科目 | 営業原価、未収金 | ||
部局等 | 郵便局株式会社東京支社(平成24年10月1日以降は日本郵便株式会社東京支社) | ||
契約名 | 現金警備輸送事務委託(多摩地域) | ||
委託契約の概要 | 郵便局間における現金等警備輸送事務及び現金保管事務を行うもの | ||
契約の相手方 | 日月警備保障株式会社 | ||
契約 | 平成21年2月 一般競争契約(基本契約。22、23両年度は毎年自動更新) | ||
審査及び確認が適切に行われていなかった委託契約の精算額(1) | |||
79,366,426円 | (平成21年度) | ||
80,421,525円 | (平成22年度) | ||
計 | 159,787,951円 | ||
速やかに賠償されていなかった損害額(2) | 578,027,650円 | ||
(1)及び(2)の計 | 737,815,601円 |
郵便局株式会社(平成24年10月1日以降は日本郵便株式会社。以下「局会社」という。)東京支社(以下「支社」という。)は、多摩地域の郵便局間における現金等警備輸送事務及び現金保管事務(以下、これらを合わせて「現金警備輸送事務」という。)に係る委託契約を、21年度は一般競争契約により、22、23両年度は契約書等に基づく自動更新(4年間を限度とする。)により、日月警備保障株式会社(以下「日月警備」という。)と締結していて、日月警備に支払われた委託費の額は21年度79,366,426円、22年度80,421,525円、計159,787,951円となっている。
そして、委託契約の条件等は、契約書、仕様書等(以下、これらを合わせて「契約書等」という。)に基づき、受託者が現金警備輸送事務を実施するに当たり、1回の現金警備輸送事務において取り扱う現金等の最大金額(以下「最大金額」という。)を補償する損害保険に加入していること、部内者犯罪等の免責条項等により損害保険が適用されない場合に自社の資金や別の損害保険等により確実に損害を補填できる体制ができていること、支社に損害を与えた場合は受託者の過失の有無にかかわらず一切の損害額を速やかに賠償することなどとされている。
支社における契約担当部署である企画部(以下「企画部」という。)は、現金警備輸送事務の入札に当たり、局会社が定めた「郵便局株式会社契約手続」、「物品等契約要領」等の規定に基づき、入札参加希望者から、契約書等の条件に適合している旨を記載した書面(以下「適合証明書」という。)に、最大金額の損害保険に加入していることを証明する資料(以下「保険証書」という。)、損害保険が適用されない場合の補填を確約した書面等を添付して提出させ、入札参加希望者が入札の対象者として認められる者であるかなどについて、委託契約の調達要求部署である支社の業務指導部(以下「業務指導部」という。)にその内容の審査を依頼することとしている。 そして、支社は、入札参加希望者から提出された適合証明書等の内容に虚偽があることが判明した場合等は、契約条項に違反したものとみなして、落札後又は契約締結後に落札決定の取消し又は契約解除を行うこととしている。
23年5月に、日月警備の立川営業所から約6億円の現金が強奪される事件(以下「事件」という。)が発生した。 局会社は、強奪された現金に現金警備輸送事務により同営業所に保管されていた現金577,766,500円が含まれており、現金の袋代を合わせて計578,027,650円の損害を受けたとしている。 そして、支社は、当該現金に係る現金警備輸送事務の履行が完了しなかったことから、契約書等の規定に基づき、日月警備との委託契約を同年6月に解除し、23年度の支払を保留している。
本院は、合規性等の観点から、本件委託契約及び事件により受けた損害について、入札参加希望者等に対する審査及び確認は適切に実施されていたか、損害額を速やかに賠償させていたかなどに着眼して、支社及び局会社本社において、入札参加希望者から提出された適合証明書等を確認したり、損害額の賠償状況を聴取したりするなどして会計実地検査を行った。
検査したところ、次のとおり、適切とは認められない事態が見受けられた。
ア 入札参加希望者等に対する審査等の状況
(ア) 損害保険の加入状況に係る審査等の状況
日月警備は、入札時に、最大金額を補償する損害保険に加入しているという契約の条件について、適合している旨を自ら記載した適合証明書に、落札後に速やかに保険証書を提出する旨を記載した書面を添付して提出していたが、落札後も保険証書を提出していなかった。
これに対して、企画部は日月警備に保険証書を提出するよう督促しなければならなかったのにこれを失念し、業務指導部も企画部に保険証書を提出するよう督促して審査しなければならなかったのにこれを失念していた。
また、支社は、23年3月に日月警備と変更契約を締結し、23年度の現金警備輸送事務を実施させるまでに保険証書を提出させることとしていたにもかかわらず、上記と同様に、日月警備が保険証書を提出していなかったのに、企画部及び業務指導部はいずれも督促することなどを失念していた。
このように、支社は、委託契約の落札日以降、日月警備が契約書等の規定に適合しているかについて、数度にわたり、審査及び確認すべきことを失念し、漫然と日月警備と委託契約を締結し、前記の委託費計159,787,951円を支払っていた。
そして、本院が、日月警備における損害保険の加入状況について、支社を通じて保険証書を提出させて確認したところ、落札した21年1月30日から同年8月28日までの間の保険金額は最大金額の半分となっていて、同年8月29日以降は最大金額の3分の1以下にまで減額されていた。
(イ) 損害の補填体制に係る審査等の状況
日月警備は、入札時に、損害を補填できる体制ができているという条件について、適合している旨を自ら記載した適合証明書に、業務中の内部犯行等により損害保険が適用されない場合には自社の資金等で速やかに補填することを確約する旨を記載した書面を添付して提出していた。
これに対して、業務指導部は、審査を行い日月警備が入札の対象者として認められるとしていたが、業務指導部が行ったとする審査では適合証明書及び上記の添付書面が提出されていたことしか確認していなかった。
しかし、損害保険が適用されない場合に自社の資金等で速やかに補填できるか否かは、日月警備の財務状況を確認しなければ判断できず、上記のように適合証明書等が提出されていたことを確認しただけでは審査を行ったことにはならない。
そして、本院が日月警備の20年度から22年度までの間の財務諸表を支社を通じて提出させて確認したところ、20、22両年度については債務超過となっており、21年度については資産の部の合計額が負債の部の合計額を約990万円上回っていたにすぎなかったことから、日月警備は損害保険が適用されない場合に確実に損害を補填できる体制になっていなかった。
イ 事件により受けた損害額の賠償状況
局会社は、前記のとおり、事件の発生により受けた損害額を578,027,650円として、契約書等の規定に基づき、全額を速やかに賠償するよう日月警備に請求している。
しかし、損害賠償請求事務を担当している局会社本社は、日月警備が加入していた損害保険(有価証券・貨紙幣類包括運送保険)については、日月警備の社員の行為が故意又は重大な過失に該当するものとして保険金は支払われず、また、日月警備が債務超過により銀行等からの融資が受けられないなどのため、日月警備に自社の資金で損害額の賠償を行わせることもできないとしている。
このため、局会社が受けた損害額578,027,650円は、事件の発生から1年以上が経過した24年8月24日現在においても、賠償を全く受けられていなかった。
なお、局会社は、24年9月28日に日月警備と和解契約を締結し、事件により受けた損害のうち、強奪された現金577,766,500円及びその遅延損害金については、23年度の委託費と相殺するなどしており、残余については、日月警備が加入していた別の損害保険(警備業者賠償責任保険)の支払により10月中に賠償を受けることができるとしている。
以上のとおり、支社において、日月警備の損害保険の加入状況及び損害を補填できる体制に係る審査及び確認を適切に行っていなかったのに、日月警備と委託契約を締結して委託費計159,787,951円を支払っていたり、事件により受けた損害計578,027,650円が速やかに賠償されていなかったりしていて、不当と認められる。
このような事態が生じていたのは、支社において、契約書等に対する理解が十分でなかったこと、内部牽(けん)制が十分に機能していなかったことなどによると認められる。