「実施基準等」という。)に基づき、交番検査については釧路運輸車両所、函館運輸所、札幌、苗穂、岩見沢、苫小牧、旭川各運転所(以下、これらの交番検査実施箇所を「運転所等」という。)において、また、要部検査及び全般検査については苗穂工場、釧路運輸車両所、五稜郭車両所(以下、これらの要部検査及び全般検査実施箇所を「工場等」という。)において、それぞれ実施している。
貴会社は、定期検査については、平成23年度において、保有して運行する気動車、電車等の車両計1,102両について、運転所等で直営及び請負により延べ3,926両分の交番検査(これらに係る費用9億2321万余円、うち直営分費用(注1)
8億9761万余円、請負分費用2560万余円)、工場等で直営により261両分の要部検査及び132両分の全般検査(これらに係る直営分費用40億7792万余円)を実施している。
また、工場等では、定期検査等で取り外した車両部品の一部(以下「請負修繕部品」という。)について、車両関係工事契約(以下「請負契約」という。)により車両部品の検査を行い、必要に応じて修繕(以下「検査修繕」という。)を実施しており、23年度においてこれに要した費用は11億7705万余円となっている。
貴会社は、直営により実施していた車両部品の検査修繕について、経費削減等を目的として請負契約により実施することとしており、23年度においては、札幌交通機械株式会社等10社との間で220契約をそれぞれ締結して実施している。
そして、請負契約の契約書によれば、請負修繕部品の検査修繕は、車両関係車両工事共通示方書、個別示方書及び補足示方書(以下、これらを「示方書」という。)に基づき実施することとされている。また、個別示方書によれば、請負人は、請負契約の工事の種類(以下「工種」という。)に応じて、検修調書、試験成績表等の報告書を作成して提出等すること、さらに、車両関係車両工事共通示方書によれば、請負人は品質管理実施手順や品質管理区分に応じた管理標準を定めることとされ、契約責任者は、請負人の品質管理体系全般を審査することなどとされている。
車両関係工事等請負事務取扱手続(規程)(昭和62年運達第32号)等(以下「事務取扱手続」という。)によれば、請負契約の適切な履行確認を行うため、契約ごとに検査員を指定することとなっており、工場等の検査員は、履行が完了したときは、示方書等の関係書類と照合し確認するなどの完了検査を行う旨が定められている。
技術基準によれば、鉄道事業者が車両の定期検査を行ったときは、その記録を作成し、保存しなければならないとされていることから、貴会社は、実施基準等に基づき、車両の定期検査を行ったときには、検査成績等を記録して、次の全般検査が終了するまでの間、保存することとしている。その具体的な方法は、定期検査の結果を記録用紙に記入(以下、記録用紙に記入された定期検査の結果を「検査記録」という。)し、これを検査台帳として保存するとともに、8年度に導入され、20年度に1億8674万余円をかけて再構築された「車両保守管理システム(」以下「車両システム」という。)に検査の結果のデータを入力することなどである。そして、車両システムの運用に要した費用は、21年度から23年度までの間で計5860万余円となっている。
定期検査は、車両を安全に運行できる状態を保つために必要不可欠であり、車両の装置の不具合を早期に把握するためにも重要なものであって、これに要する経費は毎年度多額に上っている。また、貴会社では、過去に車両故障等による輸送障害等が発生している。
そこで、本院は、合規性、有効性等の観点から、車両の定期検査は実施基準等に基づいて適切に実施されているか、請負契約による請負修繕部品の検査修繕は示方書等に基づいて適切に実施されているか、検査記録は適切に整備され、検査記録や車両システムに入力されているデータは車両の管理に有効に活用される状態となっているかなどに着眼して検査した。
貴会社が23年度に保有して運行していた気動車、電車等の車両計1,102両の23年度の定期検査及び検査修繕に係る費用のうち、車両数の少ない車種の車両計247両についての交番検査に係る費用を除いた計59億6296万余円、車両システムに係る20年度の再構築及び21年度から23年度までの間の運用に要した費用計2億4535万余円、合計62億0831万余円を対象として検査した。
検査に当たっては、貴会社本社、3工場等及び6運転所等(注2)
において、検査記録、請負契約書等の関係書類、車両の定期検査の実態及び車両システムの運用状況を確認するなどして会計実地検査を行った。
6運転所等において、23年度に直営により実施された延べ車両数3,155両分の交番検査(これに係る直営分費用計6億8685万余円)について検査したところ、次のような事態が見受けられた。
ア 交番検査の実施状況
1運転所等は、重要な保安装置の一つである自動列車停止装置の車上子(注3) の作用範囲を確認する応動範囲試験について、整備標準では交番検査の都度、装置が動作する距離を測定することとされているのに、実際には、3回に1回しか測定しておらず、残りの2回は目視による動作確認を実施しただけであった。また、2運転所等は、同様に交番検査の都度、左右の車輪内側の間隔について寸法測定を行うこととされているのに、これを行っていないなどしていた。このように、交番検査の一部の検査項目が整備標準等に基づいて実施されておらず、装置に不具合があっても検査時に把握できない可能性がある状況になっている事態が、3運転所等の延べ車両数896両分の交番検査(これに係る直営分費用のうち人件費2億0306万余円)で見受けられた。
整備標準に基づく交番検査の検査項目のうち、測定を行うこととされている項目(以下「測定項目」という。)について、記録状況を5運転所等で共通して配置されている気動車1車種についての測定項目を確認したところ、測定を行うこととされている27項目のうち6項目において、運転所等により検査記録に測定結果が記録されていたり、記録されていなかったりしていて、検査記録が運転所等により異なるものとなっていた。
また、電車の交番検査を実施している2運転所等の検査記録を比較したところ、1運転所等では、測定項目以外の装置の作用及び機能を検査する項目についても記録しているのに、他の1運転所等では、測定項目以外の項目は自動列車停止装置に関するものを除き記録しておらず、検査記録が運転所等により異なるものとなっていた。
このように、整備標準等により検査項目は明確にされているのに、記録すべき項目が明確になっていないため、同一の検査を行っていても記録内容が異なっていて、車両故障等が発生したときにその原因を究明するための分析を行うなど車両の保守管理を行うために検査記録を有効に活用することができない状況になっているものが、6運転所等の延べ車両数1,637両分の交番検査(これに係る直営分費用のうち人件費1億8822万余円)で見受けられた。
これらについては、直営により実施している交番検査において、一部の検査項目が車両を安全に運転することができる状態に保持することを目的とした整備標準等に基づいて実施されていなかったり、検査記録が適切に整備されていなかったりしており、交番検査が適切に実施されていないと認められる。
上記のア、イの各項目に係る交番検査を実施した車両には重複しているものがあり、その重複を除くと、6運転所等の延べ車両数は2,302両分となり、これらの交番検査に係る費用は3億4693万余円となる。
3工場等において、23年度に実施した請負修繕部品の検査修繕に係る請負契約220件(1,361工種)、支払額計11億7705万余円について検査したところ、次のような事態が見受けられた。
上記220契約のうち、150契約では、示方書によれば、検査修繕の結果について、検修調書、試験成績表等の報告書を作成、提出等することとされているが、このうち2工場等の54契約(316工種、支払額計2億6851万余円)では、これらの書類が全く作成されておらず、検査修繕の実施結果や試験の成績等が確認できない状況になっていた。そして、工場等の検査員は、示方書との照合、確認等、事務取扱手続で定められている請負契約の履行の確認を十分に行っておらず、検修調書、試験成績表等の報告書が提出等されていないのに、これを看過していた。また、貴会社の契約責任者は、示方書により、請負人が定めることとされている品質管理実施手順や管理標準が定められていないのに、品質管理の審査の際も、これを看過していた。
これらについては、検修調書、試験成績表等の報告書の作成、提出等が示方書に基づいて行われておらず、また、工場等の検査員による履行確認も十分に行われていないなどの事態であり、検査修繕が適切に実施されていないと認められる。
車両システムは、前記のとおり、8年度に導入した旧システムを更新する形で20年度に再構築され、21年度から運用されており、再構築及びその後の運用に要した費用は計2億4535万余円となっている。
しかし、貴会社では、車両システムの目的、運用方針、利用手続、入力すべきデータ等を定めた内部規程、指示文書等を制定しておらず、車両システムを再構築した際に担当者会議を開催して使用方法等について説明したにすぎなかった。このため、車両の定期検査の結果のデータ入力等の内容は、運転所等の現場の判断に委ねられており、入力すべき内容が統一されていなかった。また、車両システムへの入力の基となる交番検査の検査記録も前記(1)イ
のとおり、記録すべき項目が明確になっていないことなどのため、検査記録のデータが入力されていたり、入力されていなかったりしている項目があり、データの入力状況が運転所等により異なるものとなっていた。
これらについては、車両システムにデータが適切に入力されておらず、車両故障等が発生したときにその原因を究明するための分析を行うなど車両の保守管理に車両システムが有効に活用できない状況になっていると認められる。
上記のように、直営により実施している交番検査において、一部の検査項目が実施基準等に基づいて実施されていなかったり、検査記録が適切に整備されていなかったりしている事態は適切とは認められず、改善の要があると認められる。
また、請負契約により実施している請負修繕部品の検査修繕において、検修調書、試験成績表等の報告書の作成、提出等が示方書に基づいて行われておらず、貴会社による請負契約の履行確認が十分に行われていない事態は適切とは認められず、是正改善の要があると認められる。
さらに、車両システムにデータが適切に入力されておらず、車両システムが車両の保守管理に有効に活用できない状況になっている事態は適切とは認められず、改善の要があると認められる。
このような事態が生じているのは、次のことなどによると認められる。
ア 貴会社において、定期検査を実施基準等に基づき実施すること及び検査記録を適切に保存することについての認識が十分でないこと
イ 請負人において、請負修繕部品の検査修繕について示方書等に基づき実施しなければならないという基本的な認識が十分でないことにもよるが、貴会社において、請負人に対する指導、監督、品質管理体系の審査等が十分でないこと
ウ 貴会社において、内部規程等に車両システムの目的、運用方針、利用手続等が定められておらず、車両システムに入力する内容を統一して、適切に入力することについての認識が十分でなかったり、車両の保守管理のための車両システムの活用についての検討が十分でなかったりしていること
車両の定期検査は、鉄道輸送の信頼性を確保する上で重要なものであり、車両の装置に不具合があった場合に早期に把握するためにも、定期検査を適切に実施していくことが求められる。
ついては、貴会社において、車両の定期検査及び検査修繕が適切に実施されるなどするよう、次のとおり改善の処置を要求し及び是正改善の処置を求める。
ア 車両の定期検査に当たって、実施基準等に基づいた実施と検査記録の適切な整備が図られるよう、実施基準等の遵守について関係部署に周知するとともに、体制の整備を図ること(会計検査院法第36条による改善の処置を要求するもの)
イ 請負契約により実施している検査修繕が示方書等に基づいて実施され、車両部品の検査の結果が適切に記録されて報告されるようにし、履行の確認を適切に行うなど、請負人に対する指導、監督等が適切に行われるよう体制を整備すること(同法第34条による是正改善の処置を求めるもの)
ウ 車両システムの運用について、工場、運転所等における作業の現状を把握した上で、内部規程等において、車両システムの目的、運用方針、利用手続等を定めるとともに、記録すべき項目を明確にするなどして、定期検査の結果を適切に記録し管理して、車両の保守管理に活用することができるよう検討すること(同法第36条による改善の処置を要求するもの